第24回 塩酸/ 塩化水素

誌面掲載:2019年8月号 情報更新:2024年1月

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1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)

1.1 化学物質名/ 別名

塩酸は化学物質名としては塩化水素酸と呼ぶべきところであるが、昔から塩酸(英語名はHydrochloric acid)と呼ばれている。以前は、酸味がしてリトマス試験紙を赤くする「酸性物質」である「酸」は、硫酸(Sulfuric acid:H2SO4)、燐酸(Phosphoric acid:H3PO4)、硝酸(Nitric acid:HNO3)、炭酸(Carbonic acid:H2CO3)等、「酸素」(Oxygen: O)という名称が示すように酸素とほかの原子が結びついてできていると思われていた。塩酸も同様に塩素を含む酸なので「塩酸」と呼ばれた。その後、「塩酸」という物質が存在するのではなく、酸素を含まない塩素(Chlorine: Cl)と水素(Hydrogen: H)からなる塩化水素(Hydrogen chloride: HCl)の水溶液であることがわかった。酸素を含む酸が酸素酸又はオキソ酸(Oxoacid)と呼ばれるのに対し、塩酸等酸素を含まない酸は水素酸(Hydracid)と呼ばれる。塩酸のほか、臭化水素酸(Hydrobromic acid: HBr)、硫化水素(Hydrogen sulfide:H2S)、シアン化水素(酸)(青酸、Hydrocyanic acid, Hydrogen cyanide: HCN)等がある。塩素を含む酸素酸もある。塩素と酸素の比が異なる、次亜塩素酸(Hypochlorous acid: HClO)、亜塩素酸(Chlorous acid:HClO2)、塩素酸(Chloric acid:HClO3)、過塩素酸(Perchloric acid:HClO4)がある。塩素と酸素の結合は弱く不安定で酸化力がある。次亜塩素酸(HClO)は弱酸で酸化力は最も強い。過塩素酸(HClO4)は強酸で有機物と接触すると爆発する。

 

1.2 CAS No.、化学物質審査規制法(化審法)及び労働安全衛生法(安衛法)官報公示整理番号、そのほかの番号

塩化水素のCAS No. は7647-01-0 で、化審法の官報公示整理番号は1-215 である。化審法番号の1- は無機物であることを示している。安衛法では化審法番号で公表されている。塩酸は水溶液(混合物)なので、塩酸としてのCAS No. や化審法番号はない。

 

1.3 国連番号(UN No.)

塩化水素は気体なので国連分類は2.3(毒性ガス)で、副次危険性として8(腐食性物質)が付いている。塩化水素ガスの国連番号は1050 である。品名は「塩化水素、無水物」(HYDROGEN CHLORIDE, ANHYDROUS)である。また塩化水素は低温で液化したものがあり、国連番号2186 で品名は「塩化水素、深冷液化されているもの」(HYDROGEN CHLORIDE REFRIGERATEDLIQUID)である。液化物でも国連分類は2.3(毒性ガス)、副次危険性8(腐食性物質)である。塩酸にも国連番号1789 がある。国連分類は8(腐食性物質)、輸送品名は「塩酸」(HYDROCHLORIC ACID)で容器等級はⅡ又はⅢである。容器等級は塩化水素濃度が約10 % 以上でⅡ、以下でⅢにわけられている。

 

図表1 塩化水素、塩酸の特定

名称IUPAC名 塩化水素

Hydrogen chloride

塩酸

Hydrochloric acid

別名 塩酸ガス

Hydrochloric acid gas

無水塩酸

Anhydrous hydrochloric acid

液化塩化水素

Liquefied hydrogen chloride

化学式 HCl HCl/H2O
CAS No. 7647-01-0
化学物質審査規制法(化審法)

労働安全衛生法(安衛法)

1-215
EC No. 231-595-7
REACH 01-2119484862-27-xxxx
国連危険物輸送勧告
 国連分類 2.3(毒性ガス)、副次危険性8(腐食性物質) 8(腐食性物質)
 国連番号 1050 2186 1789
 品名 塩化水素、無水物 塩化水素、深冷液化されているもの 塩酸
 容器等級 Ⅱ, Ⅲ

*: xxxxは登録者番号

 


2.特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)

2.1 物理化学的性質(図表2)

塩化水素は刺激臭のある無色で不燃性の気体であるが、通常液化物にしてボンベ(ねずみ色)で販売される。GHSで高圧ガスの高圧液化ガスに分類される。ボンベの内圧は20 ℃ で4.2 MPa(約41.5 気圧)程ある。気体は空気より重い。水によく溶け、湿った空気中で塩酸になって白煙になる。オクタノール/ 水分配係数logPow = 0.25 と小さい。乾燥した状態では金属をあまり腐食しないが、水分があると塩酸となって金属を腐食して水素を発生する。アンモニアガスがあると白煙(塩化アンモニウム: 固体)を生ずる。アルコールやエーテルに溶解する。

