第22回  リフラクトリーセラミックファイバー

誌面掲載:2019年6月号 情報更新:2023年11月

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1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1, 2)

1.1 化学物質名/ 別名

「リフラクトリーセラミックファイバー」(Refractory ceramic fiber: RCF)は化学物質としては「セラミック」(製品としてはセラミックス:Ceramics)と呼ばれる製品のひとつである。

セラミックとは、もとは陶磁器を指していたが、ガラス、煉瓦なども含めた窯業製品に使われている。粘土{ケイ酸塩鉱物: ケイ酸の塩という意味では一般にMx(SiOy)z、(Mは金属でAl, Ca, Mg, Fe など)と表せるが、実際には種類が非常に多く、簡単には書けない}や珪石(シリカ:SiO2)などの無機物を成形後、加熱処理して固めた物である。この熱処理で化学変化が起こり、成形品全体が一体化している。最近では窯業製品とはいえないファインセラミックスと呼ばれるものも含めて広く金属以外の無機固体材料を指すようになっている。

セラミックファイバー(Ceramic Fiber: CF)は人造鉱物繊維(人造無機繊維)の一種である。人造鉱物繊維は主にガラス、岩石、鉱物などの無機物を原料として繊維状にしたもので、ガラス繊維(Glass filament)、グラスウール(Glass wool: GW)、ロックウール(Rock wool: RW)、スラグウール(Slag wool: SW)などがある。これらは人造ガラス質繊維(Man-Made Vitreous Fiber: MMVF)とも呼ばれる。ほかに原料が金属の金属繊維(金糸銀糸、スチールウールなど)や炭素の炭素繊維やカーボンナノファイバー(ナノチューブ)も人造鉱物繊維に含まれる。人造でない天然にある鉱物繊維としては石綿がある。セラミックファイバー(Ceramic Fiber: CF)は高純度のシリカ(二酸化ケイ素:SiO2)やアルミナ(酸化アルミニウム: Al2O3)を主成分としたセラミックを原料としている。リフラクトリーセラミックファイバーのリフラクトリーとは「耐火性の」という意味で、セラミックファイバーの中でも特に耐熱性の高い繊維である。RCF はシリカとアルミナをほぼ等量配合し、溶融繊維化したものである。耐熱性のセラミックファイバーとしてはアルミナが70 % 以上のアルミナ繊維(Alumina fiber: AF)又はムライト(Mullite)繊維や、高純度のシリカにカルシウムやマグネシウムの酸化物を加えて製造されるアルカリアースシリケートウール(アルカリ土類ケイ酸塩ウール、Alkaline Earth Silicate Fiber: AES)などもある。AES は生体内で消滅するということで生体内溶解性繊維(Bio-Soluble Fiber: BSF)とも呼ばれる。無機繊維はいずれも一般の有機繊維よりは耐熱性が高い。特にRCF, AF, AES は高温での使用に耐えるということで高温断熱ウール(High Temperature Insulation Wool)と呼ばれる。

なお、1 本の繊維(単繊維)の長さの長いものを長繊維又はフィラメント(Filament)といい、短いもの短繊維又はステープル(Staple)という。ウール(Wool)は羊毛(毛糸、毛織物)のことであるが、羊毛状の物であればほかの素材でも、たとえばガラス(Glass)の場合グラスウール(Glass wool)などと呼ぶ。

 

図表1 リフラクトリーセラミックファイバーの特定

名称 リフラクトリーセラミックファイバー

Refractory ceramic fiber

別名 アルミナ- シリカ系セラミックファイバー、アルミナシリカ系人造繊維、非晶質セラミックファイバー、Aluminosilicate refractory ceramic fibers, Alumino-Silicate Wool
略称 RCF, ASW
組成 Al2O3: 30-60 %, SiO2: 40-60 %, RnOm: 0-20 % (R=Zr 又はCr)
CAS No. 142844-00-6
化審法(安衛法) なし
EC No. 604-314-4
REACH 01-2119458050-50-xxxx

*: xxxx は登録者番号

 

図表2 無機繊維の特定1, 2

名称 Name 化学組成式 CAS No.
天然繊維

(鉱物繊維)

