第35回 塩化ビニル
誌面掲載:2020年7月号 情報更新:2024年7月
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1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)
1.1 化学物質名/ 別名
塩化ビニル(Vinyl chloride)は慣用名である。IUPAC名ではクロロエテン(Chloroethene)という。エテン(Ethene)は炭素数2 個の飽和炭化水素のエタン(Ethane, CAS No.74-84-0、化学式はC2H6)から水素(H)が2 個とれた不飽和炭化水素でCas No.74-85-1、化学式はC2H4 である。化学構造が分かるように書くとエタンがH3C-CH3 でエテンはH2C=CH2 となる。C とC を= で繋いでいるので2 重結合(不飽和結合の一種)といい、他の物質と反応したり、多数の分子が繋がって(重合して)ポリマー(polymer)が生成したりする。エテンの水素1 個を塩素(Cl)に置き換えた物質は、塩素を示す接頭語クロロ(Chloro)をつけてクロロエテン(Chloroethene)と呼ぶ。化学式はC2H3Cl で化学構造を反映した書き方だとCH2=CHCl である。エテンという名称よりエチレン(Ethylene)の方が、プラスチックのポリエチレン(Polyethylene)の名で馴染みがある。接頭語ポリ(Poly)は多くのという意味で、ポリエチレンはエチレンが多数結合していることを示している。エチレンに塩素が結合しているということでクロロエチレン(Chloroethylene)とも呼ばれる。また、このエテンから水素が1 個取れたH2C=CH- を持つ部分をビニル基(Vinyl group)という。ビニル基に塩素が結合しているので塩化ビニル(Vinyl chloride)と呼ばれる。ビニルはIUPAC が認めた慣用名で、系統的名称ではエテニル(Ethenyl)なので、塩化エテニル(Ethenyl chloride)ともいえるがあまり使われていない。塩化ビニルが重合してポリ塩化ビニル(Polyvinyl chloride)というプラスチック(合成樹脂)になる。このポリ塩化ビニルは非常に多く使われ、「塩ビ」という略称で呼ばれる。この略称にポリマーであることを示す「ポリ」等がないのでその原料の塩化ビニルと区別できない。そこで、紛らわしいときはポリ塩化ビニルがポリマーであるのに対して1 個であることを示すモノマー(Monomer)をつけて「塩化ビニルモノマー」「塩ビモノマー」(Vinyl chloride monomer)といったりする。略称もポリマーがPVC なので、モノマーはVCMとして区別している。ビニール袋とかビニール傘等「ビニール」と呼ばれる物質がある。「ビニール」という用語はVinyl のカタカナ表記で、現在学術用語としては「ビニル」と表記される。一般に「ビニール」というときは「ビニル基」でも「ビニル基を持った物質」でもなく、ビニル基を持った物質が重合してできるプラスチックの名称といった感じで使われている。以前はポリ塩化ビニル製が多かったので、主にこのポリ塩化ビニル製のものを指している。しかし最近ではポリエチレンやナイロン{Nylon、化学物質名としてはポリアミド(Polyamide)}等ビニル基を持たない物質由来のポリマーを使用したものも増えているが、外観では区別が難しく、ビニル基を持った物質の重合物に限らず、軟質のプラスチックやフィルムを一般に「ビニール」と呼んでいる。一方、ポリ塩化ビニル製でも硬質のもの(水道管等)は「塩ビ」と呼ばれ、あまり「ビニール」とは呼ばない。
1.2 CAS No.、化学物質審査規制法(化審法)、労働安全衛生法(安衛法)官報公示整理番号、その他の番号(図表1)
塩化ビニルのCAS No. は75-01-4 である。化審法の官報公示整理番号は2-102 である。番号の初めの「2-」は第2 類、有機鎖状低分子化合物であることを示している。安衛法の番号はなく、法施行時に既存物質とし化審法番号で公表されている。EU のEC 番号は200-831-0 で、REACH以前にEINECS で登録されていた物質である。REACH の登録番号は01-2119458772-30-xxxx(xxxx は登録者番号) である。
