第36回 ジヒドロキシベンゼン
誌面掲載:2020年8月号 情報更新:2024年8月
免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。
1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)
1.1 化学物質名/ 別名
ジヒドロキシベンゼン(Dihydroxybenzene)は芳香族炭化水素の基本骨格であるベンゼン(Benzene:C6H6)の2 個の水素(H)がヒドロキシ基(水酸基、Hydroxy group: -OH)に置き換わったもので、化学式はC6H4 (OH)2 である。ベンゼンにヒドロキシ基が結合したフェノール(Phenol)の一種である。(炭化水素にヒドロキシ基が結合している場合、一般には「アルコール(alcohol)」と呼ばれるが、ベンゼン環の場合水溶液でヒドロキシ基が一部乖離して水素イオンを出し弱い酸性を示すので、アルコールと区別してフェノールと呼ばれる。) ヒドロキシ基の接頭語がヒドロキシ(hydroxy-)である。接尾語オール(-ol)を付けてベンゼンジオールともいえる。ヒドロキシ基の相対的な位置の違いで3 種類の異性体がある。隣接している場合、1,2- 又はオルソ(又はオルト、ortho, o-)、一つ挟んだ場合1,3- 又はメタ(meta,m-)、反対側の場合1,4- 又はパラ(para, p-)を付けて区別する。それぞれよく知られた慣用名がある。1,2- ジヒドロキシベンゼンはピロカテコール(Pyrocatechol)又はカテコール(Catechol)、1,3- ジヒドロキシベンゼンはレゾルシノール(レソルシノール、Resorcinol)又はレゾルシン(Resorcin)、1,4- ジヒドロキシベンゼンはヒドロキノン(ハイドロキノン、Hydroquinone)である。ピロカテコールは天然に存在するポリフェノールの一種のカテキン(Catechin)に由来している。ピロ(pyro-)は火や高熱を意味し、カテキンの熱分解物から得られたためついていたが、ピロがなくても同じものを指す。カテキンの一種はお茶の渋み成分としても知られる。カテキンは多くの類似物質の総称として使われるが、化学式(C15H14O6)で表される特定の物質(異性体を含む)を指すこともある。レゾルシノールのようにベンゼンの1, 3 位にヒドロキシ基を持つ物質も天然物中に存在し、レゾルシノールはその物質の分解で生ずる。カテキン、レゾルシンはドイツ語名由来である。ヒドロキノンはキノン(Quinone)に水素(接頭語としてはヒドロ、Hydro-)が結合していることを示している。キノンは一般にはベンゼン環に二つのケトン(Ketone, >C=O)を持つ物質を指すが、ヒドロキノンのキノンは特にp- ベンゾキノン(p-Benzoquinone, CASNo. 106-51-4)を指す。ヒドロキノンはp- ベンゾキノンを還元して得られ、2 個のケトン基(>C=O)が2 個ともヒドロキシ基(≽ C-OH)になっている。
図表1 ジヒドロキシベンゼンの特定
名称 | 1,2-ジヒドロキシベンゼン
1,2-Dihydroxybenzene |
1,3-ジヒドロキシベンゼン
1,3-Dihydroxybenzene |
1,4-ジヒドロキシベンゼン
1,4-Dihydroxybenzene |
慣用名 | カテコール
Catechol |
レゾルシノールResorcinol | ヒドロキノン
Hydroquinone |
別名 | o-ジヒドロキシベンゼン
o-Dihydroxybenzene ベンゼン-1,2-ジオール Benzene-1,2-diol 1,2-ベンゼンジオール 1,2-Benzenediol ピロカテコール Pyrocatechol ピロカテキン Pyrocatechin |
m-ジヒドロキシベンゼン