石綿 (Asbestos) クリソタイル(白石綿) Chrysotile Mg3Si2O5(OH)4 12001-29-5
クロシドライト(青石綿) Crocidolite Na2Fe23+Fe32+Si8O22(OH)2 12001-28-4
アモサイト(茶石綿) Amosite (Mg,Fe)7Si8O22(OH)2 12172-73-5
アンソフィライト石綿 Anthophyllite Mg7Si8O22(OH)2 77536-67-5
トレモライト石綿 Tremolite Ca2Mg5Si8O22(OH)2 77536-68-6
アクチノライト石綿 Actinolite Ca2(Mg,Fe)5Si8O22(OH)2 77536-66-4
人造繊維 金属繊維 (スチールファイバー等) Metallic fiber Fe, Au, Ag, Al, Cu
ガラス繊維 グラスファイバー Glass fiber SiO2/Al2O3/Na2O/CaO 65997-17-3
ロックウール 岩綿 Rockwool SiO2/Al2O3/CaO/MgO
シリカ シリカファイバー Silica fiber SiO2 60676-86-0
セラミックファイバー リフラクトリーセラミックファイバー Refractory Ceramic Fiber (RCF),

Alumino-Silicate Wool (ASW)

SiO2/Al2O3/(RO2) = 40-60/30-60/0-20

(R = Zr or Cr)

142844-00-6
アルミナファイバー、

ムライトファイバー

Alumina Fiber(AF),

Polycrystalline Fiber(PCW)

Al2O3/SiO2 = 72-97/3-28 675106-31-7
生体溶解性ファイバー Alkaline Earth Silicate Fiber (AES),

Bio-Soluble Fiber (BSF)

SiO2/MgO/CaO 436083-99-7
炭素繊維 カーボンファイバー Carbon fiber C 7440-44-0
カーボンナノファイバー

カーボンナノチューブ

Carbon nano-fiber (CNF)

Carbon nano tube (CNT)

C 308068-56-6

*:Fe(鉄):7439-89-6, Au(金):7440-57-5. Ag(銀):7440-22-4, Al (アルミニウム):7429-90-5, Cu(銅):7440-50-8

1) 日本高温断熱ウール工業会(JHIWA)HP( http://www.jhiwa.jp/rcfa05_ex.html)

2) 環境省「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6」

https://www.env.go.jp/air/asbestos/litter_ctrl/manual_td_1403/chpt1.pdf

 

1.2 CAS No.、化審法(安衛法)官報公示整理番号、そのほかの番号(図表1, 2)

RCF のCAS No. は142844-00-6 であるが、化審法番号はない。CAS No. は単一の物質として扱われる混合物や水和物とか、化学的には同じでも物性が異なる結晶形の場合もそれぞれ付されているが、化審法ではこれらの区別はしない。混合物は、個々の成分別に取り扱うことになっており、ガラスや合金などと同様セラミックも混合物の扱いである。またガラス繊維のように成形されたものは対象にしていない。EUのREACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of CHemicals)では、「ガラス繊維」は「成形品」(Article)として登録(Registration)の対象にしていないが、RCF はUVCB 物質(組成が不明又は不定の物質、複雑な反応生成物又は生物材料:Substances of Unknown or Variable composition Complex reaction products or Biological materials)として「Refractories, fibers, aluminosilicate」という名称で登録され、EC No. 604-314-4 があり、REACH 登録番号もある。アメリカのTSCA(Toxic Substance Control Act)でもUVCB物質としてリストアップされている。アメリカの場合、TSCA の番号というものはなく、化学物質のリストにはCAS No. が使われている。

 

1.3 国連番号(UN No.)

