第10 回 N,N-ジメチルアセトアミド

誌面掲載:2018年5月号 情報更新:2023年5月

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1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)

 1.1 化学物質名/ 別名

N,N- ジメチルアセトアミド(N,N-Dimethylacetamide)はIUPAC名でもある。N,N- を省略してジメチルアセトアミド、さらに省略して英語名(Di-Methyl-Acetamide)の略称DMA又はDMAc と呼ばれることが多い。最後のc Aceto- Ac なので小文字で書かれることが多い。酢酸(Acetic acid: CH3COOH)とジメチルアミン[Dimethyl amine: CH32NH]から水がとれた形の脂肪族アミド化合物である。化学式はCH3CONCH32 と書くことができる。類似物質に酢酸の代わりにギ酸(Formic acid: HCOOH)を用いたN,N- ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide:DMF)やDMAc の二つのメチル基をつないで環状にしたN- メチルピロリドン(N-Methylpyrrolidone: NMP)がある。ピロリドンとは、炭素4 個、窒素1 個でできた環状物質のピロリジン(Pyrrolidine)の一つの炭素に酸素が結合してケトン(keton)の構造を持つ物質の名称である。ピロリジンにケトンの接尾語(-on)を付けてピロリジノン(Pyrrolidinon)ともいう。

 

1.2 CAS No.、化審法(安衛法)官報公示整理番号、その他の番号

DMAc CAS No. 127-19-5 である。化審法官報公示整理番号は2-723 で安衛法は既存物質として化審法番号で公表されている。2- は「有機鎖状低分子化合物」であることを示している。DMFも同様で、2-680であるのに対しNMP 5-113 5- は「有機複素環低分子化合物」であることを示している。複素環というのは分子が環状でその環を構成する元素に炭素以外の元素(この場合窒素: N)を含んでいることを示す。NMPは既存物質とし化審法番号で公表されたが、新規物質として届け出られて、8-(1)-1013及び8-(1)-1014という番号がある。

EU EC 番号は204-826-4 である。REACH 以前は既存化学物質のEINECS 番号だった。REACH登録番号は 01-2119459339-27-xxxx xxxxは登録者番号)。

 

1.3 国連番号(UN No.)

N,N- ジメチルアセトアミドという名称での国連番号はないが、蒸気の吸入による急性毒性で、GHS区分3(図表3)に分類されている。国連分類6.1(毒物)の容器等級Ⅰ ~ Ⅲ とGHS の急性毒性(経口、経皮)の区分1 3 の基準は同じだが、吸入の場合は基準が少し違うので、必ずしも国連分類6.1 に該当するとは限らない。GHS 分類はラットの1 時間吸入試験でLC50 8.81 mg/L* というデータに基いている。このデータからは国連分類の6.1(毒物)に該当し、国連番号は2810、品名は「その他の毒物、液体、有機物、他に品名が明示されていないもの」(TOXICLIQUID, ORGANIC, N.O.S.)、容器等級はⅢ と考えられる。ただ、SIDS の記事だけからは判断が難しく、ほかにこれを支持するデータもあまりないので断定できない。EU CLP 規則[Regulation EC No1272/2008]のGHS 分類(Harmonized classification)やREACHRegulation EC No 1907/2006]での登録物質(Registered substance)の公開文書のGHS分類でも蒸気での区分3 は採用していない。類似物質のDMFUNNo. 2265 で、正式輸送品名は「N,N- ジメチルホルムアミド」である。国連分類はクラス3(引火性液体)で容器等級はⅢである。NMPには国連番号はない。この違いは引火点が60 ℃以下かどうかで決まっている。60 ℃というのは輸送中、船倉や倉庫で起こりうる最高温度を想定して決められたものである。国連分類の容器等級とGHSの引火性液体の区分1 3 は同じ基準である。

*: OECD SIDS: Screening Information DataSet

図表1  N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)及び類似物質の特定

名称 N, N-ジメチルアセトアミド(N,N-Dimethylacetamide) N, N-ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide) N-メチルピロリドン(N-Methylpyrrolidone)
別名

その他の名称

ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide)

酢酸ジメチルアミド
(Acetic acid dimethylamide)

ジメチルホルムアミド(Dimethylformamide)

ホルミルジメチルアミン(Formyldimethylamine)