図表1 塩化ビニルの特定
名称 | 塩化ビニル
Vinyl chloride |
IUPAC | クロロエテン
Chloroethene |
別名 | クロロエチレン
Chloroethylene ビニルクロライド(ビニルクロリド) 塩化ビニルモノマー Vinyl chloride monomer |
略称 | VCM |
化学式 | C2H3Cl
CH2=CHCl |
CAS No. | 75-01-4 |
化学物質審査規制法(化審法)/
労働安全衛生法(安衛法) |
2-102 |
EC No. | 200-831-0 |
REACH | 01-2119458772-30-xxxx |
国連番号 | 1086 |
2. 特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)
2.1 物理化学的性質(図表2, 3)
特徴的な臭いのある無色透明の、常温では気体、–13 ℃以下では液体である。引火点–78 ℃と引火性が高い。空気中の爆発限界が3.6 % ~ 33 % である。下限値が13 % 以下で爆発範囲も12 % を超えているのでGHSでは「可燃性ガス」区分1に区分されている。また、塩素化二重結合を持ち、化学的に不安定なガスの区分Bに該当する。低温又は高圧で液化して流通し、GHSでは「高圧ガス」にも分類され、区分は「液化ガス」である。臨界温度が151.5 ℃と65 ℃を超えているのでGHS の区分としては「低圧液化ガス」で、「熱すると爆発するおそれ」がある。液体の比重は水より小さい。気体は空気より重く、地面に沿って移動し、離れた場所で引火、発火のおそれがある。状況によっては爆発性の過酸化物を生ずることがある。加熱や光、強酸化剤、銅やアルミニウム等の金属、空気との接触で重合し、火災や爆発の危険性がある。燃焼すると分解して塩化水素(HCl)、ホスゲン(Phosgene:COCl2)等を含む腐食性/毒性のガス・ヒュームが生成する。漏洩ガスの火災は消火困難で、漏洩を止めることができなければそのまま燃焼させる。漏洩を止めずに消火した場合、漏洩ガスは爆発性の空気混合気体を形成してより危険な状態になるおそれがある。漏洩を止めることができた場合は、消火に噴霧水又は霧状の水が有効である。水分の存在で鉄を侵す。水には溶けにくいが、有機溶媒には溶解する。
図表2 塩化ビニルの主な物理化学的性質(ICSC による)
融点(℃) | -154 |
沸点(℃) | -13 |
蒸気圧(kPa) | 334(20℃) |
引火点(℃) (C.C.) | -78 |
発火点(℃) | 472 |
爆発限界(vol %) | 3.6~33 |
蒸気密度(空気=1) | 2.2 |
比重(水=1.0) | 0.9(液体) |
水への溶解度(20℃) | 1.1g/l |
n-オクタノール/水分配係数(log Pow) | 1.6 |
2.2 有害性(図表3)
塩化ビニル(VCM)は主に呼吸による吸入によって体内に取り込まれる。皮膚からの吸収もある。経口で摂取した場合も速やかに吸収される。吸収されたVCMは体内に広く分布した後、大部分は代謝物に変化して、尿に含まれて排泄される。代謝の過程で生ずるクロロエチレンオキシド(Chloroethylene oxide, CAS No.7763-77-1)は反応性が高く発がん性等に関係していると考えられている。致死性で見る急性毒性は低いが、麻酔作用があり、量が多いと運動失調、痙攣が起き、さらに呼吸不全や重症の不整脈で死亡することもある。医学的な経過観察が必要である。皮膚や眼に対する刺激性も強くはない。液体が皮膚に接触した場合、急激に蒸発してその気化熱で低温になって、凍傷を起こすことがある。添加された安定剤等が有害性に影響を与えることがある。長期にわたる曝露では肝臓、脾臓、血液、末梢血管及び指の組織や骨に影響を及ぼすことがある。 動物試験で、ヒトに生殖・発生毒性を引き起こすおそれがあることが示されている。ヒトの遺伝子損傷を引き起こすおそれもある。動物試験で肝臓、腎臓、乳腺、肺等、及びヒトでも疫学調査で肝臓に発がん性が認められている。IARC(国際がん研究機関)がGroup 1、日本産業衛生学会も第1 群、米国EPA(環境保護庁)は、K/L(Known/likely human carcinogen)、米国国家毒性計画(NTP)はKnown(Known to be Human Carcinogens)に分類しておりヒトに発がん性を示すと考えられる。