m-Dihydroxybenzenee ベンゼン-1,3-ジオール Benzene-1,3-diol 1,3-ベンゼンジオール 1,3-Benzenediol レゾルシン Resorcin |
p-ジヒドロキシベンゼン
p-Dihydroxybenzene ベンゼン-1,4-ジオール Benzene-1,4-diol 1,4-ベンゼンジオール 1,4-Benzenediol ハイドロキノン |
化学式 | C6H6O2, C6H4(OH)2 | C6H6O2, C6H4(OH)2 | C6H6O2, C6H4(OH)2 |
CAS No. | 120-80-9 | 108-46-3 | 123-31-9 |
化学物質審査規制法(化審法)
労働安全衛生法(安衛法) |
3-543*1 | 3-543*1
5-5000*2 |
3-543*1 |
EC No. | 204-427-5 | 203-585-2 | 204-617-8 |
REACH | 01-2119515921-43-xxxx | 01-2119480136-40-xxxx | 01-2119524016-5-xxxx |
国連番号 | 2811 | 2876 | (3082) |
*1: 化審法番号3-543の官報公示名称はジヒドロキシベンゼン(Dihydroxybenzene)で、CAS No. 12385-08-9がある。
*2: ヘアカラーなどに用いられる酸化染料のカラーインデックス(C.I.) オキシデーションベース31(Oxidation Base 31)として登録された物質で、レゾルシノールと同じ物質である。
1.2 CAS No.、化学物質審査規制法(化審法)、労働安全衛生法(安衛法)官報公示整理番号、その他の番号
化審法官報公示整理番号3-543 はジヒドロキシベンゼンという名称で登録されており、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンは全てこれに含まれる。安衛法は既存物質とし化審法番号で公表されているので区別はない。化審法番号5-5000 はカラーインデックス(C.I.) オキシデーションベース31(Oxidation Base31)という染料であるが、化学物質としてはレゾルシノールと同じ物質である。化審法が施行されたとき既存化学物質として別々に届け出られたためと考えられる。CAS No. やEU のEC No. REACH の登録番号はカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンそれぞれ別の番号がある。CAS No. にはヒドロキシ基の相対位置の区別のない「ジヒドロキシベンゼン」で12385-08-9 がある。
2. 特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)
2.1 物理化学的性質(図表2, 3)
ジヒドロキシベンゼンの異性体の物理的化学的性質は似ている。いずれも室温では無色~白色の結晶性固体である。カテコール、レゾルシノールは特徴的な臭いがあるが、ヒドロキノンはほとんど臭いがない。密度はほぼ同じ約1.3 g/cm3 と水より重い。蒸気の重さはどれも空気の約3.8 倍である。ヒドロキノンは融点、引火点が高い。いずれも水に溶解するが、溶解度はレゾルシノールが最も高く水とほぼ混和し、ヒドロキノンが最も低い。水溶液は弱い酸性を示す。n- オクタノール/ 水分配係数log Pow は1 より小さく、生物濃縮性はないと考えられる。カテコールは空気及び光に曝露すると茶色になる。レゾルシノールは空気や光に曝露したり、鉄と接触したりするとピンク色になる。酸化剤や塩基性物質と反応し、火災や爆発の危険がある。
図表2 ジヒドロキシベンゼンの主な物理化学的性質(ICSC による)
物理化学的性質 | カテコール | レゾルシノール | ヒドロキノン |
融点(℃) | 105 | 110 | 172 |
沸点(℃) | 245.5 | 280 | 287 |
引火点(℃) | 127 | 127 | 165 |
