第13 回 アクリロニトリル
誌面掲載:2018年8月号 情報更新:2023年6月
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1. 名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)
1.1 化学物質名/ 別名
アクリロニトリル(Acrylonitrile)は慣用名であるがIUPAC でも認められている。化学構造はCH2=CH-C≡Nである。炭素数3 個のプロペン(Propene:C3H6 又はCH2=CHCH3)の1 個の炭素に窒素が結合してニトリル基(Nitrile:-C≡N)になっていることからIUPAC 命名法ではプロペンニトリル(Propenenitrile)ということになるが、窒素が結合している炭素から2つ目の結合がC=C になっているのでプロパ-2- エンニトリル(Prop-2-enenitrile)又は2- プロペンニトリル(2-Propenenitrile)である。ニトリル化合物を加水分解するとカルボン酸が生ずるので、ニトリルをカルボン酸の誘導体とみなして、該当カルボン酸の慣用名の接尾語-ic acid の代わりに-onitrile とすることができる。CH2=CHCOOHというカルボン酸をアクリル酸(Acrylic acid)と呼ぶので、アクリロニトリル(Acrylonitrile)と呼ばれる。略称はANということになるがそれほど一般的ではない。毒劇物取締法などで「アクリルニトリル」と書かれていることもあるが、同じ物質である。繊維製品の「アクリル」はこのアクリロニトリルの重合物である。透明なプラスチックの「アクリル樹脂」はアクリロニトリルではなくアクリル酸エステルなどの重合物である。「アクリル絵具」はこのアクリル樹脂に顔料等を混ぜたものである。無機化合物でCNはシアン(Cyan)と呼ばれる。代表的な例にシアン化カリウム(青酸カリ、Potassium cyanide: KCN)がある。青色のことを「シアン:Cyan」と呼び、青色顔料に鉄のシアン化物(紺青又はプルシアンブルー:Prussian blue:Fe4 [Fe(CN)6]3)がある。有機物の場合にも、接頭語としてシアノ(Cyano-)接尾語でシアニド又はシアナイド(cyanide)が用いられる。エチレン(Ethylene:CH2=CH2)にシアンが結合しているのでシアノエチレン(Cyanoethylene)、CH2=CH- は「ビニル(Vinyl)」とも呼ぶので、シアン化ビニル(Vinylcyanide)と呼ぶこともできる。プラスチックの「ビニール」は塩化ビニル(Vinyl chloride:CH2=CHCl)などビニル基を持つ物質から製造されている。シアン化物イオン(CN-)は有毒であるが、有機物のニトリル化合物は一般には水中でシアン化物イオンに解離することはない。
1.2 CAS No.、化学物質審査規制法(化審法)、労働安全衛生法(安衛法)官報公示整理番号、その他の番号
アクリロニトリルのCAS No. は107-13-1 である。化審法官報公示整理番号は2-1513 で安衛法は既存物質とし化審法番号で公表されている。2- は「有機鎖状低分子化合物」であることを示している。
EU のEC 番号は203-466-5 である。REACH 以前は既存化学物質のEINECS 番号だった。REACH登録番号は01-2119474195-34-xxxx(xxxx は登録者番号)。
図表1 アクリロニトリル(AN)の特定
名称 | アクリロニトリル(Acrylonitrile) |
別名(IUPAC) | プロパ-2- エンニトリル(Prop-2-enenitrile) |
その他の名称 | シアノエチレン(Cyanoethylene)、
2- プロペンニトリル(2-Propenenitrile)、 ビニルシアニド、シアン化ビニル(Vinylcyanide) |
略称 | AN, ACN |
化学式 | C3H3N, CH2CHCN, CH2=CH-C≡N |
CAS No. | 107-13-1 |
