第43回_REACH規則 附属書XVIIが合成ポリマー微粒子に関して改正されました

REACH規則 附属書XVII(危険な物質、調剤及び成形品の製造、上市及び使用の制限)が合成ポリマー微粒子に関して改正され、2023年9月25日にEU官報で告示されました1)。発効は同年10月17日です。以下にその詳細を解説します。

1.採択の経緯

2017年11月に欧州委員会は、REACH規則第69条(1)に従い、欧州化学品庁(以下:ECHA)に対し、合成の制限の可能性を視野に入れた書類を作成するよう要請しました。ECHAは2019年1月に、意図的に製品に含まれる5mm以下の合成ポリマー微粒子の制限案(以下:附属書XV書類)2)を公表しました。附属書XV書類では、合成ポリマー微粒子の意図的な使用により環境への放出が生じることは、環境に対するリスクが十分に管理されておらず、EU全体で取り組む必要があると結論づけています。附属書XV書類の主な提案内容を以下に示します。

1)放出が避けられないと考えられる分野や用途について、上市の全面禁止
2)回避可能な放出を最小化するために、使用と廃棄に関する説明書の提供義務
3)上市禁止から除外される用途からの放出に関する情報を得るための報告義務

具体的には、微粒子または微粒子の表面に固体ポリマーをコーティングしたものに含まれる固体ポリマーを、単体または混合物として0.01 wt%以上の濃度で上市することを禁止することが提案されました。なお、合成ポリマー微粒子の組成、特性、寸法には大きなばらつきがあるため附属書XV書類では、特定のポリマーや、ポリマーに含まれる可能性のある添加剤やその他の物質には触れず、サイズ、寸法比、固体状態、合成由来、環境中での極度の残留性に関して、同じ本質的特性を共有するポリマー群を分析しています。 同時に、いくつかの用途や分野を適用除外とすることが提案されました。産業現場で使用される合成高分子微粒子を除外することが提案されたのは、そのような用途からの排出を管理することは、例えば消費者や専門家による用途からの排出よりも容易だからです。また、特定の用途や分野に関する過剰な規制を避けるため、いくつかの欧州議会および理事会指令の範囲内の製品を除外することが提案されています。
その後、REACH規則第70条に基づくECHAのリスクアセスメント委員会(以下:RAC)の検討と、REACH規則の第71条(1)に基づくECHAの社会経済分析委員会(以下:SEAC)の検討の結果として、
最終的な意見書3)を2021年2月に欧州委員会に提出しました。  その後の欧州委員会での検討を経て、今回のREACH規則附属書XVIIの改正となりました。

2. 主な内容

2.1 制限物質の追加

No.78として「合成ポリマー微粒子」が追加されます。主な内容を以下に示します。

(1)対象
合成ポリマー微粒子:固体であり、以下の両方の条件を満たすポリマー
(a) 粒子に含まれ、その粒子の少なくとも1wt%を構成する。
(b) 上記(a)の粒子で少なくとも1 wt%が、以下の条件のいずれかを満たす。
(i)粒子の全ての 寸法が5mm以下である。
(ii)粒子の長さが15mm以下で、長さと直径の比が3以上である。
ただし、以下のポリマーは除外される。
(a) 自然界で行われた重合プロセスの結果であるポリマーで、それらが抽出されたプロセスとは関係なく、化学的に作られた物質ではない。
(b) Appendix15に従って証明された分解可能なポリマーである。
(c) Appendix16に従って証明された溶解度が2g/Lを超えるポリマーである。
(d) 化学構造中に炭素原子を含まないポリマーである。

(2)制限事項
合成ポリマー微粒子が、製品特性を実現するために必要な場合であっても、0.01 wt%以上の濃度で混合された物質として市場に出してはならない。 ただし、対象とする合成ポリマー微粒子の濃度が、利用可能な分析方法または添付文書によって決定できない場合、以下の大きさの粒子のみを考慮する。
(a) すべての寸法が5mm以下の粒子は、ひとつの寸法でも0.1μmの粒子
(b)長さが15mm以下で、長さと直径の比が3以上の粒子は、長さが0.3μmの粒子

