第14 回 ヘキサクロロベンゼン
誌面掲載:2018年9月号 情報更新:2023年6月
免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。
1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表 1)
1.1 化学物質名/ 別名
ヘキサクロロベンゼン(Hexachlorobenzene)はベンゼン(Benzene; C6 H6)の6 個の水素(H)を塩素(Cl; Chlorine)に置き換えたものである。ヘキサ(hexa)は6 の接頭辞である。パークロロベンゼン又はペルクロロベンゼン(Perchlorobenzene)ともいう。パー/ ペル(per)は「完全に」などという意味で、ベンゼンの水素がすべて塩素などに置き換わっていることを示している。六塩化ベンゼンともいう。一般には略称のHCBがよく使われる。化学式はC6Cl6 である。混同しやすい物質にベンゼンヘキサクロリド(Benzene hexachloride)がある。一般にはBHC という名称で知られた物質である。名称からベンゼンに6 個の塩素が結合しているようで紛らわしいが、こちらは塩素が水素に置き換わったのではなく、付加したものである。化学式はC6H6Cl6 である。この名称はIUPAC命名法に従っているとはいえず、本来はヘキサクロロシクロヘキサン(Hexachlorocyclohexane; HCH)と呼ぶべき物質である。正確には塩素が各炭素に1 個ずつ結合していることを示すためには1,2,3,4,5,6- ヘキサクロロシクロヘキサン(1,2,3,4,5,6-hexachlorocyclohexane)と呼ぶ必要がある。両者は用途や性質も似ている。分子の形状は少し異なっている。ベンゼンは炭素6 個で正6 角形の平面構造をしていて水素もその平面内にある。HCBも同様に平面の正6 角形構造をしている。BHC は炭素6 個で環状になっているが各炭素に水素と塩素が結合しているために炭素で作る6 角形は平面状ではない。HCBは1 種類しかないが、BHCは各炭素に1 個ずつ塩素が結合している場合でも水素と塩素の相対的な位置の違いで9 種類の異性体がある。生物に対する影響の大きさはその塩素と水素の相対位置関係によって異なっている。当初は異性体を分離することなく使われていたが、殺虫剤として効果的なのはγ-BHCで、リンデン(又はリンダン:Lindane)という固有の名称を持つ。他の異性体は殺虫力が弱く、β-BHCは殺虫力がないのに毒性が高い。
図表1 ヘキサクロロベンゼンの特定
名称 | ヘキサクロロベンゼン
Hexachlorobenzene |
ベンゼンヘキサクロリド
Benzene hexachloride |
IUPAC名 | 同上 | 1,2,3,4,5,6- ヘキサクロロシクロヘキサン
1,2,3,4,5,6-hexachlorocyclohexane |
別名 | パークロロベンゼン
ペルクロロベンゼン Perchlorobenzene ヘキサクロルベンゼン 六塩化ベンゼン |
ヘキサクロロシクロヘキサン
Hexachlorocyclohexane (リンデン、リンダン、Lindane) (γ-1,2,3,4,5,6- ヘキサクロロシクロヘキサン)(γ-1,2,3,4,5,6-hexachlorocyclohexane) |
略称 | HCB | ヘキサクロロシクロヘキサン
BHC, HCH(γ-BHC, γ-HCH) |
化学式 | C6Cl6 | C6H6Cl6 |
CAS No. | 118-74-1 | 608-73-1,(58-89-9) |
化学物質審査規制法(化審法)
労働安全衛生法(安衛法) |
3-76 | 3-2250, 9-1652 |
EC No. | 204-273-9 | 210-168-9(200-401-2) |
1.2 CAS No.、化学物質審査規制法(化審法)及び労働安全衛生法(安衛法)官報公示整理番号
HCB のCAS No. は118-74-1 である。化審法ではヘキサクロロベンゼンという名称での官報公示整理番号はない。化審法番号3-76 は「ポリ(4 ~ 6)クロロベンゼン」という名称で、ベンゼンの4 個~ 6 個の水素が塩素に置き換わった物質すべてを含むので、HCB も含まれる。安衛法も既存物質とし化審法番号で公表されていることになる。EU のEC No.204-273-9 である。REACH 以前は既存化学物質としてEINECS 番号があるが、REACH登録番号はない。BHCは異性体を含む混合物としてCAS No.608-73-1, EC No. 210-168-9 であるが、各異性体にもそれぞれ番号がある。例えばリンデン(γ-BHC)はCAS No. 58-89-9, EC No. 200-401-2 である。化審法ではこれらの異性体の区別はないが3-2250(ベンゼンヘキサクロライド)と9-1652(1,2,3,4,5,6- ヘキサクロロシクロヘキサン)の2 つの番号がある。3- は炭素のみで構成する環1 個を持つ低分子化合物のグループで、9- は医薬などの化合物として別々に届け出られたためかと思われる。