2.3 環境有害性
水生生物に対して有害性は高くはない。NITE は2006 年度の分類では急性で区分3 としていたが、2009 年度の分類では区分外としている。微生物による急速分解性はなく「難分解性物質」とされているが、特定の微生物や予め馴化(当該物質や類似物質と接触すると分解に必要な酵素系を誘導すること)した微生物には生分解される。n- オクタノール/ 水分配係数logPow は1.6 で生物濃縮性は低い。
図表3 塩化ビニルのGHS分類(NITE による)
GHS分類 | |
物理化学的危険性 | |
可燃性ガス | 1
化学的に不安定なガス区分B |
高圧ガス | 低圧液化ガス |
金属腐食性 | – |
健康有害性 | |
急性毒性(経口) | 区分外 |
急性毒性(経皮) | – |
急性毒性(吸入:ガス) | 区分外 |
皮膚腐食/刺激性 | – |
眼損傷/刺激性 | – |
感作性(呼吸器、皮膚) | – |
生殖細胞変異原性 | 2 |
発がん性 | 1A |
生殖毒性 | 2 |
特定標的臓器(単回) | 1(中枢神経系)
3(麻酔作用) |
特定標的臓器(反復) | 1(血管系、神経系、肝臓、生殖器(男性)、骨) |
誤えん有害性 | – |
環境有害性 | |
水生環境有害性(短期/急性) | 区分外 |
水生環境有害性(長期/慢性) | 区分外 |
オゾン層への有害性 | – |
図表4 塩化ビニルの発がん性評価
評価機関 | 評価 |
IARC | Group 1 |
日本産業衛生学会 | 第1群 |
ACGIH | A1 |
NTP | Known |
EU(CLP:GHS) | 1A |
EPA | K/L |
IARC: Group 1: Carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性を示す)
日本産業衛生学会 第1群: ヒトに対して発がん性があると判断できる
ACGIH A1: Confirmed human carcinogen (ヒトに対して発がん性が確認された)
NTP Known: Known to be Human Carcinogens(ヒト発がん性があることが知られている)
EPA K/L: Known/likely human carcinogen(ヒト発がん性が知られている/可能性が高い)
3. 主な用途
ほぼ全量ポリ塩化ビニルや塩化ビニルをモノマー成分として含む合成樹脂の原料として使われる。ポリ塩化ビニルは硬い樹脂だが、フタル酸エステル等の可塑剤の添加により軟化する。添加量により硬軟度を細かく調整することができ、燃えにくく安価なので広く使われている。例えば水道管、電線被覆材、建材(雨樋、外装材、壁紙等)、農業用フィルム、医用器材等に使われている。
4. 事故等の例
・ VCMの回収タンクでバルブ開閉作業を行っていて、VCMを吸入して意識を失って倒れた。自動開閉バルブだったが、凍結していて閉まりにくかったので手動で開閉しようとしていた。屋外作業のためVCMの影響を軽視し、呼吸用保護具を着用していなかった。自動開閉バルブは屋内用で、屋外使用には適していなかった。凍結を想定した作業手順が決められていなかった。
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101545)
・ VCM製造工場で反応工程のトラブルがあって、工程内の塩化水素(HCl)を蒸留精製する塩酸塔に製品のVCMが混入した。塩酸等の還流槽内でHCl とVCMが、鉄錆が触媒となって反応したと考えられる。反応は発熱反応で槽内の温度上昇し、内部圧力が上昇、可燃物の漏洩、破裂、爆発、火災に至った。死者1 名。反応工程のトラブルから爆発・火災まで12 時間あり、その間複雑な要因が重なった結果と考えられる。
(https://www.tosoh.co.jp/news/assets/20120613001.pdf)
こうした事故が相次いで起こり、経産省の産業構造審議会保安分科会で取り上げられた。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/hoan_002.html
