第1回_米国TSCAで、米国へ輸出(成形品)する際に当局には、含有もしくは非含有を報告しなければならないでしょうか?また報告が必要な場合、その方法は決まっていますでしょうか?
米国有害物質規制法(TSCA: Toxic Substances Control Act 1) )では、商業目的で新規化学物質を製造する場合、製造者は製造前の届出(PMN:Pre-Manufacture Notice)が必要ですが、成形品はPMNを要求されていません。しかし、第5条(§2604)で、化学物質を米国環境保護庁(EPA:U.S.Environmental Protection Agency)の定める重要新規利用(SNU:Significant New Use)のために製造、輸入、加工しようとする者に対し、その90日前に重要新規利用届(SNUN: Significant New Use Notice)の提出を求めることができる、としています。これは重要新規利用規則(SNUR: Significant New Use Rule)と言われていますが、成形品の輸入・加工を行う場合、この規則が適用される場合があります。
また、第6条(§2605)で加工、流通が禁止されているPBT(難分解性、高蓄積性、毒性)を有する物質を含む成形品は、PBT非含有宣言をする必要はありませんが、輸入業者等から非含有を証明するよう求められることが想定されます。以下にこれらの規則について概説します。
【SNURの概要】
TSCA第5条(§2604)のsubsection(a)のparagraph (1)(A)(ⅱ)と(B)で、SNUとして決定した要件で化学物質の加工や製造をする場合、90日前までにEPAに届出しなければならないとしています。SNUとして決定する要件として、paragraph (2)で以下の4つの全てを考慮するとされています。
(A)化学物質の製造、加工の計画量
(B)使用が人や環境へのばく露の状況、状態をどの程度変化させるか
(C)使用が人や環境へのばく露の規模や期間をどの程度増加させるか
(D)化学物質の製造、加工、商業的流通、廃棄で合理的に予想される方法
また、paragraph (5)で(2)に基づく規定で、化学物質への合理的なばく露の可能性を正当化できる場合は、EPAは成形品の一部としての化学物質の加工、輸入について届出を要求することができる、としています。
詳細の手順は連邦州規則集(CFR:Code of Federal Regulations)のTitle40/ChapterⅠ/Subchapter R/Part721 2) に記載されています。この§721.45(f)で成形品のSUNR免除規定がありますが、subpartE(Significant New Uses for Specific Chemical Substances)で示された特定化学物質のSNUで、成形品も届出が必要な場合があります。
SNUNは、PMNを報告するシステムであるe-PMNでEPAに報告することができます。ただし、EPAは提出前に事前に相談することを推奨しています。EPAのホームページではTSCAに関するホットラインも公表されています(tsca-hotline@epa.gov or 202/554-1404)。
【PBTの規制】
2021年1月の官報で、TSCAの第6条(§2605)のsubsection(h)に基づきPBTを有する以下の5物質に対しての規制が公示されました。
・DecaBDE(デカブロモジフェニルエーテル)
・HCBD(ペルクロロブタ-1,3-ジエン)
・PCTP(ペンタクロロベンゼンチオール)
・PIP (3:1)(リン酸トリアリールイソプロピル化物)
・2,4,6-TTBP(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール)
このうち2,4,6-TTBP以外の4物質は、それらを含む成形品の製造、輸入、加工が禁止されています。米国での輸入品のTSCA適合証明は、米国税関・国境保護局(CBT)の規則で、有害化学物質の輸入に関して証明書(ネガティブ証明、ポジティブ証明)を提出することを求められています。しかし成形品に関しては、殺虫剤、食品、医薬品、放射性物質など他の法律で規制されている製品を除き、証明書の提出は不要です。但し、上記のとおりPBT4物質を含む成形品は加工、流通が禁止されているため、輸入業者からTSCA適合の証明を求められることが想定されるので、準備が必要です。
<参考文献>
1)TSCA:
http://uscode.house.gov/view.xhtml?path=/prelim@title15/chapter53&edition=prelim
2)Part21:
https://www.ecfr.gov/current/title-40/chapter-I/subchapter-R/part-721
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。