2.特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)
2.1 物理化学的性質(図表2)
HCB は無色又は白色の固体で、融点は231 ℃である。可燃性で、242 ℃という引火点もある。水には溶けない。軽い水素が重い塩素に置き換わっているので、比重/ 密度が大きい。ICSC では密度が1.21 g/cm3 とあるが、比重1.5691(24 ℃)、2.044(23 ℃)という情報もある。沸点が323 ~ 326 ℃と高く蒸気圧は低い。蒸気は空気の約9.8 倍と重い。
BHC も白色から茶色の結晶性固体である。不燃性で、水には溶けない。
図表2 ヘキサクロロベンゼンの主な物理化学的性質(ICSCによる)
物理化学的性質 | HCB | γ-BHC*1 |
融点(℃) | 231 | 113 |
沸点(℃) | 323-326 | 323 |
水への溶解度(mg/L) | 0.005(20℃) | 0.007(20℃) |
引火点(℃)(c.c.) | 242 | – |
相対蒸気密度(空気=1) | 9.8 | – |
密度(g/cm3) | 1.21, 2.044*2, 1.5691*3 | 1.9 |
n- オクタノール/ 水分配係数(log Pow) | 5.5/6.2 | 3.61-3.72 |
*1: BHC は異性体によって異なる
*2: 職場のあんぜんサイトモデルSDS
*3: 環境省化学物質環境リスク初期評価
2.2 有害性
GHS 分類例は図表3 に示す。一般に急性的な影響は大きくはない。半数致死量(LD50, LC50)、皮膚や眼の刺激性、感作性、標的臓器毒性(単回)はいずれも毒性が強いというほどのものではない。固体で、水に溶けず、常温では反応性に乏しく、体内で代謝されないことなどによると考えられる。しかし、長期的にはヒトの経口摂取で肝障害、皮膚ポルフィリン症、関節炎、甲状腺肥大、神経症状などが認められ、ラットの経口投与試験では腎臓、副腎皮質への影響が認められている。ラットの経口投与生殖毒性試験で仔動物に出生後の死亡率増加が認められている。ヒトでも曝露した母親の母乳を飲んだ新生児に高い死亡率が認められている。発がん性については動物試験から発がん性有と考えられるが、ヒトでのデータは不十分ということでIARC はグループ2B、ACGIH はA3 に分類し、NITE はGHS区分2 としている。EUのCLP はヒトでの発がん性の可能性が高いとしてGHS Category 1Bとし、EPA もB2(GHS分類の1B 相当)としている。日本産業衛生学会は評価していない。
BHC はHCB と似ているが、急性的な影響は少し大きいようである。
2.3 環境有害性
HCB に生分解性はない。BOD(Biochemical oxygen demand: 生物化学的酸素消費量)による分解度は0 % である。生体蓄積性に関してn- オクタノール/ 水分配係数log Pow は5.5 や6.2 というデータがあり、GHSで生物濃縮性が高いとされる4 より大きい。魚による生物濃縮係数(Bioconcentration Factor: BCF) ≒ 30,000 というデータもある。水生生物に対する強い有害性がある。藻類の生長阻害半数影響濃度(EC50)が0.03 mg/LというデータよりGHS 区分1 としている。このEC50の値は区分1 でも有害性が高いので混合物の場合、10 倍の重みづけで評価される(毒性乗率M=10)と考えられる。長期も同様にM=10 に相当するデータがある。環境中に放出されると長期間にわたって影響し、食物連鎖により高次捕食者(猛禽類/ 肉食動物/ 人など)に濃縮されて影響を及ぼすと考えられる。
BHC のlog Pow は3.61 ~ 3.72 と4 よりは小さいが化審法で生物濃縮性があるとする3.5 よりは大きい。生分解性はなく、水生生物に対する有害性は大きい。甲殻類の96 時間の半数致死濃度LC50=0.34 μg/L というデータから区分1 で毒性乗率M=1,000 と考えられる。γ-BHCでは長期もM=100 となるデータがある。
