第19 回 イソホロンジイソシアネート
誌面掲載:2019年2月号 情報更新:2023年10月
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1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)
1.1 化学物質名/ 別名
イソホロンジイソシアネート(又はイソホロンジイソシアナート、Isophorone diisocyanate)は慣用名である。IUPACの名称では5- イソシアナト-1-(イソシアナトメチル)-1,3,3- トリメチルシクロヘキサン(5-isocyanato-1-(isocyanatomethyl)-1,3,3-trimethylcyclohexane)である。またイソシアナート基に注目すれば3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル=イソシアナートと呼ぶこともできる。いずれも長い名称なので、一般にはイソホロンジイソシアネート(IsoPhorone DiIsocyanate)やIPDIと呼ばれる。イソホロンというのは環状の構造を持つ、有機溶剤等として使われる物質の名称である。IUPAC名では3,5,5- トリメチル-2- シクロヘキセン-1- オン(3,5,5-Trimethyl-2-cyclohexene-1-one、化学式はC9H14O,CAS No.78-59-1)である。こちらもいくつかの別名がある。有機溶剤として使われるアセトン(Acetone、化学式はC3H6O)から製造される。アセトンからはホロン(Phorone、化学式はC9H14O)という物質も製造され、元素構成が同じなので「同じ」という意味の接頭語を付けて「イソホロン」と呼ばれる。イソシアネートとはイソシアン酸(Isocyanic acid、化学構造式はHNCO)のエステル(又は塩)という意味である。イソシアン酸は揮発性(沸点23.5 ℃)で毒性のある弱い酸である。シアン酸(Cyanic acid、化学式はHOCN)とは互いに変換する異性体(互変異性体)である。シアン酸は不安定でイソシアン酸の形で存在することが多い。またN(窒素)、C(炭素)、O(酸素)の並びが異なる雷酸(Fulminic acid、化学式はHCNO:fulmine は「雷」の意味があり、極めて爆発性が高い)という異性体がある。イソホロンジイソシアネートという名称はイソホロンと2 個のイソシアン酸からできたエステルという形になっているが、イソホロンとイソシアン酸を直接反応させて製造されるのではない。イソホロンを原料にイソホロンジアミン(Isophorone diamine、3- アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、化学式C10H22N2、略称はIPDA)を経て製造される。逆にイソホロンジイソシアネートは加水分解してイソホロンジアミンを生ずる。2 個のイソシアネート基の反応性は異なる。イソホロンの6 個の炭素による環に3 個のメチル基が結合した基本骨格は保たれているが、二重結合やケトン構造は失われている。イソホロンは単一物質であるが、イソホロンジイソシアネートはシス、トランスという立体構造の異なる2 種類の物質の混合物である。両者を分離することなく混合物のままで使用されている。ジイソシアネート化合物としてはほかに芳香族のトルエンジイソシアネート(Toluene diisocyanate, TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(Diphenylmethanediisocyanate, MDI)、脂肪族のヘキサメチレンジイソシアネート(Hexamethylene diisocyanate, HDI)やMDIのベンゼン環をシクロヘキサン環にした水素化MDI(又は水添MDI)等がある(図表2)。HDI と水素化MDI はどちらも略称としてHMDIと呼ぶことが可能で、紛らわしいので水素化MDIの方はH12 MDI 等として区別する。TDI にはイソシアネート基の結合位置の違いで2,4-TDIと2,6-TDI があるが、混合物のままで取り扱われることが多い。MDI もイソシアネート基の結合位置の違いでいくつかの異性体がある。またMDI はベンゼン環が2 個のものを指しているが、製造工程では3 個以上のものも生成する。繊維用途では精製してビス(4- イソシアナトフェニル)メタンが使われるが、ウレタンフォームや接着剤等に使われるときは混合物のままで使われることもある。H12 MDI もいくつかの異性体を含んでいる。
1.2 CAS No.、化学物質審査規制法(化審法)、労働安全衛生法(安衛法)官報公示整理番号、そのほかの番号
