第33回 エピクロロヒドリン

誌面掲載:2020年5月号 情報更新:2024年6月

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1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)

1.1 化学物質名/ 別名

エピクロロヒドリン(Epichlorohydrin)は分子中に塩素を含む物質(接頭辞はクロロ-:Chloro)の慣用名である。エピクロルヒドリンとも呼ばれることもあるが、エピクロロヒドリンが推奨される。化学式はC3H5ClOで、化学構造を反映した書き方だと(C2H3O)CH2Cl 1である。塩素の結合位置を示してα- エピクロロヒドリン(α- Epichlorohydrin)ということもあるが、一般にはα がなくてもこの物質を指す。(C2H3O)の部分は炭素2 個と酸素1 個で三角形(3員環)を形成(酸素を含むC-O-C の結合をエーテルというので、3員環のエーテルともいえる)し、その環の炭素に-CH2Cl が結合している。IUPAC の系統的名称では3員環はイラン(Irane)で、1 個が酸素に置き換わっているので接頭辞オキサ(Oxa)を付けてオキサ+ イラン(oxa+irane)、a を省略して「オキシラン」(Oxirane)2という。酸素から数えて2 番目の炭素にクロロメチル(-CH2Cl)が結合しているので、2-(クロロメチル)オキシラン{2-(Chloromethyl)oxirane}ということになる。この3 員環エーテルを「エポキシド」(Epoxide)と呼ぶので、炭素数3 個の炭化水素プロパン(Propane)がエポキシ化したエポキシプロパン(Epoxypropane)3に塩素が結合して1- クロロ-2,3- エポキシプロパン(1-Chloro-2,3-epoxypropane)又は1,2- エポキシ-3- クロロプロパン(1,2-Epoxy-3-chloropropane)と呼ぶことがある。接着剤等に使われるエポキシ樹脂はこのエポキシ基を持っているか、これを原料とした樹脂を指している。エピクロロヒドリンはその原料の一つである。二重結合を持つ炭素数3 個の炭化水素がプロピレン(Propylene)に酸素が付加した形は、プロピレンオキシド(Propyleneoxide)ともいう。塩素が結合しているので2- クロロプロピレンオキシド(2-Chloropropylene oxide)又はγ- クロロプロピレンオキシド(γ-Chloropropylene oxide)ともいえる。エピクロロヒドリンは互いに鏡像体である立体異性体がある4, †5。区別が必要な場合は名称の頭に立体構造の違いを示すD-, d- 又は(–)-、L-, l- 又は(+)- とか(R)- 又は(S)- を付ける。通常の合成では両者同数(ラセミ体という)製造され、一般的な物理的化学的性質は同じなので区別なく使われている。ラセミ体であることを示す必要がある場合は名称に(D, L)-,(dl)- 又は(+,–)- とか(R, S)- を付ける。医薬品等で、その区別が必要な物質の合成原料としては区別する場合もある。エポキシ基(Epoxy group)に結合したメチレン基(-CH2-)までを含む場合(: C2H3O)CH2-をグリシジル基(Glycidyl group)6という。一般にはグリセリン(Glycerine)として知られるグリセロール{Glycerol:HOCH2CH(OH)CH2OH}7の誘導体とも考えられるためである。ビスフェノールA(Bisphenol A: HOC6H4C(CH32C6H4OH)とエピクロロヒドリンとの反応物で、代表的なエポキシ樹脂の最小単位はビスフェノールA ジグリシジルエーテル{Bisphenol A diglycidyl ether,(C2H3O)CH2OC6H4C(CH32 C6H4OCH2 (C2H3O)}と呼ばれる。

1.2 CAS No.、化学物質審査規制法(化審法)、労働安全衛生法(安衛法)官報公示整理番号、その他の番号(図表1)

エピクロロヒドリンのCAS No. は106-89-8 である。これはラセミ体の場合のCAS No. で、立体異性体を区別する場合はそれぞれ、51594-55-9(R 体), 67843-74-7(S 体)という番号がある。化審法等では立体異性を区別することなく官報公示整理番号は2-275 で、安衛法は既存物質とし化審法番号で公表されている。EU のEC 番号は203-439-8 で、REACH の登録番号は01-2119457436-33-xxxx(xxxx は登録者番号)である。

 