塩酸は塩化水素の水溶液で無色透明又は淡黄色の液体で、激しい刺激臭がある。塩化水素濃度が25 % 以上で発煙性(塩化水素ガス)がある。加熱すると塩化水素ガスが発生する。濃度の異なる塩酸が市販されているが、標準的には塩化水素35 % 程度(濃塩酸)である。密度は水より高く、35 % で比重1.18(15 ℃)である。強酸で0.5 % 程度でもpH < 1 である。金属腐食性があり(GHS金属腐食性区分1)、多くの金属と接触すると金属の塩化物を生成し、水素を発生する。発生した水素は空気と混合して爆発性混合気体となる。クロム酸塩、過マンガン酸塩等の酸化剤と反応して塩素(ガス)を生成する。アルカリと激しく反応して発熱する。

 

図表2 塩化水素、塩酸の主な物理化学的性質(ICSC、日本ソーダ工業会SDS等による)

物理化学的性質 塩化水素 塩酸
外観/物理的状態 無色透明

気体

無色~淡黄色透明

液体(発煙性)

融点 -114.2℃ -34℃(35%)
沸点 -85.1℃ 110℃(20%:共沸)
密度又は比重 (気体)

密度1.00045g/l

1.639g/l(0℃,1気圧)

1.491g/l(25℃,1気圧)

比重(空気=1) 1.268(15℃)

(液体)

比重1.19 (沸点)

1.18(15℃, 35%)
水への溶解度 67g/100ml(30℃) 混和する
オクタノール/水分配係数 (logPow) 0.25
液化塩化水素の20℃での蒸気圧は約4.2MPa

 

 

2.2 有害性(図表3)

塩化水素は体内に入ると塩酸になる。塩酸は胃酸の主成分で胃の中にも存在する。飲み込んだりミストを吸入したりして死亡する危険性はそれほど高くはない。しかし、皮膚に触れると潰瘍等の重篤な薬傷を起こし、眼に入ると不可逆的な損傷や失明のおそれがある。胃の内壁は粘膜で覆われ常に更新されることで守られている。吸入した場合もアレルギー、喘息、呼吸困難を起こし、喉や気管支、肺等の呼吸器に炎症を起こす。肺への影響(肺水腫)は遅れて現れることがあり、安静と経過観察が必要である。飲み込んだとき気道に吸引して肺炎等を起こして生命に危険を及ぼすおそれがある(誤えん有害性)。長期的に吸入が続くと呼吸器系に障害を起こし、歯の酸蝕(歯のエナメル質が酸で溶ける等)を生ずることがある。皮膚の感作性は認められていない。発がん性にについて、IARC は無機の強酸のミストをGroup 1(ヒトに発がん性有)に分類しているが、塩酸に関してはGroup 3(分類できない)に分類している。ACGIH もA4(分類できない)としている。動物試験やヒトの疫学調査では発がん性に否定的である。生殖毒性についても生殖毒性があるという情報はないが、ないというには不十分である。塩酸の有害性は主にpH によるもので、中和されれば有害性は低くなる。塩酸を水酸化ナトリウムで中和されたものが塩化ナトリウム(食塩)である。

 

2.3 水生環境有害性

オオミジンコで48 時間のEC50 = 0.492 mg/L というデータからGHS 区分は1 とされている。オオミジンコの場合、半数死亡濃度(LC50)では死亡の判断が難しく、半数が活動をしなくなる濃度(EC50)で判断する。塩化水素(塩酸)を水に溶かすと少量でもpH が下がって酸性となり水生生物にも影響する。この急性毒性試験時の水のpH は5.3 なので、pH の影響とはいえない。長期的には自然環境では緩衝作用があって低濃度ではpH の変化は緩和され、水生生物への影響小さいと考えられる。親水性で塩化水素のlogPow = 0.25 と小さく生体に蓄積されることはない。

 

図表3 塩化水素、塩酸のGHS分類(NITE 及び日本ソーダ工業会SDSによる)

GHS分類 塩化水素

(NITE)

塩酸(30-38%)

