第73回_RoHS指令 附属書IIIが改正されました

欧州委員会はRoHS指令(2011/65/EU)の附属書III項目39を改正する欧州委員会委任指令(C/2024/1573)を5月21日に官報掲載しました1)。以降、その主な内容を説明します。

1. 対象物質

1.1 カドミウムに関する適用除外

RoHS指令附属書IIには、制限物質及び均質材料中の許容最大濃度値が掲載されていますが、カドミウムだけは1桁厳しく0.01wt%(100ppm)となっています。またRoHS指令の前文(5)では、「特にカドミウムの使用を制限し、代替物質の研究を促進する全体的な戦略を実施すべきである。カドミウムの使用は、適切な代替物質が存在しない場合に限定すべきであると強調している」と記載されています。このようにRoHS指令では、特にカドミウムに関しては使用制限を強化するという考え方が読み取れます。
適用除外は附属書IIIに掲載されていますが、カドミウムの適用除外の1項目として39(a)項があります。39(a)項は、ディスプレイ照明用途に使用されるカドミウムを含む半導体ナノ結晶量子ドット(QD)のダウンシフトにおけるセレン化カドミウムに関するものです。この39(a)項は2017年10月、欧州委員会委任指令(EU)2017/1975により、以前の39項に代わって導入されました。その際、有効期限は2019年10月31日に設定されました2)。

1.2 量子ドット(QD)の概要

カドミウム(一般的にはセレン化カドミウムまたは硫化カドミウムを含む)は、青色LED光を狭い発光スペクトルに変換する材料、いわゆるダウンコンバーターに使用することができます。カドミウムを含むダウンコンバーターは、カドミウムを含まないダウンコンバーターよりも、非可視赤外領域のスペクトルにおいて損失が少ないです。つまり、カドミウム含むダウンコンバーターは廃熱の少ない光源となり、エネルギー効率が高くなります。これらのダウンコンバーターは、数ナノメートルの大きさの粒子によって特性が改善されているため、量子ドット(QD)とも呼ばれています。適用除外申請は、ディスプレイ用途および照明用途のLEDに含まれるカドミウムを含むQDに関するものです。照明用途は、RoHS指令の附属書IIIの既存の適用除外39(a)項の対象外となっています。ディスプレイおよび照明の開発ペースは非常に速く、近年、多くがRoHS指令に適合する代替品に置き換えられています。
ディスプレイ用途や照明用途にQD技術を導入するには、さまざまな方法があります。
1)オンチップ技術
QDはLEDパッケージ内に封入された状態でLED表面に直接配置されます。最も少量のQDの使用となるため、カドミウムの使用量が最も少ないです。
2)オンエッジ技術
LEDチップに近接した部品にQDを組み込みます。カドミウムを含むQDを効率的に使用できます。
3)オンサーフェス技術
QDはディスプレイ領域全体を覆うフィルムに封入されます。カドミウムを含むQDを相対的に最も多く必要とします。

2.改正案の経緯3)

2.1 適用除外申請

以降、その更新の有効期限内に欧州委員会は、適用除外39(a)項の範囲の修正と期間の延長を求める3件の適用除外申請を受けました。それら3件の適用除外申請は、以下のようなものです。
1)適用除外申請(a)
演色評価数80以上の照明用途の発光ダイオード(LED)半導体チップ上のオンチップ技術の発光材料に含まれるカドミウム(1,000ppm未満)の使用(有効期間5年)
2)適用除外申請(b)
ディスプレイおよびプロジェクションに使用されるLEDチップ上に直接蒸着されたQDのダウンシフトにおけるカドミウムの使用(LEDチップ表面1mm^2あたり5μg未満のカドミウム)
3)適用除外申請(c)
現行の適用除外(ディスプレイ画面面積1mm^2あたり0.1μg未満)を改正し、2021年10月31日まで延長する。

2.2 適用除外申請に対する調査

欧州委員会は2017年12月にこれらの適用除外申請の調査(Pack15Task5)を開始しました。8週間のパブリックコメントでは5件のコメントが提供され、その内容は調査結果に盛り込まれています。
欧州委員会は、2021年2月23日に開催されたRoHS指令に基づく加盟国の専門家会合で、調査結果を発表しました4)。一部の専門家は、RoHS指令の第5条に規定された基準に関する報告書の結論に同意できないと表明しました。特に、これらの専門家は、適用除外を認めるメリットが、当該用途でカドミウムを代替しないことから生じる悪影響を上回らないと主張しました。その後、欧州委員会はそれらの意見と未解決の質問を考慮して評価結果を再検討しました。
2022年4月6日、欧州委員会は再検討した結論を提示し、加盟国の専門家からこの再結論に対する意見を求めました。しかし、加盟国の専門家からの意見は、前回の意見と同様のものでした。
そのため、ディスプレイと照明におけるQDの用途に関する情報を更新するためのフォローアップ研究会が組織され、2022年12月にその研究結果が発表されました5)。
欧州委員会は委任指令案を作成し、4週間にわたって一般に公開しました。その際、2件の意見が寄せられましたが、検討の結果、大幅な変更はありませんでした。
その後、RoHS指令第5条(3)から第5条(7)に基づくすべての手続きが終了し、欧州理事会と欧州議会に通知されました。