図表1 エピクロロヒドリンの特定

名称 エピクロロヒドリン

Epichlorohydrin

IUPAC 2-(クロロメチル)オキシラン

2-(Chloromethyl)oxirane

別名 1-クロロ-2,3-エポキシプロパン

1-Chloro-2,3-epoxypropane

1,2-エポキシ-3-クロロプロパン

1,2-Epoxy-3-chloropropane

2-クロロプロピレンオキシド

2-Chloropropylene oxide

α-エピクロロヒドリン

α- Epichlorohydrin

γ-クロロプロピレンオキシド

γ-Chloropropylene oxide

略称 ECH
化学式 C3H5ClO

(C2H3O)CH2Cl*1

CAS No. 106-89-8
化学物質審査規制法(化審法)/

労働安全衛生法(安衛法)

2-275
EC No. 203-439-8
REACH 01-2119457436-33-xxxx
国連番号 2023

 


2. 特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)

2.1 物理化学的性質(図表2)

クロロホルムに似た刺激臭のある無色透明の揮発性液体(VOC)である。31 ℃以上では、蒸気は空気と爆発性混合気体を生ずることがある。比重は水より大きく、蒸気は空気の3 倍を超える。エポキシ環は反応性があり、加熱または酸、塩基との接触で反応(重合)する。強酸化剤、アルミニウム、亜鉛、アルコール、フェノール類、アミン、有機酸と激しく反応して火災や爆発の危険を生じる。GHS分類の「自己反応性化学品」に対し、NITEは「歪のある環を含むがデータがないため分類できない」としている(図表3)。水に少し溶け金属腐食性を示すことがある。また、徐々に加水分解して3- クロロ-1,2-プロパンジオール(3-Chloro-1,2-propanediol: CAS No.96-24-2, HOCH2CH(OH)CH2Cl)となる。石油系の炭化水素には不溶だが、アルコール、エーテル、クロロホルム等の有機溶剤と混和する。燃焼すると塩化水素(HCl)、塩素(Cl2)、ホスゲン(Phosgene: COCl2)等の腐食性/ 毒性のガスが生成することがある。

 

図表2 エピクロロヒドリンの主な物理化学的性質(ICSC による)

物理化学的性質
融点(℃) -48
沸点(℃) 116
引火点(℃) (C.C.) 31
発火点(℃) 385
爆発限界(vol %) 3.8~21
蒸気密度(空気=1) 3.2
比重(水=1.0) 1.2
水への溶解度(20℃) 6g/100ml
n-オクタノール/水分配係数(log Pow) 0.26

 

2.2 有害性(図表3)

エピクロロヒドリンは経口摂取、経皮、吸入曝露で急速に体内に吸収される。大部分は、エポキシ基が加水分解して代謝され、二酸化炭素や代謝物として呼気や尿に含まれて排泄される。一部は肝臓などに残り、有害性を示す。致死性で見る急性毒性は吸入曝露で区分2、経口摂取や皮膚からの吸収では区分3 に分類されている。皮膚や粘膜に接触して生体物質と反応すると考えられ、皮膚、眼、呼吸器に腐食性を示す。蒸気を吸入すると、肺水腫を引き起こすことがある。影響は、遅れて現れることがあるので医学的な経過観察が必要である。肺水腫は2 ~ 3 時間経過するまで現われない場合が多く、安静を保たないと悪化する。皮膚感作性や吸入による気道過敏性を起こす呼吸器感作性を示す。日本産業衛生学会はヒトに明らかに感作性があるという第1 群に分類している。摂取したとき中枢神経系に影響して、頭痛、眩暈、嘔吐、さらに量が多いと昏睡、死に至ることがある。腎臓障害や肝臓機能障害を起こすことがある。長期的にも中枢神経系や腎臓、肝臓、肺などの機能障害を起こすことがある。ヒトの生殖細胞に遺伝子損傷を引き起こすことがある。発がん性について図表4にまとめた。IARC(国際がん研究機関)がGroup 2A、日本産業衛生学会も第2 群A、米国国家毒性計画(NTP)はRAHC(Reasonably Anticipated to be Human Carcinogens)に分類しており、ヒトに対しおそらく発がん性を示すと考えられる。GHS区分も1Bである。生殖毒性に関しては、生殖能力や胎児に悪影響を及ぼすおそれがある。

 

図表3 エピクロロヒドリンのGHS分類(NITE による)