イソホロンジイソシアネートのCAS No. は4098-71-9である。化審法官報公示整理番号は3-2492 で安衛法は既存物質とし化審法番号で公表されている。3- は炭素による環1 個を含む有機化合物(有機炭素単環低分子化合物)であることを示している。EU のEC 番号は223-861-6 である。REACH 以前から製造されていた化学物質である。REACH 登録番号は01-2119490408-31-xxxx(xxxx は登録者番号)。そのほかのイソシアネート化合物については図表2にまとめた。
図表1 イソホロンジイソシアネート(IPDI)の特定
名称 | イソホロンジイソシアネート
(Isophorone diisocyanate) |
イソホロンジアミン
(Isophorone diamine) |
IUPAC名 | 5-イソシアナト-1-(イソシアナトメチル)-1,3,3-トリメチルシクロヘキサン
5-Isocyanato-1-(isocyanatomethyl)- |
3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン
3-Aminomethyl-3,5,5-trimethyl |
その他の名称 | 3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチル シクロヘキシル=イソシアナート 3-Isocyanatomethyl-3,5,5- trimethylcyclohexyl isocyanate |
1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5- トリメチルシクロヘキサン1-Amino-3-aminomethyl-3,5,5- trimethyl cyclohexane |
略称 | IPDI | IPDA |
化学式 | C12H18N2O2, (CH3)2C6H7(CH3)(N=C=O)CH2N=C=O | C10H22N2, (CH3)2C6H7(CH3)(NH2)CH2NH2 |
CAS No. | 4098-71-9 | 2855-13-2 |
化学物質審査規制法(化審法) | 3-2492 | 3-2286 |
EC No. | 223-861-6 | 220-666-8 |
REACH | 01-2119490408-31-xxxx | 01-2119514687-32-xxxx |
図表2 その他のジイソシアネート化合物
名称 | トルエンジイソシアネート*
(Toluene diisocyanate) |
ジフェニルメタン ジイソシアネート(Diphenylmethane diisocyanate) |
ヘキサメチレン ジイソシアネート(Hexamethylene diisocyanate) |
ビス(4-イソシアナト シクロヘキシル)メタンBis(4-isocyanato cyclohexyl)methane |
IUPAC名 | メチル-1,3-フェニレン= ジイソシアナート(Methyl-1,3-phenylene diisocyanate) |
1-イソシアナト-4[(4- イソシアナトフェニル) メチルベンゼン(1-isocyanato-4-[(4- isocyanatophenyl)methyl] benzene) |
1,6-ジイソシアナト ヘキサン(1,6-diisocyanatohexane) |
1-イソシアナト-4-[(4- イソシアナトシクロヘキシル) メチル]シクロヘキサン(1-Isocyanato-4-[(4- isocyanatocyclohexyl) methyl]cyclohexane) |
その他の名称 | トリレンジイソシアネート
(Tolylene diisocyanate) m-トリレン (m-Tolylene diisocyanate) 1,3-ジイソシアナートメチルベンゼン (1,3-Diisocyanatomethyl benzene) |
ビス(4-イソシアナト フェニル)メタン(Bis(4-isocyanato phenyl)methane))4,4-メチレンビス (フェニル=イソシアナート)(4,4′-methylenebis(phenyl isocyanate)) |
メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート(Methylenebis(4,1- cyclohexylene)diioscyanate)ジシクロヘキシルメタン ジイソシアネート(Dicyclohexylmethane diisocyanate)水素化MDI(又は水添MDI)(4,4′-methylenedicyclohexyl diisocyanate) |