2.3フォローアップ研究会の技術評価内容

2.3.1 オンサーフェス技術のQD

前記1.1項の適用除外申請(c)は、ディスプレイにおけるカドミウムを含むQDのオンサーフェス技術を対象としています。代替品であるカドミウムを含まないQDは、オンチップ技術よりもオンサーフェス技術の方が発展しており、すでに市場で入手可能で十分な信頼性があります。さらに、100ppm未満のカドミウムを含むQDも入手可能であり、これはRoHS指令の附属書IIにおけるカドミウムの規定値以下です。以前は、オンサーフェス技術のカドミウムを含むQDは、カドミウムを含まないQDと比較してエネルギー効率が優れているという議論がありました。しかし、QDのレベルでは同等以上の性能を持つカドミウムを含まないQDが市場で入手可能であることが確認されています。結論として、適用除外の基準は満たされないとされました。

2.3.2 オンチップ技術のQD

前記1.1項の適用除外申請(a)及び(b)はオンチップ技術を対象としています。カドミウムを含むQDは、照明用途とディスプレイ用途に区別することができます。
(1)照明用途
適用除外申請(a)は照明用途を対象としており、現行の適用除外39(a)項の範囲には含まれません。照明用途については、100ppm未満のカドミウムを含有するQDまたはカドミウムを含まないQD が市販されており、信頼性が高いと考えられます。しかし、特に高品質の照明分野では、カドミウムを含むQDを使用したLEDは、カドミウムを含まないQD よりも高いエネルギー効率を持っています。例えば、カドミウムが100ppm未満のQDを使用したLEDは、カドミウムを400~800ppmを含むQDを使用したLEDよりも、エネルギー消費量が約10%大きいです。
使用済み後の環境への影響については、LED照明内のカドミウムを含むQDを使用したLEDは、蛍光ランプ、他の非蛍光ランプ、またはカドミウムを含むQDを使用したLEDが組み込まれた他の電気電子製品と共に廃棄される可能性があります。また、カドミウムを含むQDを使用したLEDの一部が、家庭廃棄物やその他の不適切な方法で廃棄される可能性もあります。適用除外申請者は、製品ライフサイクルの流れにおけるカドミウムの処理について十分な情報を提供していませんでした。
適用除外を認めることによるエネルギー効率の面でのメリットは、制限物質の使用による悪影響を上回らないと結論づけられました。また、廃電気電子製品から排出されるカドミウムの処理は不確定であり、将来のリサイクルを妨げる可能性があります。この製品分野での技術の急速な発展を考慮すると、カドミウム含有用途に新たな適用除外を認めることは、研究開発に誤ったシグナルを与え、クリーンな材料サイクルを目指す政策に逆行することになると結論付けられました。
(2)ディスプレイ用途
ディスプレイ用途の場合、確立された技術でデバイスと色変換材料のレベルでRoHS指令に準拠した代替品が存在します。マイクロディスプレイのような一部の新技術については、市場準備が整ったカドミウムを含まないQDや、カドミウムを含んだQDのオンチップ技術と同等の信頼性を持つ構成の代替品は現在のところ存在しません。そうした代替品の開発にはさらに4~5年かかる可能性があるため、この用途でのカドミウムを含まないQDが利用可能になるのは2027年末になるかもしれないとされました。
オンチップ技術は、オンサーフェス技術に比較し、デバイス1個あたりのカドミウム必要量が非常に少ないです。つまり、オンサーフェス技術で100ppm未満のカドミウムを使用した場合、オンチップ技術で100ppm以上のカドミウムを使用した場合よりも、デバイス1個当たりのカドミウム量が多くなる可能性があります。したがって、ディスプレイ用途、特に液晶ディスプレイ(LCD)において不必要なカドミウムの使用を避けるため、新たな適用除外の規定で、デバイスあたりのカドミウムの最大量を制限すべきであるとされました。このように、カドミウムの総量を削減することによる環境へのプラスの影響と、技術の有益なエネルギー効率は、全面的な代替によるマイナスの影響を上回ります。
LEDスクリーンのカドミウムを含むQDを使用したLEDは、主にスクリーンやモニターと一緒に廃棄されると想定されます。しかし、適用除外申請では廃棄段階に関する十分な情報は提供されていませんでした。カドミウムを含むQDを使用したLEDの廃棄は、サーキュラーエコノミーアクションプランの目標に適合していないと考えられます。問題のひとつは、カドミウムを含むQDを使用したLED が適切に廃棄されない場合、環境や人体に悪影響を及ぼすリスクがあることです。もうひとつの問題は、リサイクル業者がカドミウムを含むQDを使用したLEDからカドミウムを抽出してリサイクルできるプロセスを確立していないことです。リスクを最小化するため、欧州委員会規則(EU)2019/2021では、均質材料中のカドミウムの重量濃度値が0.01%を超える画面パネルを持つ電子ディスプレイには、「Cadmium inside」ロゴを表示しなければならないと規定しています6)。