化審法
安衛法 |
2-1513 |
EC No. | 203-466-5 |
REACH | 01-2119474195-34-xxxx |
2. 特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)
2.1 物理化学的性質(図表2)
わずかな刺激臭のある無色透明の揮発性液体(VOC)である。水に対する溶解度は低く、水と混合すると、溶解度以上では相分離し、ANの大半は上の相にいく。ほとんどの有機溶媒とは混和する。沸点は77 ℃でエタノールとあまり変わらないが、引火点は–1 ℃と低く引火しやすい。蒸気は空気より重く、床や排水溝になど低いところに滞留しやすい。熱、炎、酸化剤と接触して激しく燃焼しシアン化水素や窒素酸化物(NOx)を生ずる。環境中の水では容易には加水分解されないが、触媒の存在下ではアクリルアミド(Acrylamide:CH2=CHCONH2)を経てアクリル酸(Acrylic acid:CH2=CHCOOH)に変換される。熱、光、塩基の存在で重合し、温度が上がって火災・爆発の危険を生じる。重合を防止するため通常重合抑制剤(4- メトキシフェノールなど)が少量添加されている。n- オクタノール/水分配係数(log Pow)は0.25 で、生物濃縮性はないと考えられる。
図表2 アクリロニトリル(AN)の主な物理化学的性質(ICSC による)
アクリロニトリル | |
融点(℃) | –84 |
沸点(℃) | 77 |
引火点(℃) (c.c.) | –1 |
発火点(℃) | 481 |
爆発限界(vol %) | 3.0 ~ 17.0 |
蒸気密度(空気=1) | 1.8 |
比重(水=1.0) | 0.8 |
水への溶解度 | 7 g/100 ml(20 ℃) |
n-オクタノール/水分配係数
(log Pow) |
0.25 |
2.2 有害性
GHS分類例は図表3に示す。アクリロニトリル自体も反応性があって有害であるが、体内に取り込まれた後、代謝される過程で一部は有毒なシアン化物イオンを放出する。アクリロニトリルを飲み込んだり、蒸気を吸い込んだりすると頭痛、めまい、吐き気、痙攣等を起こし、生命に危険を及ぼすおそれがある。症状はシアン中毒に似ている。長期的な曝露で神経系、呼吸器、血液系、肝臓、腎臓、精巣に障害を及ぼすおそれがある。皮膚に付着すると赤くなり、繰り返し接すると皮膚感作(アレルギー性皮膚炎)を起こすこともある。皮膚からも吸収され、吸入/ 経口摂取と同様の症状を起こす。眼に強い刺激性があり不可逆的な影響を及ぼすおそれがある。GHSで生殖細胞変異原性は「分類できない」としているが、労働安全衛生法では、動物細胞を用いた染色体異常試験での陽性の結果から、変異原性が認められた物質としている。発がん性に関して動物試験で脳腫瘍などのリスクが増加することから、IARC はグループ2B(ヒトに発がん性の可能性)、日本産業衛生学会は2A(ヒトにおそらく発がん性有)、ACGIH はA3(動物試験で発がん性有)としている。EU のCLP(The Classification, Labelling andPackaging; Regulation(EC) No 1272/2008 のAnnex VI,Table 3.1)やNITE によるGHS区分は1B(ヒトにおそらく発がん性有)である。生殖毒性に関しては、動物試験で妊娠中の摂取で胎児毒性や催奇形性が見られている。
図表3 アクリロニトリル(AN)のGHS分類(NITE による)
GHS分類 | 区分 |
物理化学的危険性 | |
引火性液体 | 2 |
自然発火性液体 | 区分外 |
金属腐食性 | – |
健康有害性 | |
急性毒性(経口) | 3 |
急性毒性(経皮) | 2 |
急性毒性(吸入:蒸気) | 2 |
急性毒性(吸入:ミスト) | – |
皮膚腐食/刺激性 | 2 |
眼損傷/刺激性 | 1 |
皮膚感作性 | 1 |
生殖細胞変異原性 | – |
発がん性 | 1B |
生殖毒性 | 1B |
特定標的臓器(単回) | 1(神経系、肝臓、腎臓、血液系)、3(気道刺激性、麻酔作用) |
