医学英語の知られざる一面:講師コラム
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トップ講師コラム・取材記事 一覧> 医学英語の知られざる一面:講師コラム


講師コラム:大井 毅 先生

『 医学英語の知られざる一面 』


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第1回 医学用語の特徴(2008/4/1) 


 そもそも英語の医学用語とは何かについて考えてみよう。医学用語は、英語の方言の1つという考え方もあるが、スペルが変わらないことから、方言ではなく、むしろ「一語多義」の結果ではないかと筆者は思う。
 昨年、天災が多かったせいか、affected area「被災地」が頻繁に目につく。しかし、"affected area"は医学領域では、「被災地」ではなく、「患部」という意味をもつ。同じ用語でも使われた場所によって意味が違ってくる。医学領域で、次のように使われる。"The affected area may be enlarged, but it usually disappears spontaneously." (患部は腫大をきたすことがあるが、しかし、この病変は通常、自然消滅する)。すなわち、所が変われば意味も変わる。

 "Blast at Kabul kills five." (カブールの爆弾テロで死者5人)にみられたblastは、爆弾の爆発を意味するが、医学領域では、blastは医学単語を構成する語幹の1つである。意味はいろいろな組織を作る「芽細胞」。語幹fibro-「線維」と結合すれば、fibroblast「芽細胞」になる。
 そして、歯の象牙質を作る細胞は、odontoblast「象牙芽細胞」といい、odonto-は「歯」を意味する。多くの医学英語単語はこのように、fibro-、-blast、odonto-など、意味をもつ「語幹」という基本単位から構成される。
 これらの語幹はほとんどラテン語に由来する。医学用語の単語は1万以上あるが、しかし、それを構成する語幹は約600位しかない。すべての医学英語の単語を覚えることは極めて難しいが、しかし、基本語幹を覚えていれば、辞書がなくてもその単語の意味が分かる。
 例えば、ameliaという用語があり、欧米では人名としてよく使われるが、医学領域では、語幹分解すると、a-「無」+mel-「肢」+-ia「症」になる。その通り、「無肢症」と訳す。従って語幹を覚えていると、非常に便利である。もう1つ注意すべきことは、語幹の訳は1つだけとは限られない。例えば aphagia という用語は語幹"a-"を含むが、「無嚥下症」とは訳さず、「嚥下不能症」と訳す。話が若干違うが、acheilia「無口唇症」は「口唇欠損症」とも訳せる。なお、本連載でいう語幹とは、接頭辞と語尾を含む。

 語幹だけでなく、この同語多訳の現象は医学用語にも現れる。
 例えば、 actinic conjunctivitis「照射性結膜炎」とactinic keratitis「紫外線角膜炎」とactinic keratosis「日光角化症」にみられる修飾語"actinic"はそれぞれ、照射性・紫外線・日光と訳す。"actinic"はもともと放射線を意味する。同語多訳は直接に英語で論文を書く人に影響を与えないと思うが、翻訳を行う人は氣をつけた方がよいと思う。

 ほかに医学用語の特徴をいくつか挙げておく。1つは同じことを単語でも成語でも表すことができる。
 例えば「骨肉腫」の英訳は"osteosarcoma"と"osteogenic sarcoma"がある。細かくいうと、osteogenicは「骨原性」だが、基本的にこの2つの英訳には違いがみられない。もう1つは、英語系修飾語かまたはラテン語系修飾語を使うことによって同じことを2通り表現できる。例をあげると、「肺膿瘍」は英語系修飾語を使うと、"lung abscess"になるが、ラテン語系修飾語を使うと、"pulmonary abscess"になる。しいていえば、"pulmonary abscess"の方がアカデミック的に感じられる。「網膜剥離」の場合では"retina detachment"と"retina detachment"があるが、修飾語は名詞か形容詞かの違いで真剣に考える必要がなさそう。

 以上のように、医学用語は特別の言語から生まれたものではないが、それなりの特徴をもっている。それらの特徴を理解し、医学用語を覚えるのに活用していただきたい。


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第2回 複数形の話(2008/4/15)



 以前、英語の講義で Philippines「フィリピン」は沢山の島からできた国だから、複数形を使うと教えたら、ある学生が突然、Japan も島からできているのに、どうして複数形を使わないかと聞き返した。ちなみに、Netherlands「オランダ」も同じ理由で複数形になっている。複数形の語尾変化は日本語にはないが、隣国の中国語と朝鮮語にもないらしい。
 日本語にも「先生達」の「達」や「学生ら」の「ら」、「人々」の「々」など複数形を表す語が存在するが、正確にいうと、英語のような語尾変化ではない。

 英語の場合、複数形の変化は、語尾に"s"をつけるだけで、結構簡単である。
 例外として、match「マッチ」の複数は"matches"で、potato「ジャガイモ」は"potatoes"、process「過程」は" processes "くらいである。多くの医学用語はラテン語に由来するので、ラテン語を覚える羽目になる。追い討ちをかけるのは、ラテン語の複数形の処理はそう簡単にはいかない。ラテン語における複数形の語尾変化は沢山あるが、まず覚えなければならないのは「a」「um」「us」である。
 例えば、aorta「大動脈」の複数形は"aortae"。不思議に思うが、身体に大動脈は1本しかないのに、なぜ複数形があるのか。大動脈は胸部大動脈や腹部大動脈などに分けられるからである。語尾「um」の複数形は「a」で、語尾「us」の複数形は「i」。
 単数形と複数形をそれぞれ連結すれば、「uma」と「usi」になり、「ウマ」と「ウシ」で覚えたら、いかがでしょうか。
 そして、語尾「a」の複数形「ae」を無理して「アイ」と覚えたら、いかがでしょうか。なお、"fissura ligamenti teretis"「肝円索裂」にみられる"ligamenti"は "ligamentum"の複数形ではなく、その修飾形である。

 いくつかの複数形変化の例を挙げておく。
 ・aorta「大動脈」の複数形は、aortae (アイ型)
 ・vena「大静脈」の複数形は、venae (アイ型)
 ・ligamentum「靭帯」の複数形は、ligamenta (ウマ型)
 ・vestibulum「前庭」の複数形は、vestibula (ウマ型)
 ・nucleus「核」の複数形は、nuclei (ウシ型)
 ・stimulus「刺激」の複数形は、stimuli (ウシ型)