国連危険物輸送勧告の危険物(dangerous goods)ではないので国連番号(UN No.)はない。

 


2.主な無機繊維の特性

2.1 物理化学的性質(図表3)

石綿やセラミックファイバーはガラス繊維やロックウールなども含めて化学物質としては酸化物であり、さらに酸化される(= 燃える)ことはない。化学的に安定で耐薬品性も高く、危険な反応を起こすことはない。有機溶剤や水に溶解しない。RCF をはじめ、ほとんどの人造鉱物(無機)繊維の繊維径は1 μm以上であるのに対し、天然繊維の石綿は繊維径が非常に小さい。一般に使われている炭素繊維も繊維径は数 μmあるが、カーボンナノファイバー(ナノチューブ)は名前の通りナノメートル(nm)である。比重はガラス、セラミックは2 ~ 3 であるが、金属繊維は重く、炭素繊維は軽い。人造鉱物繊維の多くは溶融後急冷する方法で製造されるので非晶質である。このため明確な融点は存在しないが、液体状になる温度は一般の有機繊維に比べると非常に高く1,000 ℃を超えるものもある。アルミナ繊維(AF)は耐熱温度が高い。アルミナ濃度が高いと融点が高くなって、溶融急冷方式がとれず成型後焼成工程により製造されるため、結晶質である。ムライト繊維と呼ばれるのはその結晶の名前による。ガラス繊維やロックウールはアルカリ(ナトリウム:Naなど)又はアルカリ土類(カルシウム:Ca等)の酸化物が含まれていて少し融点が低く、耐熱温度もほかの無機繊維に比べると低い。RCF などのセラミック繊維は連続使用のできる耐熱温度が1,000 ℃を超える。RCFは1,000 ℃を超えて加熱すると、結晶シリカの一種であるクリストバライトを生成する。

 

図表3 主な無機繊維の特性

繊維 繊維径(μm) 比重 融点(℃)1) 使用温度(℃)1)
石綿 0.02~0.35 2.4~3.3 1100~1600 ~800 結晶質
スチールファイバー 10~200 7.8~7.9 1000~1500 ~800 結晶質
ガラス繊維 3~20 2.1~2.6 800 ~550 非晶質
ロックウール 3~6 2~3 900 ~600 非晶質
シリカ 1~15 2~3 1410 ~1000 非晶質
RCF1) 2~4 2~3 1760 1000~1500 非晶質
AF(短繊維)1) 2~7 3~4 2000 1300~1700 結晶質(アルミナ又はムライト)
AES1) 3~5 2~3 .1500 900~1300 非晶質
炭素繊維 4~18 1.6~2.2 3550 ~2000 結晶質
CNT 0.001~0.01 1.3~2.0 >3000 ~700 結晶質

1) 厚生労働省第2回化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会 資料3-3

セラミックファイバー工業会(現日本高断熱ウール工業会:JHIWA)提出資料

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000057509.pdf

及びJHIWA HP

http://www.jhiwa.jp/rcfa05_ex1.htmlより

 

2.2 有害性(図表4, 5)

セラミックは身の回りに普通に存在する岩石や陶磁器、ガラスと同様の安定な「化学物質」で、生物に特に毒性が高いということはない。水に溶けず、摂取しても消化吸収されることなく排泄される。皮膚や眼、上気道(鼻や喉)に対し一時的な刺激性を示す。空気中の微細繊維濃度と皮膚や眼の刺激性の発生と相関がある。呼吸器への刺激性として、喘鳴や息切れについても曝露濃度の増加とともに増加する傾向がみられる。長期的に反復して曝露すると肺機能障害を起こす。塵肺が見られることもある。感作性や神経系への影響は報告されていない。変異原性については試験により陰性と陽性の結果がある。ただ、陽性の結果はセラミックファイバーが遺伝子に直接(一次的:primary)影響したものではなく、炎症性細胞から発生する活性酸素が関与して起きる二次的(secondary)なものと考えられている。発がん性についてIARC(国際がん研究機関)はRCF や特殊用途のマイクログラスファイバー(Special purpose wool: SPW)は動物試験では発がん性を示すデータがあるがヒトに対しては証拠が十分でないとしてグループ2 B、日本産業衛生学会は人造鉱物繊維(セラミック繊維、ガラス微細繊維)に対して同様の第2 群B(ヒトに対する発がん性の可能性がある物質)に分類している。IARC はガラス繊維、グラスウール、ロックウール、スラグウールに対しグループ3(ヒトに対する発がん性について分類できない)に分類している。これに対し、EU のCLP ではRCF やSPWはおそらくヒトに発がん性があるという1 B に分類し、鉱物繊維(RW, SW, GW)をヒトに発がんの可能性があるという2 に分類している。ただし、直径が6μmを超えている繊維(長さ加重幾何平均直径–2 x 標準偏差 >6μm)や動物試験で生体内溶解性繊維(BSF)と判断された繊維は発がん性物質ではないとしている。米国ではEPA(Environmental Protection Agency: 環境保護庁)はRCF をB2(動物での十分な証拠によりおそらくヒトに発がん性有)に、NTP(National Toxicology Program:国家毒性計画)では吸入可能なセラミックファイバー(Respirable ceramic fiber)をR(Reasonably anticipated to be human carcinogen: ヒトに発がん性があると合理的に予想される)に分類している。NITE のGHS分類も以前はIARC や日本産業衛生学会の判断から区分2 としていたが、RCF に関してはEU やEPA の分類及び動物試験のデータからヒトに対する発がん性の証拠が明らかとして区分1 B に変え、それ以外の人造鉱物繊維を区分2 としている。発がん性の根拠となっている動物試験でのがん(中皮腫)の発生には繊維の長さと太さ及び曝露量と生体内不溶性と関係があると考えられている。

