第64回_プラスチック製品を管理する基準に関する北欧協同調査報告について

2024年1月31日、北欧閣僚理事会は、「問題のある、不必要で回避可能なプラスチック製品に対処するための世界的な基準」という調査報告書 1) を公表しました。本報告書では、140以上の国が特定のプラスチック製品の禁止や制限を制定していると指摘し、使い捨てプラスチックだけでなく、より広範囲のプラスチック製品を管理するための世界的な基準の必要性を強調しています。今回のコラムでは、本報告書の内容を解説します。

1.報告書の目的と背景

本報告書の目的は、国連環境総会(UNEA)の決議5/14に基づいて策定された、海洋環境を含むプラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある文書 2) のもとで、問題のある、不必要な、あるいは回避可能なプラスチック製品(Problematic, Unnecessary or Avoidable:PUA 以下PUAプラスチック製品)の管理措置の策定に貢献することです。特に資源効率や循環型経済へのアプローチを含め、製品設計や環境に配慮した廃棄物管理などを通じて、プラスチックの持続可能な生産と消費を促進するための規定を提唱しています。

国連環境総会(UNEA)の決議5/14では、高水準で急速に増加しているプラスチック汚染は、地球規模での深刻な環境問題であり、持続可能な開発の環境的、社会的、経済的側面に悪影響を及ぼしていることに懸念を表明しています。さらに、海洋環境およびその他の環境におけるプラスチック汚染(マイクロプラスチックを含む)は、国境を越える可能性があり、その影響とともに、各国の事情と能力を考慮に入れたうえで、プラスチックのライフサイクル全体を踏まえた対策に取り組む必要があることを指摘しています。

PUAプラスチック製品は、キャリーバッグ、ストロー、使い捨てカトラリー、包装材などの使い捨てプラスチックと関連付けられており、これらはプラスチック生産量の約36%を占め、そのうち85%は不適切に管理されていると推定されています。さらに、プラスチックの汚染問題は、使い捨て用途以外にも広がっています。そのため、今後予定されているプラスチックの問題に関する世界的な合意に向けて、使い捨てプラスチックと同様にその他の用途や分類のプラスチック製品についても、問題のある、不必要な、あるいは避けるべきと考えられるカテゴリーを決定するための世界的な基準を策定する必要性があります。

2.提案されている基準

本報告書は、2023年11月にナイロビ(ケニア)で開催されたプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第3回政府間交渉委員会(INC-3)に提出されたプラスチック汚染に関する文書のゼロ草案 3)で概説された選択肢に基づいています。

本報告書で提案されている基準は、ゼロ草案の「問題がある」「回避可能」の2分類を、「問題のある」「不必要」「回避可能」の3分類に細分化しています。

3つの分類を互いに区別しておくことで、それぞれの分類に特化した管理策を策定することができるうえ、プラスチックの生産量の全体的な削減を支援するための代替品なしの全廃から、資源効率を支援するための再設計まで、さまざまな対策を含めることが可能となります。

以下のように提案されている基準は、製品の機能または最終用途の判断に基づいており、主要な懸念事項によってテーマ別に分類されています。

(1)問題のあるプラスチック製品

製品のライフサイクル全体で環境や人の健康に悪影響を及ぼす製品を指します。製品を決定するための潜在的な基準は以下の通りです。

(a)危険性
・製品が、二次プラスチック由来のものを含め、懸念される化学物質やポリマーを含有している、あるいは健康や環境に有害である。

(b)排出物の発生
・製品がその製造、意図された使用または使用終了時に、ナノ、マイクロ、マクロプラスチックを放出する。
・製品が意図された使用中に懸念される化学物質を放出する。
・製品が特定の条件下で生分解性であると偽って宣伝されている。
・自然界に直接投入されるため、環境に拡散する傾向がある。

(c)循環の阻害
・確立されたリサイクル可能性の基準に従って、製品がリサイクル不可能である。
・製品が回収されない可能性が高く、適切に廃棄・管理されない可能性が高い。
・製品が、正しい使用済み処理を行うための既存のラベリング制度(識別、分別、分離を容易にすることを目的としたものを含む)に適合しておらず、循環性を阻害し、回避可能な生産につながっている。