 また、解剖用語のductus「管」、meatus「道、孔」、processus「突起」などは単複同形である。修飾語がついている時は結構、簡単に区別がつく。
 例えば、"processus alveolaris"「歯槽突起」と"processus alveolares"はどちが複数形かというと、語尾は"-es"である方が複数形である。この原則はほかの複数形の修飾語にも通用するが、即ち"-es"で終わる修飾語は複数形である。
 もう1つ"-es"にまつわる話だが、apex「尖」の複数形は"apices"であり、修飾形は"apicis"である。"apicis"は解剖用語の"incisura apicis cordis"「心尖切痕」に使われる。なお"apices"は修飾形として使われるかどうかは、不勉強のせいで確認できていない。

 「アイ型」「ウマ型」「ウシ型」などは、長年の研鑽で考え付いたもので是非、医学用語を覚えるのに活用していただきたい。
 余談だが、冒頭の複数形の話をある外国人対象の会合で披露した。その後の懇親会で一人の出席者が真剣顔で「どうしてJapanに複数形を使う必要はないでしょうね」と訊ねた。もしご存知でしたら、教えていただきたい。


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第3回 私にとって"amelia"は人名ではなく病名です(2008/4/30)



 Amelia Earhart という高名な女性飛行家がいたが、amelia.ne.jp というサイトまで存在する。
 しかし、"amelia"は語幹から考えると、a-は「無」、mel-は「肢」、-iaは「症」で、合わせると「無肢症」になる。音感のよい言葉だが、私にとって"amelia"は人名では病名である。

 医学用語を構成する語幹は600位あるが、それを把握できれば、辞書がなくても用語の意味が分かる。
 筆者からのアドバイスでは、可能なら、一日2個のペースで覚えよう。一年たったら、貴方は間違いなく専門用語の達人になれる。なお本コラムでいう語幹は「接頭辞」と「接尾辞」を含む。

 語幹を知っておくと便利である。例えば、"abdominalgia"は、abdominとalgiaからなり、それぞれ「腹部」、「痛み」という意味をもつが、併せて"abdominalgia"の和訳は「腹痛」になる。

 なお、詳しい語幹のリストは http://www.medo.jp/a.htm を参照されたい。

▼重要語幹
 いくつかの重要語幹を挙げておく。基本の基本なので是非覚えていただきたい。
・a-「無、非、不、失」:agranulocytosis「無顆粒球症」、amelia「無肢症」、anoxia「無酸素症」
・-algiaは「痛み」:abdominalgia「腹痛」、telalgia「関連痛」、thermalgia「灼熱痛」
・-cyte は「細胞」:osteocyte「骨細胞」、erythrocyte「赤血球」、leukocyte「白血球」
・-dyniaは「痛み」:gastrodynia「胃痛」、glossodynia「舌痛」
・-ia は「疾患」:anemia「貧血」、xerostomia「口腔乾燥症」
・-itis は「炎症」:gastritis「胃炎」、 hepatitis「肝炎」、nephritis「腎炎」
・-logyは「学」:cytology「細胞学」、histology「細胞学」、pathology「病理学」
・-ma は「腫瘍」:papilloma「乳頭腫」、adenocarcinoma「腺癌」、fibrosarcoma「線維肉腫」
・-sis は「状態、疾患」:gingivosis「歯肉症」、phagocytosis「貪食作用」
・-tomy は「切開」:anatomy「解剖」、duodenotomy「十二指腸切開[術]」
・-ectomy は「切除」:appendectomy「虫垂切除」、nephrectomy「腎切除」

▼語幹分解の練習例
 練習のために、いくつかの医学用語を構成する語幹を載せてそれらを分解してみよう。
・abdominalgia「腹痛」="abdomin(o)-"「腹部」+"-algia"「痛み」
・fibroblast「線維芽細胞」="fibro-"「線維」+"-blast"「芽細胞」
・fibroma「線維腫」="fibro-"「線維」+"-ma"「腫」
・fibrosarcoma「線維肉腫」="fibro-"「線維」+"-sarcoma"「肉腫」
・gingivitis「歯肉炎」="gingiv(o)-"「歯肉」+"-itis"「炎」
・gingivectomy「歯肉切除」="gingiv(o)-"「歯肉」+"-ectomy"「切除」
・glossodynia「舌痛」="glosso-"「舌」+"-dynia"「痛み」
・hepatocyte「肝細胞」="hepato-"「肝」+"-cyte"「細胞」
・hepatitis「肝炎」="hepat(o)-"「肝」+"-itis"「炎」
・nephrectomy「腎切除」="nephr(o)-"「腎」+"-ectomy"「切除」
・nephritis「腎炎」="nephr(o)-「腎」+"-itis「炎」
・periodontitis「歯周炎」="periodont(o)-「歯周」+"-itis「炎」
・odontoma「歯牙腫」="odonto-「歯」+"-ma「腫」
・thoracopathy「胸部疾患」="thoraco-"「胸部」+"-pathy"「病気」
・xerostomia「口腔乾燥症」="xero-"「乾燥」+"stom-"「口腔」+"-ia"「~症」

 医学用語は語幹と語幹を母音でつなぐことによってできる。
 もっともよく使われる母音は"o"である。ほかでは、"-itis"「炎症」の場合は、gastritis「胃炎」のように"i"でつなぐが、"-ectomy"「切除」の場合は、nephrectomy「腎切除」のように"e"でつなぐ。

 1つの概念を表す用語は1つだけとは限らない。
 例えば、「子宮痛」の場合、まず「~痛」を表す語幹は、"-algia"と"-dynia"が2通りある。そして「子宮」を表す語幹は、"utero-"と"metro-"と"hystero-"が3通りある。組合せとして次の通りに"uteralgia","uterodynia","metralgia","metrodynia","hysteralgia","hysterodynia"ができた。
 正確さを欠くかもしれないが、試しにこの6つの用語をGoogle.co.jpで調べてみた。すると、なんとすべて存在していることが分かった。医学用語の不思議な一面が伺える。
 ヒット数で測ると、使用頻度ではもっとも高いのは"metralgia"だが、もっとも低いのは"uterodynia"である。
 なお、"-algia"と"-dynia"の使用頻度については"-algia"の方が高いように思われる。

 次は用語の語幹順について考えてみよう。「胃腸炎」は"gastroenteritis"と"enterogastritis"の英訳があるが、その和訳「胃腸炎」は決して「腸胃炎」 には換えられない。「水腎症」は"hydronephrosis"と "nephrohydrosis"があるが、同様に和訳は1つしかない。
 「盲腸下垂症」(cecoptosis; typhloptosis)のように、英訳が2つある用語をよくみかける。"typhloptosis"の"typhlo-"は「盲」という意味の語幹だが、「盲腸」の関連用語だけでなく"typhlolexia"「文盲」にも使われることが医学英語の難しさを物語る。