特定標的臓器(反復) | 1(神経系、呼吸器、血液系、
肝臓、腎臓、精巣) |
誤えん有害性 | – |
環境有害性 | |
水生環境有害性(短期・急性) | 2 |
水生環境有害性(長期・慢性) | 2 |
図表4 アクリロニトリルの発がん性評価
分類機関 | 分類 |
IARC | Group 2B |
日本産業衛生学会 | 第2群A |
ACGIH | A3 |
NTP | RAHC |
EU(CLP:GHS分類) | 1B |
EPA | B1 |
IARC: Group 2B: Possibly carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性を示す可能性がある)
日本産業衛生学会: 第2群A: ヒトに対しておそらく発がん性があると判断できる物質
ACGIH A3: Confirmed Animal Carcinogen with Unknown Relevance to Humans(動物実験で発がん性が認められた物質)
NTP RAHC: Reasonably Anticipated to be Human Carcinogens (ヒト発がん性があると合理的に予測される物質)
EPA: B1: Probable human carcinogen – limited evidence in humans and sufficient evidence in animals (おそらくヒト発がん性物質、限定されたヒト発がん性の証拠及び動物での十分な証拠による)
2.3 環境有害性
水生生物に対して有毒である。生分解性がないという例もあるが、低濃度や馴化された微生物を用いた場合は容易に生分解される。
3. 主な用途
容易に重合してポリマーとなるので、合成繊維、合成樹脂、合成ゴムなどの原料として使われる。合成繊維ではアクリル系繊維がある。アクリロニトリルの重合物(ポリアクリロニトリル:Polyacrylonitrile, PAN)が主成分で、アクリル酸エステル等が添加(共重合)されている。PAN 繊維を高温で処理すると炭化し、炭素繊維となる。PAN 系の炭素繊維は低密度、高強度、高弾性率で炭素繊維強化プラスチック(Carbon FiberReinforced Plastics:CFRP)として航空機やスポーツ用品、自動車などに使われている。合成樹脂としては家電製品や自動車に使われるABS 樹脂: アクリロニトリル(Acrylonitrile)– ブタジエン(1,3-Butadiene)– スチレン(Styrene)の共重合体や、食品などの容器に使われるAS樹脂: アクリロニトリル– スチレン共重合体がある。合成ゴムとしてはO- リングや保護手袋などに使われるニトリルゴム(Nitrile rubber, NBR): アクリロニトリル– ブタジエン共重合体がある。耐油性があり、天然ゴムアレルギーを回避できる。また、加水分解して生成するアクリルアミド(CH2=CHCONH2)を重合して得られるポリアクリルアミドは水溶性の樹脂で、紙力増強剤や水処理の凝集剤などとして用いられ、水溶液から作られたポリアクリルアミドゲルは電解質の分離分析(電気泳動)などに用いられている。
4. これまでに起きた事件/ 事故などの例
・ 2013 年ベルギーでアクリロニトリルを積載した貨物列車が脱線、爆発、火災が起きた。アクリロニトリル蒸気を吸入した近隣住民1 人死亡、17 人が病院で手当てを受けた。住民被害が出た後、周辺住民500 人を避難させた(https://riscad.aist-riss.jp/acc/8410)。
・ 2015 年にアメリカテネシー州でアクリロニトリルや液化石油ガス(LPG)を積載した列車が脱線・炎上し、197 人が負傷した。アクリロニトリルの危険有害性を考慮して消火活動は行わず、近隣住民約5000 人に避難命令が出され、危険物処理班の出動が要請された (https://railroads.dot.gov/sites/fra.dot.gov/files/fra_net/17517/Maryville%20TN%20Derailment%20Summary%20Report.pdf)。