(d)透明性の欠如
・ライフサイクル全体における環境や人の健康に対する安全性を判断するためのデータが不足している。

(2)不必要なプラスチック製品

社会に大きな付加価値をもたらさないため、必要不可欠ではない機能を持つ製品を指します。製品を決定するための潜在的な基準は以下の通りです。

(a)(廃絶に向けて)プラスチックを必要としない代替手段が利用可能か、または利用可能な可能性がある
・プラスチック製品の必要性をなくすような、実行可能で安全な変更/代替手段が利用可能か、利用可能な可能性がある。

(b)(廃絶に向けて)プラスチック部品を取り除いた代替設計が利用可能か、利用可能な可能性がある
・その製品には、交換を必要とせず、製品の主要機能を損なうことなく除去できるプラスチック部品がある。

(3)回避可能なプラスチック製品
必要不可欠な機能を持つものの、その製品に対する需要をプラスチック以外の代替品、代替設計、代替手段によって減らすことができる製品を指します。製品を決定するための潜在的な基準は以下の通りです。

(a)(削減に向けて)製品の新バージョンの必要性を減らす代替手段が利用可能か、利用可能な可能性がある
・実現可能な再利用または詰め替えのビジネスモデルが利用可能か、開発可能である。
・実現可能な再製造ビジネスモデルが存在するか、開発可能である。
・修理の権利、早期陳腐化の抑制、関連する廃棄物の発生を削減する共有サービスの提供などを通じて、製品の寿命を延ばすことができる。

(b)(削減に向けて)製品の必要性を減少させる非プラスチック代替品が利用可能か、利用可能な可能性がある
・製品を自然由来の製品に完全に置き換えることができる。
・プラスチック以外の代替材料を使用して製品を製造することができる。

(c)(削減に向けて)製品の新バージョンの必要性を減少させる代替設計が利用可能か、利用可能な可能性がある
・製品の長寿命化を含め、資源効率を改善する選択肢が存在するか、開発可能である。

本報告書では、PUAプラスチック製品がこれらの基準により、市場から排除、代替手段や代替品の促進ならびに再設計といった行動の優先順位を決定することで、以下の主要目標に貢献するとしています。

目標1:不必要な製品を市場から排除し、安全な非プラスチックの代替品と代替ビジネス手法に置き換えることにより、プラスチックの生産を削減すること

目標2:安全な代替品や循環型ビジネス手法など、持続可能性の基準に従って再設計することにより、市場に残るプラスチックを持続可能かつ安全に管理すること

3.まとめ

今回提案されているPUAプラスチック製品の基準は法的強制力があるものではありませんが、プラスチックの世界的なガバナンスを強化するために必要とされる基準といえます。報告書のなかでは、策定された基準は、禁止および制限、締約国間および非締約国との貿易措置、特定製品の期限付き免除といった義務的措置と規制されていない追加的な製品を自主的に特定し、国独自の規制措置を行う自主的措置の両方を喚起することに繋がるとしています。

本報告書では、現状のプラスチック製品と国別の規制一覧表も掲載されており、我々が現状または今後のプラスチック規制を理解するうえでも参考となると考えられます。

(一社)東京環境経営研究所 柳田 覚 氏

1) 問題のある、不必要で回避可能なプラスチック製品に対処するための世界的な基準
https://www.norden.org/en/publication/global-criteria-address-problematic-unnecessary-and-avoidable-plastic-products

2) 国連環境総会決議5/14 プラスチック汚染の終焉:国際的な法的拘束力のある制度に向けて
https://digitallibrary.un.org/record/3999257

3) プラスチック汚染に関する文書のゼロ草案
https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/43239/ZERODRAFT.pdf

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

<化学物質情報局> 化学物質管理の関連セミナー・書籍一覧 随時更新!

<月刊 化学物質管理 サンプル誌申込>  どんな雑誌か、見てみたい/無料!