 以上のように、世の中に数え切れない医学用語が存在するが、「語幹」の知識を活用し、それを対処していくしかない。毎日少しづつ、医学用語の「語幹」を覚えていただきたい。


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第4回 副詞は調味料(2008/5/13)



 副詞の定義を英英辞書で調べてみると、副詞(adverb)とは、動詞、形容詞または他の副詞を修飾する(modify)語であるという。実際、副詞はほかにも前置詞や接続詞、文などを修飾する。
 例えば、"He does eat pork simply because he is a vegetarian." (彼は菜食者という理由だけで豚肉をたべない)。この"simply"は接続詞"because"を修飾し、それを使って宗教上の理由ではないことを強調する。
 "Usually we attend the scientific meeting at least once a year." (我々は通常、最低年1回学会に参加する)。この"usually"は文(sentence)の全体を修飾する。即ち、副詞は「名詞・助動詞」以外にすべての品詞を修飾することができる。

 日本語で「強調」を表す副詞には「かなり、非常に、極めて、頗る」などあるが、英語になると、"considerably、exceedingly、extremely、highly、remarkably、strongly、very"などがあり、多彩な一面をのぞかせる。副詞は「調味料」のようなもので、上手に使えれば、味が一変する。
 その修飾によって動詞の意味はより正確に表現ができ、かつ文章は単調から脱出して変化に富む文章になる。

 副詞の役割を考えてみよう。"The solution was stirred gently at room temperature for 4 hours." (溶液は室温で4時間軽く攪拌した)。
 この"gently"を"vigorously"に換えたら、攪拌が「軽く」から「激しく」に変わる。おなじ動詞でも修飾の副詞によって意味が大きく変化する。ラーメンで譬えると、調味料によって「塩味」にもなれれば、「醤油味」にもなれる。特に"not"という副詞は、あるのとないのとでは、表現の内容が正反対になってしまう。

 「調味料」という言葉で、教室で起きたある古い話を思い出した。助手A君が主任教授に仲人を頼んだ。主任教授を相手の父親に紹介したとき、父親が「A君が研究に夢中のようで、先生の仕事に役立ったでしょうか」と尋ねると、人の前で頭を下げたことのない、世間知らずの教授は「A君がやっていることは、味付けのようなもんでしょう」と答えた。
 英語と違って父親は大事な娘を「副詞」のような存在の男にはやらないのが世間の常識。縁談はご破算。

 副詞の置く場所を考えてみよう。
 英語の場合、形容詞の前、動詞の前後、または文頭か主語の後ろにおく。
 なお、本コラムでいう副詞とは「副詞句」も含む。”I get up early in the morning.”のように、in the morningは副詞句であり、日本語と違って「文尾」に置くことができる。
 また英語は日本語と違って、動詞と副詞の語順が逆になっている。つまり、英語の副詞は動詞の後ろに置く。"He eats fast." (彼が速く食べる=彼は食べるのが速い)のように、word-order「語順」として副詞"fast"は自動詞の後ろに置く。この場合、日本語と違って副詞"fast"が動詞の前に置くのはまずありえないだろう。
 "Today it is fine."より"It is fine today."の方が英語らしい表現になると思う。"usually"など文の全体を修飾する副詞を除き、なるべく文尾に置くように心がけるべきである。
 しかし、"The nuclei of tumor cells are densely stained with hematoxylin." (腫瘍細胞の核はヘマトキシリンで濃く染まる)のように、受動態では副詞はしばしば動詞の前に置かれる。

 同じ概念を表す表現は1つだけではない。
 同じ意味を表すにも、表現に用いられる語を変えながら、単調さをなくす。副詞の場合も同じである。例えば、「電顕的に」を表現するには、"electron-microscopically", "ultrastructurally", "in thin sections"などが考えられる。"Ultrastructurally, numerous glycogen particles are found in the cytoplasm of hepatocytes." (電顕的に多くの糖原顆粒が肝細胞の細胞質にみられる)の"ultrastructurally"は、"electron-microscopically"か"in thin sections"で代用しても意味がまったく変わらない。
 また、"The intracellular granules were found to be of lysosomal origin by electron microscopy." (電顕的観察によると、細胞内顆粒はライソゾムに由来することが分かった)のように、"by electron microscopy"は便利な副詞句である。

 副詞句を含む「調味料」の役割を演じる副詞を上手に使うのは、味のある医学英語論文を作るコツではないでしょうか。




第5回 修飾語は主語と目的語を補強するためにある(2008/5/27)



 ここでいう修飾語とは、主語や目的語を構成する名詞の前に置く形容詞だけでなく、名詞の後ろにくる、いろいろな修飾的要素も含む。これらの修飾的要素は文法的に分類すると、「形容詞句」や「現在分詞句」、「過去分詞句」、「which文」などからなる。
 なお、動詞を修飾する副詞も広義的に修飾語の1つだが、すでに述べたので、今回、副詞の説明は省く。

▼倒置的な修飾法
 "myocardial infarction" (心筋梗塞)、"tainted hero" (汚れた英雄)、"fasting therapy" (絶食療法)のように、被修飾語の前に置かれる修飾語は形容詞・過去分詞・現在分詞からなることは、日本語とそれほど変わらない。しかし、英語の場合、修飾語は主語や目的語の後ろに置くこともできる。
 前述したように倒置修飾部には通常、「形容詞句」、「現在分詞句」、「過去分詞句」、「which文」などが使われる。以下は例文を用いて倒置的な修飾法の細かいところを説明する。

 Kidney cancers most commonly occur in adults older than 50 years. (腎癌は50歳以上の成人に最もよくみられる)
 ※「形容詞句」の"older than 50 years"は"adults"を修飾する。位置的に、日本語ではありえない構文である。さらに"in adults older than 50 years"が「前置詞句」になり、副詞の役割を果たす。

 The apical membrane of the mucous cells lining the gastric mucosa was labeled by WGA lectin. (胃粘膜を裏装する粘液細胞の分泌側の細胞膜は、WGAレクチンに標識された)
 ※「現在分詞句」の"lining the gastric mucosa"は主語"mucous cells"を修飾する。