|
略称 | TDI | MDI | HDI, HMDI | H12MDI |
化学式 | C9H6N2O2, CH3C6H3(N=C=O)2 | C15H10N2O2, O=C=N-C6H4CH2C6H4-N=C=O | C8H12N2O2, O=C=N-C6H12– N=C=O |
C15H22N2O2, O=C=N-C6H10CH2 C6H10-N=C=O |
CAS No. | 26471-62-5 | 101-68-8 | 822-06-0 | 5124-30-1 |
化審法 | 3-2214 | 4-118 | 2-2863 | 4-119 |
EC No. | 247-722-4 | 202-966-0 | 212-485-8 | 225-863-2 |
REACH | 01-2119454791-34-xxxx | 01-2119457014-47-xxxx | 01-2119457571-37-xxxx | 01-2119457437-31-xxxx |
*:トルエンジイソシアネートは主に
2,4-ジイソシアナト-1-メチルベンゼン(2,4-Diisocyanato-1-methylbenzene: 2,4-TDI)と
2,6-ジイソシアナト-1-メチルベンゼン(2,6-Diisocyanato-1-methylbenzene: 2,6-TDI)の混合物
2.特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)
2.1 物理化学的性質(図表3)
刺激臭のある無色~黄色の液体である。水にはほとんど溶けない。イソシアネート基(-NCO)は水と徐々に反応(加水分解)してアミンに変化する。IPDI の加水分解物であるイソホロンジアミン(図表1)は水と混和する。n- オクタノール水分配係数logPow は化学構造からの計算値では4.75 と高いが、アミンになると0.99 となり、生物濃縮性は高くないと推定される。エステル、ケトン、エーテル、及び芳香族及び脂肪族炭化水素等の有機溶剤とは混和する。沸点は310 ℃で熱分解を伴いながら気化する。可燃性で155 ℃という引火点もある。燃焼すると窒素酸化物(NOx)を含む有毒で腐食性のガスやフューム(fume, 煙・蒸気)を生ずる。イソシアネート基は酸、アルコール、アミン、塩基、アミド、フェノール、メルカプタン(R-SH)等と反応して中毒、火災や爆発の危険をもたらすことがある。アルコール(R-OH)と反応してウレタン(-NHCOO-R)結合ができる。水(H2O)と反応した場合は生成したウレタン化合物(-NHCOOH)から二酸化炭素(CO2)が脱離してアミン(-NH2)になる。もし近くに別のイソシアネート基があるとすばやく反応し、尿素結合(-NHCONH-)ができて繋がる。二酸化炭素は気体なので発泡しながら反応が進む。この反応を利用してウレタンフォームが作られることもある。ウレタン結合は加熱したり、年月が経つと少し分解もする。
図表3 IPDI 及びイソホロンジアミン(IPDA)の主な物理化学的性質(ICSC による)
IPDI | IPDA | |
融点(℃) | -60 | 10 |
沸点(℃) | 158 (1.33kPa)
310℃(分解を伴う) |
247 |
引火点(℃) (c.c.) | 155 | 117 |
発火点(℃) | 430 | – |
爆発限界(vol %) | 0.7 ~ 4.5 | 1.2 ~ ? |
比重(水=1.0) | 1.06 | 0.92 |
水への溶解度 | 15 g/100ml (反応する)
Ca. 15mg/L* |
混和する |
n-オクタノール/水分配係数 (log Pow) | Ca. 4.75(計算値) | 0.99* |
*:OECD SIDS(Screening Information Data Set)による。
2.2 有害性
IPDI 及び2,4-TDI とこれらの加水分解生成物のIPDA,2,4- トルエンジアミン(2,4-TDA)のGHS分類例を図表4に示した。イソシアネート基はヒドロキシ基(-OH)やアミノ基(-NH)と反応するので蛋白や糖等多くの生体内の物質と反応してその機能を損なわせると考えられる。皮膚に付着したり、眼に入ったり、蒸気やミストを吸入した場合、蛋白等に影響すると考えられる。急性毒性(吸入)、皮膚腐食性、特定標的臓器毒性の呼吸器への影響が区分1 とされている。口から入った場合の急性毒性が高くないのは、胃の中で加水分解し、アミンの塩となって排泄されることがあるためかと思われる。眼損傷性/ 刺激性について、GHSでは皮膚腐食性が区分1 であれば、動物試験は実施せず区分1 とするというルールがある。