1-メチルピロリジン-2-オン
(1-Methylpyrrolidin-2-one)1-メチル-2-ピロリドン
(1-Methyl-2-pyrrolidone)1-メチル-2-ピロリジノン
(1-Methyl-2-pyrrolidinone)
略称 DMA又はDMAc DMF NMP
化学式 C4H9NO, CH3CON(CH3)2 C3H7NO, HCON(CH3)2 C5H9NO
CAS No. 127-19-5 68-12-2 872-50-4
化審法 2-723 2-680 5-113
安衛法 化審法番号で公表 化審法番号で公表 化審法番号で公表

8-(1)-1013, 8-(1)-1014

EC No. 204-826-4 200-679-5 212-828-1
REACH* 01-2119459339-27-xxxx 01- 2119475605-32-xxxx 01- 2119472430-46-xxxx

*:xxxxは登録者番号

 


2.特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)

 2.1 物理化学的性質(図表2)

無色透明の揮発性液体(VOC)である。弱いアミン臭がする。沸点は165 ℃で、DMF(153 ℃)より高く、NMP(202 ℃)より低い。引火点が63 ℃で、室温での取扱いでは引火しにくい。親水性で吸湿性があり、水とどんな割合でも均一な溶液になる(混和する)。多くの有機溶媒とも混和するが、ヘキサンなど脂肪族炭化水素とは混ざらない。n- オクタノール/ 水分配係数(logPow)は–0.77 で、生物濃縮性はないと考えられる。類似物質のDMFやNMPも同様の性質を持っている。分子内で電子の偏りが大きい場合は極性が高いといい、偏りが少ないと極性が低いという。高極性物質としては水(H2O)、アルコール(R-OH)、アミン(R-NH2,R-NHRʼ)などのように水素イオン(プロトン)になりうる部分構造を持っていることが多いが、DMAc, DMF,NMPはこの構造を持たない非プロトン性高極性溶媒である。ほかに非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide: DMSO, CH3SOCH3,CAS No. 67-68-5)やアセトニトリル(Acetonitrile:CH3CN, CAS No. 75-05-8)などがある。

図表2 N,N- ジメチルアセトアミド(DMAc)及び類似物質の主な物理化学的性質(ICSC による)

  DMAc DMF NMP
融点() -20 -61 -24.4
沸点() 165 153 202
引火点()(c.c.) 63 58 86
発火点() 490 440 245
爆発限界(vol %) 1.8 ~11.5 2.2 ~ 15.2(100)* 1.3 ~ 9.5
蒸気密度(空気=1) 3.01 2.5 3.4
比重(=1.0) 0.94 0.95 1.03
水への溶解度(g/100mL) 混和する 混和する 混和する
n-オクタノール/水分配係数(log Pow) -0.77 -0.87 -0.38

*:有害性評価書(NITE)など

2.2 有害性

GHS 分類例を図表3 に示す。飲み込むと胃痙攣や下痢、頭痛、吐き気などの症状がある。皮膚に付着すると赤くなり、皮膚から吸収されて頭痛や吐き気を起こす。蒸気やミストを吸入した場合も同様の症状のほか、眠気や眩暈などの麻酔作用がある。作業環境の許容濃度(OEL)は日本産業衛生学会、ACGIH とも10 ppm36 mg/m3)に設定している。眼に刺激性がある(GHS区分2)。発がん性に関してIARCGroup2B、日本産業衛生学会は第2BACGIHA3といずれもヒトに発がん性がある可能性が高いと判断しており、NITEは、GHS区分 1B(動物試験からヒトにおそらく発がん性がある)に区分している。ラットやウサギでの妊娠中の曝露試験で胎仔の異常(奇形、心臓の欠陥など)が見られたことから、生殖毒性区分1Bに分類されている。曝露により中枢神経系(幻覚や眠気等)や肝臓に影響を及ぼす。長期的にまたは反復して曝露すると肝機能障害、肝細胞の変性のほか気管支などの呼吸器に影響する。類似物質と比較するとDMFNMPも生殖毒性や肝臓への影響など類似の有害性がある。DMFは眼に対する影響、発がん性や肝臓への影響などDMAcより有害性が高い傾向が見られる。これはDMFの方がDMAc より蒸気圧が高く、吸入曝露するリスクが高いことや、古くから使用されて事故例や試験データが多いことも影響しているのかもしれない。逆にNMPDMAc より蒸気圧が低く、吸入曝露のリスクは低いと考えられるが、発がん性などは情報量が少ないというだけかもしれない。

図表3 N,N- ジメチルアセトアミド(DMAc)及び類似物質のGHS分類(NITE による)