 Bacteria extend from the dental pulp into the bone surrounding the root of the tooth. (細菌は歯髄から歯根の周囲にある骨組織へ広がる)
 ※「現在分詞句」の"surrounding the root of the tooth"は目的語"bone"を修飾する。

 Hemorrhage found in the peritoneal cavity is due to rupture of arteries. (腹腔にあった出血は動脈破裂によるものである)
 ※「過去分詞句」の"found in the peritoneal cavity"は主語"hemorrhage"を修飾する。

 Ultrasonograph is an apparatus for producing images obtained by ultrasonography. (超音波検査器は、超音波検査で得られた[結果の]画像を生成する装置である)
 ※「過去分詞句」の"obtained by ultrasonography"は目的語"images"を修飾する。

 The cell number in the body is vigorously controlled. (体の細胞数は厳しく制御される)
 ※「前置詞句」の"in the body"は主語"cell number"を修飾する。この前置詞句は副詞句の働きをもつので、分尾に移動しても意味が大きく変わらない。

 Fire at a shabby nursing home killed 23 elderly people. (老朽化した老人ホームの火事で23名の老人が死亡)
 ※前置詞句の"at a shabby nursing home"は主語"fire"を修飾する。この前置詞句は上の例文と同様、分尾に移動できるので副詞句である。

 Loss of regenerative ability in cells is a characteristic of aging. (細胞の再生能力の喪失は老化の特徴である)
 ※「前置詞句」の"in cells"は"regenerative ability"を修飾し、「形容詞句」として働くので、"regenerative ability"から離してはならない。

 Lidocaine, which was introduced in 1948, is one of the most widely used synthetic local anesthetics. (リドカインは1948年に導入されて、最もよく使われる合成局所麻酔薬の一つである)
 ※「which文」を使って主語"Lidocaine"を修飾する。「which文」は補充説明に使われるので、省いても全文が通じなくなることはない。

 Color perception is a function of the cones, which are in greatest number in the macula lutea. (色認知は錐体の機能であり、それが黄斑に最も多くみられる)
 ※「which文」を使って目的語"cones"を修飾する。前の例文と同様、「which文」は補充説明に使われるので、省いても全文が通じなくなることはない。

 Researchers have found the mechanism by which the tumor cells resist chemotherapy. (研究者は、腫瘍細胞が化学療法に抵抗性を示す機序を発見した)
 ※"by which"を使って"mechanism"を修飾するのは、よく使われる慣用的な用法である。

 ▼語尾だけを変えて修飾語の形容詞を作れるとは限らない
 形容詞変化にかぎって、日本人は幸せである。名詞に「の」をつけるだけで、形容詞に変身できる。英語も同じことを言えるが、例えば、inflammation「炎症」の語尾を変え、"inflammatory"にすれば、形容詞になる。しかし、そうでないことがあまりにも多い。もとの名詞と関係なく、brain「脳」やkidney「腎」、lung「肺」などの形容詞はそれぞれ、ラテン語に由来した別の言葉 "encephalic", "renal", "pulmonary" に変わる。この変身ぶりは医学英語を学習する人間にとって耐えがたいことである。それを解決する妙案はないが、このような名詞・形容詞の対は、いくつかをまとめたので、
  http://www.medo.jp/adj_med.htm を参照されたい。

 締めくくりとして、ある古典落語を今風に直すと、某大学院生が学会で教授の美人秘書を他大学の院生に「教授の愛人のようなもの」と紹介した。学校にもどった後、秘書に猛烈に怒られた。院生が納得せず、教授に尋ねた。「先生がおっしゃっていたでしょう。類澱粉はけっして澱粉ではない。
 つまり、虎のような動物は虎ではないと同様だ。どうして『愛人のようなもの』と言ったら怒られたんですか」。修飾語は慎重に使いましょう。


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第6回 バラと朝顔と菊で英英辞書を読む(2008/6/10)



 英語圏で生活している人間は小学校の時から英英辞書に接しているので、おそらく英英辞書のことをなんとも思わないだろう。
 しかし、日本語を母国語とする我々にとって、英英辞書はお経のようなもので、読めるが、意味が分からない。今回、英英辞書の読み方について考えてみよう。

 ▼英英辞書の特徴
 辞書に載っている医学英語はほとんど名詞の用語なので、名詞についてのみ考えてみよう。

 1.名詞の用語を説明する時、「that文」を使って説明を行う。
 "blood" (血液)を英英辞書で調べてみると、"The red liquid that flows through your body." (体内に流れる、赤い液体)という説明文があった。
 この例文は、"red liquid"の後ろにあった「that文」が"red liquid"を修飾する。「that文」の表現法に慣れない人間は入り口でつまずきそうである。さらに万が一、 "liquid"と"flow"が自分の語彙に入っていなかったら、辞書の見出し語は分かるが、その説明文が理解できないという逆転現象になってしまう。

 2.「that文」の代わりに「分詞句」を使うこともある。
 "rose" (バラの木)を英英辞書で調べると、"Any of a genus of shrubs or vines having prickly stems and vigorously colored, often fragrant flowers." (棘のある幹と強烈な色の花をもつ潅木またはツル植物の1つの種の植物で、その花はしばしば香りを放つ)とあった。
 この例文では、"having"が「分詞句」の役割を果たして目的語"stems"と"flowers"をもつ。実は最初、この説明文を読んだ時、"vigorously colored, often fragrant flowers"の部分は理解できなかった。読んでいるうちに"vigorously colored"と"often fragrant"が並列して"flowers"を修飾することを悟った。英英辞書の説明文はやはり分かりにくい。

 以上のように"rose"の説明文を読む限り、「棘のある」以外に、「バラ」を思わせるヒントは乏しい。これは英英辞書の最大の特徴ではないでしょうか。

 ▼英英辞書から得られるもの
 上述した"rose"の例をみると、私は英英辞書を使てprickly「棘のある」, stem「幹」, shrub「潅木」, vine「ツル植物」, genus「種」などの言葉を覚えて語彙を増やす。とくに"vigorously colored"「派手な色の」という表現も勉強になった。すなわち、英英辞書を読む目的は、調べようとした用語の意味を知るよりも、英英説明文の中から、自分の知らない関連用語を覚えることである。
 また、"morning glory" (朝顔)の英英説明文は、"[broadly] a plant of the morning-glory family (family Convovulaceae) including herbs, vines, shrubs, or trees with alternate leaves and regular pentamerous flowers." ([広義的に] 、互生葉と正五枚花びらをもつ草本、ツル植物、潅木、または樹木を含むアサガオ科の植物である)となっている。
 この説明文の中で、大分苦労したのは"alternate"の解読。手元にあった辞書には、納得のできた語義が載っていないので、ネットでいろいろと調べた。すると、"alternate"とは「葉序」の1種で、「互生」と訳し、「ひとつの節に一枚の葉がつく形状」という意味をもつことが分かった。辞書を読むには辞書が必要のようなもの。
 なお、学名を表す「科」、「属」、「種」の英訳はそれぞれ"family", "genus", "species"。その順序を覚えるため、この3つの用語から頭文字"f", "g", "s"をとって、「ガソリンスタンドの上にファミリマートがある」と覚えたら、いかがでしょうか。