図表3 ヘキサクロロベンゼンのGHS分類(NITE による)
GHS分類 | ヘキサクロロベンゼン | 1,2,3,4,5,6- ヘキサクロロシクロヘキサン | |
γ-BHC | |||
物理化学的危険性
可燃性固体 自然発火性固体 金属腐食性 |
分類できない – 分類できない |
区分外 区分外 分類できない |
区分外 区分外 分類できない |
健康有害性
急性毒性(経口) 急性毒性(経皮) 急性毒性(吸入: 粉塵) 皮膚腐食/ 刺激性 眼損傷/ 刺激性 皮膚感作性 生殖細胞変異原性 発がん性 生殖毒性 追加区分 特定標的臓器(単回) 特定標的臓器(反復)
誤えん有害性 |
5 分類できない 4 分類できない 分類できない 分類できない 分類できない 2 1B 授乳影響 分類できない 1(肝臓、皮膚、骨、甲状腺、神経系、腎臓、内分泌系)、2(免疫系) 分類できない |
3 3 3 分類できない 分類できない 分類できない 区分外 2 2 – 1(神経系)、3(気道刺激性) 1(中枢神経系)、2(肝臓、腎臓)
分類できない |
3 3 4 区分外 2B 区分外 分類できない 1A 1B – 1(神経系)
1(神経系、血液系)
分類できない |
環境有害性
水生環境有害性(短期・急性) 水生環境有害性(長期・慢性) |
1 1 |
1(M=1000) 1 |
1(M=1000) 1(M=100) |
図表4 ヘキサクロロベンゼンの発がん性評価
分類機関 | 分類 |
IARC | Group 2B |
日本産業衛生学会 | 第2群A |
ACGIH | A3 |
NTP | RAHC |
EU(CLP:GHS分類) | 1B |
EPA | B2 |
IARC: Group 2B: Possibly carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性を示す可能性がある)
日本産業衛生学会: 第2群A: ヒトに対しておそらく発がん性があると判断できる物質
ACGIH A3: Confirmed Animal Carcinogen with Unknown Relevance to Humans(動物実験で発がん性が認められた物質)
NTP RAHC: Reasonably Anticipated to be Human Carcinogens (ヒト発がん性があると合理的に予測される物質)
EPA: B2: Probable human carcinogen – sufficient evidence in animals (おそらくヒト発がん性物質、動物での十分な証拠による)
3.主な用途
以前は穀物(小麦など)の殺菌剤、防かび剤、合成中間体として使われていたが、現在は禁止されている。また、ペンタクロロフェノール(PCP: 除草剤だったがこれも現在は禁止)の原料、ゴムの素練促進剤、衣類の防炎加工剤、ポリ塩化ビニルの可塑剤等としても使用されていた。塩素を含む物質の合成や燃焼などの工程で非意図的に生成することがある。
BHCは以前、殺虫剤として広く使われていたが、ヒトへの有害性の他生体蓄積性などのため禁止されている。
4.これまでに起きた事件/事故などの例
・ 1950 年代にトルコで防かびのためにHCB処理していた種用の小麦をパンにして食べ、3,000 ~4,000 人が罹患、数年以内に数百人が死亡した。600 人以上が肝臓異常による皮膚ポルフィリン症と診断された。摂取量は50 ~ 200 mg/day と考えられる。汚染パンを食べた母親の母乳を飲んだ乳児は身体に炎症を起こし、1 年以内に95 %以上が死亡した。その後の追跡調査では発がんなどが増えたという情報はないが、20 ~ 30 年後でも曝露した人の母乳中のHCB濃度は曝露しなかった人より高かった。
(IARC monograph vol. 79; Hexachlorobenzene
http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol79/mono79-18.pdf
Environmental Health Criteria 195; Hexachlorobenzene
http://www.inchem.org/documents/ehc/ehc/ehc195.htm#SubSectionNumber:9.1.1)