(3)適用用途
上記(2)は、以下の用途について適用する。
(a)香料のカプセル化に使用される合成ポリマー微粒子は、2029年10月17日から。
(b)規則(EC)No 1223/2009(以下:化粧品規則)の附属書IIからVIの前文の(1)(a)項に定義される「リンスオフ製品」は、2027年10月17日から。(本規則の角質除去剤(マイクロビーズ)を含む。
(注意:本文ではマイクロプラスチックを「有機性・不溶性・分解抵抗性で5mm以下のすべての合成ポリマー微粒子」としています。また、マイクロビーズを「角質除去、研磨、洗浄のための合成ポリマー微粒子」としています)
(c)化粧品規則の附属書ⅡからⅥの前文の(1)(e)項に定義される口紅製品、同規則の附属書ⅡからⅥの前文の(1)(g)項に定義されるネイル製品、および同規則の適用範囲内のメイクアップ製品については、本項の(a)または(b)に該当するか、マイクロビーズを含む場合を除き、2035年10月17日から。
(d)化粧品規則の附属書IIからVIの前文の(1)(b)項に定義されるリーブオン製品については、2029年10月17日から。
(e)洗剤規則(EC) No 648/2004の第2条(1)に定義される洗剤、ワックス、ポリッシュ、エアケア製品(ただし、これらの製品が本項の(a)に該当するか、マイクロビーズを含む場合は除く)は、2028年10月17日から。
(f)医療機器規則(EU)2017/745の範囲内の機器で、それらの機器にマイクロビーズが含まれていないものは、2029年10月17日から。
(g) 肥料製品の市販に関する規則(EU) 2019/1009の第2条(1)に定義される肥料製品で、同規則の適用範囲に含まれないものについては、2028年10月17日から。
(h) 農薬登録規則(EC)No 1107/2009の第2条(1)における植物保護製品、およびそれらの製品で処理された種子、およびEU 殺生物性製品規則(EU)No 528/2012の第3条(1)(a)に定義される殺生物製品については、2031年10月17日から。
(i) 前記(g)または(h)に該当しない農園芸用製品は、2028年10月17日から。
(j) 人工芝用粒状充填材は、2031年10月17日から。 (4)適用除外製品
以下の製品の市販には適用されない。
(a)それ自体または混合物として工業現場で使用される合成ポリマー微粒子
(b) 指令2001/83/ECの範囲内の医薬品および規則(EU)2019/6の範囲内の動物用医薬品
(c) 欧州議会および理事会規則(EU) 2019/1009の範囲内の肥料製品
(d) 欧州議会および理事会規則(EC) No 1333/2008の範囲内の食品添加物
(e) 欧州議会および理事会規則(EU)2017/746の範囲内の機器を含む体外診断用機器
(f) 上記(d)に該当しない、規則(EC)No 178/2002の第2条に定義される食品、および同規則の第3条(4)に定義される飼料

(4)適用除外用途
以下の合成ポリマー微粒子を単独または混合物として上市する場合には適用されない。
(a) 通常の使用用途において使用説明書に従って使用された場合、環境への放出が防止されるよう、技術的手段で封じ込められた合成ポリマー微粒子
(b) 合成ポリマー微粒子の物理的性質が、本規制に含まれないような状態に恒久的に変更されるもの
(c) 合成ポリマー微粒子が最終用途までに、固形物の中に恒久的に組み込まれたもの

