第108回_KEMIによる季節商品に含有する規制化学物質調査について
スウェーデン化学物質庁(Kemikalieinspektionen、以下KEMI) 1)は、2025年2月25日に「季節商品における化学物質の監視」(Tillsyn av kemikalier i högtids- och säsongsvaror)という報告書 2)を公表しました。この報告書は、祝祭日や季節に関連する商品の化学物質含有量の調査結果をまとめたものです。今回のコラムでは、本報告書の内容をご紹介します。
1.調査の経緯と目的
KEMIは、スウェーデン、EU、そして世界における無害な循環型経済を目指す活動を強化しており、 製品や商品を初期段階から無害なものにするための取り組みがいくつかの分野で行われています。化学物質調査の実施もその一環であり、より効果的な調査プロジェクトは、日常生活における化学物質リスクの低減にも役立つため、KEMIが取り組む環境品質目標である「無害な環境」(化学物質によって人や環境が害を受けないようにする) 3)の達成に向けた一歩となるものです。
近年、季節商品(ハロウィンやクリスマスの装飾品、季節限定の衣類やアクセサリー)において、有害な化学物質が含まれているとの懸念が高まっていました。これらの製品は短期間で大量に流通し、消費者が直接触れる機会が多いため、健康や環境への影響が懸念されています。これを受けて、KEMIはこれらの製品に含まれる化学物質の実態を把握し、適切な規制や対策を講じるための調査を実施することとなりました。
本調査プロジェクトでは、特定の祝日や季節に特別に販売される製品に重点を置いて調査を行っています。KEMIでは、過去にクリスマスに使用される電気製品 4)やサマーシーズンに販売される商品 5)、玩具とハロウィン期間中に使用される製品 6)などの調査を行い、法的要件を満たさない企業のフォローアップを実施してきました。これらの経緯から、このような季節商品には禁止化学物質が含まれているおそれがあるとしていました。本調査の主な目的は以下のとおりです:
・季節商品に含まれる化学物質の種類と濃度を明らかにし、法的規制値との適合性を評価する。
・消費者の健康や環境への潜在的なリスクを特定し、対策を明らかにする。
・市場における違法または不適切な製品の流通を防止し、製品の安全性向上を図る。
2.調査の概要と結果
本調査は以下の方法で実施されました。
・対象製品の選定:季節別に使用される製品(例:イルミネーション、プラスチック製サンダル、ジュエリーなど)から250品目を選定する。
・分析手法:選定した製品に対して、RoHS指令、REACH規則、POPs規則、および玩具安全指令で規制されている化学物質の含有量を分析する。
・評価基準:各法令で定められた制限値と比較し、違反の有無を評価する。
上記のような手法により、調査が行われ、以下のように結果を報告しています。
本調査プロジェクトで調査した成形品250品目のうち、約21%(52品目)にRoHS指令、REACH規則、POPs規則の規制値を超えるレベルの規制化学物質が含まれていました。15品目の製品にはREACH規則のCL物質が0.1%を超えて含有しており、さらにそのうち9品目の製品は、制限物質の基準超過が確認されました。
規制化学物質として最も多く確認された物質は鉛であり、おもに電気製品のはんだやPVC製品(バッグ、スリッパ、ケーブル)から検出されています。また、ジュエリーや電気製品からはカドミウム、PVC製品からは短鎖塩素化パラフィン(SCCP)とフタル酸エステル類、ジュエリーからはニッケルが規制値以上の含有量で確認されました。多くの製品は、複数の規制化学物質の含有が確認されました。
CL物質では、中鎖塩素化パラフィン(MCCP)が13品目の製品から検出され、PVC製品に多く含有がみられました。また、カドミウムを含有する製品のなかには、EUへの輸入時期によって規制対象外となっている事例もみられました。REACH規則では、成形品のなかにCL物質が重量比0.1%を超える濃度で含まれている場合、供給者は物品の安全な使用を認めるのに十分な情報(少なくとも物質名を含む)を提供する必要があります。また、消費者が要求した場合、供給者は45日以内に無料で、成形品の安全な使用を認めるのに十分な情報(少なくとも物質名を含む)を提供する義務があります。今回の調査において、CL物質を含有する製品は、関連する企業は、そのような情報を受け取っておらず、消費者への通知も行われていないことが判明しました。
製品を規制ごとに見た場合、RoHS指令対象の製品のうち31品目(26%)は、規制値を超過した鉛、カドミウム、特定のフタル酸エステル(DEHP、DBP、DIBP)が検出されました。REACH規則対象の製品のうち20品目(17%)は、規制値を超過したフタル酸エステル、カドミウム、鉛、ニッケルが検出され、POPs規則対象の製品においては、10品目(9%)から規制値を超えるSCCPが検出されました。なお、玩具安全指令の対象として調査した35品目については、特に違反は見つかりませんでした。
販売業態別の違反率では、オンラインマーケットプレイス(商品を提供する売り手と、それを求める買い手が集まるインターネット上の電子取引市場)が最も高く、29品目中16品目(55%)となっており、次いでオンラインショップが135品目中25品目(19%)、小売りチェーン店が86品目中11品目(13%)となっています。特にオンラインマーケットプレイス経由の製品は、EU圏外の企業からの輸入品が多く、それらの製品は、規制化学物質の含有リスクが高いと考えられます。