・ 事故ではないが、2006 年に染料・顔料の原料物質のテトラクロロ無水フタル酸(Tetra Chloro Phthalic Anhydride: TCPA、CAS No.117-08-8、化審法番号3-1423)中に不純物として0.1 ~ 0.2 % 含有していることが知られた。TCPA の合成時にHCB が副生したものである。化審法第1 種特定化学物質にはこうした場合の許容濃度(閾値)が定められていなかったので、TCPA の製造・輸入・出荷が一時中止された。TCPAを原料とする染料・顔料及びこれを用いた成型材、塗料などにもHCBが含まれ、これらの出荷も一時停止された。主な顔料にソルベントレッド135(CAS No. 20749-68-2、化審法番号:5-3098)がある。化審法所轄官庁である厚生労働省/ 経済産業省/ 環境省は調査確認後、製造業者に「利用可能な最良の技術」(BAT: Best Available Technology/Techniques)により「工業技術的・経済的に可能なレベル」で可能な限り低減することを求めた。現在BAT に基づいてHCB含有量はTCPA 中200 ppm、TCPA 由来顔料及びピグメントグリーン36 で10 ppm という基準値が設けられている。なお、ピグメントエロー138 はTCPA由来であるが、効果的な削減方法が見出されていないので、顔料としてのBAT 基準はなくHCB含量を削減したTCPAを使用することとなっている(図表5)。
(経済産業省:https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/about/class1specified_history.html
環境省:http://www.env.go.jp/chemi/kagaku/oshirase/hcb.html )
図表5 ヘキサクロロベンゼン(HCB)に関係する法規制
法律名 | 法区分 | 条件など |
化学物質審査規制法(化審法) | 第1種特定化学物質(3) | BAT レベル
TCPA: 200 ppm TCPA由来顔料: 10 ppm*1 ピグメントグリーン36: 10 ppm |
ストックホルム条約(POPs) | 附属書A(廃絶)、
C(非意図的生成物) |
|
ロッテルダム条約(PIC) | 附属書Ⅲ(22) | |
輸出貿易管理令 | 別表第二の三十五の三 | ロッテルダム条約附属書Ⅲ |
農薬取締法 | 販売禁止農薬 | |
労働安全衛生法 | 名称等表示/通知対象物(514) | 表示≧ 0.3 %
通知≧ 0.1 % |
労働基準法 | 疾病化学物質 | 前眼部障害、
気道障害又は肝障害 |
作業環境許容濃度 | 日本産業衛生学会 | 設定されていない |
ACGIH TLV | TWA: 0.002 mg/m3( Skin) | |
国連危険物輸送勧告 | 国連分類
国連番号 品名 容器等級 |
6.1
2729 ヘキサクロロベンゼン Ⅲ |
大気汚染防止法 | 有害大気汚染物質(248 物質) | (排気) |
( ) 内の数値は政令番号
*1: ピグメントエロー138 を除く
5.主な法規制(図表5)
Rachel Carson(レイチェル・カーソン)が1962 年(日本:1964 年)発行のSilent spring(和名: 沈黙の春/ 生と死の妙薬)で、当時広く使われていたDDT(Dichloro Diphenyl Trichloroethane)等の有機塩素系殺虫剤/ 除草剤等が直接環境中の生物に被害を及ぼすだけでなく、農作物や環境中に残留し食物連鎖を通じて蓄積されて人や環境に悪影響を及ぼすと警告した。これがきっかけとなって農薬取締法が制定され有機塩素系農薬(DDT, BHC など)は製造、使用禁止となった。HCB は農薬として登録されていなかったが、化学物質審査規制法(化審法)で第1 種特定化学物質に指定され、製造、輸入、使用禁止物質となった。化審法第1種特定化学物質では混合物、不純物も対象になる。微量不純物について、HCBは顔料などに製造時の副生物が非意図的に含まれる場合は上記のようにBAT による基準値が設けられている。化審法は難分解性、高濃縮性の物質は環境や環境を通じて人の健康に影響するおそれのあるためこれを規制する法律である。上記DDTやBHC などのほか難分解性・高濃縮性の有機塩素化合物のPCB(Poly Chlorinated Biphenyl)やダイオキシン(Polychlorinated dibenzo-p-dioxin)も第1 種特定化学物質である。国際的には人や環境への有害性、難分解性、生物濃縮性、長距離移動性のある物質に対しストックホルム(POPs: Persistent Organic Pollutants: 残留性有機汚染物質)条約がある。