 ▼英英辞書から得られないもの
 「菊」の英訳は"chrysanthemum"。英英辞書によると、"chrysanthemum"の説明は"any of various composite plants including weeds, ornamentals grown for their brightly colored often double flower heads, and …" (和訳を省く)とある。図説があれば別だが、この説明だけで「菊」を連想させるのはかなり無理がある。つまり固有名詞に関しては、英英辞書はほとんど役に立たない。なお、"composite plant"とは「キク科植物」のことらしい。
 余談だが、フィリピン元大統領Estrada氏がかつて新聞記者に「好きな花は」と聞かれた時、「菊」と答えた。Estrada氏の無学ぶりを知ている新聞記者はさらに「菊のスペルは」と聞くと、  Estrada氏がすかさず、「訂正。おれの好きな花はバラだ」。政治家である彼の機敏さに脱帽。
 もう1つの例を挙げよう。
 "Kidney stones result from the precipitation of certain substances within the urine." (腎結石は尿中で、ある種の物質の沈殿によるものである)
 この例文にあった"certain"を英英辞書で調べてみると、(1) sure; (2) some. という2つの解釈が得られた。しかし、今の例文にみられる"certain"は、決して"some"で代用できない。なぜなら、この"certain"は、「一部の」ではなく「ある種の」と訳すからである。旺文社の『サンライズ英和辞書』で調べてみると、"certain"には確かに「ある一定の」という解釈があった。無論、大きな英英辞書で調べたら、"of a specific but unspecified character, quantity, or degree"という、「ある一定の」に近い解釈は得られるが、この解釈を読むと頭を混乱させるだけである。つまり基本的な用語を英英辞書で調べるのは、自分を苦しめることに等しい。

 ▼英英辞書の紹介
 1.『Dorland's Illustrated Medical Dictionary』(W. B. Saunders社)
 2.『Stedman's Medical Dictionary, Illustrated』(The Williams & Wilkins Company)
 この2冊は、医学英語で最もよく使われる英英辞書で、決して使ってくださいという意味ではない。
 3.編集=C. K. Ogden『The General Basic English Dictionary』(北星堂書店)
 約2万の見出し語を説明するのに、厳選された850の基本語のみを使用するのが特徴である。基本語の選定が興味深いので、紹介する。
 4.『Webster's New Collegiate Dictionary』(G. & C. Merriam Company)
 向こうの大学生が使っている英英辞書として紹介する。

 英英辞書は、英語力を強めるために使うものであって、用語の意味を調べるつもりで使ったら、得られるものはストレスだけかもしれない。


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第7回 解剖名のいろいろ(2008/6/24)



 科学が急速に発展を遂げ、現状では純形態系の論文を投稿する場はもはやないだろう。とはいえ、解剖学を無視していきなり遺伝子工学に飛びつくと、ある研究者が筆者に指摘されるまで、「腎圧痕」は腎臓にあると勘違いしていたことが実際に起こった。

 ▼腎圧痕は腎にあらず
 「腎圧痕」(renal impression)は腎臓ではなく、肝臓の臓側面(visceral surface)にあり、腎臓と接している。類似例をいくつか挙げておく。なお、「圧痕」と「切痕」はそれぞれ別物である。
 "cardiac notch" (心切痕)は左肺にある。しかし、"notch of cardiac apex" (心尖切痕)は心尖にある。
 "clavicular notch" (鎖骨切痕)は胸骨にある。
 "costal notch" (肋骨切痕)は胸骨にある。
 "ethmoidal notch" (篩骨切痕)は前頭骨にある。
 "fibular notch" (腓骨切痕)は脛骨にある。

 ▼解剖名における英語とラテン語の関係
 解剖名の数は幸い、疾患名と違って増えることはまずない。骨の数は全身で約200位あるが、解剖名の数は5000位あると言われている。
 解剖学の講義に入ると、学生にラテン語の解剖名を暗記させるらしい。以前、解剖学を終えた学生に、「ラテン語の解剖名を1つでいいから、言ってみなさい」と言ったら、暫く経つと、顔を赤くして「1つも覚えていないんです」と答えた。普段使われない用語は覚えられるはずがないという現実を知った。
 筋の解剖名について考えてみよう。筋のラテン語解剖名の語尾は多くの場合、"-us"で終わる。例えば、"hyoglossus muscle" (舌骨舌筋)は"muscle"を省いて"hyoglossus"だけで表すことができる。
 しかし、前提として神経のラテン語解剖名の語尾も多くの場合、"-us"で終わるので、同名の神経がなければ"muscle"を省くことができる。ちなみに、神経にはスペルが "hyoglossus"に酷似する"hypoglossus nerve" (舌下神経)がある。
 また"-us"を"-al"に変えて"hyoglossal muscle"と表す例もみられるが、蛇足だと思う。
 同様に、頚部の筋である「頭長筋」はラテン語では、"M. longus capitis"だが、英語に直すと、"longus capitis muscle"か"longus capitis"になる。なお、"M."は"musculus"の略である。
 「下大静脈」のラテン語は"vena cava inferior"。しかし、なぜか"inferior vena cava"と表す例をみたことがある。"inferior caval vena"のように英語風で表現するのをみると、英語圏の人間の不遜さが伺える。「下大静脈」の表現は"vena cava inferior"に限ると私は思う。

 ▼修飾語を繋ぐ前置詞"of"を使うとは限らない
 "notch of cardiac apex" (心尖切痕)のように、修飾語である"cardiac apex"は"of"で繋ぐが、"notch for ligamentum teres" (肝円索切痕)の場合では、その"notch"は肝円索になく、肝の下縁にあるので、繋ぐ前置詞は"for"を使う。また、"notch in cartilage of acoustic meatus" (外耳道軟骨切痕)のように、繋ぐ前置詞は"in"を使う。

