第9回 ホルムアルデヒド
誌面掲載:2018年4月号 情報更新:2023年4月
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1. 名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)
1.1 化学物質名/ 別名
ホルムアルデヒドはアルデヒド(化学構造としてはR-CHO、R はアルキル基等)という一連の物質の一種である。ホルムアルデヒドはR が水素(H)の最も小さなアルデヒド(HCHO)で、メタン(CH4)の2 個の水素が酸素1個に置き換わった構造をしている。IUPAC の系統的命名法ではメタン(Methane)のアルデヒドということで、メタンにアルデヒドの…アール(…al)という接尾語をつけたメタナール(Methanal)である。-CH2–をメチレン(Methylene)というので、「酸化メチレン」(Methylene oxide)とも呼ばれる。一方この物質は「ホルマリン」(Formalin)という名称でよく知られている。元々は消毒薬の商標だったものが一般名化したもので、ホルムアルデヒドの水溶液である。消毒剤や防腐剤として現在もよく使われている。ホルムアルデヒドは互いに結合(重合)しやすく、3 個で環状になったトリオキサン[(CH2O)3 ]や水溶液中で多量体化(重合)してパラホルムアルデヒド[HO(CH2O)n -H]が生ずる。上記ホルマリンにはこの重合反応を防止するため少量(~ 10 %)のメタノールが添加されている。
図表1 ホルムアルデヒドの特定
名称 | ホルムアルデヒド Formaldehyde |
IUPAC名 | メタナール Methanal |
別名 | 酸化メチレン Methylene oxide、
オキシメチレン Oxymethylene (ホルマリン Formalin) |
略称 | FA |
化学式 | CH2O, HCHO, H2C=O |
CAS No. | 50-00-0 |
化審法 | 2-482 |
安衛法 | (2-482), 2-(8)-379 |
EC No. | 200-001-8 |
REACH | 01-2119488953-20-xxxx |
*: xxxxは登録者番号
1.2 CAS No.、化審法(安衛法)官報公示整理番号、その他の番号
CAS No. は50-00-0 で、化審法官報公示整理番号は2-482 である。化審法の「2-…」は第2 類で「有機鎖状低分子化合物」という分類を示している。安衛法は既存物質として化審法番号で公表されているが、安衛法の官報公示整理番号としては「メタナール」という名称で届け出られた2-(8)-379がある。安衛法番号の「2-(8)–」も化学構造に基づく分類で、「脂肪族のアルコール、アルデヒド、ケトン等」であることを示している。EU のEC 番号は200-001-8 である。REACH 登録番号は01-2119488953-20-xxxx(xxxxは登録者番号)である。
1.3 国連番号(UN No.)
ホルムアルデヒドは可燃性の気体であるが、気体では輸送されないので国連番号はない。しかし、通常溶液で輸送されるため、溶液として国連番号がある。濃度が高くて国連分類3 の「引火性液体」(引火点≦ 60 ℃)に該当する場合は、国連番号1198 であり、副次危険性8(腐食性物質)が付いている。品名は「ホルムアルデヒド溶液、引火性のもの」で、容器等級はⅢである。また引火性液体には該当しない場合でも濃度が25 % 以上の場合は国連分類 8(腐食性物質)として国連番号は2209 で、品名「ホルムアルデヒド溶液、濃度が25 質量%以上のもの」、容器等級Ⅲである。また、ホルムアルデヒドの重合体である「パラホルムアルデヒド」にもこの品名で2213 という国連番号がある。国連分類は4.1(可燃性固体)で容器等級はⅢである。
2. 特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)
2.1 物理化学的性質(図表2)