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/pdf/hoan_pdf/002_03_02.pdf)
・ VCM製造工場でバルブ破損により漏洩して、爆発、火災となった。粗製VCM移送用配管途中にある濾過器のエレメント交換作業中、バルブからの漏洩に気づいて閉めようとしたところ、バルブが破損して粗VCM約3.5 t が流失した。バルブが鋳鉄製で腐食及び孔食が生成していた。粗VCMに不純物として含まれる水分により、VCMが加水分解して塩酸が生成して、金属の腐食が進んだものと考えられる。死者1 人、負傷者近隣住民を含む23 人。工場の消失のほか、半径2.2 kmで公共建物、民家約660 棟に爆風による窓ガラスや屋根に被害。燃焼で発生した塩化水素による農作物の被害16 万m2 に及んだ。
(http://www.shippai.org/fkd/cf/CC0000041.html)
この事故により高圧ガス保安法の一般高圧ガス保安規則にバルブ操作の注意が追加された(第六条2- 六)。
(https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/hipregas/files/20220328chikujo2_ippansoku.pdf)
5. 主な法規制(図表5)
化審法では現在一般化学物質で特に規制はない。化学物質管理促進法では発がん性等から特定第1 種指定化学物質とされ、年間取扱量が0.5 t 以上で環境中への排出量等の把握と報告(PRTR)を行う。また、0.1 %以上含まれる製品を提供する際にはSDS を発行しなければならない。
労働安全衛生法の表示及び通知すべき有害物である。発がん性等から0.1 % 以上含有すればSDS の提供及び容器・包装のラベルにも物質名や有害性等の表示の義務がある。特定化学物質障害予防規則(特化則)の特定化学物質第2 類物質である。曝露防止(密閉系での使用又は局所排気、プッシュプル型の換気)が要請されている。作業環境の測定及びその結果に基づいて設備の管理や健康診断実施の義務がある。特に発がん性物質として特別管理物質に指定されているので、作業記録や作業環境測定、評価、健康診断の記録は30 年間保存しなければならない。作業環境評価基準は管理濃度2 ppm と定められている。発がん性は閾値の評価が困難な場合が多く、作業環境許容濃度の設定が難しい。日本産業衛生学会は、以前「暫定値2.5 ppmとするができる限り検出限界以下にする」としていたが、2017 年に許容濃度に変わる指標として「過剰発がん生涯リスクレベル(10–3)で評価値1.5 ppm、(10–4)で評価値0.15 ppm」を提案している。これは労働者が通常の労働年数(約40 年)曝露した場合、平均寿命に達するまでに当該物質(VCM)に起因する発がんで死亡するリスクで評価するもので、(10–3)は交通事故による死亡、(10–4)は水難や火災による死亡の生涯リスクに相当するレベルである。ACGIH はTWAで1 ppm に設定している。特化則の特定化学物質は皮膚等障害化学物質にも該当し、不浸透性保護具等の使用しなければならない。労働基準法で疾病化学物質とされ、曝露防止、作業環境の管理、SDS の提供等のほか、業務上の取扱いで頭痛やめまい、嘔吐等の自覚症状を生じたり、塩化ビニルの影響による疾病にかかったりした場合は治療・療養や休業等に対する補償を行う必要がある。がん原性物質にも指定されており肝細胞がん等にかかった場合も同様である。
火災・爆発の危険に対して消防法ではなく高圧ガス保安法の規制がある。VCMの蒸気圧が20 ℃で0.2 MPaを超えているので、「液化ガス」であり、爆発限界の下限値は3.6 % と10 % 以下なので「可燃性ガス」でもある。労働安全衛生法でも「危険物・可燃性のガス」に該当する。国連危険物輸送勧告ではクラス2.1(引火性ガス)である。国連番号は1086 で、品名は「塩化ビニル、安定剤入りのもの」(Vinyl chloride, stabilized)である。これに基づいて航空法や船舶安全法、港則法で規制されているが、これらの法規制での法区分は「高圧
ガス」である。