 ▼解剖名の関連サイト
 http://www.medo.jp/anatomy_j.htm (筆者が運営しているサイト。だいぶ頑張ったつもりだが、収録用語数は解剖名の総数5000の半分しかない)
 http://www.bartleby.com/107/ (解剖学の大家Henry Gray先生が残してくれた貴重な財産。英語解剖名の確認に最適)

 米国では「解剖学会」が改名しなければ存続できないご時世の中で、解剖名は重要だとは言わない。なにかご参考になれれば幸いである。


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第8回 癌用語のいろいろ(2008/7/8)



 前回に述べたように、解剖名の数が有限だが、病名の数は無限までとはいわないが、研究が進むにつれてその数が増えていく。病名を大きく分ければ、炎症性のものと腫瘍性のものがある。
 炎症の際に現れる炎症性細胞の種類は、好中球や大食細胞、リンパ球、形質細胞、好酸球、肥満細胞などが挙げられる。それ以上、種類が増えることはありえない。
 しかし、癌細胞となると、そう簡単な話ではない。すべての臓器にそれに由来する癌があると考えてよいだろう。例えば、肝にできた癌は、hepatocarcinoma「肝癌」と呼ばれる。同じく肝にできた癌だが、肝細胞ではなく胆管にできた癌は、cholangiocarcinoma「胆管癌」と呼ばれる。同じ肝でも両者の発生母地が違う。また、「肝癌」と「胆管癌」はそれぞれ「肝細胞癌」と「胆管細胞癌」と呼ぶことがある。このように、癌の発生母地が分かった時、その発生母地の名をつけるが、癌が進行しすぎて発生母地が判別できない時は、undiffierented cancer「未分化癌」という名で呼ぶ。
 ちなみに、どうしても診断がつかないものは"GOK"(God only knows.)と呼ぶらしい。

 ▼癌はcancerかcarcinomaか
 この曖昧な設問に対して、答えはどちらでも正しい。しかし、これでは答えにならないから、正確にいうと、"cancer"は一般用語(general term)であるのに対し、"carcinoma"は学術用語(scientific term)であり、単独時は「癌腫」と訳す。さらに、"cancer"はmalignant tumor「悪性腫瘍」を意味し、とくに上皮性の悪性腫瘍を指す。"carcinoma"は学術用語なので、上皮性(epithelial)の悪性腫瘍のみを意味する。
 すなわち、「胃癌」を"gastric cancer"と訳すと、胃の粘膜にできた上皮性の"gastric carcinoma"だけでなく、胃の筋層にできたmalignant lymphoma「悪性リンパ腫」やleiomyosarcoma「平滑筋肉腫」も含むことになる。なお、"gastric carcinoma"に関する説明は次の項目で述べる。

 ▼胃癌は診断名か
 「舌癌」の場合、舌を覆う上皮は重層扁平上皮なので、舌にできた癌はほとんどすべてがsquamous cell carcinoma「扁平上皮癌」である。しかし、胃癌の場合では状況はかなり違う。胃の表層は腺上皮からなり、癌化すれば、adenocarcinoma「腺癌」になるのは当たり前であるが、実際、gastric carcinoma「胃癌」は腺癌だけではない。胃の腺組織が癌になる前に化生を起こし、adenosquamous carcinoma「腺扁平上皮癌」あるいは「扁平上皮癌」になることもある。さらに、胃の腺癌には、乳頭腺癌、管状腺癌、低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌などがあり、舌癌と異なって1種類だけでなく数種類もある。
 胃の腺癌の1つである「印環細胞癌」(signet-ring cell carcinoma)は、癌細胞の細胞質に粘液が充満し、細胞質が周りに押しやられて、粘液が染まらないため、標本上では空洞になり、癌細胞が指輪にみえる。そして周りに押しやられた癌細胞の核が指輪の宝石に相当する。癌細胞と癌細胞の間に線維成分が多いと癌が硬くなった時、「スキルス癌」とも呼ばれる。このタイプの癌は非常に凶暴なもので、癌が発見して3ヶ月で死にいたる症例がある。
 結論として胃癌は、癌の発生部位を表す用語にすぎず、組織型を表す診断名ではない。

 ▼癌用語は"-ma"で終る
 腫瘍の用語は基本的に、その腫瘍の由来を表す語幹に接尾語"-ma"をつけることによって作られる。例えば、adenoma「腺腫」は、"adeno-" (腺)"と-ma" (腫)を結合して用語を作り、adenocarcinoma「腺癌」は"adeno-" (腺)"を "carcinoma" (癌)と繋げば用語ができる。
 しかし、「腺癌」は悪性の腺腫だと考えて、勝手に"malignant adenoma"のような用語を創作したら、笑い者になりかねない。とはいえ、 "malignant adenoma"をGoogleで調べてみると、2980個のヒット数があった。すなわち、"malignant adenoma"を使う人間は結構いるようだが、そのような表現を避けた方が無難だろう。
 正常な組織は、上皮、結合組織、筋、そして神経に分類するが、それに対し、癌の場合は、上皮性(epithelial)と非上皮性(nonepithelial)のみに分ける。先に述べた「腺腫」と「腺癌」は上皮性のものであるが、悪性の非上皮性のものは、carcinoma「癌」ではなくsarcoma「肉腫」と表現する。
 例えば、骨の場合、良性の腫瘍ではosteoma「骨腫」というが、悪性腫瘍ではosteosarcoma「骨肉腫」と呼ぶ。例外として、leukemia「白血病」やmalignant lymphoma「悪性リンパ腫」、malignant melanoma「悪性黒色腫」などは悪性の非上皮性でありながら、"sarcoma"という表現を使わない。なお、"malignant lymphoma"はlymphosarcoma「リンパ肉腫」とも呼ばれる。
 世の中、ルールがあれば、必ず例外がある。"-ma"で終っても腫瘍ではない用語がある。例として、atheroma「粉瘤/アテローム」、granuloma「肉芽腫」、hematoma「血腫」
 などが挙げられる。詳しくは http://www.medo.jp/ma_nontumor.htm を参照されたい。