ホルムアルデヒドは無色の気体である。分子量が約30 で空気の平均分子量(約28.96)より少し大きく、空気より少し重い。可燃性の気体で爆発範囲が広い。水によく溶け、水溶液として使われることが多い。水溶液といっても多くの場合約10 % のメタノールを含んでいる。水溶液でも引火性があり、約40 % で引火点が60 ℃ になるようである。濃度37 % では引火点は60 ℃を超えている。n- オクタノール/ 水分配係数(logPow)は0.35 と小さく生物濃縮性はないと考えられる。
図表2 ホルムアルデヒドの主な物理化学的性質(ICSCによる)
物理化学的性質 | ホルムアルデヒド | ホルムアルデヒド37%
(水溶液、メタノールなし) |
融点(℃) | -92 | – |
沸点(℃) | -20 | 98 |
引火点(℃) | – | 83 (c.c.) |
発火点(℃) | 430 | – |
爆発限界(vol %) | 7~73 | – |
蒸気密度(空気=1) | 1.08 | 1.03 |
比重(水=1.0) | 0.8 | 0.8 |
水への溶解度(g/100ml) | 非常によく溶ける | 混和(miscible) |
n-オクタノール/水分配係数(log Pow) | 0.35 | – |
2.2 危険・有害性
ホルムアルデヒドは有機物の燃焼/ 分解や代謝の過程でも生成し、極微量には天然にも存在する。しかしホルムアルデヒドは蛋白質と結合して固化するので、有害である。ホルムアルデヒド(気体: ガス)のNITE によるGHS分類と、37 % 水溶液でメタノールを約10 %添加した混合物としてのGHS分類を見積もったものを図表3 に示す。併せてパラホルムアルデヒドのNITEの分類を載せている。ホルムアルデヒド自体は可燃性の気体で、爆発下限が7 % なのでGHS分類では「可燃性/ 引火性ガス」の区分1 に該当する。眼や鼻、呼吸器などに刺激性がある。呼吸器、皮膚とも感作性がある。日本産業衛生学会が感作性のある物質として挙げている。シックハウス症候群の原因物質の一つである。シックハウス症候群とは、室内空気汚染による居住者の皮膚や粘膜の刺激症状や不定愁訴などで、気密性の高い新/ 改築住宅で1990 年代に問題化した。原因物質は建材や家具に使われた接着剤や塗料中の有機溶剤、木材の防腐剤等とされる。自動車でも同様の症状が見られ、シックカーと呼ばれた。変異原性は陰性データもあるが、直接接触する部位で陽性になる。
発がん性について各評価機関の評価を図表4に示す。IARCはGroup 1 (ヒトで発がん性あり)、日本産業衛生学会は2A (ヒトにおそらく発がん性あり)に分類している。長期間吸入すると鼻腔や咽頭がんを引き起こすおそれがある。生殖毒性についてはホルムアルデヒドには十分なデータがなく分類できない。一般に流通している水溶液には、NITE が区分1Bに分類しているメタノールが添加されている。このため、GHSの混合物の分類ルールに従えばこの水溶液も同じ区分1B になる。吸入すると呼吸器への刺激のほか、筋肉の麻痺などの影響もある。水溶液の場合メタノールにより視覚器に影響するおそれがある。長期的な曝露でも同様に呼吸器や中枢神経系への影響及びメタノールによる視覚器への影響が推定される。水生生物に対して有害性がある。生分解性があり、生物濃縮性はないので長期的な影響は小さいと考えられるが、NITEは甲殻類のデータからGHS区分3としている。
図表3 ホルムアルデヒド のGHS分類(NITE による)
GHS分類 | ホルムアルデヒド
(ガス) |
ホルムアルデヒド*
(37%水溶液、メタノール入り) |
(パラホルムアルデヒド) |
物理化学的危険性 | |||
可燃性/引火性ガス
(化学的不安定ガス) |
1 | 対象外 | 対象外 |
支燃性/酸化性ガス | – | 対象外 | 対象外 |
高圧ガス | 液化ガス | 対象外 | 対象外 |
引火性液体 | 対象外 | 4 | 対象外 |
可燃性固体 | 対象外 | 対象外 | 2 |
金属腐食性 | – | – | – |
健康有害性 | |||
急性毒性(経口) | 4 | 4 | 4 |
急性毒性(経皮) | 3 | 3 | – |
急性毒性(吸入:ガス/蒸気) | 2 | 3 | 4(粉塵) |
皮膚腐食/刺激性 | 2 | 2 | 2 |