GHS分類
物理化学的危険性
引火性液体 3
自己反応性化学品
金属腐食性
健康有害性
急性毒性(経口) 3
急性毒性(経皮) 3
急性毒性(吸入:蒸気) 2
皮膚腐食/刺激性 1
眼損傷/刺激性 1
皮膚感作性 1
生殖細胞変異原性 2
発がん性 1B
生殖毒性 2
特定標的臓器(単回) 1(呼吸器系、肝臓、腎臓)
 特定標的臓器(反復) 1(呼吸器系、腎臓)
誤えん有害性
環境有害性
 水生環境有害性(短期/急性) 3
水生環境有害性(長期/慢性) 区分外
オゾン層への有害性

 

図表4 エピクロロヒドリンの発がん性評価

分類機関 評価
IARC Group 2A
日本産業衛生学会 第2群A
ACGIH A2
NTP RAHC
EU(CLP: GHS) 1B
EPA B2

IARC: Group 2A: Probably carcinogenic to humans (ヒトに対しておそらく発がん性を示す)

日本産業衛生学会: 第2群: ヒトに対して発がん性があると判断できる物質(Aは動物実験からの証拠が十分)

ACGIH: A2: Suspected Human Carcinogen (ヒトに対して発がん性が疑われる物質)

NTP: RAHC: Reasonably Anticipated to be Human Carcinogens (ヒト発がん性があると合理的に予測される物質)

EPA: B2: Probable human carcinogen – based on sufficient evidence of carcinogenicity in animals (動物での十分な証拠に基づいて、おそらくヒト発がん性物質)

 

2.3 環境有害性

水生生物に対して有害性を示す。急速分解性があり、n- オクタノール/ 水分配係数log Powは0.26 と低く、生物濃縮性は低いと推定される。長期的な影響に関する試験報告は得られていない。

 


3. 主な用途

エピクロロヒドリンは全て合成原料として使用される。その多くはエポキシ樹脂の原料として使用される。メタクリル酸2,3- エポキシプロピル(グリシジルメタクリレート、 CAS No. 106-91-2)、合成グリセリン、エピクロロヒドリンゴムのほか化粧品、医薬、界面活性剤、繊維処理剤、イオン交換樹脂等の合成原料として使われる。メタクリル酸2,3- エポキシプロピルはアクリル塗料や樹脂の改質剤、エピクロロヒドリンゴムは自動車の燃料ホースなどに使われている。

 


4. 事故などの例

・ 化成品工場でエピクロロヒドリンの入ったタンクに誤ってジエチレントリアミン(DETA)を注入してしまった。両者は反応し、タンクの内圧が上昇して破裂し、火災となった。容器が似ていたことや担当者以外の人が作業したこと等が原因と考えられた。

(http://www.shippai.org/fkd/cf/CC0200106.html)

・ 廃油再生工場で、エポキシ樹脂製造で発生したエピクロロヒドリンとジメチルスルホキシド(DMSO)を主成分とする混合廃液からエピクロロヒドリンを減圧蒸留回収中爆発した。蒸留塔底で、エピクロロヒドリンの重合反応が起こり、エピクロロヒドリンの減少に伴い内部温度が上昇した。エピクロロヒドリンの重合やジメチルスルホキシドの熱分解等が急激に起こり、圧力上昇、爆発、火災となった。
(http://www.shippai.org/fkd/cf/CC0200006.html)

・ エポキシ樹脂製造工場でも類似の事故が発生している。

(http://www.shippai.org/fkd/cf/CC0000069.html)

・ エポキシ樹脂製造装置で溶剤のDMSO回収槽の温度が上昇し、ガスが漏洩、爆発した。回収槽内でも爆発した。通常の運転中にエピクロロヒドリン等の異物が混入して、DMSOの暴走的な反応、分解を引き起こした。(http://www.shippai.org/fkd/cf/CC0200024.html)

・ 消防研究所報告118 号(2015)でエピクロロヒドリンが重合暴走反応を起こして爆発、発火した例が2 件紹介されている。

(1) フェノールとの反応後中間反応終了後、ドラム缶内で保管中出火工場が焼失した。

(2) 過塩素酸ナトリウムを用いて重合中、重合槽内で昇温、内容物が噴出、爆発した。

(http://nrifd.fdma.go.jp/publication/houkoku/081-120/files/shoho_118s.pdf)

 


5. 主な法規制(図表5)