 

図表4 セラミックファイバーのGHS分類(NITE による)

GHS分類 リフラクトリーセラミックファイバー 人造鉱物繊維

(RCFを除く)

セラミックファイバー(アルミノケイ酸塩)
(2016年度) (2017年度) (2007年度)
物理化学的危険性
可燃性固体 区分外 区分外 区分外
自然発火性固体 区分外 区分外 区分外
金属腐食性
健康有害性
急性毒性(経口)
急性毒性(経皮)
急性毒性(吸入:粉塵)
皮膚腐食/刺激性 2 2
眼損傷/刺激性 2 2
皮膚感作性
生殖細胞変異原性
発がん性 1B 2* 2
生殖毒性
特定標的臓器(単回) 3(気道刺激性) 3(気道刺激性) 3(気道刺激性)
特定標的臓器(反復) 1(呼吸器) 1(呼吸器) 1(肺)
誤えん有害性
環境有害性
水生環境有害性(短期/急性)
水生環境有害性(長期/慢性)

-:分類できない

*: 特定用途ウール (Eガラス繊維、475ガラス繊維**など): 区分2

ガラス長繊維、断熱ウール、ロックウール、スラグウール:分類できない

**: カルシウム-アルミノケイ酸塩繊維の一種

 

 

図表5 発がん性評価(ヒトに対する発がん性)

評価機関 あり おそらくあり 可能性あり 分類できない又は発がん性なし
日本産業衛生学会 2A 2B
石綿 人造鉱物繊維

(セラミック繊維,ガラス微細繊維)

IARC 1 2A 2B 3
石綿 RCF, SPW GF, GW, RW, SW
EU(CLP) 1A 1B 2
石綿 RCF*, SPW*

 

e-glass microfibers**

Mineral wool* (RW, SW, GW)

Glass microfiber**

GF, BSF
EPA A B2 C D or E
石綿 RCF
NTP*** K R
石綿 Ceramic fiber (respirable) (known as RCF)

Certain glass wool fibers (inhalable)

RCF:リフラクトリーセラミックファイバー、アルミノシリケートセラミックファイバー

SPW:特殊用途ウール(Special purpose wool):マイクログラスファイバー(MF)、フィルター用途など

GF: ガラス長繊維(Glass filament)、 GW: グラスウール(Glass wool, ガラス短繊維)

RW: ロックウール(Rock wool)、 SW: スラグウール(Slag wool)

BSF: 生体内溶解性繊維(Bio-Soluble Fiber)、アルカリアースシリケートウール(Alkaline Earth Silicate Fiber: AES)ともいう。

*: ランダム配向性の人造ガラス質ケイ酸塩繊維で、[長さ加重幾何平均直径-2 x標準偏差]≦6μm
RCF, SPWはアルカリ(Na, K)及びアルカリ土類(Ca, Mg, Ba)の酸化物≦18%, (BSFを除く)
Mineral wool(RW, SW, GW)はアルカリ及びアルカリ土類の酸化物>18%
いずれも