GHS分類 DMAc DMF NMP
物理化学的危険性      
引火性液体 4 3 4
自然発火性液体 区分外 区分外 区分外
金属腐食性
健康有害性      
急性毒性(経口) 区分外(5) 区分外(5) 区分外(5)
急性毒性(経皮) 区分外(5) 区分外(5) 区分外
急性毒性(吸入:蒸気) 3 3
急性毒性(吸入:ミスト) 区分外 区分外
皮膚腐食/刺激性 区分外 2 2
眼損傷/刺激性 2 2B 2A
皮膚感作性 区分外
生殖細胞変異原性 区分外 2
発がん性 1B 1B
生殖毒性 1B 1B 1B
特定標的臓器(単回) 区分1(中枢神経系、肝臓) 3(麻酔作用) 1(肝臓)

2(呼吸器)

3(麻酔作用)
特定標的臓器(反復) 1(肝臓、呼吸器) 1(肝臓) 2(神経系、肺、肝臓、骨髄)
誤えん有害性
環境有害性      
水生環境有害性(短期・急性) 区分外 区分外 区分外
水生環境有害性(長期・慢性) 区分外 区分外 区分外

 

図表4  N, N-ジメチルアセトアミド(DMAc)及び類似物質の発がん性評価

分類機関 DMAc DMF NMP
IARC Group 2B Group 2A
日本産業衛生学会 2B 2A
ACGIH A3 A3
NTP
EU(CLP)
EPA

IARC: Group 2A: Probably carcinogenic to humans (ヒトに対しておそらく発がん性を示す)

Group 2B: Possibly carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性を示す可能性がある)

日本産業衛生学会: 2: ヒトに対して発がん性があると判断できる物質(Aは動物実験からの証拠が十分でBは十分ではない)

ACGIH A3: Confirmed Animal Carcinogen with Unknown Relevance to Humans
(動物実験で発がん性が認められた物質、ヒトとの関連は不明)

 


3. 主な用途

水や多くの溶剤と混和し、多くの物質を溶解するので溶媒としての応用範囲が広い。非プロトン性有機溶剤として有機合成反応や精製の溶剤、樹脂や塗料の溶剤、塗料の剥離剤、医薬品の溶剤としてよく用いられる。ポリウレタン繊維やアクリル繊維の製造時の溶剤としても重要である。類似のDMFNMPも用途はほぼ同じである。一連の非プロトン性極性有機溶剤が画期的な溶剤として開発され、当初はDMFが広く使われた。しかし有害性が懸念され、より沸点が高いDMAc が使われるようになり、DMAc も多く使われるようになって同様の有害性が知られるようになると代替物質としてNMPが登場し、最近ではさらに沸点の高いN,Nʼ- ジメチルエチレン尿素(N,N’-Dimethylethyleneurea: DMEUC5H10N2OCAS No. 80-73-9、沸点~ 225 ℃)なども考えられている。沸点の高い物質への変換は芳香族炭化水素溶剤のベンゼン(C6H6)→トルエン(C6H5CH3)→キシレン[C6H4 CH32]の移り変わりと似ている。しかし、代替物質の開発はコストがかかるだけでなく、後になって有害性がわかるということもある。例えば、ヘキサメチルリン酸トリアミド(hexamethylphosphoric triamide: HMPA,{(CH32N3P=O, CAS No. 680-31-9)は開発された当時は優れた非プロトン性極性有機溶剤として注目されたが、発がん性があるとされ、使われなくなった。

 


4. これまでに起きた事件/ 事故などの例

環境省の化学物質の環境リスク初期評価 第15 巻にDMAc を取扱う工場の例が紹介されている(http://www.env.go.jp/chemi/report/h29-01/pdf/chpt1/1-2-2-09.pdf)。

・ 合繊会社でDMAc やエチレンジアミンなどを閉鎖空間で1 46 時間3 日間曝露して、幻覚、脳波異常、肺水腫、肝障害等を起こした。尿中のDMAc量と脳波に相関があった。

・ ポリウレタン繊維製造工場での調査で肝障害が発生率0.089/ 人年で見られた。発症者の尿中のN- メチルアセトアミドの濃度が未発症者より高かった。

このほか、DMAc ではないが、科学技術振興機構(JST)の「失敗知識データベース」にDMF の爆発事故例が紹介されている(http://www.shippai.org/fkd/cf/CC0200036.html)。