(日本ソーダ工業会

物理化学的危険性
高圧ガス 高圧液化ガス 対象外
金属腐食性物質 1
健康有害性
急性毒性(経口) 3 4
急性毒性(経皮) 区分外 区分外
急性毒性(吸入:ガス) 3 対象外
急性毒性(吸入:ミスト) 2 4
皮膚腐食/刺激性 1 1
眼損傷/刺激性 1 1
呼吸器感作性 1
皮膚感作性 区分外 区分外
生殖細胞変異原性
発がん性 区分外 区分外
生殖毒性
特定標的臓器(単回) 1(呼吸器系) 1(呼吸器系)
特定標的臓器(反復) 1(歯、呼吸器系) 1(呼吸器系、歯)
誤えん有害性 1
環境有害性
水生環境有害性(短期/急性) 1 1
水生環境有害性(長期/慢性) 区分外 区分外

-:分類できない

 


3.主な用途

塩化水素(塩酸)は有機/ 無機化学品の原料、水や排水の処理、化学プロセスでのpH 調整、イオン交換樹脂の再生、エッチング、石灰カスの除去等の水処理用洗浄剤、食品の製造等に使われている。家庭用でもトイレ等の衛生洗浄剤の成分として使われている。

 


4.事故等の例

厚生労働省の職場のあんぜんサイトの化学物質による災害事例が紹介されている。(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/saigaijirei.htm)その中からいくつか例を挙げる。

・ 塩酸タンクの地震対策のため配管敷設作業をしていた作業員がタンクの上に登り天板の上を歩いた。天板が破れてタンク内に墜落した。救出しようとした同僚も墜落し、2 人とも死亡した。タンク内には35 % の塩酸が入っていた。天板の劣化状況を把握してなく、作業者に事前の注意もなく、対策も取られていなかった。

・ 半導体素子製造工場で使用した廃液の処理を誤って塩化水素が発生して作業者が被災した。クリーンルーム内でウエハーのエッチング等の作業をした後、硫酸の入った廃液タンクに、間違えて塩酸を含む廃液を投入した。その結果、塩化水素ガスが発生し、クリーンルーム内に発散した。

・ ホテル地下にある温泉水滅菌用タンク(次亜塩素酸ナトリウム入り)に誤って塩酸の入った井戸水処理系統の薬液を投入して塩素ガスが発生した。換気装置を動かしたが発生したガスがホテル地下及び1 階に充満し、ホテル従業員、宿泊客計14 人が中毒し、治療を受けた。作業者への教育が不十分で、次亜塩素酸ナトリウムと塩酸を混合すると有毒な塩素ガスが発生することが周知徹底されてなく、曝露防止の対策も取られていなかった。ほかにもトイレの清掃等で塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム含有)と酸性洗剤(塩酸含有)を使ってしまって塩素ガス中毒した例がある。

 

日本ソーダ工業会のHP にも塩酸による災害事例がいくつか紹介されている。(http://www.jsia.gr.jp/data/handling_02.pdf)

・ 塩酸入りの2 L びんのふたを持って歩行中にふたが緩んでびんが落ちた。その際びんの中の塩酸が飛散し眼に入り薬傷を負った。

・ タンク車より塩酸をびん詰めするときびんからあふれて顔にかかって薬傷した。

・ タンクローリーから圧縮空気で受け入れ、タンクに注入作業中ゴムホースが外れて塩酸が流出し作業者にかかって薬傷した。

 


5.主な法規制及び許容濃度(図表4)

労働安全衛生法(安衛法)の特定化学物質障害予防規則(特化則)の特定化学物質第3 類物質に指定されている。取扱う場合(1 % 以下の場合を除く)は、作業主任者をおき、漏洩の防止(腐食防止、バルブ等の誤動作防止表示、送給原料表示、計測装置・警報設備の設置等)が必要である。名称等表示、通知物質に指定されており、0.1 % 以上でSDS の発行、0.2 % 以上で容器等に有害性や取扱注意の表示をしなければならない。塩酸は腐食性液体に挙げられており、ホースを通して動力を用いて送る場合、その設備に対して圧力計、耐食性、耐圧性ホース等の措置を講じなければならない。労働基準法で疾病化学物質として、作業者が業務上皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害又は歯牙酸蝕を生じた場合、使用者は療養、障害、休業等の補償、死亡した場合は遺族補償を行う。作業環境基準は設定されていない。作業環境許容濃度については日本産業衛生学会が最大許容濃度(短時間でもこの濃度を超えてはいけない)として2 ppm に設定している。ACGIH もSTEL(Short Time Exposure Limit:15 分間)で2 ppm に設定している。毒物劇物取締法では塩化水素や塩化水素濃度が10 % を超える塩酸は劇物に指定されている。販売・譲渡目的での製造・輸入や販売には登録が必要である。取扱いや保管で、盗難・紛失防止措置、「医薬用外劇物」の表示、漏洩、流出防止措置が必要である。もし漏洩事故があった場合は保健所や警察署又は消防署に連絡し、被害防止措置を講じる。盗難・紛失があればすぐに警察署に連絡しなければならない。廃棄する場合は、廃棄物処理法の産業廃棄物「廃酸」に該当し、中和等の処理が必要である。pHが2以下の場合は特別管理産業廃棄物に該当する。塩酸入りの家庭用洗浄剤は有害家庭用品法で塩化水素濃度10 % 以下に抑えられている。医薬品医療機器法(薬機法)でも塩化水素濃度が10 %を超える塩酸は「劇薬」に指定されており「劇」の表示義務等がある。麻薬向精神薬取締法で塩化水素は麻薬及び向精神薬原料とされている。塩化水素を10 % 以上含む場合が規制対象となる。業務として取扱う場合や盗難・紛失時に厚生労働大臣等に届出なければならない。一方食品衛生法では食品添加物として認められている。消防法では塩化水素や36 % を超える塩酸は貯蔵等の届出が必要である。液化ガスは高圧ガス保安法の対象でもあり、製造、輸入、貯蔵、移動、廃棄に対して規制がある。

