第101回_EU持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則) エコデザインフォーラムの動向
欧州委員会(European Committee:EC)(以後「委員会」)は、ESPR規則の委任法(delegated acts)(以後「委任法」)を諮問する目的で、エコデザインフォーラム(Ecodesign Forum)(以後「フォーラム」)を設置する委員会決定(COMMISSION DECISION)を2024年10月24日に公表して専門家の公募と登録を開始しました1)。
委員会決定の正式名称は、「持続可能な製品とエネルギー表示のためのエコデザインに関する専門家グループ(「エコデザインフォーラム」)の設立」であり、ESPR規則2)と同時に「エネルギーラベルの枠組みの設定と指令2010/30/EUの廃止規則」((EU)2017/1369)(以後「エネルギーラベル規則」)3)の委任法の見直し等を諮問することも求められています。
これはエネルギーラベル規則第14条第1項で、「協議フォーラム(Consulting Forum)は、指令 2009/125/EC(ErP指令) の第 18 条に規定する協議フォーラムと統合されるものとする。」という規定によります。ErP指令はESPR規則発効により廃止されて、ErP指令の協議フォーラムはESPR規則のフォーラムに引き継がれたためにこちらに統合されたものです。また、ESPR規則第16条3項で、ESPR規則によるエネルギー性能クラスを含む性能情報表示がエネルギーラベル規則で定められたラベル表示に組み込みできない場合には、ESPR規則の表示に入れ替えることが可能となっているので、両規則を同時に検討する必要からこのような設定になっているものと思われます。
フォーラムの機能と構成は、今後のESPR規則及びエネルギーラベル規則の実施動向を知る上で重要と思われますので、以下に詳細を説明します。
1.フォーラムの機能と構成
1.1.目的と機能
フォーラムは、委員会がESPR規則及びエネルギーラベル規則に基づく活動の実施を支援することを目的としています。特に、ESPR規則における作業計画の作成とエコデザイン要件を含む委任法を作成するにあたり、専門的な見地からその準備を行うことが求められています。但し、あくまでも決定権は委員会にあり、委員会からの諮問という形で支援することになります。また、後述の構成で説明するフォーラムの下部組織としての「加盟国専門家グループ」には、持続可能な製品の分野における経験とグッドプラクティスの交換をもたらすことが期待されています。
以上を纏めるとつぎの4項目の職務が求められています。
a) ESPR規則第19条に定められている任務及び第20条「加盟国専門家グループ」の任務
・エコデザイン要件の準備
・作業計画の作成
・市場監視メカニズムの有効性検証
・自主規制措置の評価
・売れ残り消費者製品の破棄禁止対象製品の追加評価
*規則の遵守を強化するための措置に関する情報及びベストプラクティスの交換
*売れ残った消費者向け製品の破棄に関する統合情報公表の優先順位付け(*は「加盟国専門家グループ」のみの任務)
b) エネルギーラベル規則に基づく委員会の活動支援
c) 委員会のESPR規則及びエネルギーラベル規則の共通仕様を決める実施法(implementing acts)草案作成、及びエネルギーラベル規則の製品データベース運用の実施法草案作成を支援
d)「加盟国専門家グループ」による持続可能な製品の分野における経験とグッドプラクティスの交換
1.2.構成
フォーラムの構成は、大きく分けて共通の利益を代表する個人又は団体(利益団体)と加盟国当局又はその他の公的機関(公的機関)に分けられ、総勢最大250名までと定められています。
利益団体は継続的に公募され、委員会担当部局においてその対象分野での専門性を確認したうえで任命され、専門家グループ登録簿に登録されることにより公開されます。
公的機関は、対象分野における高い専門性を有する代表者を公的機関が指名することにより任命します。公的機関のうち加盟国当局が指名した専門家は、フォーラムのサブグループである「加盟国専門家グループ」を構成します。その他に、フォーラムでの投票権を持たない客員専門家とオブザーバーが加わります。
客員専門家は、特定の議題に関する専門性を持つ専門家を臨時に作業に加わることをお願いするものです。
オブザーバーは、加盟国当局以外の個人、組織、公的機関で直接招待又は公募により任命されるもので、討議に参加し専門知識を提供しますが、勧告や助言の策定には関与しません。
2025年1月31日現在で、個人参加は無く、業界団体、NGO、専門家協会、及び学術機関・研究機関・シンクタンクなどの組織参加者が96団体、加盟国当局が27国(「加盟国専門家グループ」)、オブザーバーとしての組織が4団体とその他の公的機関2国(アイスランド、ノルウェー)が参加しています。
日本からは、オブザーバーとして在欧日系ビジネス協議会(JBCE)と日本電機工業会(JEMA)が参加しています。
参加メンバーの今後の変更は、フォーラムのホームページ(HP)2)にある「Subscribe to notifications」ボタンからメールアドレスを登録することにより逐次配信されます。
2.今後の活動予定
2025年2月19日、20日に第1回フォーラム会議がベルギーのブリュッセルで開催予定です。会議はハイブリッドで行われます。1日目の議題は、ESPR規則とエネルギーラベル規則の作業計画の議論が中心で、その他に運営ルールの説明等と役員就任演説が予定されています。ESPR規則の最初の作業計画は2025年4月19日までに作成することになっていますので優先して議論を始めるものと考えられます。
2日目の議題は、売れ残り消費者製品廃棄禁止に関する議論が予定されており、委員会としての優先度が高いことが読み取れます。事前配付資料として、売れ残り消費者製品の情報公開方法の調査結果とアパレルと履物の廃棄禁止適用除外に関する討議資料が公開されています4)。
3.まとめ
ESPR規則は枠組み規則であり、詳細な規制内容は委員会が製品グループ毎に委任法を制定して実施に移されます。どの製品グループから委任法を制定していくかは作業計画案を作成して欧州議会に提出して決定されます。最初の作業計画案の提出期限は2025年4月19日となっています。
この作業計画案作成と製品グループ毎の委任法策定にあたってその内容を諮問するのがフォーラムですので、フォーラムの動向をつかむことにより委任法の動向をいち早く知ることができます。フォーラムの動向は本文中で紹介したフォーラムHPで原則として公開されますので、引き続き注目していきたいと思います。
(一社)東京環境経営研究所 杉浦 順 氏
参考文献:
1) COMMISSION DECISION:持続可能な製品とエネルギー表示のためのエコデザインに関する専門家グループ(「エコデザインフォーラム」)の設立
https://ec.europa.eu/transparency/expert-groups-register/core/api/front/expertGroupAddtitionalInfo/53031/download
2) フォーラム詳細情報(HP)
https://ec.europa.eu/transparency/expert-groups-register/screen/expert-groups/consult?lang=en&groupID=3969&fromCallsApplication=true
3) エネルギーラベル規則
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/1369/oj/eng
4) 第1回フォーラム会議資料
https://ec.europa.eu/transparency/expert-groups-register/screen/meetings/consult?lang=en&meetingId=59861&fromExpertGroups=3969
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。