・ ブタジエン/ アクリロニトリル/ スチレン共重合プラントの配管内部の洗浄作業中、吐き気を催すなどして入院した。アクリロニトリル蒸気の吸入による中毒と診断された。配管内部の付着物に含まれていたアクリロニトリルなどが洗浄により大気中に放出されたものと推定されている。アクリロニトリルが残留しているという認識がなく、保護具も不適切だった(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101272)。
・ 工業製品中間体製造プラントで、反応槽にアクリロニトリルなどの原料を仕込み、蒸気加温して加圧反応させていたところ爆発し、プラント全体が火災となった。負傷者2 名、被害額約6 億円であった。撹拌が不十分で反応層上部で昇温し、アクリロニトリルが重合し槽内の温度がさらに上昇した。内圧も上がって反応槽に亀裂が入って原料が気化して蒸気爆発を起こした。その際、静電気が発生しその火花によって着火した
(https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/YOT00009)。
5. 主な法規制(図表5)
引火点が低く、消防法の第4 類引火性液体第1 石油類である。消防法の定義では20 ℃で同容量の水と混ぜたときに均一な液体になるものを水溶性というので、水にわずかしか溶けないアクリロニトリルは非水溶性液体である。指定数量は200L である。指定数量以上の取扱いや保管に関しては消防法の規制を受け、危険物取扱者の資格が必要である。指定数量以下でも地方条例による規制がある。輸送に関しては国連危険物輸送勧告に基づく船舶安全法や航空法などの規制がある。アクリロニトリルは品名「アクリロニトリル、安定剤入りのもの」で国連番号1093 がある。国連分類はクラス3(引火性液体)及び副次危険性クラス6.1 (毒物)で、容器等級はⅠである。表示(標識)や容器の規制がある。労働安全衛生法の「危険物・引火性の物」にも該当する。設備の定期検査などの義務がある。常温では液体のアクリロニトリルであるが、蒸気の危険性により高圧ガス保安法で「可燃性ガス」「毒性ガス」に指定されている。
労働基準法で頭痛などの症状や皮膚などへの障害で疾病化学物質に挙げられている。特定化学物質第2 類物質、特定第2 類物質に指定されている。1 % を超えた混合物を含め、製造又は取扱うには特定化学物質作業主任者をおかなければならない。設備の密閉化または局所排気、プッシュプル型換気を行う。経皮吸収性があるので作業者は保護眼鏡、不浸透性の保護衣・保護手袋・保護長靴を使用し、身体洗浄設備を備える。作業環境を測定し、作業環境評価基準の管理濃度2 ppm を下回るよう管理し、6 ヶ月に1 度は健康診断を行う。変異原性が認められた化学物質ということで厚生労働省から健康障害を防止するための指針が公表されている。曝露防止や作業環境の測定などの他4 時間以上の労働衛生教育が要請されている。作業環境測定結果及び結果の評価の記録や労働者の作業記録は30 年間の保存を要請している。日本産業衛生学会やACGIH の作業環境許容濃度も2 ppm に設定されている。供給者は容器等のラベル表示(1 % 以上)、SDS(0.1 % 以上)提供義務がある。
毒物劇物取締法で、原体(工業用純品)はアクリロニトリルとして「劇物」に指定されている。製剤(混合物)も法律に「有機シアン化合物及びこれを含有する製剤」があり、アクリロニトリルはこれに該当する。閾値が書かれていないので、製品に残って利用するために意図的に添加した混合物は、濃度が低くても劇物である。製造、販売などに登録が必要である。アクリル繊維やABS樹脂などのようにモノマーとして意図的に添加しても、反応して別物質への変換が目的で、未反応物が意図せず極微量残留しているだけというような場合は「不純物」とみなされ、製品の取扱いでは劇物には該当しない。