発火点(℃) | 510 | 607 | 515 |
爆発限界(vol %) | – | 1.4~? | – |
蒸気密度(空気=1) | 3.8 | 3.8 | 3.8 |
密度(g/cm3)/比重(水=1) | 1.3 | 1.28 | 1.3 |
水への溶解度(g/100ml) | 43(20℃) | 140 | 5.9(15℃) |
n-オクタノール/水分配係数(log Pow) | 0.88 | 0.79~0.93 | 0.59 |
図表3 ジヒドロキシベンゼンのGHS分類(NITE による)
GHS分類 | カテコール | レゾルシノール | ヒドロキノン |
物理化学的危険性 | |||
引火性液体 | 対象外 | 対象外 | 対象外 |
可燃性固体 | – | – | – |
金属腐食性 | – | – | – |
健康有害性 | |||
急性毒性(経口) | 3 | 4 | 4 |
急性毒性(経皮) | 3 | 区分外 | 区分外 |
急性毒性(吸入) | – | 区分外(粉塵) | – |
皮膚腐食/刺激性 | 2 | 2 | 区分外 |
眼損傷/刺激性 | 1 | 2A | 1 |
皮膚感作性 | 1 | 1B | 1 |
生殖細胞変異原性 | 2 | – | 1B |
発がん性 | 1B | – | 2 |
生殖毒性 | 2 | 区分外 | 区分外 |
特定標的臓器(単回) | 1(中枢神経系)
3(気道刺激性) |
1(中枢神経系、血液系) | 1(中枢神経系) |
特定標的臓器(反復) | – | – | 2(腎臓、肝臓) |
誤えん有害性 | – | – | – |
環境有害性 | |||
水生環境有害性(短期/急性) | 2 | 1 | 1 |
水生環境有害性(長期/慢性) | 区分外 | 区分外 | 1 |
オゾン層への有害性 | – | – | – |
2.2 有害性(図表3, 4)
ジヒドロキシベンゼンはベンゼンに2 個のヒドロキシ基(フェノール性のOH基)が結合しているという共通点から、有害性も類似している。
体内には主にエアロゾルの吸入や経皮吸収、経口摂取により取り込まれる。その後、代謝物に変化して尿中に排泄される。飲み込んだ場合は有害である。皮膚や気道を刺激する。眼に対しては回復しない重篤な影響を及ぼす。アレルギー性皮膚反応を起こすおそれがある。曝露により、痙攣などの中枢神経系に影響を及ぼす。
カテコールは経口摂取や経皮吸収による急性毒性が高い。呼吸機能低下、痙攣、呼吸不全を生ずることがある。レゾルシノールは飲み込むと有害であるが、経皮や吸入では急性毒性それほど高くはない。ヒトの中毒事故例があり、中枢神経障害(眩暈や痙攣、意識喪失等)のほか、血液に影響(赤血球の変化等)を及ぼす。ヒドロキノンはヒトでの中毒症状として痙攣、昏睡など中枢神経系に影響を及ぼす。長期的な曝露で肝臓や腎臓の障害を引き起こすおそれがある。
カテコールはヒトの生殖細胞に、遺伝性の遺伝子損傷を引き起こすことがある。ヒトで発がん性が認められている。ヒドロキノンも発がん性である可能性があるが、レゾルシノールはその可能性は低い。カテコールは生殖機能や生まれる子に影響を及ぼすことがある。
2.3 環境有害性(図表2, 3)
ジヒドロキシベンゼンは水生生物に対しいずれも有害性があるが、生分解性があり、生体蓄積性は低い。カテコール及びレゾルシノールは水生生物に対し有毒であるが、長期的な影響は小さいと考えられる。これに対しヒドロキノンは水生生物に対する毒性が強く、長期的な試験でも非常に強い毒性を示す。
図表4 ジヒドロキシベンゼンの発がん性評価
カテコール | レゾルシノール | ヒドロキノン | |
IARC | 2B | 3 | 3 |
日本産業衛生学会 | 第2群B | – | – |
ACGIH | A3 | A4 | A3 |
EU(CLP) | 1B | – | Carc. 3 (Category 2) |