 ▼癌は古くから存在する
 癌の誘因は、食物または環境の汚染によるものとよくいわれる。そして生活様式を古きよき時代に戻せば、癌の発生は減少するではないかと考えられている。しかし実際はそうでもなさそうである。法医学者がよく「死体は語る」というが、その言葉を借り手「化石は語る」に改めると、人間の肉体は滅びて消えるが、骨は化石になって残る。化石を観察すれば、いろんなことがわかる。腫瘍のmultiple myeloma「多発性骨髄腫」の特徴である骨の「打ち抜き像」が地球のいたる所で、化石の中に発見されたという。
 さらに、nasopharyngeal cacinoma「鼻咽頭癌」やmetastatic melanoma「転移性黒色腫」も化石の中に発見されたという報告がある。すなわち、古くから癌は存在していたと化石が語った。

 1枚の病理標本を30分かけて検鏡する真面目な病理学者がいれば、普段、委員会の出席に精を出して病理診断の依頼がきた時だけに病理学図譜を取り出して謎解きをする病理学者もいる。いずれにしても、癌の診断は難しい。



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第9回 冠詞の話(2008/7/22)



 以前、歯科医院でバイトをしていた時、ある日の出来事。手伝ってくれる歯科助手がなぜか冴えない表情をしていた。わけを聞くと、次の日に「漢詩」のテストがあるのに、何もできていないという。可愛い子に親切する遺伝子をもった私は、早速、漢詩の補習講義を始めた。遅くまで電気がついていたので、年配の院長先生が寝所からやってきて、わけを尋ねた。彼女に漢詩を教えていると答えたら、院長が微笑みながら、「そうか、鉗子を教えてんのか。君らも勉強熱心やな」。
 日本語には冠詞がない。それだけでなく、近隣諸国の言語である中国語と韓国語にも冠詞がない。さらに欧米ではスペイン語にも冠詞がない。日本語にないものに対して不慣れで困惑するのは当然だろう。
 今回のコラムは、漢詩ではなく冠詞について考えてみよう。

 ▼英語では物質または抽象的なものを除いて名詞の前に冠詞が必要
 冠詞を一口に説明すると、「物質または抽象的なもの」ではない「物体」の名詞の前に冠詞が必要。
 He is a scientist.
 (彼は科学者である)
 ⇒英語ではこの文の中、冠詞なしの"scientist"では成立しない。これは文法である。
 The patient was hospitalized last night because he had a high fever.
 (患者は昨夜、高熱のため、入院した)
 ⇒"patient"は「物体」なので、冠詞が必要。"high fever"は「物体」ではなく抽象的なものなので、この冠詞"a"を省略できる。
 In leukemia, there is an excess of abnormal white blood cells.
 (白血病には、過剰な異常白血球がみられる)
 ⇒"leukemia"は「物体」ではないので、冠詞をつけない。また、英語通になりたければ、
 "there is"の後ろに必ず冠詞"a"をつける。

 ▼「限定」の法則:限定か特定したものの前に冠詞"the"をつける
 次のように、例文を使って「限定」とはどういうことかを説明する。
 There is a white house located at the corner of the street.
 (街角に一軒の白い家がある)
 ⇒"corner"は前置詞"at"の後ろに位置するし、"the street"の修飾(限定)を受けて冠詞"the"が必要。
 The white house is owned by a famous actor now.
 (この白い家は現在、有名な俳優が所有している)
 ⇒"The"のついた"white house"は、街角にある特定の"white house"を指す。
 He is the only student who past the final examination.
 (彼は期末試験をパスした唯一の学生だ)
 ⇒「唯一の」という限定で、"only"の前に冠詞"the"が必要。
 He is one of the most famous scientist in Japan.
 (彼は日本で、最も有名な科学者の1人だ)
 ⇒「最も」という限定で、"most"の前に冠詞"the"が必要。
 AIDS most frequently occurs in the HIV-positive people.
 (AIDSはHIV陽性の人々に最もよくみられる)
 ⇒名詞ではなく副詞の前にある"most"では、冠詞"the"は不要。
 All the patients are found to be HIV-positive.
 (すべての患者はHIV陽性だと分かった)
 ⇒「すべての」という限定で、"patients"の前に冠詞"the"が必要。
 The government has made the disease a notifiable illness
 because of fears of a widespread outbreak.
 (広範囲の大流行が起きるおそれがあるため、政府はこの疾患を法定伝染病に指定した)
 ⇒"the"と"a"の混在例。"disease"は限定で、"notifiable illness"は非限定と考える。
 Most of the patients will be discharged next week.
 (大部分の患者は来週に退院する予定だ)
 ⇒この"patients"は"most of"によって限定される。
 Some of the patients had a medical history of tuberculosis.
 (一部の患者は結核の既往歴をもった)
 ⇒この"patients"は"some of"によって限定される。

 ▼「限定」の法則2:1つしかないものに冠詞"the"が必要
 The sun comes up in the east.
 (太陽は東がでてくる)
 ⇒太陽は1つしかないので、冠詞"the"が必要。
 The earth is round in shape.
 (地球の形は丸い)
 ⇒同様に地球は1つしかないので、冠詞"the"が必要。"in shape"は慣用表現のため、"shape"の前に冠詞をつけない。ほかに"in size","in color","in height","in width"などの慣用例がある。

 ▼冠詞をつける必要のないもの
 I wrote him a letter yesterday.
 (昨日、彼に手紙を書いた)
 ⇒代名詞の前に冠詞をつける必要はない。ほかに"any","some","several"などの前に冠詞をつけない。
 I wrote the letter to ask hime to help me.
 (手紙で彼に助けを求めた)
 ⇒さらに、この"letter"は、昨日に書いたものに「限定」されて冠詞"the"が必要。
 In rats, the incisor keep growing daily.
 ⇒複数形の名詞では冠詞をつけなくてもよいが、冠詞をつけて間違いではない。"in the rat"でもOKである。
 Birds do not fly at night.
 (鳥は夜に飛ばない)
 ⇒"Birds"は複数形なので、冠詞をつけなくてよい。"at night"は成句として冠詞をつけないが、ほかに"at noon","in the morning","in the evening","in the night"などの成句がある。また、"by contrast"と"on the contrary"のような例もあるが、理屈より慣習のものと考えればよいだろう。

 ▼"a"と"the"のほかの使い方
 The drug was administered intravenously 25mg/kg a day.
 (薬は毎日、25mg/kgの量で投与した)
 ⇒この"a"は正確にいうと、冠詞ではない。
 The more malignant the metastatic tumor is, the less it resembles its original tissue.
 (転移腫瘍は悪性が高いほど、発生母地に似ていない)
 ⇒「the+(比較級)」は熟語的な表現。
 Senile keratosis occurs most frequently in the elderly.
 (老人性角化症は高齢者に最もよくみられる)