眼損傷/刺激性 | 2 | 2 | 2A |
呼吸器感作性 | 1 | 1 | – |
皮膚感作性 | 1 | 1 | – |
生殖細胞変異原性 | 2 | 2 | – |
発がん性 | 1A | 1A | – |
生殖毒性 | – | 1B | – |
特定標的臓器(単回) | 1(神経系、呼吸器) | 1(神経系、呼吸器、視覚器、全身毒性) | 1(呼吸器) |
特定標的臓器(反復) | 1(呼吸器、中枢神経系) | 1(呼吸器、中枢神経系、視覚器) | – |
誤えん有害性 | – | – | – |
環境有害性 | |||
水生環境有害性(短期・急性) | 2 | 2 | 3 |
水生環境有害性(長期・慢性) | 3 | 3 | 3 |
*:ホルムアルデヒド/メタノール/水≒37/10/53として、ホルムアルデヒド、メタノールのNITEによるGHS分類からの推定
図表4 ホルムアルデヒドの発がん性評価
分類機関 | 分類 |
IARC | Group 1 |
日本産業衛生学会 | 第2群A |
ACGIH | A1 |
NTP | K |
EU(CLP:GHS分類)) | 1B |
EPA | B1 |
IARC: Group 1: Carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性を示す)
日本産業衛生学会: 第2群A: ヒトに対しておそらく発がん性があると判断できる物質
ACGIH A1: Confirmed Human Carcinogen(ヒトへの発がん性が確認された物質)
NTP K: Known to be Human Carcinogens (ヒト発がん性があることが知られている物質)
EPA: B1: Probable human carcinogen – limited evidence in humans and sufficient in animals (おそらくヒト発がん性物質、ヒトでの限定的証拠及び動物での十分な証拠による)
3. 主な用途
ホルムアルデヒドを重合して製造されるポリアセタール樹脂はポリオキシメチレン:Polyoxymethylene(POM)ともいう。パラホルムアルデヒドと同様の構造–(CH2O)n- であるが、このままでは末端から容易に分解してしまうので、安定な末端に変えたものである。「アセタール」はアルデヒド(R-CHO)に水(H2O)が結合したHO-CHR-OHの構造を持つものを指す。ホルムアルデヒドの場合Rが水素(H)である。この樹脂は強度や耐摩耗性が高いので歯車(ギア)、ベアリング、ガスケット等機器の部品、電子機器のパーツ等として使われる。フェノール(Phenol:C6H5OH)やメラミン[Melamine:C3N3 (NH2)3 ]、尿素(Urea:H2NCONH2)などと反応し3 次元網目構造の固体になり、それぞれフェノール樹脂(世界で最初の合成樹脂)、メラミン樹脂、尿素(ユリア)樹脂として使われる。熱硬化性で耐熱性が高い。フェノール樹脂は機械や車の部品、木材加工の接着剤、メラミン樹脂は化粧板(建材や家具)、食器、耐水塗料、尿素樹脂は合板の接着剤、紙や繊維の加工剤などに使われている。衣料品の防皺などの加工にホルムアルデヒドやホルムアルデヒドを用いた樹脂が使われる。このほかウレタン樹脂原料物質や他の化学製品の原料に使われている。ポリビニルアルコールと反応させて得られた「ビニロン」はナイロンに次ぐ世界で2 番目の合成繊維で、日本で発明・工業化された。合成繊維には珍しく親水性/ 吸湿性で、綿に近いが衣料品にはあまり使われていない。アルカリにも強いのでコンクリートの補強材や漁網、ロープの他アルカリ電池のセパレータに使われている。
ホルムアルデヒドは蛋白質を固定化する性質があり、生物標本の腐敗防止、固定化に利用される。水溶液で消毒薬や防腐剤としても使われる。ガス状で燻蒸に使われる。重合体で固体のパラホルムアルデヒドも燻蒸剤、防腐剤のほかホルムアルデヒドの代替物質として使われる。
4. 事故などの例