IARC: Group 2B: Possibly carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性を示す可能性がある)
Group 3: Not classifiable as to its carcinogenicity to humans
(ヒトに対する発がん性について分類できない)
日本産業衛生学会 第2群B: 証拠十分とは言えないが、ヒトに対しておそらく発がん性があると判断できる
ACGIH A3: Confirmed animal carcinogen with unknown relevance to humans
(ヒトとの関連が不明な動物発がん性が確認されている)
A4: Not classifiable as a human carcinogen
(ヒト発がん性物質として分類できない)
EU (CLP=GHS) Category 1B: Presumed to have carcinogenic potential for humans
(ヒトに対しておそらく発がん性がある)
(67/548/EEC) Carc. 3: Possible human carcinogenic, but insufficient information
(ヒト発がん性が疑われるが証拠が十分ではない)
(CLP = GHS) Category 2: Suspected human carcinogens (ヒトに対する発がん性が疑われる)
3. 主な用途
カテコールは重合禁止剤、香料、抗酸化剤、医薬品・農薬の合成原料等に使用される。レゾルシノールはホルムアルデヒドと反応して樹脂化することから接着剤の成分として使われる。主にタイヤ、ベルト(ベルトコンベア、駆動ベルト等)、ゴム引布等のゴムと補強用繊維との接着や木材の接着用途に使われる。難燃剤、紫外線吸収剤の原料、殺菌剤、蛍光染料等の合成原料として使われる。空気中で酸化して褐色に着色することから酸化染料として染毛剤に使われる。外皮用医薬品(ニキビ、乾癬治療)やピーリング剤の用途もある。ヒドロキノンは写真の現像液、重合禁止剤及びその原料、化学物質の合成原料に使用される。また肌のシミ取りなど美白剤として医薬品・医薬部外品・化粧品に使われる。
4. 事故などの例
・ レゾルシノール製造設備で爆発死亡事故が発生した。他装置の不具合に伴い酸化反応器も緊急停止し、インターロックが作動していたが、反応停止のための冷却が不充分だった。冷却効果を上げようとしてインターロックを解除したところ、反応器内の撹拌が不充分となって上部の温度が上昇した。その上部で反応が暴走、温度、圧力が急激に上昇して、反応器が爆発・火災となった。死者1名、周辺住民を含め重軽傷者25 名。レゾルシノールの製造工程で中間生成物に爆発性の過酸化物が生成する酸化反応が含まれる。反応量増加のために酸化反応器の設計変更を行ったとき、安全性の検討、緊急停止マニュアル、過酸化物に関する知識などが不充分だった。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/pdf/hoan_pdf/002_03_02.pdf)
・ レゾルシノール保管用タンクで火災が発生した。停止していたプラントの再稼働のために、レゾルシノールが固化しないよう高温蒸気で温めていた際に出火したと考えられる。
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/53/5/53_347/_pdf/-char/ja)
・ ヒドロキノンやヒドロキノン含有写真現像剤の誤飲や自殺目的での経口摂取による中毒例がある。中毒の主な徴候として、暗色尿、嘔吐、腹部疼痛、頻脈、振戦(ふるえ)、痙攣、昏睡がある。死亡例もある。
(https://www.nihs.go.jp/hse/ehc/sum1/ehc157.html)
(https://www.env.go.jp/chemi/report/h18-12/pdf/chpt1/1-2-2-21.pdf)