DMF製造装置修理中にタンクで爆発事故が起きている。タンク内の清掃のため、内部のDMFを抜き出しているとき、タンク内で爆発が起きた。作業員が気道火傷を負い入院後死亡した。原因はタンク内の換気が不十分で、防爆タイプでない電動ポンプの使用、タンク内温度が引火点(58 ℃)を超える68 ℃で作業を開始したことと考えられる。管理・監督者の責任が大きい。

 


5. 主な法規制(図表4)

引火性液体としていくつかの法規制があるが、その区分の境界が法律によって異なる。GHSの引火性液体の区分3 は引火点60 ℃以下で、国連危険物輸送勧告の引火性液体の境界でもある。GHS区分4 は国連分類では引火性液体に該当しない。消防法の危険物第4 類引火性液体の第二石油類と第三石油類の境界は70 ℃で、第三石油類は引火点が200 ℃まで該当する。労働安全衛生法の危険物・引火性の物は引火点が65 ℃未満である。DMFGHS 区分3 で、国連危険物輸送勧告の国連分類のクラス3(引火性液体)に該当し、船舶や航空機での輸送では表示や容器の規制がある。DMAc DMFGHS 区分は違うが、消防法では同じ第二石油類である。ともに労働安全衛生法の「危険物・引火性の物」にも該当する。設備の定期検査などの義務がある。NMPGHSではDMAcと同じ区分4 だが、消防法では第三石油類である。指定数量は単独ならDMAc2000 LNMP4000 L である。

DMAc は労働基準法で肝障害などの疾病化学物質に挙げられている。労働安全衛生法で「健康障害防止指針」が公表され、1 % を超えた混合物を含め、取扱う際は曝露低減化(蒸気発散抑制、設備の密閉または局所排気、呼吸用保護具の着用、作業方法の改善など)を図り、作業環境測定をして日本産業衛生学会の作業環境許容濃度設定値:10 ppmを下回るよう管理し、測定結果の記録は30 年間保存しなければならない。測定結果評価に基づき必要に応じて健康診断、配置変更を行う。供給者は容器等のラベル表示(1 % 以上)、SDS 提供義務(0.1 % 以上)がある。取扱事業者は物質の性状や危険・有害性、曝露防止策や応急措置などについて取扱う人への教育義務がある。指針では教育に4.5 時間以上かけることとしている。DMFは同様の規制のほか有機溶剤中毒予防規則(有機則)の第2 種有機溶剤に指定されており、5 % を超えると適用される。作業環境評価基準で管理濃度:10 ppmに定められている。ラベル表示も0.3 % 以上とDMAcより厳しい。有機則の対象であることから女性労働基準規則(女性則)でも女性路労働に制限がある。NMP はラベル表示(≧ 1 %)、SDS 提供(≧ 0.1 %)義務以外の労働安全衛生法の法規制はない。ただし日本産業衛生学会は作業環境許容濃度を1 ppm4 mg/m3)に設定している。

DMAcDMF 及び2023年度からはNMPも化学物質管理促進法の第1 種指定化学物質で、環境中への排出報告(PRTR)義務がある。DMF, NMPは化学物質審査規制法(化審法)で優先評価物質に指定されており、製造/ 輸入量や用途を届出なければならない。毒性試験等の資料の提出を求められることがある。大気汚染防止法の揮発性有機化合物(VOC)で、大気中への排出削減が求められている。DMAc, DMFは有害大気汚染物質として挙げられた248 物質に含まれている。
なお生殖毒性があることからEU REACHで、制限物質として人と接触する衣類等に対して制限がある。また、認可対象物質の候補物質として高懸念物質(SVHC: Substances of very high concern)に挙げられており、ユーザーに対し含有濃度や有害性に関する情報の提供が求められている。DMFNMPも同様である。

図表5  N, N-ジメチルアセトアミド(DMAc)及び類似物質に関係する法規制

法律名 法区分 DMAc DMF NMP
化学物質審査規制法(化審法) 優先評価化学物質
化学物質管理促進法 1種指定化学物質 1% 1% 1%*1
労働安全衛生法 危険物・引火性
名称等表示対象物 1% 0.3% 1%
名称等通知対象物 0.1% 0.1% 0.1%
健康障害防止指針 1% 1%
  有機則 2種有機溶剤等 5%
作業環境評価基準 管理濃度 10ppm
労働基準法 女性則
疾病化学物質 肝障害、消化器障害 頭痛、眩暈、嘔吐、皮膚・前眼部・気道・肝・胃腸の障害
作業環境許容濃度 日本産業衛生学会 OEL 10ppm (36mg/m3) 10ppm (30mg/m3) 1ppm (4mg/m3)
ACGIH TLV-TWA*2 10ppm (36mg/m3) 5ppm (15mg/m3)
OSHA PEL*3 10ppm (35mg/m3) 10ppm (30mg/m3)
生物学的許容値*4 ACGIH BEI*4 *5 *6 *7
消防法 危険物第4類引火性液体 2石油類
(
水溶性)
2石油類