国連危険物輸送勧告で塩化水素は高圧ガス、深冷液化ガスとして毒性ガスに分類され、塩酸は腐食性物質に分類され、航空法、船舶安全法、港則法等で規制されている。国連番号1050(塩化水素、無水物)、2186(塩化水素、深冷液化)の場合は航空法で輸送禁止、船舶安全法でも深冷液化した塩化水素は船舶による輸送は禁止されている。道路法でも毒劇物取締法の劇物にあたる塩酸は車両の通行制限がある。陸上輸送に関しては緊急時応急措置指針(Emergency Response Guidebook:ERG)で塩化水素及び塩酸はそれぞれ番号125(気体- 腐食性)、157(毒性物質/ 腐食性物質(不燃性/ 水反応性))に該当し、移送時にはイエローカードを携行する。

大気汚染防止法で、特定物質として塩化水素は事故等で大量に排出されたとき、直ちに応急措置及び復旧に努め事故状況を都道府県知事に通報しなければならない。また、塩化水素が発生する施設や廃棄物焼却炉から排出される煤煙の有害物質として塩化水素の排出基準がある。排水に関して塩化水素としての規制ではないが、水素イオン濃度(pH)の排出基準がある。海域以外の河川等の公共用水域に排出される場合のpHは5.8 以上8.6 以下、海域に対してはpH 5.0 以上9.0以下である。水系に大量に排出されると人の健康や生活環境に被害を及ぼすおそれがあり、水質汚濁防止法では事故等で河川や地下に排出して人や生活環境に被害のおそれがあるときは都道府県知事に届出が必要な物質に指定されている。塩酸は海洋汚染防止法の有害液体物質Z 類物質に挙げられている。

 

図表4 塩化水素、塩酸に関係する法規制

法律名 法区分 条件など 対象
労働安全衛生法 腐食性液体 塩酸
名称等表示/通知物質 表示≧0.2% (98)塩化水素

 

通知≧0.1%
特定化学物質障害予防規則 特定化学物質第3類物質 >1% (3)塩化水素
労働基準法 疾病化学物質* 塩酸(塩化水素を含む)
作業環境許容濃度 日本産業衛生学会

最大許容濃度

2ppm (3.0mg/m3)
ACGIH TLV STEL(C) 2ppm
毒物劇物取締法 劇物 >10% (8)塩化水素、(16)製剤
消防法 貯蔵等の届出物質 塩化水素>36% (2)塩化水素、(12)製剤
航空法 輸送禁止 国連番号1050 塩化水素(無水物)
国連番号2186 塩化水素(深冷液化)
腐食性物質 国連番号1789 塩酸
船舶安全法 運送禁止 国連番号2186 塩化水素(深冷液化)
高圧ガス 国連番号1050 塩化水素(無水物)
腐食性物質 国連番号1789 塩酸
港則法 腐食性物質 国連番号1789 塩酸(容器等級Ⅱ)
高圧ガス 国連番号1050 塩化水素(無水物)
道路法 車両通行制限 >10% (3)塩酸
高圧ガス保安法 液化ガス

毒性ガス

ボンベ容器入液化塩化水素

塩化水素

麻薬向精神薬取締法 麻薬向精神薬原料 塩化水素>10% (4)塩酸
大気汚染防止法 特定物質 排気 (9)塩化水素
排出規制物質(有害物質) 排出基準

(80, 700mg/m3)**

(2)塩化水素
水質汚濁防止法 指定物質

排水基準

海域:

海域以外の公共用水域

 