化学物質管理促進法の第1 種指定化学物質で、環境中への排出報告(PRTR)義務がある。化学物質審査規制法(化審法)で優先評価化学物質に指定されており、製造/ 輸入量や用途を届出なければならない。大気汚染防止法の有害大気汚染物質248 物質の中で特に健康リスクが高いと考えられる23 種の優先取組物質に含まれており、揮発性有機化合物(VOC)としても、大気中への自主的な排出抑制が求められている。
水質汚濁防止法の指定物質で事故時の届出義務がある。水質汚濁に関し、アクリロニトリルとしての環境基準はないが、「人の健康の保護に関する環境基準」に「全シアン」が「検出されないこと」とある。「検出されない」というのは、酸性で発生するシアン化水素を検出するという方法(JIS K0102)で、0.1 mg/L 未満ということである。アクリロニトリルは水溶液でシアン化物イオンになったり、測定時にシアン化水素を発生したりすることはないと考えられるが、使用/ 廃棄の過程で、シアンが全く生成しないとはいえないため、対象外というわけではない。取扱事業所(特定事業場)からの国の定める全国一律排水基準は「全シアン」として1.0 mg/L であるが、都道府県の基準では「検出されないこと」とされている水域もある。下水道法の水質基準も1.0 mg/L(シアン)である。シアンとして1 mg/L 以上含有する場合は産業廃棄物処理法の特別管理産業廃棄物の特定有害産業廃棄物に該当する。アクリロニトリル(有機シアン化合物)を0.1 % 以上含む廃棄物は特定有害廃棄物輸出入規制法(バーゼル法)の対象になる。
食品衛生法のプラスチック製容器包装材料ポジティブリストにアクリロニトリルを製造原料とするいくつかの樹脂が記載されている。樹脂毎に接触可能食品や使用可能最高温度等が定められている。
図表5 アクリロニトリル(AN)及び類似物質に関係する法規制
法律名 | 法区分 | 条件など | |
化学物質審査規制法 | 優先評価化学物質 | ○ | |
化学物質管理促進法 | 第1種指定化学物質 | ≧1% | |
労働安全衛生法 | 危険物・引火性の物 | ○ | |
名称等表示/通知対象物 | 表示≧1%、 通知≧0.1% |
||
変異原性物質 | ○ | ||
特定化学物質 | 第2類物質 特定第2 類物質 | >1% | |
作業環境評価基準 | 管理濃度 | 2 ppm | |
労働基準法 | 疾病化学物質 | 頭痛、めまい、嘔吐等の自覚症状、
皮膚・前眼部・気道の障害 |
|
作業環境許容濃度 | 日本産業衛生学会 | 2 ppm(4.3mg/m3)(皮) | |
ACGIH TLV | TWA: 2 ppm (Skin) | ||
毒劇物取締法 | 劇物 | 原体及び製剤 | |
消防法 | 危険物第4類引火性液体 | 第1 石油類(非水溶性) | |
国連危険物輸送勧告 | 国連分類 | 3 副次危険性: 6.1 | |
国連番号 | 1093 | ||
品名 | アクリロニトリル、安定剤入りのもの | ||
容器等級 | Ⅰ | ||
高圧ガス保安法 | 可燃性ガス | ○ | |
毒性ガス | ○ | ||
大気汚染防止法 | 有害大気汚染物質 | 優先取組物質 | |
揮発性有機化合物(VOC) | ○ | ||
水質環境基準 | 人の健康保護、地下水・土壌 | 検出されない(シアン) | |
水質汚濁汚染防止法 | 有害物質
指定物質 排水基準 |
(シアン化合物)
○ ≦ 1 mg/L(シアン) |
|
水道法 | 水質基準 | ≦ 0.01 mg/L(シアン) | |
下水道法 | 水質基準 | ≦ 1 mg/L(シアン) | |
海洋汚染防止法 | 危険物 | ○ | |
有害液体物質 | Y類 | ||
土壌汚染対策法 | 特定有害物質 | シアン化合物 | |
廃棄物処理法 | 特別管理産業廃棄物
特定有害産業廃棄物 |
シアン(汚泥、廃酸・廃アルカリ: 1mg/L) | |
特定有害廃棄物輸出入規制法(バーゼル法) | 特定有害廃棄物 | 有機シアン化合物(0.1%) | |
食品衛生法
容器包装ポジティブリスト |
基ポリマー(プラスチック)
(コーティング)
(微量モノマー) 添加剤 |