大気に関する環境基準は定められていないが、環境省から発がん性等の評価に基づいて、健康リスクの低減のため、年間平均値で10 μg/m3 以下という指針値が示されている。大気汚染防止法では揮発性有機化合物(VOC)に該当する。有害大気汚染物質の優先取組物質の中で特に自主管理対象物質に挙げられ、事業者に対し排出抑制が求められている。水質に対しては公共水域に環境基準は定められておらず、人の健康の保護に係る項目で要監視項目として0.002 mg/L 以下の指針値が定められ、水道法では要検討項目として目標値を同じ0.002 mg/L 以下としている。水質汚濁防止法で有害物質に指定されている。公共水域への排出基準は定められていないが、地下への浸透を防止しなければならない。地下水の環境基準は0.002 mg/L 以下とされている。土壌に対しても環境基準がある。土壌を10 %W/V になるように水に分散させたときの水中の濃度で0.002 mg/L 以下である。土壌汚染対策法では第1 種特定有害物質(揮発性有機化合物)に挙げられており、土壌溶出基準(溶出法は環境基準の検液調製に準じている)及び地下水基準が環境基準と同じ0.002 mg/L 以下に定められている。液体で輸送されるが、常温では液体でないので海洋汚染防止法の有害液体物質には該当しない。
ポリ塩化ビニル(PVC)は食品の容器等にも使われており、食品衛生法の規格基準がある。容器包装材の樹脂中にVCM 濃度が1 μg/g 以下、塗装した金属缶では溶出試験で溶出溶媒のエタノール中の濃度で0.05 μg/mL以下とされている。溶出試験は液体が充填できる形状であれば、その中に充填して測定する。そうでない場合は試料の表面積1 cm2 当たり2 ml の溶剤を用いることになっている。PVCやVCMを出発原料に含む樹脂は食品用器具・容器包装ポジティブリストにも挙げられている。特にこのリストで対象食品や使用温度制限は定められていない。かつてエアゾール製品の噴霧剤として使用されていたが、発がん性が認められて家庭用製品には使わないようにということで、有害家庭用品規制法でエアゾール中に検出されないという基準が設定されている。
図表5 塩化ビニルに関係する法規制
法律名 | 法区分 | 条件等 | ||
化学物質管理促進法 | 第1種指定化学物質 | ≧0.1% | 特定第1種(94*1) | |
労働安全衛生法 | 危険物‣可燃性のガス | 15℃1気圧で
可燃性の気体 |
(5) | |
名称等表示/通知物質 | ≧0.1% | (100*2) | ||
皮膚障害化学物質 | ≧1% | (特化則等) | ||
特殊健康診断対象物質 | >1% | 特定化学物質(3) | ||
特定化学物質
第2類物質 |
特定第2類物質、特別管理物質 | >1% | ||
作業環境評価基準 | 管理濃度 | (6) | ||
日本産業衛生学会
|
過剰発がん 生涯リスクレベル10-3 10-4 |
評価値
1.5ppm 0.15ppm |
2ppm | |
作業環境許容濃度 | ACGIH TLV | TWA 1ppm | ||
疾病化学物質
がん原性化学物質 |
*3
*4 |
|||
労働基準法 | 液化ガス | ≦35℃で≧0.2MPa | 0.334MPa(20℃) | |
高圧ガス保安法 | 可燃性ガス | 爆発限界≦10%又は
爆発範囲≧20& |
3.6%~33% | |
国連分類 | 2.1(引火性ガス) | |||
国連危険物輸送勧告 | 国連番号 | 1086 | ||
品名 | 塩化ビニル、安定剤入りのもの | |||
環境基本法(環境基準) | (指針値) | 指針値≦0.01mg/m3 | ||
大気 | 要監視項目(人の健康) | 公共用水域 | 指針値≦0.002mg/L | |
水質 | 環境基準 | 地下水 | ≦0.002mg/L | |
地下水 | 環境基準 | 土壌 | ≦0.002mg/L | |
土壌 | 揮発性有機化合物(VOC) | 排気 | 該当 | |
大気汚染防止法 | 有害大気汚染物質
優先取組物質 |
排気 | (3) | |
自主管理指針 | 排気 | (3) | ||
有害物質 | (27) | |||
水質汚濁防止法 | 要検討項目 | 目標値≦0.002mg/L | ||
水道法 | 第1種特定有害物質
(揮発性有機化合物) |