・ 上記のほか、脱色剤としてヒドロキノンを含むクリームを使用して紅斑、白斑を生じた例や、2 年以上の職業曝露で角膜や結膜の変色が認められた例等が紹介されている。
(https://www.cerij.or.jp/evaluation_document/hazard/F99_19.pdf)
5. 主な法規制(図表5)
カテコール、ヒドロキノンは化学物質審査規制法(化審法)で、優先評価化学物質に指定されている。化審法は全ての化学物質を対象にし、そのリスクを評価して、リスクに基づいて管理しようとしている。まだ評価されていない物質のうち、リスクの懸念があるため、評価を優先的に行う物質である。このために製造・輸入者は毎年前年度の製造・輸入量を経済産業大臣に届け出ることになっている。化学物質管理促進法でも第1 種指定化学物質なので、環境中への排出量等を報告(PRTR)しなければならない。またそのために0.1 %以上含む製品を提供(販売、譲渡)するときはその危険有害性や取扱いに関する情報を記した文書(SDS)を提供しなければならない。
労働安全衛生法で3 物質とも名称等通知及び表示対象物に指定されている。0.1 % 以上含まれている製品を提供する際にSDS の情報提供が必要で、カテコール、レゾルシノールは1 % 以上、ヒドロキノンは0.1%以上で容器等へのラベル表示が必要である。GHS分類で眼損傷性、皮膚感作性などから3物質とも皮膚等障害化学物質とされ、保護眼鏡、不浸透性の保護衣、保護手袋等適切な保護具を使用しなければならない。裾切値は、レゾルシノールは1%だが、カテコールは発がん性、ヒドロキノンは生殖細胞変異原性でGHS区分1Bのため0.1%である。作業環境評価基準は定められていないが、屋内作業場での濃度基準値がレゾルシノールは10ppm、ヒドロキノンは1mg/m3に設定されているので、8時間の加重平均濃度をこれ以下にしなければならない。作業環境許容濃度としては日本産業衛生学会がヒドロキノンで60 mg/m3 に設定している。ACGIH はTLV(Threshold Limit Value)としてカテコールのTWA(Time-Weighted Average)を5 ppm、レゾルシノールのTWA を10 ppm及びSTEL(Short-Term Exposure Limit)を20 ppm、ヒドロキノンのTWA を1 mg/m3 に設定している。労働基準法でレゾルシノールとヒドロキノンは疾病化学物質とされており、業務上の取扱いでレゾルシノールは皮膚障害、前眼部障害又は気道障害、ヒドロキノンは皮膚障害を生じた場合、雇用者は療養、休業等に対する補償を行わなければならない。
毒物劇物取締法でカテコール、レゾルシノールは製剤(混合物)も含めて劇物に指定されている。製造・販売には登録が必要で、取扱う場合も厳重な管理が必要である。ただし、レゾルシノール濃度が20 % 以下の混合物は劇物から除外されている。
消防法の危険物ではない。カテコールは有害物質(毒物劇物取締法の劇物)のため、消防活動を阻害するおそれがあるということで貯蔵等の届出を要する物質に挙げられている。
国連危険物輸送勧告でレゾルシノールはレソルシノール(RESORCINOL)という品名で国連番号2876 があり、国連分類はクラス6.1(毒物)である。容器等級はⅢである。カテコール、ヒドロキノンはともに個別の品名での国連番号はない。しかし、カテコールは急性毒性が国連分類のクラス6.1(毒物)の基準(急性毒性の経口、経皮曝露の場合GHS区分と国連分類の容器等級と同じ基準)を超えており、「その他の毒物、固体、有機物、他に品名が明示されていないもの」(TOXICSOLID, ORGANIC, N.O.S.)という品名の国連番号2811 に該当する。ヒドロキノンは国連分類6.1(毒物)などクラス1 ~ 8 のいずれにも該当しないが、水生生物への有害性が国連分類のクラス9(環境有害物質)に該当する。クラス9 の環境有害物質の基準はGHSの環境有害性(急性毒性区分1、長期毒性区分1, 2)の基準と同じである。固体なので国連番号3077、品名は「環境有害物質、固体、他に品名が明示されていないもの」(ENVIRONMENTALLY HAZARDOUS SUBSTANCE,SOLID, N.O.S.)、容器等級はⅢである。クラス9 の環境有害物質は、海洋汚染物質に該当する。
