第92回_EUの環境法の動向(その2)

第90回に続いて、ライエン委員長の政策を解説します。

1.2019-2024年のEUグリーンディールについて

EUグリーンディールは、2019年12月11日にCOM(2019) 640 final“COMMUNICATION FROM THE COMMISSION-The European Green Deal”(*1)として告示されました。
EUグリーンディールの包括的な目標は、EUが2050年までに世界初の「気候中立ブロック」になることである。その目標は、建設、生物多様性、エネルギー、輸送、食品など、さまざまな分野に広がっています。
EUグリーンディールは、2050年気候中立が目標ですが、目標の根拠は「EUグリーンディールは、EU及びその市民のために定めるものである」としています。
EUグリーンディールの実行計画(Action Plan)として、2020年3月11日にEU委員会からEU議会、EU理事会、EU経済社会委員会、地域委員会への通知「新循環経済行動計画-よりクリーンで競争力のあるヨーロッパへ」(*2)が公表されました。
Action Planでは、設計と生産をターゲットとした4項目について、法案の作成など示されています。4項目は持続可能な製品(sustainable products)の上市を要求するものです。

1.1 持続可能な製品

〇EU域内に上市される製品の長寿命化
〇容易な再利用・修理・リサイクル化
〇リサイクル材の使用
〇使い捨ての制限や売れ残り耐久消費財の廃棄の禁止

1.2 消費者の権利強化

〇消費者が製品の修理可能性や耐久性などに関する情報にアクセスできる
〇消費者が持続可能性に配慮した製品が選択をできる。
〇消費者が修理する権利を享受できる。

1.3 循環型モデルへの移行の可能性が高い資源集約型産業の施策

〇電子・情報通信機器
・製品の長寿命化と廃棄物のリサイクルの改善に向けた「循環型電子機器イニシアチブ」

〇バッテリーおよび車両
・バッテリーの持続可能性向上と循環型モデルへの移行

〇包装
・過剰包装の削減と包装の要件

〇プラスチック
・リサイクル材料の含有量要件
・マイクロプラスチック
・生物由来・生分解性プラスチック

〇繊維
・繊維産業の競争力とイノベーションの強化
・ 繊維の再利用を促進するEU繊維戦略

〇建設・建物
・建築環境の持続可能性の包括的な戦略

〇食品
・食品使い捨て包装・食器の再利用可能な製品への置き換え

1.4 ごみ削減

ごみの発生抑制と、2次原材料への加工のためのごみ分別とラベリングのEU共通モデルの策定
持続可能な製品の上市は設計段階が重要として、Action Planで以下の説明をしています。

製品の環境への影響の最大80%が設計段階で決定される一方で、「取る-作る-使う-捨てる」という直線的なパターンは、製品をより循環的にするための十分なインセンティブを生産者に提供しません。

多くの製品はあまりにも早く故障し、容易に再使用、修理、またはリサイクルできず、多くが一回限りの使用を目的として作られています。
同時に、単一市場は、EU が製品の持続可能性に関する世界基準を設定し、世界中の製品設計とバリュー チェーン管理に影響を与えることを可能にする重要な基盤を提供します。

設計と生産をターゲットですが、消費者保護と消費者をいかに巻き込むかが課題で、2019年の「消費者保護法現代化指令」((EU)2019/2161)(*3)で、それまでの消費者保護4指令を改訂し、消費者諸法規を強化しました。この指令は、2018年の「消費者のためのニューディール」(COM(2018) 183 final)(*4)の一環として制定されたものです。

また、EUグリーンディールによる消費者エンパワーメント強化を定め、消費者がグリーンおよびデジタルへの移行において積極的な役割を果たせるように、「消費者の権限強化とより良い保護の確保のための新しい消費者アジェンダ」(*5)を2020年に示しました。直近では、「消費者保護と環境保護を高いレベルで維持しつつ、域内市場の適切な機能に貢献し、グリーン移行を進展させるためには、消費者が十分な情報を得た上で購入を決定し、より持続可能な消費パターンに貢献できることが不可欠である。」として、2024年3月6日に、「不正行為に対するより良い保護とより良い情報を通じて消費者にグリーン移行の権限を与える指令」(EU)2024/825(*6)が告示されました。
2019-2024年EUグリーンディールは、5年間の経過による情勢変化で、2024-2029年Action Planは見直しされると思います。しかし、基本な考え方は変わらないと思います。

2. EUグリーンディールの先行規制法について

2019年に発表されたEUグリーンディールは、当初なかなか理念は理解できるものの企業としての対応が理解できなく、また、Action Planが求める「持続可能な製品」の要求項目はどこまで対応すべきか悩ましいところです。「持続可能な製品」の具体化要求規制法が先行モデル的に公布されています。