(5)情報提供義務
(5-1)2025年10月17日以降、上記(4)(a)項の合成ポリマー微粒子の供給者は、以下の情報を提供しなければならない。
(a) 合成ポリマー微粒子の環境への放出を防止する方法を、川下産業ユーザーに説明する使用および廃棄に関する説明書
(b) 以下の表示をしなければならない。「供給される合成ポリマー微粒子は、欧州議会および理事会規則 (EC) No 1907/2006 の付属書XVIIの項目78に規定された条件に従う」
(c) 物質又は混合物中の合成ポリマー微粒子の量又は濃度に関する情報
(d) 物質または混合物に含まれるポリマーの特定に関する一般的な情報
(5-2) 2026年10月17日以降、上記(4)(e)項に言及する合成ポリマー微粒子を含む製品の供給者と、2025年10月17日以降、上記(4)(d)項および(6-1)項の合成ポリマー微粒子を含む製品の供給者は、使用者に対し、合成ポリマー微粒子の環境への放出を防止する方法を説明した使用および廃棄に関する説明書を提供しなければならない。
(5-3) 2031年10月17日から2035年10月16日まで、合成ポリマー微粒子を含む上記(3)項(c)の製品の供給者は、以下の表示をしなければならない。「この製品にはマイクロプラスチックが含まれています。」ただし、2031年10月17日以前に上市された製品については、2031年12月17日まではその記載は不要である。
(5-4)上記(6-1)~(6-3)項の情報は、明瞭に視認でき、読みやすく、かつ消えない文字で、また、(6-1)項及び(6-2)項の情報について適切な場合には、ピクトグラムの形で提供しなければならない。テキストまたはピクトグラムは、合成高分子微粒子を含む製品のラベル、包装、または包装リーフレットに、あるいは(6-2)項の情報については安全データシートに記載しなければならない。テキストまたはピクトグラムに加えて、供給者は、その情報の電子版にアクセスできるデジタルツールを提供してもよい。
(5-5)2026年以降、工業用地でプラスチック製造の原料として使用されるペレット、フレーク、粉末状の合成高分子微粒子の製造業者および川下使用者、2027年以降、合成高分子微粒子を使用するその他の合成高分子微粒子の製造業者および川下使用者は、毎年5月31日までに以下の情報をECHAに提出しなければならない。
(a) 前年度における合成ポリマー微粒子の使用に関する記述
(b) 合成ポリマー微粒子の各用途について、使用されるポリマーの特定に関する一般的な情報
(c) 合成高分子微粒子の用途ごとに、前暦年に環境に放出された合成高分子微粒子の量の推定値(輸送中に環境に放出された合成高分子微粒子の量も含まなければならない)
(d) 合成ポリマー微粒子の各用途について、上記(4)項の(a)に規定された適用除外に言及すること。
(5-6)2027年以降、上記(4)項の(b)、(d)及び(e)、並びに(5)項の合成ポリマー微粒子を含む製品を、初めて上市する供給者は、毎年5月31日までに、以下の情報をECHAに提出しなければならない。
(a) 前年度に合成ポリマー微粒子が上市された最終用途の説明
(b) 合成ポリマー微粒子が上市された最終用途ごとに、前年度に上市されたポリマーの特定に関する一般的な情報
(c) 合成ポリマー微粒子が上市された各最終用途について、前暦年に環境に放出された合成ポリマー微粒子の量の推定値
(d) 合成ポリマー微粒子の各用途について、上記(4)項の(b)、(d)若しくは(e)又は(5)項の(a)、(b)若しくは(c)に規定する適用除外に言及すること。

(6) Appendix
Appendix15にポリマーの分解性の試験方法が、Appendix16にポリマーが可溶性であることを証明するために許容される試験方法と試験条件が示されました。

3. EUに輸出する日本企業の注意点

合成ポリマー微粒子は多くの製品で使用されています。今回の改正は、前記のように、化粧品、洗剤、肥料、農薬など、多くの製品に適用範囲が及んでおり、自社製品が該当しないかの注意が必要です。また、情報提供義務もあります。
今回、対象とする合成ポリマー微粒子の濃度が、利用可能な分析方法または添付文書によって決定できない場合、前記のように物理的な大きさが示されましたが、今後の議論で変更されていく可能性がありますので、その動向には注意が必要です。

(一社)東京環境経営研究所 中山 政明 氏

引用
1) 附属書XVIIを合成ポリマー微粒子に関して改正すること
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32023R2055&qid=1695866159463
2) 附属書XV書類
https://echa.europa.eu/documents/10162/db081bde-ea3e-ab53-3135-8aaffe66d0cb
3) RACとSEACの意見書
https://echa.europa.eu/documents/10162/a513b793-dd84-d83a-9c06-e7a11580f366

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

<化学物質情報局> 化学物質管理の関連セミナー・書籍一覧 随時更新!

<月刊 化学物質管理 サンプル誌申込>  どんな雑誌か、見てみたい/無料!