第4回_REACH規則の改定の動向
EU委員会は、2020 年10 月14 日に、EUの化学物質政策の新長期ビジョンの「有害物質のない環境に向けた持続可能な化学物質戦略」(COM(2020) 667 final)1)を発表した。
化学物質戦略は、EUグリーンディールを受けて、すべての化学物質がより安全かつ持続的に使用されていることを保証するために、最も有害な化学物質の使用を禁止するなど多くの既存規制法の変革を促す取り組みである。
化学物質戦略による取り組みの一つとして、REACH規則改正のイニシアティブについて、2022 年1 月20 日からREACH規則改正に関する公開協議が行われた。
2022 年6 月14 日に公開協議結果が発表2)された。回答は771 件であった。
公開協議は、選ばれた利害関係者とのインタビュー、加盟国行政との協議、専門技術のワークショップなどの協議活動の一部で、公開協議だけで改正案が決まるものでもない。
公開協議の影響評価開始文書では、「REACH規則は効果的であるが、さらなる改善、簡素化、負担軽減の機会がある」とし、以下のイニシアティブ3)に関するオプションを示し意見を求めた。
(1) 登録要件の改訂: 安全な使用の文書化、特定のポリマーの登録、および環境フットプリントに関する情報が含まれる。
・ 物質の重大な危険特性について、REACH規則の現時点で要求されるよりも多くの情報を提供するべきかどうかという質問に関して、回答者の37 % が同意または強く同意した。
・ 低トン数によるリスクについて懸念があることに回答者の35 % が同意または強く同意した。1 ~ 10 トンの安全性評価は回答者の40 % が反対または強く反対した。
・ 特定のポリマーの登録は、回答者の48 % が同意または強く同意した。
(2) 混合評価係数(MAF)の導入:複数の物質のばく露によるリスク(複合影響・複合汚染)に対処するためのオプションの分析。
・ MAFが化学物質混合物への意図しないばく露に関連するリスクを軽減するための最も適切なアプローチであることに回答者の48 % が強く反対または反対した。
(3) 認可プロセスの改革: 現行の規定の明確化と簡略化、小規模申請に対する国内認可、REACH規則からの認可権の削除、認可と制限システムの統合、および他の法律とのインターフェースの改善(化学物質戦略に基づく「一物質一評価行」の活動の補完)が含まれる。
・ 明確化と簡素化を伴う認可プロセスの維持が最も肯定的に評価され、REACH規則から認証タイトルを削除することについては、強く同意する評価はなかった。
(4) 制限プロセスの改革: 内分泌かく乱物質、PBT/vPvB 物質、免疫毒性物質、神経毒性物質、呼吸感作剤および特定の臓器に影響を与える物質の制限に対する一般的なリスクアプローチの拡張、業務用として販売される製品への一般的なリスクアプローチの拡張など。
・ 内分泌かく乱物質の特定を可能にするために、登録者は、物質の本質的な特性に関する十分かつ適切な標準情報要件を当局に提供するよう要求されるべきであると、回答者の54 % が強く同意または同意した。
(5) 統制および執行に関する規定の改正: より厳格な国境管理を含め、国内における統制および執行のための最低要件の確立など。
・ REACH規則に関する新しい内部監査機能(new European Audit Capacity)の創設が加盟国によるREACH規則のより効果的な執行に貢献できると回答者の44 % が答えた。
イニシアティブでは、以下の事項も検討される。
・ サプライチェーンにおけるコミュニケーションの簡素化:調和のとれた電子フォーマット含めたSDSの改善。
・ 書類および物質評価に関する規定の改正: 登録書類が遵守され、懸念事項を締結するための十分な情報が利用可能であることを保証するために、様々な選択肢が検討される。
タイムライン4)では、2022 年末にTFEU(機能運営条約)第114 条(加盟国法の平準化)による通常立法手続き(3 読会)で、EU委員会が改正案を提出する。
【出典】
1) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=COM%3A2020%3A667%3AFIN
4)https://ec.europa.eu/environment/chemicals/reach/reach_revision_chemical_strategy_en.htm
◆ トピックス
・ REACH規則の第28 次CLS 案として、2022 年9 月7 日にペルフルオロヘプタン酸およびその塩並びに関連物質など9 物質を提案した5)。
・ 生分解プラスチックの推奨規格 GB/T 41010-2021(生分解性プラスチックと製品の分解性能および標示に関する要件)の運用を2022 年6 月1 日から開始した6)。
・ マイクロプラスチックをREACH規則の制限物質とする提案を2022 年8 月30 日に行った7)。
【出典】
6) https://openstd.samr.gov.cn/bzgk/gb/newGbInfo?hcno=8986C280DFE938665FDFD654C5513472
7) https://ec.europa.eu/transparency/comitology-register/screen/documents/083921/1/consult?lang=en
(一社)東京環境経営研究所 松浦 徹也氏
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。
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