9(アクリロニトリル・スチレン共重合体)*1 21(合成吸着剤及びイオン交換樹脂)*2 28(熱硬化性ポリウレタン)*3 33(ポリアクリルニトリル)*4 48(ポリ塩化ビニリデン)*5 1(アクリルポリマー)、4(ビニルポリマー)、9(ポリオレフィン)、14(その他含窒素ポリマー) 10(有機窒素化合物) アクリロニトリルを構成成分とする重合体 |
*1: 使用可能最高温度~100℃、樹脂区分3(消費係数<0.1、塩化ビニル又は塩化ビニリデン由来成分<50 wt%、ガラス転移温度(Tg)<150℃、吸水率>0.1%)に該当
食品区分:共重合成分により乳・乳製品に使用不可の場合有
*2: 共重合モノマーとして記載あり。樹脂により使用可能最高温度~70℃, ~100℃、樹脂区分3
*3: ポリウレタン中のモノマー成分、使用可能最高温度~70℃、樹脂区分1(消費係数<0.1、塩化ビニル又は塩化ビニリデン由来成分<50 wt%、ガラス転移温度(Tg)≧150℃)に該当
*4: 単独重合体は使用可能最高温度~70℃、樹脂区分1、共重合成分により使用可能最高温度~100℃、樹脂区分3の場合もある。(乳・乳製品使用不可の場合もある)
*5: ポリ塩化ビニリデン(≧への共重合成分、使用可能最高温度100℃~、樹脂区分4(消費係数<0.1, 塩化ビニル又は塩化ビニリデン由来成分≧50%)
6. 曝露や火災等の可能性と対策
6.1 曝露可能性
揮発性の液体で、蒸気の吸入や経口摂取だけでなく皮膚からも吸収される。20 ℃で気化した場合でも急速に有害な濃度になる。蒸気は空気より重いので低いところやタンク内などに滞留したり、地面や排水溝を通して離れた場所で引火したり、吸入して中毒を起こしたりするおそれがある。引火性があるだけでなく重合反応により発熱して、爆発・火災のおそれもある。蒸気は眼、皮膚、気道を刺激し、許容濃度を超えると死に至ることがあるが、許容濃度を超えても臭気として十分に感じられなかったり、影響が遅れて現れたりすることもある。閉鎖系で取扱う場合でもサンプリング、仕込み、取出しなどの工程で曝露することがありうる。アクリル繊維やABS樹脂などには原料のアクリロニトリルが残っている可能性はあるが濃度は極めて低く、これらの製品の取扱いでアクリロニトリルによる中毒などのおそれはないと考えられる。
6.2 曝露防止等
容器や設備を密閉化して遠隔操作する。サンプリングや仕込みなどの作業で曝露するおそれがある場合は、局所排気やプッシュプル型換気を行い作業環境許容濃度(管理濃度)以下に保つ。作業者は有機ガス用防毒マスク、送気マスク、空気呼吸器を使用する。保護
衣、保護手袋、保護長靴は不浸透性を確認して着用する。眼の保護はゴーグル型の保護眼鏡を使用する。屋外で取扱う場合でも風上側から作業をする。取扱い場所には手洗い、洗眼器、シャワーを設置する。被液した場合、十分洗浄してから脱衣する。炎や火花などの着火源、高温体や酸化剤などとの接触がないように取り扱う。容器や用具の接地(アース)、帯電防止作業着・帯電防止安全靴の着用、作業前の除電等の静電気対策を確実に行い、電気・換気・照明機器は防爆型のものを使用する。容器の移し替えや充填などの際は容器内の空気を窒素ガスなどの不活性ガスで予め置換してから行い、空になった容器の方も置換しておく。
6.3 廃棄処理
毒物劇物取締法の劇物に指定されているので、廃棄方法に基準がある。許可を受けた産業廃棄物処理業者に委託して処理する。下水へ流してはならない。
・ 燃焼法: アフターバーナー及びスクラバーを備えた焼却炉に噴霧して焼却する。焼却するとシアンガスや窒素酸化物(NOx)が生成するので回収・中和する。
・ アルカリ法: 水酸化ナトリウム水溶液でpH を13以上に調整後、高温加圧下で加水分解する。
・ 活性汚泥法: 希薄な水溶液であれば生分解性があるので活性汚泥処理が可能である。活性汚泥処理でもアンモニアや窒素酸化物が生成する。シアンやアンモニア性窒素/ 硝酸/ 亜硝酸性窒素、窒素含有量などに排水基準がある。
免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。