しかし、既に動物試験で眼への影響が回復するというデータがあったので、NITE は区分2 Aとしている。区分1 でないのは水に対する溶解度が低いことが関係しているのかもしれない。IPDA の皮膚腐食性/ 刺激性、眼損傷性/ 刺激性はともに区分1 なのは水に溶けたときのpH が関係しているかもしれない。塩基性の場合pH が11.5 以上で皮膚や眼で不可逆的な影響(GHS 区分1)があるとされている。職業曝露による喘息の発症や、吸入試験により呼吸器感作性があるとされている。皮膚感作性もヒトのデータのほかに動物試験で確認されている。加水分解後のアミン化合物でも、皮膚感作性があることが認められている。呼吸器感作性についてはデータが不十分で明確ではない。発がん性、生殖毒性、変異原性(CMR)があるという明確なデータはない。TDI, TDA は動物試験から発がん性があると考えられている。
2.3 環境有害性
水生生物に対しても有害である。水中で加水分解されアミン化合物になる。アミン化合物も水生生物に対して有害で、生分解性はないので長期的にも影響すると考えられる。IPDA の長期毒性について、甲殻類のオオミジンコでの試験でNOEC(No Observed Effect Concentration無影響濃度)が3 mg/L というデータからNITE はGHS区分外と判定している。一方EUでは、CLP規則(Regulation on Classification, Labelling and Packaging of substances and mixtures)でGHS分類の水生環境長期有害性は区分2としている。
図表4 IPDI 及び2,4-TDI とその加水分解物IPDA, 2,4-TDA 等のGHS分類(NITE による)
GHS分類 | IPDI | IPDA | 2,4-TDI | 2,4-TDA |
物理化学的危険性 | ||||
引火性液体 | 区分外 | 区分外 | 区分外 | 対象外 |
可燃性固体 | 対象外 | 対象外 | – | – |
自己反応性化学品 | 対象外 | 対象外 | タイプG | 対象外 |
自然発火性液体 | 区分外 | 区分外 | 対象外 | 対象外 |
自然発火性固体 | 対象外 | 対象外 | 区分外 | 区分外 |
金属腐食性 | – | – | – | – |
健康有害性 | ||||
急性毒性(経口) | 区分外 | 4 | 区分外 | 3 |
急性毒性(経皮) | – 区分外– | – | 区分外 | 4 |
急性毒性(吸入:蒸気) | – | – | 1 | – |
急性毒性(吸入:ミスト) | 1 | – | 2 | 区分外 |
皮膚腐食/刺激性 | 1 | 1 | 2 | 区分外 |
眼損傷/刺激性 | 2A | 1 | 2 | 2 |
呼吸器感作性 | 1 | – | 1 | – |
皮膚感作性 | 1 | 1A | 1 | 1 |
生殖細胞変異原性 | – | – | – | 2 |
発がん性 | – | – | 2 | 1B |
生殖毒性 | – | – | – | 2 |
特定標的臓器(単回) | 1(呼吸器系) | – | 1(呼吸器) | 1(中枢神経系、肝臓、血液系)3(気道刺激性) |
特定標的臓器(反復) | 1(呼吸器系) | 2(呼吸器系) | 1(呼吸器) | 1(免疫系、肝臓、精巣) |
誤えん有害性 | – | – | – | – |
環境有害性 | ||||
水生環境有害性(短期/急性) | 3 | 3 | 3 | 1 |
水生環境有害性(長期/慢性) | 3 | 区分外 | 3 | 1 |
3.主な用途
イソシアネート基はアルコール類と反応してウレタン結合を生ずる。2 個以上のイソシアネート基を持つポリイソシアネート化合物はポリウレタンの原料である。ポリウレタンは塗料、接着剤、表面処理剤等に使われる。内部に気泡を含む多孔質ポリウレタン(ウレタンフォーム)としてマットレス、クッション、スポンジ、断熱材、防音材、パッキング剤等として利用されている。気泡はポリウレタン製造時に発泡剤を吹き込む。ポリウレタン製品の大半はTDI やMDIを原料としている。TDI やMDI 等の芳香族のイソシアネートだと黄変が発生することがあるので、塗料やインキ等では脂肪族系のHDI やIPDI が使われる。
4.これまでに起きた事件/ 事故等の例
・ GHS 分類で呼吸器感作性区分1 とされた根拠はヒトで職業曝露による重度の喘息や呼吸器過敏症となった症例による。
(http://www.safe.nite.go.jp/ghs/11-mhlw-2019.html)
・ IPDI 単独で使われることは少なく情報がないが、よく使われるTDI やMDI による事故はいくつか報告されている。
・ タンクローリーからの移液作業で、取出し口を開けたところ陽圧になっていてTDI が噴出して頭から浴びた。被災者は20 日間休業した。