・ トリオキサン製造所で、冷却器の故障により反応器が破裂し、ホルムアルデヒドガスが漏洩した。付近の住民が咽頭炎、眼痛などの軽傷を負った。他2 件の漏洩事故例がWebkis-plus(国立環境研究所化学物質データベース)に挙げられている。(http://www.nies.go.jp/kis-plus/Ed_top2.php?cas_id=50-00-0&cas=50-00-0)
厚生労働省職場のあんぜんサイトに以下の2 例が紹介されている。
・ ホルムアルデヒドによる部屋の燻蒸後、燻蒸エリア内の換気が不十分なのに、漏洩防止の目張りをはがして、ホルムアルデヒドが拡散して被曝した。医師の診察を受けた者19 名、休業者2 名だった。(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101320)
・ 木材加工場で木材の接着剤の吹付装置の不具合の調整を行った。最終的に下肢が痺れて立てなくなった。接着剤の硬化剤に含まれていたホルムアルデヒドの吸入による中毒と考えられた。作業場は広い空間があったが全体換気はされておらず、防毒マスクも着用していなかった。安全衛生に関する認識/ 教育が不十分だった。(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=100766)
その他、2012 年利根川水系の浄水でホルムアルデヒドが水質基準(0.08 mg/L)を超えて検出され、浄水場で取水/ 給水を停止するという事件があった。原因物質はホルムアルデヒド自体ではなくヘキサメチレンテトラミン(HMT)であった。HMTを産業廃棄物処理業者に委託処理をしたときHMTの情報が不十分だったため、多量のHMTを含む排水が河川に流出し、利根川水系を通じて浄水場に到達した。浄水場で塩素と反応してホルムアルデヒドが生成し、浄水中に混入した。(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kentoukai/dl/s_sankou01.pdf)
5. 主な法規制(図表5)
化学物質審査規制(化審)法で優先評価化学物質なので、年間1 t 以上製造/ 輸入した場合は翌年度経済産業大臣にその数量などの届出が必要である。化学物質管理促進法で第1 種指定化学物質なので、PRTR の報告(環境中への放出量など)及びSDS の提供が必要である。労働安全衛生法で特定化学物質第2 類の特定第2 類物質、特別管理物質に指定されている。特定化学物質作業主任者をおき、製造/ 取扱い設備は密封するか、局所排気又はプッシュプル型換気下で取扱う。作業環境の測定、健康診断を実施し、測定結果、作業記録、健康診断の記録は30 年間保存する。作業環境評価基準の管理濃度は0.1 ppmである。日本産業衛生学会の許容濃度は1 日8 時間の平均値で0.1 ppm(0.12 mg/m3)以下、常時0.2 ppm(0.24 mg/m3)以下(最大許容濃度)に設定されている。ACGIH(AmericanConference of Governmental Industrial Hygienists, Inc.:米国産業衛生専門家会議)のTLV(Threshold LimitValue: 許容濃度)はTWA(Time-Weighted Average; 1日8時間、週40 時間の時間荷重平均濃度) 0.1ppm、STEL(Short-Term Exposure Limit;超えてはならない15 分間TWA) 0.3 ppmとしている。表示/ 通知対象物で、容器にラベルを貼付し、SDS の発行の義務がある。労働基準法で「疾病化学物質」に指定されており、業務上の取扱いで皮膚、眼、気道・肺に障害を生じた場合は療養、休業、障害補償等を行わなければならない。毒劇物取締法では1 % を超えて含有すれば「劇物」であり、製造/ 輸入/ 販売などには登録が必要である。このため消防法で貯蔵の際は届出が必要である。シックハウスに関連して建築基準法で建物の内装などへの使用の制限がある。JIS(日本工業規格: 化粧板、ボード、塗料、接着剤など)及びJAS(日本農林規格: 合板、集成材など)でホルムアルデヒド発散速度に従ってF☆☆☆☆~F☆☆の表示がある。内装材に対し表示がない (ホルムアルデヒド発散速度が120µg/m2hを超える)場合は使用禁止、F☆☆, F☆☆☆は使用制限、F☆☆☆☆(ホルムアルデヒド発散速度が5µg/m2h以下)は制限なしに使える。