2.1 GPSR

一般製品安全規則((EU)2023/988 General Product Safety Regulation :GPSR)(*7)は、食品以外の消費者向け製品に広く適用されます。GPSRは前文108文節、11章52条項、附属書1で構成されています。

消費者保護は消費者の健康、安全、経済的利益の保護と域内自由市場の達成のために、加盟国での差異の無い高度な取り組みが行われます。
経済事業者(製造者、輸入者、販売者等)は、安全な製品のみを市場に出す義務があります。高いレベルの安全性は、主として、製品の意図された予見可能な使用及び使用条件を考慮した上で、製品の設計及び特徴を通じて達成し、残りのリスクは、警告や指示のような特定の安全対策によって軽減しなくてはなりません。

2.2 電池規則

電池規則((EU)2023/1542)(*8)は、有害物質規制、リサイクル義務、リサイクル材使用義務、カーボンフットプリントや電池パスポートなどが要求しています。前文143文節、14章96条項、附属書15で構成されています。

対象となる電池は、携帯用電池、始動用電池、照明用電池、点火用電池、輸送用電池(LMT電池)、自動車用電気電池、産業用電池です。
製品に組み込まれる、または製品に追加される、または製品に組み込まれる、または製品に追加されるように特別に設計された電池にも適用されます。

2.3 エコデザイン規則

エコデザイン要件を設定するための枠組規則((EU)2024/1781)(*9)は、この規則は、持続可能な製品を標準にし、製品のライフサイクル全体にわたる全体的な炭素フットプリントと環境フットプリントを削減し、持続可能な製品の域内市場における自由な移動を確保するために、製品の環境持続可能性を向上させることを目的として、製品を市場に投入または使用するために製品が準拠しなければならないエコデザイン要件を設定するための枠組みを確立します。
また、デジタル製品パスポートも確立され、義務的なグリーン公共調達要件の設定が規定され、売れ残った消費者向け製品が破棄されるのを防ぐ枠組みも構築します。
従来のErP指令が大幅に拡大されて、部品や中間製品を含めて上市されるまたは使用されるあらゆる物理的物品に適用されます。
前文122文節、14章80条項、附属書8で構成されています。

2.4 包装材規則案

包装および包装廃棄物指令((EC)94/62)(*10)を改正する新包装材規則が提案されて議会、理事会で審議されています。議会の第一読会が終わり、修正経緯が議会Webページ(*11)で公開しています。包装材料に関する要件として、市場に流通する包装は、包装材料の組成における懸念物質の存在と濃度、およびマイクロプラスチックに関連する環境への悪影響を最小限に抑えるように製造される必要があります。食品包装材のビスフェノールA(BPA)やPFAS使用制限がされます。
すべての包装(軽量木材、コルク、繊維、ゴム、セラミック、磁器、ワックスを除く)は、厳しい基準を満たすことでリサイクル可能でなければなりません。
プラスチック包装のリサイクル含有量の最小目標と、包装廃棄物の重量によるリサイクルの最小目標も含まれています。前文190文節、8章71条項、附属書13で構成されています。

最近のEU法は、前文が膨大になっている気がします。立案時の意見募集(Have your say)(*12)や草案に寄せられた意見などについて、EUグリーンディールやAction Planの主旨から立法背景を説明しているようです。ご紹介した4規制法の前文を読み、EUグリーンディールやAction Planを改めて見返すと、今後の法規制の潮流が見えてくると思えます。

(一社)東京環境経営研究所 松浦 徹也 氏

引用

*1:”COMMUNICATION FROM THE COMMISSION-The European Green Deal”COM(2019) 640 final
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52019DC0640
*2:「新循環経済行動計画-よりクリーンで競争力のあるヨーロッパへ」
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52020DC0098
*3:消費者保護法現代化指令(EU)2019/2161)
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2019/2161/oj
*4:消費者のためのニューディールCOM(2018) 183 final
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52018DC0183
*5:新しい消費者アジェンダ
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/api/files/document/print/en/ip_20_2069/IP_20_2069_EN.pdf
*6:不正行為に対するより良い保護とより良い情報を通じて消費者にグリーン移行の権限を与える指令(EU)2024/85
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2024/825/oj
*7:一般製品安全規則(GPSR)
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/988/oj
*8:電池規則(EU)2023/1542
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02023R1542-20230728
*9:エコデザイン要件を設定するための枠組規則(EU)2024/1781
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex%3A32024R1781
*10:包装および包装廃棄物指令(EC)94/62
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex%3A31994L0062
*11:議会Webページ
https://oeil.secure.europarl.europa.eu/oeil/popups/ficheprocedure.do?lang=en&reference=2022/0396(COD)
*12:Have your say
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say_en

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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