第109回_カナダにおけるPFAS評価の現状について(その2)
前回のコラム(*1)では、カナダのPFAS規制の現状として2025年3月に公表された「State of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) report」に関して、PFAS類の規制状況について取り上げました。カナダは同時期に今後のPFAS類のリスクマネジメントアプローチを示す「Risk management approach for per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS), excluding fluoropolymers)」(*2)を公表しています。今回のコラムではこの内容について取り上げてみたいと思います。
◆PFAS類をスケジュール1 Part 2へ収載することを勧告
カナダでは現状においてPFAS類についてOECDの定義をベースに主鎖がフッ素化された炭素で構成されるフルオロポリマーを除いたものを対象としています。「State of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) report」では、結論としてカナダ環境保護法(CEPA)の第64条(a)および第64条(c)に基づいて有毒であるとしています。有毒とする理由としては、PFAS類が環境や生物学的多様性に即時的または長期的に有害な影響を与える、もしくは影響を与える可能性のある量や濃度で環境に入るまたはその可能性があることをあげています。一方で、PFAS類は生命が依存する環境に危険を及ぼすまたは構成する可能性のある量または濃度、条件下で環境中に侵入しているという第64条(b)の基準は満たしていないと結論付けています。
これらの結論に基づきカナダ政府は、PFAS類をCEPAの有害物質リストであるスケジュール1 Part 2へ追加することを勧告しました。スケジュール1にはPart 1とPart 2の区分がありますが、Part 1が全面的、部分的または条件付きでの禁止を優先するのに対し、Part 2は汚染防止処置を優先して検討するという違いがあります。PFAS類はすでにPart 1に収載されているペルフルオロオクタンスルホン酸及びその塩(PFOA)を除き、Part 1の提案要件であるCEPA第77条(3)を現時点で確認できないと判断されたため、Part 2への収載が提案されています。第77条(3)(b)にはスケジュール1 Part1への収載要件として「人命または健康に危険を及ぼす可能性があり、発がん性、変異原性、または生殖に有毒であること」との記載があり、これらの性質が現時点で確認できないことが判断基準の一つになっているものと考えられます。ただし、今後、有害性に関する調査研究の進展によりPart 1への変更となる可能性は考えられるとの記載があります。
◆リスクマネジメントの提案
PFAS類をCEPAのスケジュール1 Part 2へ追加する勧告にともない、カナダ政府はリスクマネジメント案を提案しています。提案されたリスクマネジメント案では、達成する環境および人間の健康目標を以下の2つとし、フェーズ1~3による3つの区分にて段階的にリスク管理活動を行うことを提示しています。
提案された環境および人間の健康目標
・悪影響を回避するために、カナダの環境への放出を減らす
・一般集団(不均衡な影響を受ける集団を含む)のばく露を減らし、人間の健康を保護する
フェーズ1~3の内容
フェーズ1:現在規制されていないPFAS類(フッ素樹脂を除く)の消火用泡への使用
フェーズ2:代替品が存在することが知られている消費者向けアプリケーションへの使用(健康、安全、または環境の保護のために代替可能なPFASの使用は禁止する)
・化粧品
・自然健康製品と非処方薬
・食品包装材料、食品添加物、紙皿、カップ、ボウルなどの非工業用食品接触製品
・塗料およびコーティング、接着剤およびシーラント、および消費者が利用できるその他の建築材料
・洗浄剤、ワックス、ポリッシュなどの消費者用混合物
・繊維用途(消防服などの個人用保護具を含む)
・スキーワックス
フェーズ3:現状、実現可能な代替手段がない可能性があり、PFASの必要性をさらに評価する必要があるもの
・スプレーフォーム断熱材や冷凍冷蔵などのフッ素系ガス用途
・処方薬(ヒトおよび獣医学)
・医療機器
・工業用食品接触材料
・鉱業や石油などの産業部門
・輸送および軍事用途
リスクマネジメントについては各フェーズにおいて実行可能な代替案や社会経済的要因に注意を払いながら、適用除外についても検討するとしています。
これらのリスクマネジメント活動の今後の見通しとしては、以下のスケジュールが想定されています。
フェーズ1:消火用泡への使用に関する協議:2025年夏/秋 規制案:2027年春
フェーズ2:フェーズ1規則案の公表に続く協議:2027年
フェーズ3:フェーズ2のリスクマネジメントを踏まえた協議:未定
各段階において提案された文書を通知するための協議文書の公開と提案された文書に関する協議は最低60日間のパブリックコメント期間をとり、最終文書の公開は提案された文書の公開から18か月以内に行うことを原則としています。
◆最後に
カナダは前回のPFAS類に関する現状報告書に続き、これからの検討の方向性を示すリスクマネジメントアプローチを公開しました。このリスクマネジメントアプローチでは定義された高分子PFASを除くPFAS類を対象としており、EUで検討されている包括的なPFAS制限案に通じるものを感じます。構造的な定義においては、PFASを同じOECDの定義をベースとしているものの、一部の構造を除外しているEUに対し、除外する構造の設定が現段階ではなく、より広範囲となる可能性があります。カナダは一連の報告書においてPFAS類を有毒と位置づけ包括的な規制を検討する方向性を打ち出しましたので、利害関係者においては適用範囲や適用除外用途、進捗状況などについて、その動向を注視しておく必要がありそうです。
(一社)東京環境経営研究所 長野 知広 氏
(*1)カナダにおけるpfas評価の現状について(その1)
https://johokiko.co.jp/chemmaga/tkk0107/tkk/
(*2)State of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) report
https://www.canada.ca/en/environment-climate-change/services/evaluating-existing-substances/state-per-polyfluoroalkyl-substances-report.html#toc3
(*3)Risk management approach for per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS), excluding fluoropolymers
https://www.canada.ca/en/environment-climate-change/services/evaluating-existing-substances/risk-management-approach-per-polyfluoroalkyl-substances.html
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。