多くの人が利用する建物に対しては建築物衛生法で建築物環境衛生管理基準: ホルムアルデヒド濃度が0.1 mg/m3(0.08 ppm)が定められている。大気汚染防止法の有害大気汚染物質(248 物質)の中で優先取組物質(23 物質)に挙げられ、さらに自主管理対象物に指定されて事業者に対し排出抑制が求められている。ホルムアルデヒドは揮発性有機化合物(VOC)でもある。水質汚濁防止法の指定化学物質で事故時の届け出義務がある。水質環境基準の要監視項目(水生生物保全)として淡水域で1 mg/L 以下、海水域で0.3(産卵、稚魚水域:0.03)mg/Lが設定されている。水道法の水質基準があり、0.08 mg/L 以下に設定されている。食品衛生法でフェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素(ユリア)樹脂及びホルムアルデヒドを原料とした樹脂を食品容器や包装に用いた場合、水60℃(又は95℃)30分間の溶出試験で4mg/L以下の規格がある。ゴム製品や金属缶でも同様の規格がある。合成樹脂製食品用器具・容器包装に関するポジティブリスト(使用可能物質)に、エポキシポリマー、架橋ポリエステル、合成吸着剤及びイオン交換ポリマー等の原料、添加剤の原料として記載がある。(一部に接触する食品や使用温度、含有量に制限がある。) 合成樹脂中のホルムアルデヒドとしての含有量は1%以下の制限がある。食品中の濃度規制はないが、防腐剤などとしてホルムアルデヒドの使用が認められているわけではない。繊維製品の加工にも用いられることから、有害家庭用品規制法で、乳幼児用繊維製品では16 μg/g 以下、子供、大人用でも肌着、寝具、手袋など肌に接触する製品で75 μg/g 以下に規制されている。そのほか肌に接触する機会の少ない上着やインテリア製品(カーテン、カーペットなど)でもエコマーク(日本環境協会:https://www.ecomark.jp/nintei/)やエコテックス規格100(ニッセンケン:http://nissenken.or.jp/service/oeko.html)では300 mg/kg(=300 μg/g)を認証基準としている。薬機法化粧品基準で、ホルムアルデヒドは化粧品配合禁止成分に挙げられている。しかし配合制限成分の中に、ホルムアルデヒドが生成する防腐剤が含まれている。粘膜には使用せず、洗い流すもの(石鹸など)に対し100 g 中0.3 g 以下での使用が許可されているが、注意表示(過敏な人や乳幼児への使用回避)の義務がある。
図表5 ホルムアルデヒド に関係する法規制
法律名 | 法区分 | 条件など |
化学物質審査規制法 | 優先評価化学物質(25) | – |
化学物質管理促進法 | 第1種指定化学物質 (411*1) | ≧0.1% |
労働安全衛生法 | 特定化学物質第2類、特定第2類物質、
特別管理物質(31の2) |
>1% |
名称等表示/通知(548) | ≧0.1% | |
危険物・引火性の物(4の4) | 30℃≦引火点<65℃ | |
作業環境評価基準 管理濃度 | 0.1ppm | |
作業環境許容濃度 | ACGIH TLV | TWA 0.1ppm(0.12mg/m3) STEL 0.3ppm(0.37mg/m3) |
日本産業衛生学会 | 0.1ppm(0.12mg/m3)
最大: 0.2ppm(0.24mg/m3) |
|
労働基準法 | 疾病化学物質 | 皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害 |
毒物劇物取締法 | 劇物 | 原体、>1% |
消防法 | 貯蔵等の届出 | 原体、>1% |
大気汚染防止法 | 有害大気汚染物質、優先取組物質 | (排気) |
揮発性有機化合物(VOC) | (排気) | |
特定物質(5) | (排気) | |
環境基本法:水質 | 要監視項目(水生生物) | 淡水≦1ppm, 海水≦0.3、(≦0.03*2) |
水質汚濁防止法 | 指定物質 | – |
水道法 | 有害物質(水質基準) | ≦0.08mg/L |