**: ランダム配向性のカルシウム-アルミニウムケイ酸塩繊維(Calcium-aluminium-silicate fibers)で以下の組成の物

Microfibers SiO2 Al2O3 B2O3 ZrO2 Na2O K2O CaO MgO Fe2O3 ZnO BaO F2
e-glass 50.0-56.0 13.0-16.0 5.8-10.0 <0.6 <0.4 15.0-24.0 <5.5 <0.5 <1.0
Glass 55.0-60.0 4.0-7.0 8.0-11.0 0.0-4.0 9.5-13.5 0.0-4.0 1.0-5.0 0.0-2.0 <0.2 2.0-5.0 3.0-6.0 <1.0

***: NTP(米国National Toxicology Program:国家毒性計画)では
K: Known, R:Reasonably anticipated

 


3.主な用途

ガラス繊維の長繊維は主にガラス繊維強化プラスチック(Glass-Fiber-Reinforced Plastics: GFRP)に使われている。ガラス繊維の短繊維(グラスウール)やロックウールは住宅、建築、自動車の断熱材・吸音材、配管や空調設備、家電製品等の断熱・保温材として使われている。高い耐熱性が必要な工業炉の断熱材として以前は天然の鉱物繊維である石綿が広く使われていたが、その発がん性が問題となり使用が禁止されている。その代替として特に高温断熱ウール製品として開発されたのが人造鉱物繊維(セラミックファイバー)である。主に高い断熱性が必要な工業炉の耐火・断熱材、充填材、自動車、建築材料として使われている。しかし呼吸により吸入されるおそれのある微細繊維には発がん性が認められるようになった。これに対して、生体内に摂取されても分解/ 排泄されるものとしてBSFがある。

 


4.事故などの例

・ RCF は石綿(アスベスト)の代替物質と考えられているが、その石綿に関しては以下のような情報がある。石綿は住宅用建材などに防火・断熱材として大量に使われていた。1970 年頃までに発がん性が明らかとなって日本でも使用制限が進められてきていたが、石綿取扱い者に多くの悪性中皮腫等による死亡者を出した。2005 年には、石綿を取扱っていない、工場周辺の住民にも被害者があったことがわかり社会問題ともなった。2006 年には石綿製品の製造・輸入・譲渡・使用が禁止されたが、取扱い後15 年から50 年という長い年月を経て健康被害が出てくることもあって、死亡者は2006 年以後年間1,000 人を超えている。(2015年以後は2019年を除いて年間1500人を超えている。) 地震などによる災害や建築物の解体に伴う石綿の環境中への排出もあって、今後もしばらくは被害者が出ると考えられる。

( https: / /www.env. go. jp/ air/ asbestos/ litter_ ctrl/manual_td_1403/chpt1.pdf

https://www.niph.go.jp/journal/data/67-3/201867030005.pdf

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/chuuhisyu22/dl/chuuhisyu.pdf)

 

5.主な法規制及び作業環境許容濃度(図表6)