3. 結論

適用除外申請により要求された適用除外の範囲を拡大することは推奨されません。その代わり、適用除外の範囲は、カドミウムを含まないQDで代替できない用途に限定すべきとされました。その点から考慮すると、以下の結論となりました。
(1)前記1.1項の適用除外申請(a)は照明用途であり、カドミウムを含まない、またはRoHS指令に準拠した信頼性の高いQDを製造することは技術的・科学的に可能であるとされました。照明用途におけるカドミウムを含むQDが、カドミウムを含まない、またはRoHS指令に準拠したQDよりも優れたエネルギー性能を示す可能性があるとしても、この性能向上が重要であることを示すことはできませんでした。したがって、照明用途にカドミウムを含むQDを使用することは、代替によるこのような悪影響を上回るものではないと結論付けられました。代替品のエネルギー性能が若干低いことは、カドミウムの物質規制の適用除外を正当化するものではありません。このように適用除外を正当化する条件を満たしていないため、却下されました。
(2)前記1.1項の適用除外申請(b )は、RoHS指令第5条(1)(a)の2項と3項の基準を満たしています。その理由は、ほとんどの技術について代替と排除が技術的に実行可能であり、信頼できる代替品が存在するからです。唯一の例外は、信頼できる代替品で代替できないマイクロディスプレイのような一部の最近開発された技術です。デバイスあたりのカドミウムの最大使用量を制限することで、一部のディスプレイ用途はより高いエネルギー効率の恩恵を受け、カドミウムの総量が削減されます。従って、これらの技術は、新たに39(b)項を規定し、新たな適用除外の規定とすべきです。さらに適用範囲をディスプレイ用途の特定の技術に限定すれば、適用除外を認める基準を満たしており、デバイスごと(つまりディスプレイ画面ごと)のカドミウムの最大濃度を規定することとされました。2027年末までには、QDの代替用途が登場することが期待されます。今回の決定ではイノベーションに対するプラス効果(小型化など)と、マイナス効果(カドミウムを含まない代替品開発へのインセンティブの低下など)の両方が考慮されています。したがって、RoHS指令第5条(2)に従い、その日まで適用除外期間を制限することが適切であると結論付けられました。
(3) 前記1.1項の適用除外申請(c )は却下されました。要求された適用範囲には、既存の適用除外39(a)項の範囲が含まれるからです。

3.1 修正箇所

指令2011/65/EUの附属書IIIが以下のように改正されます。
(1)39(a)項は以下のように置き換えられます。
39(a) ディスプレイ照明用途のダウンシフトカドミウム系半導体ナノ結晶量子ドットに含まれるセレン化カドミウム(LEDチップ表面1mm^2あたり5μg未満のカドミウム)
有効期限は2025年11月21日まで
(2)次の項目が挿入されます。
39(b)ディスプレイおよびプロジェクション用途に使用されるLED半導体チップに直接蒸着されたダウンシフト半導体ナノ結晶量子ドットに含まれるカドミウム(LEDチップ表面1mm^2あたり5μg未満のカドミウム)デバイスあたりの最大量は1mg。
有効期限は2027年12月31日まで

4. 今後の動き

本指令の官報掲載は2024年5月21日であり、その翌日から20日目である6月11日に発効となります。EU加盟国は本指令の発効日から6ヶ月目の最終日、つまり12月31日までに、必要な国内法を採択して公表することになり、その翌日、つまり2025年1月1日までに適用となります。
(一社)東京環境経営研究所 中山 政明 氏
引用
1) LED半導体チップに直接蒸着される量子ドットのダウンシフトにおけるカドミウムの適用除外に関するRoHS指令の改正
2) 指令(EU)2017/1975
3)改正の経緯
4) ディスプレイと照明の量子ドット用途におけるカドミウムの使用に関する3つの適用除外申請の評価
5) RoHS指令に基づくディスプレイおよび照明用量子ドットアプリケーションにおけるカドミウム使用に関する研究
6) 欧州委員会規則(EU)2019/2021

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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