 冠詞は「物体」である名詞の前につける必要がある。そして定冠詞と不定冠詞ではなく、冠詞"the"と冠詞"a"と考えた方が楽。
 また、冠詞"the"は「限定」の時につけるという法則を覚えよう。


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第10回 Google検索のいろいろ(2008/8/5)



 6月29日の読売新聞に「検索を制する者は人生を制する」という見出しがあった。
 それをもじって、「Google検索を制する者は医学英語を制する」といっても過言ではない。筆者はほぼ毎日、Google検索を使い、医学英語の用語を整理している。
 今回はGoogle検索の使い方について考えてみよう。

 ▼ Google検索(http://www.google.co.jp/)の特徴
 1.大文字と小文字の区別はしない。
 2.単数形と複数形を区別する。
 section:sections = 1,410,000,000 件:448,000,000 件
 3.検索語は10まで許される。
 4.英語検索語に「""」で括ると、語順を固定することができる。
 「""」をつけずに「thin section」だけで検索すると、"thin section"が分離されて、「GlobalSpec offers a variety of thin bearing section for engineers」のような結果も 出てくる。
 5.検索語の前に半角の「+」をつけると、長音記号を区別する。
 例えば、「コンピューター」と「コンピュータ」のヒット数は違う。
 6.さらにコマンドを加えると、検索対象を限定できる。
 「-filetype:pdf」のコマンドを加えると、PDFファイルを排除する。
 「-site:jp」のコマンドを加えると、日本サイトを排除する。
 「-"tumor cell"」のコマンドを加えると、"tumor cell"を含むものを排除する。
 (出典=安藤進先生『翻訳に役立つGoogle活用テクニック』丸善)

 ▼用語の使用頻度を調べる
 Google検索は検索語の出現頻度を表すだけで、正確にいうと、スペルチェッカではない。
 例えば、「蓄積線量」の英訳の検索結果は "accumulated dose":"accumulative dose" = 34,300 件:281 件
 その結果によって"accumulated dose"を選択する根拠となる。しかし、皮肉にも学会の用語集を読むと、"accumulative dose"が使われた。
 以前、読者からの手紙で、文献で"mammory cell"をみかけたが、"mammary cell"とどう違うかという問い合わせがあった。"mammory cell"は、明らかに"mammary cell"の誤りだと思うが、調べてみると、"mammary cell":"mammory cell" = 48,300 件:36 件 極端のヒット件数の差で相手もすぐ納得してくれた。
 日本語の用語は実際に使われているかどうかを調べるのに便利である。検索結果が1つも出てこない時は、やはりその用語の採否を再考する必要がある。また、日本語の検索語は、「""」による制限がきかないので、検索語が分離されることがある。例えば、「広範囲皮下気腫」の場合、検索結果には、「広範囲な皮下気腫」、「広範囲の皮下気腫」、「広範囲に生じた皮下気腫」などがみられる。その点に留意していただきたい。

 ▼用語の英訳を調べる
 用語の日本語だけでは、英訳はなかなか出てこないので、英語の補助検索語と一緒に検索すると、英訳も一緒に出てくる。例えば「皮下出血」を検索する場合、bleeding「出血」を補助検索語にし、「皮下出血 bleeding」をGoogleに入力する(入力の時、「」をとる)と、検索表示には、hypodermic bleedingとかsubcutaneous bleedingという用語が現れる。さらに、"hypodermic bleeding"と"subcutaneous bleeding"をそれぞれ検索してみると、結果は"hypodermic bleeding":"subcutaneous bleeding" = 19 件:9,800 件
 "hypodermic bleeding"はほとんど使われていないことが分かった。
 次の検索例では、「低髄液圧症候群」の英訳を調べたい場合、syndromeという補助検索語をつけて「低髄液圧症候群 syndrome」を入力すると、その英訳"low CSF pressure syndrome"を含むものは結構上位に上がってくる。
 なお、信頼できる情報源に限定したい場合、「nih」、「edu」など補助検索語をつけと、米国国立衛生研究所と大学機関に限定することができる。

 ▼用語の和訳を調べる
 用語の和訳を知りたい時にも使える。例えば、cervico-omo-brachial syndrome の和訳を調べてみるとしょう。syndromeの和訳は「症候群」なので、「"cervico-omo-brachial syndrome" 症候群」とGoogleに入力する(入力の時、「」をとる)と、「頚肩腕症候群」を含む表示結果が出てくる。
 さらに、頚肩腕症候群は「肩こり」のことも分かった。検索時、cervico-omo-brachialとsyndromeが別々にならないように半角の「"」記号で囲う必要がある。なお、検索語の「"」と症候群の間にスペースがあってもなくても結果が同じである。

 ▼用語の使い方を調べる
 "suffered from pneumonia"と"suffered pneumonia"はどちらが正しいかを調べると、"suffered from pneumonia":"suffered pneumonia" = 10,100 件:1,600 件
この検索の結果をみと、"from"はあった方がよいと考えられる。
 さらに"suffered minor injuries"と"suffered from minor injuries"を例にとると、"suffered minor injuries":"suffered from minor injuries" = 287,100 件:97 件という検索結果が得られた。明らかにfromを入れる必要はないことが考えられる。

 ▼Google検索の落とし穴
 インターネット検索は辞書代わりに使えるが、しかし決して辞書の代わりにはなれない。例えば、"acustomed"は明らかに"c"が1つ足りないにもかかわらず、Google検索で調べると、意外と42,100件のヒット数がある。即ち、それほどの人間が同じスペルミスを犯したということになる。
 もう1つの例を挙げてみると、"greatly"が"greately"になり"ly"の前に"e"が余分にあったが、それでも検索すると、97,000 件のヒット数がある。不思議な世界である。

 Google検索はあくまでもある用語の使用頻度について調べるのであって、決して辞書として調べるわけではない。しかし、Google検索の特性をよく理解し、数万円もする高価な電子辞書を買わずにGoogle検索を辞書の代わりに使えるかもしれない。


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  大井 毅 先生のご紹介

明海大学・歯学部 講師 歯学博士

 【ご経歴】
  1972年4月より 口腔病理学講座
  2003年3月まで 〃
  2004年4月より 歯学英語担当
  現在まで      〃

 【研究内容】
  1.電子顕微鏡による人体組織の形態学的研究
  2.インターネットを併用する医歯薬英語の教育法

 【学会活動】
  日本英語学会
  日本解剖学会
  日本癌学会
  歯科基礎医学会

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