季節やイベント別では、ハロウィン関連製品の違反率が最も高く37%に達しています。次いでサマーシーズンの製品(24%)、クリスマス関連製品(23%)、バレンタイン関連製品(21%)、その他の祝日関連製品(12%)、イースター(10%)と続いています。特にハロウィン製品においては、電気製品が多く調査されたこと、またサマーシーズンの製品においては、オンラインマーケットプレイス経由のPVC製品が多かったことなどが、高い違反率に繋がったと考えられます。
表示(ラベリング)については、RoHS指令や玩具安全指令で、義務付けられたCEマーキングや製造者情報の要件に対する違反が28品目(19%)に見られました。おもな違反内容については、製造者や輸入者の連絡先(23品目)、CEマーキング(19品目)、識別番号(12品目)の欠落となっています。また、23品目の製品については、含有する規制化学物質の規制値を超過しているにも関わらず、CEマーキングが貼付されており、表示要件を満たしていませんでした。
本調査プロジェクトの結果、規制値を上回る化学物質を含有した製品を販売した企業は、その製品を回収することとなり、最終的には、18件の違反通知と6件の違反措置が実施されました。これらすべての製品と市場監視措置は、EU全体の市場監視当局が相互に情報を共有する報告システムであるICSMS 7)に報告され、規制化学物質の規制値を超過している製品は、EUにおける危険な製品に関する通知システムであるSafety Gate 8)にも報告されました。違反品については、消費者保護のため、危険性のある製品の市場流通防止を目的とした一般製品安全規則(GPSR)の罰則の対象にもなりえます。
3.まとめ
本調査プロジェクトでは、上述の過去の調査に比べて高い割合(21%)で規制化学物質の超過した製品が検出され、販売企業の法令知識不足が散見されました。ほとんどの不適合については、ユーザーに急性のリスクをもたらすものではないものの、消費者の健康や環境への長期的なリスクを高める可能性があり、製品のリサイクルや廃棄時にも問題を引き起こす可能性も考えられます。
今回の調査では、製品種別では、電気製品、PVC製品、ジュエリーに規制化学物質が含まれている可能性が高く、季節別では、ハロウィンやサマーシーズンの製品での違反率が高い結果となりました。報告書では、オンラインマーケットプレイス経由の製品は依然としてリスクが高く、消費者はEU圏外からの製品購入時の注意が必要であるとしています。さらに、REACH規則におけるCL物質の情報提供義務が実質的に機能していないため、今後は情報伝達義務の徹底を求めています。表示の不備については、適切なトレーサビリティの欠如を意味するため、市場監視や製品回収を困難にする要因となります。特にCEマーキングの意義が薄れる危険性があり、今後はより厳格な運用が必要であるとしています。
(一社)東京環境経営研究所 柳田 覚 氏
1)スウェーデン化学物質庁(KEMI)
https://www.kemi.se/en
2)季節商品における化学物質の監視
https://www.kemi.se/en/publications/enforcement-reports/2025/tillsyn-1-25-tillsyn-av-kemikalier-i-hogtids–och-sasongsvaror
3)スウェーデン環境品質目標:無害な環境
https://www.kemi.se/om-kemikalieinspektionen/vart-uppdrag/giftfri-miljo
4)クリスマスイルミネーションと電気製品の調査
https://www.kemi.se/publikationer/tillsynsrapporter/2018/tillsyn-11-18-tillsyn-av-julbelysning-och-elektriska-personvardsprodukter
5)サマーシーズン商品の調査
https://www.kemi.se/publikationer/tillsynsrapporter/2022/tillsyn-5-22-tillsyn-av-sommarvaror-2021
6)玩具とハロウィン製品の調査
https://www.kemi.se/publikationer/tillsynsrapporter/2023/tillsyn-7-23-tillsyn-av-leksaker-och-halloweenartiklar-2022-2023
7)ICSMS (Information and Communication System for Market Surveillance)
https://webgate.ec.europa.eu/single-market-compliance-space/market-surveillance
8)The Safety Gate system
https://ec.europa.eu/safety-gate/#/screen/home
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。