 

5≦pH≦9

5.8≦pH≦8.6

(5)塩酸

 

水素イオン濃度(pH)

 

下水道法 排除基準 5<pH<9 水素イオン濃度(pH)
海洋汚染防止法 有害液体物質Z類同等 (31)塩酸
薬機法 劇薬 >10% 無機薬品及び製剤
有害家庭用品法 住宅用液状洗浄剤 ≦10% 塩化水素
廃棄物処理法 産業廃棄物

特別管理産業廃棄物

 

pH≦2

廃酸

 

食品衛生法 食品添加物 指定添加物 塩酸
容器包装ポジティブリスト 基ポリマー 合成吸着剤、イオン交換ポリマーの変性剤(塩酸)*3
添加剤 塩酸*4

“対象”の( )内の数値は政令番号

*1: 関連疾病は皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害または歯牙酸蝕

*2: 80mg/m3: 塩素化エチレン製造用の塩素急速冷却施設等、700mg/m3: 廃棄物焼却炉

*3: 油脂、油性食品用以外

*4: 使用制限1%~3%(合成樹脂区分により異なる)

 


6.曝露等の可能性と対策

6.1 曝露可能性

塩酸自体は燃えないが、金属と反応し水素が発生し、火災や爆発の危険がある。塩化水素は気体で塩酸も高濃度の場合や高温では蒸気を発散する。蒸気やミストの吸入や経皮曝露する。塩化水素は水溶性が高く、生物体には水分があるので、気体でも接触すると水溶液となって体内に吸収される。飛沫の皮膚への付着や眼に入るおそれもある。金属に対する腐食性が強く、容器、配管、バルブ等が腐食し、破損して漏洩するおそれがある。塩化水素ガスも水分があると建物や施設、装置、ダクト内等離れた場所でも腐食させる。多くの用途では閉鎖系で取扱われるが、サンプリングや容器への充填、設備のメンテナンス等で曝露のおそれがある。ボンベ入りの塩化水素は高圧になっているので、バルブ操作のミスや腐食などにより漏洩したとき吹き出したり、その勢いによって事故を起こしたりするおそれもある。塩酸の入った密閉容器の栓を開けると内圧が高くなっていて吹き出すことがある。塩酸を含有するトイレ洗浄剤等が市販されていて一般消費者も経皮、吸入による曝露のおそれがある。また家庭用の洗浄剤には次亜塩素酸ナトリウムを含む漂白、消毒、殺菌、防かび剤があり、塩酸と接触すると有毒な塩素ガスが発生する。

環境に対する有害性は主にpH によると考えられ、高濃度の場合は影響が大きい。自然環境中では水溶性が高いので水系へ移行しやすい。長期的には水系で希釈され、緩衝作用により影響は小さくなる。

 

6.2 曝露防止

閉鎖系での取扱い、局所排気/ プッシュプル型換気装置を使用する。取扱いで蒸気(塩化水素)や飛沫の発生を抑える。作業環境許容濃度以下になるよう管理する。曝露のおそれがある場合は酸性ガス用防毒マスク又は状況に応じて送気マスク、空気呼吸器を使用する。ゴム又は樹脂製の保護手袋、保護衣、保護眼鏡(ゴーグル型がよい)を使用し、取扱い場所近くにシャワー、洗眼装置を設置する。容器や設備、器具は耐食性に注意する。耐食材料としては、耐酸ガラス、耐酸陶磁器、耐酸ゴムライニング、硬質塩化ビニール、ポリエチレン、耐酸性FRP 等がある。容器は漏れないよう密閉し、少し空間を残しておく。電気設備や配管はできるだけ気密のものを用いる。取扱後は顔や手をよく洗う。保管容器はできるだけ屋外に置き、地下室には保管しない。保管場所には排水溝を設けてこぼれた場合に流せるよう水道を引く。こぼれた場合は砂や土等に吸収させて回収する。回収が難しい場合やコンクリート、木材、腐食しやすい材料の場合は水で希釈した後消石灰(水酸化カルシウム:Ca(OH)2)、ソーダ灰(炭酸ナトリウム:Na2CO3)等で中和して大量の水で洗い流す。ソーダ灰の場合は二酸化炭素が発生するので換気をする。

家庭で洗浄剤として使用するときも、取扱い場所の換気を良くし、ゴム手袋やマスク、眼鏡等を着用し、飛沫が発生しないよう注意する。塩素系の製品と併用してはいけない。

 

6.3 廃棄処理

水で希釈した後、中和してからpH 排出基準を順守して廃棄する。都道府県知事等の許可を受けた産業廃棄処理業者に産業廃棄物として処理する。

 


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