化審法で、優先評価化学物質に指定されている。これは環境中に残留し、ヒトや身近な生物に長期的な影響を及ぼすおそれがあるかどうかの評価を優先的に行うという物質で、製造・輸入者は毎年前年度の製造・輸入量を経済産業大臣に届け出なければならない。化学物質管理促進法の第1 種指定化学物質で環境中への排出量等の把握と報告(PRTR)を行う。製品に1 % 以上含まれる場合はSDS を提供する。

労働安全衛生法では0.1 % 以上で表示及び通知すべき有害物で、SDS の提供及び容器・包装のラベルにも物質名や有害性等の表示の義務がある。SDSに基づきリスクアセスメントを実施し、労働者の曝露を最小限度にしなければならない。屋内作業場での労働者の曝露程度を濃度基準値(0.5ppm)以下にしなければならない。作業環境評価基準は定められていない。作業環境許容濃度について日本産業衛生学会は設定していないが、ACGIH はTWAで0.1 ppmに設定している。皮膚や眼への障害及び皮膚からの吸収により健康障害を起こしうる物質(皮膚障害化学物質)でもあり、取扱う労働者の曝露防止のため、適切な保護具の着用が義務付けられている。変異原性が認められた物質に挙げられており、曝露防止や作業環境測定などの措置が要請されている。がん原性物質(GHS 区分1B)とされており、労働者の曝露状況や健康診断の記録は30年間の保存しなければならない。労働基準法で疾病化学物質とされ、曝露防止や作業環境の管理、SDS の提供などによるリスク回避が要請され、もし取扱いで皮膚や眼、気道障害及び肝障害などが生じた場合、その療養、休業補償等の義務がある。毒物劇物取締法の劇物に指定されている。製剤を含むので混合物も製造、販売、貯蔵、運搬、廃棄等に規制がある。盗難、紛失の防止、漏洩、流出防止措置、「医薬用外劇物」の表示、SDS の提供等の義務がある。

消防法の危険物第4 類引火性液体第二石油類非水溶性液体である。指定数量は1,000 L である。労働安全衛生法及び海洋汚染防止法でも「危険物・引火性物質」に該当する。国連危険物輸送勧告ではクラス6.1(毒物)で引火性のため副次危険性3(引火性液体)である。国連番号は2023 で、品名はエピクロロヒドリンである。容器等級はⅡである。海洋汚染物質とされている。これに基づいて船舶や航空機による輸送規制がある。

大気、水質、土壌に関する環境基準は定められていない。大気汚染防止法では揮発性有機化合物(VOC)に該当し、有害大気汚染物質に挙げられている。水質に対しては公共水域や地下水で要監視項目として0.0004 mg/L 以下の目標値が定められ、水道法では要検討項目として暫定値ではあるが同じ値に設定されている。水質汚濁防止法の指定物質で、事故などによる大量排出があった場合の応急措置や届出等の義務がある。海洋汚染防止法の有害液体物質Y類に挙げられている。成分係数は25 で、他に有害な物質がなくても1 % 以上の含有でY類物質の扱いとなる。

食品衛生法の食品用器具・容器包装ポジティブリストの基ポリマーやポリマー添加剤として、エピクロロヒドリンを用いて製造されるエポキシ樹脂等が挙げられており、制限範囲内で使用できる。

 

図表5 エピクロロヒドリンに関係する法規制

法律名 法区分 条件等
化学物質審査規制法 優先評価化学物質 (22)
化学物質管理促進法 第1種指定化学物質 ≧1%(65)*1
労働安全衛生法 危険物引火性の物 (4の4)
名称等表示/通知物質(87) 表示 ≧0.1%
通知 ≧0.1%
がん原性物質 ≧0.1%
濃度基準設定物質 05 ppm
皮膚障害化学物質 ≧0.1 %(皮膚刺激性、吸収性)
変異原性物質 >1%(55)
労働基準法 疾病化学物質 *2
作業環境許容濃度 日本産業衛生学会 設定されていない
ACGIH TLV TWA 0.1ppm
毒物・劇物取締法 劇物 含製剤(15の2)
消防法 危険物第4類引火性液体 第二石油類非水溶性液体
国連危険物輸送勧告 国連分類 6.1副次危険性3
国連番号 2023
品名 エピクロロヒドリン
容器等級
海洋汚染物質 該当
大気汚染防止法 揮発性有機化合物(VOC) 排気
有害大気汚染物質 排気
環境基本法水質 要監視項目(公共水域) 指針値≦0.0004mg/L
要監視項目(地下水) 指針値≦0.0004mg/L
水質汚濁防止法 指定物質 該当
水道法 要検討項目 目標値≦0.0004mg/L(暫定)
海洋汚染防止法 有害液体物質 Y類
海洋汚染物質 個品運送P
危険物引火性物質 (23のイ)
食品衛生法