海洋汚染防止法 | 有害液体物質(Y類) | ≦45% |
建築基準法 | 建築材料への使用規制 | 発散速度による |
有害家庭用品規制法 | 繊維製品(24か月以内の乳幼児用) | ≦16ppm |
繊維製品(下着、寝衣、手袋、靴下等)、かつら、つけまつげ、靴下止め等の接着剤 | ≦75ppm |
( )内の数値は政令番号
*1: 2023年度からは411は管理番号(政令番号は464)になる。
*2: 海生生物の生息域: 0.3ppm、海生生物の産卵場(繁殖場)又は幼稚仔生息場等: 0.03ppm
6. 曝露などの可能性と対策
6.1 曝露可能性
水溶液で使用する場合、ホルムアルデヒドガスやミストを吸入するおそれがある。濃度が高いと引火のおそれもある(添加されているメタノールにも引火性がある)。燻蒸作業のようにガス状で使用する場合は、漏洩したり排気が不十分だったりすると周辺の人にも影響するおそれがある。メラミン樹脂などホルムアルデヒドを原料とする樹脂の場合、残存ホルムアルデヒドや分解による再生ホルムアルデヒドが極微量発散する。これらの樹脂を用いた製品(建材、壁紙、自動車など)を密閉した空間で使用した場合、発散したホルムアルデヒド濃度が有害な濃度に達するおそれがある。繊維製品や革製品に使われると皮膚への接触がある。皮膚からの吸収は少ないと言われているが、特に長時間肌に接触する製品や、口の中に入れる乳幼児用製品の場合は、皮膚など接触部分への影響(皮膚刺激やアレルギーなど)が懸念される。天然にも存在し、有機物の燃焼(自動車、暖房、調理など)、腐食によっても発生する。大気、飲料水、食品から極わずかには摂取しているが、現状では濃度が低いので健康に影響するものではないと考えられる。一般社会でのホルムアルデヒドによるリスクについては産業技術総合研究所が詳しく検討している(https://unit.aist.go.jp/riss/crm/mainmenu/zantei_0.4/formaldehyde_0.4.pdf)。
パラホルムアルデヒドやトリオキサンの取扱いにおいても条件によりホルムアルデヒドを生成する。また事故例のようにヘキサメチレンテトラミンも加水分解してホルムアルデヒドが生成する。
6.2 曝露防止
パラホルムアルデヒドは固体なので、粉塵にならなければ、体内に入るリスクは小さい。ホルムアルデヒドに変換することができるので、ホルムアルデヒドの代わりになる場合がある。燻蒸作業は漏洩のないよう注意するだけでなく、燻蒸作業終了後は十分内部の残存濃度の確認が必要である。ホルムアルデヒドを原料とする熱硬化性樹脂は、原料は直接ホルムアルデヒドを取扱わなくて済むよう予めホルムアルデヒドを付加した低分子量物の形で利用されている。しかし、熱硬化の際にはホルムアルデヒドが発散するので、密閉化又は排気の必要がある。建材や繊維製品等の使用に関しては国内では法規制があり、脱ホルムアルデヒド化も進んでいるが、用途外の使用や輸入品などでは曝露防止に注意が必要である。
6.3 廃棄処理
ホルムアルデヒドは毒劇物取締法の劇物で、廃棄時には無毒化が義務付けられている。無毒化の方法として、(1)酸化法、(2)燃焼法、(3)活性汚泥法がある。
(1) 酸化法: 酸化時に発熱があるので水溶液は2 % 以下に希釈して次亜塩素酸塩水溶液を加えて分解する。又は、アルカリ性で過酸化水素を加えて分解することもできる。分解した後は水で十分希釈して廃棄する。
(2) 燃焼法: アフターバーナー及びスクラバーを備えた焼却炉の火室に噴霧して焼却する。ホルムアルデヒドを原料とする樹脂などの廃棄も主に燃焼による。
(3) 活性汚泥法: 生分解性があるが、微生物に対する毒性も強いので、十分希釈する必要がある。
又は、都道府県知事などの許可を受けた産業廃棄物処理業者に委託して処理する。委託の際、処理業者にホルムアルデヒドに関する危険・有害性情報を提供する。事故例にあった利根川での事故は、廃棄物がホルムアルデヒドそのものでなかったために告知が不十分だったことによる。廃棄物処理業者での処理方法を知ったうえで、必要な情報を提供しておく必要がある。
免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。