第92回_REACH規則の制限など海外の規制はそのまま日本の法律等に反映されることがあるのでしょうか?
ご質問の海外で制定された法規制がそのまま国内法への反映されることは、原則として想定されていないものと考えます。日本国内における化学物質に関連する法規制は、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」など独自の法体系があり、海外の動向を踏まえながらも関連省庁である経済産業省や厚生労働省、環境省などが中心となって法案を作成しています。
ただし、国際条約を反映する法規制などは、海外で制定される法規制と条件などが一致または類似するケースもありえます。
◆国際条約の場合
化学物質管理に関連する関係者に関心の高い国際条約として「ストックホルム条約(POPs条約)」があります。この条約は締約国会議(COP)で対象物質の廃絶(附属書A)および制限(附属書B)などが決定された後、国連事務総長に寄託が行われます。この寄託後、1年間加盟国において国内法の制定または受諾拒否のアクションがない場合、条約の決定事項がそのままその国の規制として反映されることになります。これまでのところ日本国内においては、ストックホルム条約へのアクションとして化審法の第一種特定化学物質への指定などが検討され国内法が制定されています。このようなケースは、そのまま反映しているとはいえませんが、検討結果として条約の決定事項と一致することは考えられます。また、同様にストックホルム条約の内容は他の加盟国の国内法に反映されることになりますので、結果として海外の法規制と類似または一致することがありえます。
例えば、廃絶物質として特定された「アルドリン」などは廃絶物質を条約に基づき反映させる処置である化審法の「第一種特定化学物質(*1)への指定」とEUでストックホルム条約を反映させる法規制である「EU POPs規則」(*2)と規制内容が一致します。
一方で「ペルフルオロオクタン酸(PFOA)関連物質とその塩、および関連物質」に関しては、内容が異なっています。これは日本国内の審議においてストックホルム条約で適用除外とする用途が認められているものの、適用除外とする用途を設ける必要はないと判断したためです。EU POPs規則ではストックホルム条約が認めた適用除外を採用していますので、「ペルフルオロオクタン酸(PFOA)関連物質とその塩、および関連物質」においては、この点で国内法と異なることになります。国際条約のため、共通ルールで運用されると思われがちですが、こうした点には注意しておく必要があります。
◆先行する法規制に類似するケース
環境に関する法規制はEUが先行しており、他国の法規制がEUの法規制と類似するケースがあります。例えば、EUのRoHS指令については、日本国内法における「資源有効利用促進法」がこれにあたり、省令で規定されたJIS C0950 (J-Moss)は日本版RoHSとも呼ばれています。ただし、対象製品や規制対象となる化学物質、最大許容濃度などの規制内容は類似していますが、EU RoHS指令が有害物質として制限するのに対し、「資源有効利用促進法」はリサイクルの高度化を念頭においた表示などによる情報提供義務であるなどの違いがあります。
なお、海外の国においてはEUとの交易の円滑化を踏まえ、EU RoHS指令をベースに国内法化したケースが確認できます。ただし、制定時はEUと同様な法規制を導入したものの、その後のEUの改正に追随していない場合や自国の状況に応じて独自の法規制を追加しているケースもありますので、最新版がどのようになっているのかについては注意しておく必要があります。
(*1) 化審法:対象物質等一覧
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/about/substance_list.html
(*2)規則2019/1021(EU POPs規則)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02019R1021-20241017
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。