土壌溶出基準
地下水基準 |
≦0.002mg/L
≦0.002mg/L |
|
土壌汚染対策法 | ||||
食品衛生法
食品、添加物等規格基準 |
ポリ塩化ビニル製 | 材質 | ≦1µg/g | |
塗装金属缶 | 溶出*5 | ≦0.05µg/mL | ||
基ポリマー
添加剤 |
プラスチック
コーティング 微量モノマー
|
49 ポリ塩化ビニル等
4 ビニルポリマー 4(7)塩化ビニル 413 塩化ビニル主成分の重合体 |
||
食品用器具・容器包装ポジティブリスト*6 | 有害物質 | 家庭用エアゾル製品 | 不検出 | |
有害家庭用品規制法 |
*1: 2023年度より管理番号(政令番号は1-120)
*2: 2025年3月31日まで、4月以降は316
*3: 頭痛、めまい、嘔吐等の自覚症状、皮膚障害、中枢神経系抑制、レイノー現象*47、肢端骨溶解又は門脈圧亢進
*4: 肝血管肉腫又は肝細胞がん
*5: 溶出溶媒のエタノールを満たせる場合はその中に満たす。できない場合は試料とその表面積1cm2当たり2mlのエタノールを密閉容器に入れる。溶出条件は5℃で24時間
*6: 2025年6月1日以後ポジティブリストが改正される。ポリ塩化ビニルは「基材」の「塩素置換エチレンを主なモノマーとする重合体」に含まれ、塩化ビニルはその「必須モノマー」である。また、塩化ビニルは「イオン交換能及び吸着脳のうち1又は複数を有する重合体」の「任意の物質」及び「被膜形成時に化学反応を伴う塗膜用途の重合体」の「有機化合物;有機ハロゲン化合物」として記載されている。
*7:寒冷、精神的緊張等により血管収縮して起きる手指等の皮膚の蒼白化等の色調変化。さまざまな全身疾患の症状として現れる
( )内の数値は政令番号
6. 曝露等の可能性と対策
6.1 曝露可能性等
可燃性/ 引火性のガスで爆発・火災の危険性が高い。通常は加圧液化して貯蔵、運搬される。水があると塩化水素(塩酸)が生成するので、金属製の容器や配管が腐食、破損して漏洩や爆発に繋がるおそれがある。高温や金属類との接触で重合等の発熱反応が起こる。空気より重く、地面に沿って移動し、遠距離で爆発・火災の危険がある。通常、液体には安定剤(重合禁止剤)が添加されているが、気化した気体は安定化されていないので、排気設備内で重合して排気口を塞ぐことがある。
通常閉鎖系で取扱われるので取扱者への曝露のおそれは低いと考えられる。サンプリングや取扱い等の作業時に曝露するおそれがある。容器を開放すると、極めて急速に有害濃度に達する。液化ガスの場合、突発的な飛沫の飛散のおそれもある。皮膚に付着した場合凍傷のおそれもある。許容濃度を超えても臭気として感じにくい。空気より重いので、低いところに滞留して、吸入するおそれがある。消費者には直接は販売されていないので一般消費者が曝露するおそれはほとんどない。ポリ塩化ビニル等VCMを原料としたプラスチック製品中の残存モノマー濃度は低く管理されており、製品の取扱いで健康影響を受けるおそれは小さいと考えられる。通常の条件で取扱われていれば環境中への排出も少ないと考えられる。
6.2 曝露防止等
設備を密閉化し、遠隔操作で取扱う。直接曝露のおそれのある作業では、発生場所での局所排気及び全体換気を行う。取扱い場所や保管場所の近くでは火気厳禁。酸化剤や、銅、アルミニウム等の金属類との接触を避ける。機器類は防爆構造とし、設備は静電気対策を実施する。非定常時作業等一時的な対応の場合は、有機ガス用の吸収缶を用いた防毒マスクや送気マスク、空気呼吸器等を使用する。防毒マスクは特に少濃度、短時間の使用に限られる。吸収缶には限界(破過時間)があり、日常の管理も重要である。側板付き保護眼鏡又はゴーグル、保護衣、保護手袋を使用する。特に液体を取扱う際は皮膚や眼の保護具が必要である。
6.3 廃棄処理
都道府県知事等の許可を得た産業廃棄物処理業者に危険性、有害性を告知の上処理を委託する。焼却する場合、可燃性溶剤で希釈してアフターバーナー及びスクラバーを備えた焼却炉で少しずつ焼却する。塩素を含むので、有機塩素化合物が焼却できる焼却炉で、1,100 ℃以上の燃焼温度で焼却する。燃焼ガスに含まれる塩化水素等の回収・中和処理が必要である。
免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。