RCF は化審法や化学物質管理促進法の対象にはなっていない。労働安全衛生法ではRCF を含む「人造鉱物繊維」は名称等の表示及び文書交付(通知)対象物である。1 % 以上含有する製品を提供する場合に容器・包装へのラベル表示が必要である。その際、RCF の場合0.1 % 以上、そのほかの人造鉱物繊維は1 % 以上でSDS の提供が義務付けられている。また、RCF 及びRCF を1 % 超含有する混合物等を製造又は取扱う際は特定化学物質障害予防規則の管理第2 類物質及び特別管理物質としての規制がある。RCF 及び含有物を取扱う際に粉塵に作業者が曝露しないよう、発散源を密閉する設備、局所排気及びプッシュプル型換気装置の設置等が必要である。作業主任者の選任、炉内での作業などで作業者が粉塵の吸入のおそれがある場合は適切な呼吸用保護具及び作業衣又は保護衣を着用しなければならない。作業環境を測定し、その結果に基づいて評価を行い、評価結果に基づいて適切な管理を行う必要がある。6 か月以内毎に健康診断を行う。過去に製造取扱い作業に従事したことがある場合は、配置転換などで取扱わなくなっていても雇用していれば健康診断を実施しなければならない。作業記録、作業環境測定及び評価の記録、健康診断結果は30 年間の保存しなければならない。作業環境評価基準の管理濃度はRCF の長さ5 μm以上、直径3 μm未満、長さと直径の比が3:1(アスペクト比)以上の繊維0.3 本/cm3 である。RCF を練り込んだ樹脂の取扱いのように、RCF やRCFを含む粉塵の発散がない場合はこの規制は適用されない。固定化されていても切断、穿孔、研磨等のように粉塵が発散するおそれがある場合は適用される。また、RCF を含む人造鉱物繊維、セラミックファイバーは粉じん障害防止規則の対象物質で発散抑制、作業者の教育、作業環境測定、呼吸用保護具の着用などが必要である。作業環境管理濃度は3.0 mg/m3 である。じん肺法及びじん肺法施行規則の規定も適用され、作業者のじん肺健康診断を行い、必要な場合は曝露低減を行う。日本産業衛生学会の作業環境許容濃度は人造鉱物繊維(長さ≧ 5 μm、直径< 3 μm、アスペクト比≧ 3:1の繊維) 1 本/ml である。これに該当しない場合は第2 種粉塵の結晶質シリカ含有率< 3 % の鉱物性粉塵に該当し、吸入性粉塵1 mg/m3、総粉塵4 mg/m3 である。ACGIH(米国産業衛生専門家会議)の許容濃度(TLVTWA)でもRCF は0.2 本/ml、そのほかの人造ガラス繊維で1 本/ml である。ガラス長繊維でInhalable(可吸入)な粉塵に対し5mg/m3がある。そのほか非水溶性又は難溶性の粉塵に対しPNOC(Particle Not Otherwise Classified)としてRespirable(可呼吸):3 mg/m3, Inhalable(可吸入):10 mg/m3 がある。

EU のREACH は化学物質の有害性評価と制限・認可などを行う法律であるが、ガラス繊維などの成形品(Article)は対象にしていない。しかし、吸入によって人造鉱物繊維のうち、CLP でGHS の発がん性分類で1 B に区分されたRCF(アルミノシリケート及びジルコニアアルミノシリケート繊維)を認可対象物(特に認可を受けた用途以外は禁止)の候補物質(SVHC:Substances of Very High Concern)に指定されている。このためRCF 及びRCF を0.1 % 以上含む製品をEU内に輸出する場合は提供先にその物質名や濃度、安全な取扱情報を提供し、RCF 量で年間1 t を超えるときは欧州化学品庁(ECHA)に届出が必要になる。

 

図表6 リフラクトリーセラミックファイバー等に関連する法規制及び作業環境許容濃度

法律名 法区分 条件など 対象
労働安全衛生法 名称等表示/通知物 表示≧1% 人造鉱物繊維
通知≧0.1% 人造鉱物繊維(リフラクトリーセラミックファイバーに限る)
(表示≧1%) 人造鉱物繊維(リフラクトリーセラミックファイバー以外)
特定化学物質第2類物質、管理第2類物質

特別管理物質

>1% リフラクトリーセラミックファイバー
粉じん障害防止規則

(じん肺法)

人造鉱物繊維、セラミックファイバーなども鉱物の一種
作業環境評価基準

管理濃度

0.3本/cm3 リフラクトリーセラミックファイバー

長さ≧5μm、太さ<3μm、長さと太さの比(アスペクト比)≧3:1の繊維

3.0mg/m3 土石、岩石、鉱物、金属又は炭素の粉じんの管理濃度=3.0/(1.19Q+1)mg/m3

(Q=当該粉じんの遊離けい酸含有率% = 0)

作業環境許容濃度 日本産業衛生学会 1繊維/ml 人造鉱物繊維(長さ≧5μm、太さ<3μm、アスペクト比≧3:1の繊維)