図表5 ジヒドロキシベンゼンに関係する法規制
法律名 | 法区分 | 条件等 | カテコール | レゾルシノール | ヒドロキノン |
化学物質審査規制法 | 優先評価化学物質 | (65) | – | (203) | |
化学物質管理促進法 | 第1種指定化学物質 | ≧1% | (343*1) | – | (336*1) |
労働安全衛生法 | 変異原性物質 | >1% | – | – | (175) |
名称等表示/通知物質 | (128*2) | (629*2) | (461*2) | ||
表示 | ≧1% | ≧1% | ≧0.1% | ||
通知 | ≧0.1% | ≧0.1% | ≧0.1% | ||
濃度基準値設定物質 | – | 10ppm | 1mg/m3 | ||
皮膚障害化学物質 | ≧0.1%
(皮膚刺激性/吸収性) |
≧1%
(皮膚刺激性) |
≧0.1%
(皮膚刺激性/吸収性) |
||
労働基準法 | 疾病化学物質 | – | *3 | *4 | |
作業環境許容濃度 | 日本産業衛生学会 | – | – | 10ppm
(60mg/m3) |
|
ACGIH TLV | TWA 5ppm | TWA 10ppm
STEL 20ppm |
TWA 1mg/m3 | ||
毒物劇物取締法 | 劇物 | (83の2)含製剤 | (108) >20% | ||
消防法 | 貯蔵届出要物質 | (61) 含製剤 | – | – | |
国連危険物輸送勧告 | 国連分類 | 6.1 | 6.1 | 9 | |
国連番号 | 2811 | 2876 | 3077 | ||
品名 | *5 | レソルシノールRESORCINOL | *6 | ||
容器等級 | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | ||
海洋汚染物質 | – | – | ○ | ||
大気汚染防止法 | 揮発性有機化合物(VOC) | 排気 | ○ | ○ | ○ |
有害大気汚染物質 | 排気 | (41) | – | (172) | |
環境基本法 水質 | 要監視項目(水生生物) 公共用水域 |
*7 |
*7 |
– |
|
要調査項目 | (151)(人, 環境) | – | (145)(環境) | ||
水質汚濁防止法 | 排水基準
指定物質 |
*8
(フェノール類) |
*8
(フェノール類) |
–
(フェノール類) |
|
下水道法 | 排水基準 | *8 | *8 | – | |
食品衛生法 | 食品添加物 | 既存添加物(カテキン) | – | – | |
食品用器具・容器包装ポジティブリスト | 基ポリマー(コーティング) | 5.フェノール・ホルムアルデヒド共重合体*9 |
*1: 2023年度より管理番号、政令番号はそれぞれ1-387, 1-381
*2: 2025年3月31日まで。以後の政令番号はそれぞれ401, 2271, 1644
*3: 皮膚障害、前眼部障害または気道障害
*4: 皮膚障害
*5: 個別の品名での国連番号はないが、包括品名で国連番号2811がある。
品名は「その他の毒物、固体、有機物、他に品名が明示されていないもの」
(TOXIC SOLID, ORGANIC, N.O.S.)
*6: 個別の品名での国連番号はないが、環境有害性物質(GHS区分1)として固体の場合国連番号3077がある。品名は「環境有害物質、固体、他に品名が明示されていないもの」
(ENVIRONMENTALLY HAZARDOUS SUBSTANCE, SOLID, N.O.S.)