食品用器具・容器包装ポジティブリスト

 

基ポリマー(樹脂)

(コーティング)

(微量モノマー)

添加剤

17.エポキシポリマーのモノマー等*3
3.エポキシポリマーのモノマー等*3
エピクロロヒドリン
ポリマー添加剤のモノマー*4

( )内の数値は政令番号

*1: 2023年度以降は管理番号(政令番号は1-086)

*2: 皮膚障害、前眼部障害、気道障害または肝障害

*3: エポキシ樹脂等エピクロロヒドリンを原料成分とする使用可能な樹脂/コーティング材それぞれに対し食品及び使用条件が定められている。

*4: エピクロロヒドリンを原料の成分とするポリマーが添加剤として適用可能な樹脂とその使用制限が定められている。

 


6. 曝露などの可能性と対策

6.1 曝露可能性等

引火性があるので31 ℃以上では蒸気/ 空気の爆発性混合気体を生ずることがある。加熱や酸、塩基などと接触して重合して発熱する。DMSOとの共存で危険性が増すという報告がある。

(安藤, 産業安全研究所報告NIIS-RR-95-7(1996)

https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/rr/RR-95-7.pdf)

アミンや有機酸、フェノールなどとの接触で激しく反応して火災や爆発の危険を生じる。

人体への曝露は蒸気やミスト、飛沫の吸入、皮膚や眼への付着、吸収による。反応性がある物質なので、通常は閉鎖系で取扱い条件も制御されているので取扱者への曝露のおそれはそれほど高くはないと考えられる。それでも計量・調合・投入・サンプリング・移し替えなどの作業時に曝露するおそれがある。室温でも蒸気濃度は急速に許容濃度を超える。許容濃度を超えても臭気として感じにくい。蒸気は空気より重いので、低いところに滞留して、吸入するおそれがある。一般消費者が曝露するおそれは小さい。通常の条件で取り扱われていれば環境中への排出も少ない。

 

6.2 曝露防止等

設備の密閉化、遠隔操作で取り扱う。取扱い場所の換気及び曝露のおそれがある作業では蒸気発生場所で局所排気を行う。特に高温で取り扱う場合は過昇温防止装置や安全弁などが正常に作動していることを確認する。取扱いや保管場所近くでは、酸化剤など接触すると危険な反応が起きる物質を取り扱ったり保管したりしない。機器類は防爆構造とし、設備は静電気対策を実施する。蒸気は空気より重いことに注意して換気・排気装置を設置する。取扱い場所付近で濃度基準値を超えてはならないが、さらに作業環境許容濃度としてはACGIHのTLV-TWA:0.1ppmがあるのでこれを下回るよう管理する。漏洩などの事故時や換気が不十分な場合、有機ガス用の吸収缶を用いた防毒マスクや送気マスク、空気呼吸器等を使用する。防毒マスクは少量曝露、短時間の使用に限られる。吸収缶には限界(破過時間)があり、日常の管理も重要である。保護衣、保護手袋は不浸透性を確認して使用する。ニトリルゴムや塩ビ製保護具は不適でネオプレン製が推奨される。取扱い時の作業位置や姿勢でも個人曝露量は異なる。曝露のおそれがある作業の時間を短くする。

 

6.3 廃棄処理

都道府県知事などの許可を得た産業廃棄物処理業者に危険性、有害性を告知の上処理を委託する。毒物劇物取締法の廃棄方法に関する基準がある。

(1)燃焼法:そのまま又は可燃性溶剤とともにアフターバーナー及びスクラバーを備えた焼却炉で焼却する。分子中に塩素を含むので、有機塩素化合物が焼却できる焼却炉で、1,100 ℃以上の燃焼温度で焼却する。燃焼ガスに含まれる塩化水素等の回収・中和処理が必要である。スクラバー洗浄液はアルカリ液を用いる。

(2)活性汚泥法: 水生生物に有害であるが、低濃度であれば可能である。大量の水で希釈し、アルカリ水で中和した後活性汚泥処理で処理する。

 

免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。