(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=000707)
・ 軟質ポリウレタン樹脂製造時、原料のTDI を原料タンクに加圧注入中ホースの先から噴出して被災した。保護眼鏡、マスクを着用していて眼や喉に直接侵入することはなかったが、作業服に付着したまま作業を続行していて呼吸に異常を感じた。TDI 中毒と診断された。マスクが検定合格品の防毒マスクではなかったことも原因の一つと考えられた。
(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=000799)
・ ポリウレタンシートの熱成型作業に従事して2 カ月後、咳が出るようになり、呼吸器障害と診断された。成型時の熱で分解してTDI が発生していた。作業工程温度では有害ガスが発生するとは認識せず、排気が不十分で呼吸用保護具も着用していなかった。
(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=000895)
・ 粒子状ゴムとMDIを含有する接着剤を建屋内で混ぜて加熱成型中、咳が出て呼吸困難になり、化学性肺炎と診断された。加熱成型加工でMDI蒸気が発生して作業者が吸入した。排気装置もなく防毒マスク等の保護具も着用していなかった。
(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=100772)
・使用残のMDI を返品するためドラム缶に詰めて仮置き中、ドラム缶が破裂した。ドラム缶内に少量の水がたまっていてMDIと反応して発生した二酸化炭素により内圧が上がって破裂したと考えられる。
(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=000765)
5.主な法規制(図表5)
消防法の第4 類引火性液体第三石油類の非水溶性液体である。指定数量は2,000 L である。
労働基準法で皮膚や気道障害で疾病化学物質に挙げられている。これらの障害防止、障害を生じた場合の補償等の義務がある。さらに感作性がある物質にも挙げられており、気管支喘息等の障害の防止策も必要である。労働安全衛生法では名称等の表示及び通知すべき物質に指定されている。容器包装に名称やGHS 分類に基づく危険有害性のラベル表示及びSDS 提供が義務付けられている。特定化学物質には指定されていない。ポリウレタンの原料であるTDI は特定化学物質第2 類物質、特定第2 類物質に指定されている。作業環境許容濃度に関し、日本産業衛生学会は設定していないが、ACGIH の作業環境許容濃度は0.005 ppm に設定されている。感作性がある物質は、曝露することによって過敏になった(感作された)場合、その後は極微量の曝露でも影響を受けることがあるために、低濃度に設定されている。
毒物劇物取締法で、2018年毒物に指定された。経口や経皮による急性毒性は毒劇物に該当するほど高くないが、吸入による急性毒性が高いためである。製剤も含まれるので混合物も対象になっている。販売、授与の目的での製造、輸入、販売、授与及びそのための貯蔵、運搬、陳列をするには製造業や販売業の登録が必要である。ポリウレタン製品中に不純物として残存する場合は毒物に該当しないが、IPDI として利用するために意図的に含有する場合は、濃度が低くても毒物である。国連危険物輸送勧告の国連分類はクラス6.1 毒物類・毒物である。国連番号2290 の品名は「イソホロンジイソシアネート」である。容器等級はⅢということになっており、航空、海上輸送では航空法、船舶安全法、港則法等に従う。
大気汚染防止法の有害大気汚染物質に該当する可能性がある248 物質の中に含まれている。海洋汚染防止法で有害液体物質のY類物質に挙げられている。ばら積み(船倉に直接積み込む)輸送の場合、船舶からの排出が禁止される。水生環境有害性に関して、NITE のGHS分類では急性、長期とも区分3 と判定されており、環境ラベル表示は不要である。船舶安全法の海洋汚染物質には該当しないことになる。ただし、EUではCLP 規則により、環境ラベル表示が必要である。
図表5 IPDI 及びTDI に関係する法規制
法律名 | 法区分 | IPDI | TDI | |
化学物質審査規制法 | 優先評価化学物質 | – | (129) | |
化学物質管理促進法 | 第1種指定化学物質 | ≧1% | ≧1% | |
労働安全衛生法 | 名称等表示/通知対象物 | 表示 ≧1% | 表示≧1% | |
通知 ≧0.1% | 通知≧0.1% | |||
特定化学物質 | 第2類物質、
特定第2類物質 |