*7: フェノール(ベンゼン環にヒドロキシ基(-OH)が結合)としての基準値がある。低温淡水域で0.05mg/L以下、温暖淡水域で0.08mg/L以下、産卵、幼稚魚生育水域で0.01mg/L以下、海域で2mg/L以下、幼稚魚生育水域で0.2mg/L以下である。
*8: フェノール類として排水基準許容限度が5mg/Lである。
*9: 5.フェノール・ホルムアルデヒド共重合体の出発物質にカテコール、1,3-ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキノンが記載されている。ヒドロキノンはこのほかエポキシポリマー等の出発物質や添加剤にも記載がある。
2025年6月1日以後はポジティブリストが整理され、「基材」の「被膜形成時に化学反応を伴う塗膜用途の重合体」の原料物質にカテコール、1,3-ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキノンが記載されている。他に1,3-ジヒドロキシベンゼンは「カーボネート結合を主とする重合体」及び「イオン交換能及び吸着能のうち一又は複数を有する重合体」の「任意の物質」、ヒドロキノンは「エーテル結合を主とする重合体」及び「エステル結合を主とする重合体」の「必須モノマー」の一つとして記載されている。
環境に対して、ジヒドロキシベンゼンに環境基準は設定されていない。大気汚染防止法では揮発性有機化合物(VOC)とされている。カテコール、ヒドロキノンは、大気中に排出されたとき人の健康を損なうおそれがあるとして環境省が挙げた248 物質に含まれている。水質に関して、「要監視項目」の水生生物の保全に係る項目に「フェノール」(Phenol)がある。このフェノールの濃度は4- アミノアンチピリンという物質との反応による着色で測定しており、フェノールだけでなく、この反応で着色する物質も含まれることになる。カテコールやレゾルシノールも少し着色するので、フェノール濃度に寄与する。ヒドロキノンはこの反応では着色しないと考えられている。水質汚濁防止法及び下水道法の排水基準の「フェノール類」も同じ測定方法に基づいている。水質汚濁防止法の指定化学物質にも「フェノール類」が挙げられている。カテコールやヒドロキノンは水系の環境影響のおそれがあるとして「要調査項目」に挙げられている。水道法の水質基準にある「フェノール類」は、臭気のためでフェノール及び消毒塩素と反応して生ずるクロロフェノール類が対象で測定方法も異なり、ジヒドロキシベンゼンは対象になっていないと考えられる。
食品衛生法の「既存添加物」に「カテキン」があり、カテコールもこれに含まれていると考えられる。ジヒドロキシベンゼンを原料の成分に含むフェノール樹脂は食品に接触する器具や容器・包装に使われることがある。食品用器具・容器包装ポジティブリスト基ポリマーのコーティングの表にある「フェノール・ホルムアルデヒド共重合体」がこれに該当する。2025年6月1日以後はポジティブリストが整理され、これは「基材」の「被膜形成時に化学反応を伴う塗膜用途の重合体」と記載されている。
医薬品、医薬部外品、化粧品などの用途に使用する場合は薬機法の基準がある。
6. 曝露などの可能性と対策
6.1 曝露可能性等
可燃性で、粉末や顆粒状の場合、空気との混合で粉塵爆発のおそれがある。固体状態では人体内への曝露は限定的であるが、溶融液体や溶液、粉末での使用では、ミストや粉塵の吸入、皮膚、眼への曝露のおそれがある。通常閉鎖系で取扱われるので、作業者が曝露するおそれは低いが、計量、配合、サンプリング、移し替え、設備のメンテナンス等の作業の際に曝露するおそれがある。ハイドロキノンは写真の現像液に含まれていて、一般消費者でも曝露のおそれがある。
6.2 曝露防止等
密閉された設備で取扱う。サンプリングなど曝露のおそれのある作業の場合はプッシュプル型の換気、蒸気発生源付近の局所排気を行う。粉塵の発生を抑え、堆積を防ぐ。こぼれた場合、湿らせてもよければ湿らせてから掃き集める。火花を発生しない工具を使用し、設備等はアースをとる。粉塵防爆型の電気機器、設備、装置を設置する。個人の曝露防止には、ゴーグル等の保護眼鏡、粒子用フィルター付き防毒マスク又は空気呼吸器、保護手袋、帯電防止の保護衣、安全靴を使用する。医薬品、医薬部外品、化粧品などに含まれている場合は、その用法、用量を厳守する。異常があれば医師の診察、手当てを受ける。
6.3 廃棄処理
都道府県知事などの許可を得た産業廃棄物処理業者にマニュフェストを付けて処理を委託する。焼却する場合、少量ずつ、アフターバーナー及びスクラバーを備えた焼却炉で焼却する。水生生物に有害だが、生分解性があるので、希薄な水溶液であれば活性汚泥処理も可能と考えられる。
免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。