HCBはその附属書A(廃絶)及びC(非意図的生成物)に挙げられている。POPs で挙げられた物質はすべて化審法の第1 種特定化学物質に指定されている。ロッテルダム(PIC: Prior Informed Consent: 事前通報承認)条約は、化学物質の危険有害性情報の乏しい国へ有害化学物質を輸出する際、事前に情報を提供し輸入意思の確認を求める国際条約であるが、この附属書Ⅲにも「駆除剤」として掲載されている。この条約の義務を果たすため、日本では輸出貿易管理令で輸出承認申請が必要になっている。ロッテルダム条約では附属書Ⅲに挙げた物質の他に先進国が厳しく制限している物質も対象としており、輸出貿易管理令では化審法第1 種特定化学物質の他、毒劇物取締法の特定毒物や労働安全衛生法の製造禁止物質、農薬取締法の販売禁止農薬なども対象となっている。農薬取締法販売禁止農薬とはPOPs や化審法第1 種特定化学物質のほか、毒性や残留性などが確認された場合に指定されている。HCBは日本では農薬として登録されたことはないが世界では殺菌剤などとして使われており、POPs、化審法第1 種特定化学物質のため販売禁止農薬に指定されている。γ-BHCは殺虫剤などとして1949 年に登録されていたが1971 年に失効している。
労働安全衛生法では名称等の表示/ 通知対象物に指定されている。表示の義務は0.3 % 以上、SDS による通知義務は0.1 % 以上である。JIS Z7252:2014 で混合物中にGHSの生殖毒性区分1 の成分を0.3 % 以上含む場合、混合物としても区分1 とし、0.1 % 以上含む場合はSDS で含有情報を提供するということと対応している。労働基準法の疾病化学物質として「ベンゼンの塩化物」が挙げられており、HCB もこれに含まれる。作業環境許容濃度について、日本産業衛生学会は設定していないがACGIH はTLV-TWA:0.002 mg/m3 に設定し、皮膚からの吸収もあるとしている。
POPs やPIC 条約の対象になっているので現在は国際輸送されることはあまりなさそうであるが、HCBには国連番号2729 がある。国連分類はクラス6.1(毒物)で容器等級はⅢ、正式輸送品名は「ヘキサクロロベンゼン」(HEXACHLOROBENZENE)である。BHCは混合物としても単一物質のリンデン(γ-BHC)も同じ、UN No. 2761、品名「有機塩素系殺虫剤類、固体、毒性」(ORGANOCHLORINE PESTICIDE, SOLID, TOXIC)に該当する。国連分類は6.1(毒物)、容器等級はⅢである。(もし液体のものであればUN No. 2996 品名「有機塩素系殺虫剤類、液体、毒性」(ORGANOCHLORINEPESTICIDE, LIQUID, TOXIC)ということになる)。
6.曝露などの可能性と対策
化審法第1 種特定化学物質で製造、輸入、使用が禁止されているので、一般には曝露することはほとんどないと考えられる。しかし、TCPAのように塩素を含む有機化合物の製造工程でHCB が副生することがある。TCPA等では有機溶剤で抽出するなどの方法で除去され、BAT レベルで管理されている。HCB含有量の少ないTCPAを用いて、顔料/ 染料を製造する。顔料/染料中の含有量にもBAT レベルが求められている。これらの顔料/ 染料を用いたプラスチック製品では濃度が低く、溶け出して人や環境への悪影響を及ぼすおそれは小さいと考えられる。BAT レベルが設定されていない製品でHCB の副生又は含有がわかった場合は自主的に含有量低減をはかり、上限値を設定して厚生労働省/ 経済産業省/ 環境省に報告する義務がある。もしHCB又はHCB含有物質を取扱ったり、接触したりするおそれがある場合は、容器などの密閉化、局所排気、個人用保護具を使用して曝露を防ぐ。固体であるが、粉塵や溶液のミストなどによる吸入もあるので呼吸用保護具では防塵マスクを用いる。皮膚からの吸収もあるので保護手袋などを使用し、皮膚を露出しない。HCBを含む廃棄物の焼却時にダイオキシン類が生成するおそれがある。高温やアルカリで分解するなどPOPs 廃農薬の処理やPCB 廃棄物処理技術に類似した方法が考えられる。廃棄物に含まれていなくても塩素を含む物質と有機物を同時に焼却するとダイオキシン類とともに生成するおそれもある。燃焼温度管理や燃焼ガスの冷却、酸や煤塵の除去などダイオキシン類排出抑制を行うことにより、HCBの排出も抑制されると考えられる。
免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。