ガラス長繊維、グラスウール、ロックウール、スラグウール、セラミック繊維、ガラス微細繊維

0.03mg/m3 吸入性結晶質シリカ
吸入性:0.5mg/m3

総粉塵:2mg/m3

第1種粉塵: アルミナ、カオリナイト
吸入性: 1mg/m3

総粉塵: 4mg/m3

第2種粉塵: 結晶質シリカ含有率<3%の鉱物性粉塵
吸入性: 2mg/m3

総粉塵: 8mg/m3

第3種粉塵: その他の無機粉塵
ACGIH (TLV/TWA) 0.2f/ml リフラクトリーセラミックファイバー
1f/ml 人造ガラス質繊維

ガラス長繊維、グラスウール、ロックウール、スラグウール、特殊用途ガラス繊維

5mg/m3 (Inhalable fraction of the aerosol) 人造ガラス質繊維、ガラス長繊維
Respirable: 3mg/m3

Inhalable: 10mg/m3

他に分類できない物質

(PNOC: Particle Not Otherwise Classified)

非水溶性又は難溶性

(Insoluble or poorly soluble)

0.025mg/m3 結晶質シリカ(Respirable)
REACH SVHC Aluminosilicate及びZirconia Aluminosilicate Refractory Ceramic Fibers

a)主成分: Al/Si又はAl/Si/Zr酸化物

b) [長さ加重幾何平均直径-2 x標準偏差]≦6μm

c)アルカリ/アルカリ土類酸化物(Na2O+K2O+CaO+MgO+BaO)≦18%

 


6. 曝露などの可能性と対策

6.1 曝露可能性

固体で、水にもほとんど溶けず、繊維径の大きなものは、飲み込んでも消化吸収されることなく排泄され、直接皮膚から吸収されることもない。大気中に浮遊する場合は吸入のおそれがある。眼に見える大きさであれば吸い込まないよう注意できるし、たとえ舞い上がっても早く地上に落下する。しかし、微細繊維(粉塵)は、長時間空気中に漂い、吸入のリスクが高くなる。吸入した場合気道や肺の粘膜などに突き刺さると排除できなくなる。分解することもなく長期間とどまり、次第に蓄積されていく。RCFの製造やRCFを直接取扱う場合だけでなくRCFを用いた製品の研削、研磨、切断などの作業によっても曝露するおそれがある。使用後の保護具の扱いにも注意が必要である。

 

6.2 曝露防止

できるだけ密閉された装置や設備内で取扱う。局所排気/ プッシュプル型換気装置を使用し、適切な集塵機/ 空気清浄器を介して清浄化した空気を場外へ排気する。粉塵の発散を防止できない場合は適切な呼吸用保護具(防塵マスク)を着用する。長袖の作業衣又は保護衣、保護手袋及び保護眼鏡を着用する。適切な呼吸用保護具とは電動ファン付きで粒子捕集効率が99.97 % 以上、漏れ率が1 % 以下のものなど、作業衣は粉塵が付着しにくいもの、保護衣はJIS T 8115 に適合する粉塵防護用密閉服などである。国家検定合格品を使用する。顔面とマスクとの密着性を確認して使用する。粉塵の飛散を抑制するため、可能であれば湿潤状態や水や油などで分散液、スラリーやペースト状にして取扱う。作業場所を可能な限りほかの作業所と隔離する。作業衣などに付着した場合、超高性能エアフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter:HEPAフィルター)付き掃除機や粘着テープ等で飛散を防止しながら取り除く。床などにこぼれた場合もHEPAフィルター付き掃除機で回収するか、湿潤な状態にして掃き集める。乾いたままでの掃除は避ける。取扱い後はうがいをして、シャワーなどで体を洗う。

 

6.3 廃棄処理

石綿に比べれば発がん性のリスクが低いが、これに準じた廃棄処理を行う。廃棄物を一時保管する場合、環境中に飛散しないようプラスチック袋に入れて保管し、都道府県知事などの許可を受けた産業廃棄処理業者に産業廃棄物として処理する。埋め立てる場合も粉塵の発生のないようにする。できれば電気炉などで溶融し、固化して顆粒~塊状にする。

 

免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。