(水溶性)

3石油類(水溶性)
国連危険物輸送勧告 国連分類 3 (引火性液体)
国連番号 2265
容器等級
環境基本法 水質 要調査項目(人の健康)
大気汚染防止法 有害大気汚染物質
揮発性有機化合物(VOC)
海洋汚染防止法 有害液体物質 Z Y Y
EU REACH 制限物質 *8 *8, 9 *8,10
SVHC

*1: 2023年度以後第1種指定化学物質

*2: ACGIH (American Conference of Governmental Industrial Hygienist:アメリカ産業衛生専門家会議)TLV-TWA(Threshold Limit Value-Time-Weighted Average)

*3: OSHA(Occupational Safety and Health Administration: 労働安全衛生局)で米国の行政機関
PEL(Permissible Exposure Limits:
許容曝露濃度)

*4: 生物学的許容値: 労働者の尿や血液中の当該物質又はその代謝物の濃度で、労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度。ACGIHではBEI: Biological Exposure Indices(生物学的曝露指標)という。

*5: 尿中、N-メチルアセトアミド(週末作業終了時) 30mg/gクレアチニン補正(尿の濃淡を尿中のクレアチニン濃度で補正する)

*6: 尿中、N-メチルホルムアミド(作業終了時) 15mg/L
 尿中、N-アセチル-S-(N-メチルカルバモイル)システイン(週末の作業前)40mg/L (半定量的)

*7: 尿中、5-ヒドロキシ-N-メチル-2-ピロリドン(作業終了時) 100mg/L

*8: Entry 72 (CLP規則で生殖毒性区分1B) 衣類や履物等で人の皮膚に接触する用途に、均質部分中の濃度で0.3%以上含まれている場合は市場に出してはならない。

*9: Entry 76 (DMF) 0.3%以下か、SDS等に無影響量(吸入: 6mg/m3, 経皮1.1mg/kg/day)の記載およびこの量以下を保証する管理・運用条件の提供が必要。

*10: Entry 71 (NMP) 0.3%以下か、SDS等に無影響量(吸入:14.4mg/m3, 経皮4.8mg/kg/day)の記載およびこの量以下を保証する管理・運用条件の提供が必要。

 


6.曝露などの可能性と対策

6.1 曝露可能性

液体で、室温での取扱いでは引火しないが、発生する蒸気は吸入した場合に危険な濃度になる。中毒濃度になっても臭気として感じないので、注意が必要である。高温で取扱う場合は、蒸気やミストによる火災の発生や、吸入による健康障害のリスクが高くなる。DMFからDMAcそしてNMPへの動きは、より高沸点で、蒸気によるリスクが下がっているとも考えられる。蒸気は空気より重いので低いところやタンクなど密閉された空間では滞留するおそれがある。皮膚からも吸収される。溶解力や浸透性が高い有機溶剤で、ウレタンやアクリル樹脂等多くのプラスチックやゴムを侵すので、保護具にも浸透し、長時間の使用や繰返し使用で曝露するおそれがある。発がん性に関しては、極微量であっても長期間になると影響が出るおそれがある。生殖毒性は特定の時期に敏感なので、直接取扱いに従事しない人も注意すべきである。

 

6.2 曝露防止

蒸気やミストの発生を抑える。容器や設備を密閉化して遠隔操作するか、局所排気や空気の流れを考慮した十分な換気をする。換気が不十分な場合、送気マスク又は有機ガス用防毒マスク(JIS T8152, JIS T8153)などを使用する。保護衣、保護手袋等の保護具は不浸透性を確認して着用する。眼の保護はゴーグル型の保護眼鏡を使用する。生殖毒性があるので特に可能性のある人(女性の場合は授乳期も含め)への曝露は避ける。

 

6.3 廃棄処理

アフターバーナー及びスクラバーを備えた焼却炉に噴霧して焼却する。焼却すると窒素酸化物(NOx)が生成するので回収・中和する。生分解性があるので活性汚泥処理が可能である。活性汚泥処理でも窒素酸化物が生成する。最終的に事業所からの排水には、排水基準として窒素含有量120 mg/L1 日平均で60 mg/L)を順守する必要がある。

免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。