非該当 | >1% | |
作業環境評価基準 | 管理濃度 | 設定されていない | 0.005ppm | |
労働基準法 | 疾病化学物質 | 皮膚障害または気道障害 | 皮膚障害、前眼部障害または気道・肺障害 | |
感作性 | 感作性 | – | ||
作業環境許容濃度 | 日本産業衛生学会 | 設定されていない | 0.005ppm(0.035mg/m3)
最大:0.02ppm(0.14mg/m3) |
|
ACGIH TLV | TWA: 0.005ppm (Skin) | TWA: 0.001ppm
STEL: 0.005ppm (Skin) |
||
毒物劇物取締法 | 毒物 | 原体及び製剤 | – | |
消防法 | 危険物第4類引火性液体 | 第三石油類(非水溶性液体) | 第三石油類(非水溶性液体) | |
国連危険物輸送勧告 | 国連分類
国連番号 品名 容器等級 |
6.1
2290 イソホロンジイソシアネート Ⅲ |
6.1
2078 トルエンジイソシアネート Ⅱ |
|
大気汚染防止法 | 有害大気汚染物質 | 可能性のある物質 | 可能性のある物質 | |
海洋汚染防止法 | 有害液体物質 | Y類 | Y類 | |
食品衛生法
容器包装ポジティブリスト |
基ポリマー(プラスチック)
(コーティング)
|
–
7(ポリウレタン)、8(ポリエステル)の共重合成分 |
26, 28(ポリウレタン)の共重合成分
7(ポリウレタン)、8(ポリエステル)の共重合成分 |
|
添加剤 | – | 一部の「ポリマー添加剤」の共重合成分*1 |
*1: 適用範囲を含め、リストに記載されているポリマーのみに使用可。
樹脂区分4(ポリマー中塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデン≧50%)に対してはTDIを5%以下の添加可。
6.曝露や火災等の可能性と対策
6.1 曝露可能性
蒸気圧が低く室温では引火することはないが、高温では引火し、着火源があると燃える。燃えた場合、窒素酸化物(NOx)等の有害物質が発生するおそれがある。人の健康に関しては吸入による影響が大きい。揮発性は高くはないが、室温での蒸気でも作業環境許容濃度設定値を超えることがある。蒸気は空気より重くタンク内や地下等では蒸気が滞留するおそれがある。また皮膚からも吸収され、ミストや飛沫の吸入、皮膚への付着のおそれがある。保管容器に水分が含まれていたりすると内部圧力が高くなって爆発したり、容器を開けたとき内圧でイソシアネートが飛散したりすることがある。通常は閉鎖系で取扱われると思われるが、サンプリング、仕込み、取出し等の工程で曝露することがありうる。ポリウレタンやウレタンフォーム等の製品中に、原料が残存していたり分解したりしてイソシアネート化合物が存在することがあるかもしれないが、極微量でポリマー製品の通常の取扱いで影響を受けることはないと考えられる。
6.2 曝露防止等
保管する容器内部に水分が残らないよう、容器内部の空気を窒素又は乾燥空気で置き換え、密栓して保管する。もし容器が膨らむほどになっている場合は保護具着用で蓋をゆっくり開くか、穿孔器具を用いて容器上部に小さな穴を開けて内部のガスを放出する。取扱い時も密閉系や不活性ガス(窒素ガス等)下で取扱う。サンプリングや仕込み等の作業で曝露するおそれがある場合は、局所排気やプッシュプル型換気を行い作業環境許容濃度以下に保つ。作業者は有機ガス用防毒マスク、送気マスク、空気呼吸器を使用する。保護衣、保護手袋、保護長靴は不浸透性を確認して着用する。眼は保護眼鏡だけでなく、顔面への飛沫曝露を防止するため保護面型の方がよい。使用した容器等はすぐに有機溶剤(アセトン等)又はアルコール水溶液等で洗浄してイソシアネートを除去する。取扱い場所には手洗い、洗眼器、シャワーを設置する。被液した場合、石鹸を用いて大量の水で十分洗う。衣類等に付着した場合は脱衣し、二次的な曝露に注意する。こぼれた場合、換気を良くし、保護具を着用し、土砂等に吸収させて回収する。回収後の床は炭酸ナトリウム水溶液等でイソシアネートを不活化して水洗する。回収物を入れた容器は密封せず、廃棄処理を行う。
6.3 廃棄処理
許可を受けた産業廃棄物処理業者に委託して処理する。焼却する場合、アフターバーナー及びスクラバーを備えた焼却炉に噴霧して焼却する。焼却すると窒素酸化物(NOx)等が生成するので回収・中和する。焼却炉に投入する場合、水、アルコールアミン類等を含むほかの廃液と混合すると固化し、パイプに詰まるおそれがあるので注意が必要である。予め炭酸ナトリウム水溶液に少量ずつ添加して、イソシアネートを反応させてしまっておくとよい。
免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。