第41回_PFHxSとその塩及びPFHxS関連物質に関する動向

2022年6月に開催された残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants)に関するストックホルム条約(以降、POPs条約)の第10回締約国会議COP10において、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)とその塩及びPFHxS関連物質が附属書A(廃絶)に追加されました1)。PFHxSは、すでに附属書Aに収載されているPFOS及びPFOA同様、自然環境中では極めて分解されにくく、高い蓄積性があり、動物への投与実験では血液、甲状腺、肝臓、神経系への影響が見出されています。PFHxSの用途は、PFOS及びPFOAの用途と類似しており、これらの代替材として泡消火剤、金属めっき、織物、革製品・室内装飾品、研磨剤・洗浄剤、コーティング、電子機器・半導体の製造等に使用されてきました。
PFHxSについては、個別の適用除外は規定されておらず、条約締約国は国連事務総長の通知を受けて1年以内に国内法整備を行うことになっていました。

今回は、PFHxSとその塩及びPFHxS関連物質に関して、EU、アメリカ、日本の動向をまとめてみました。

 

PFHxS(CAS RN : 355-46-4)

1.EUにおけるPFHxSとその塩及びPFHxS関連物質

EUは、POPs条約の義務を履行するため、POPs規則 (EU) 2019/1021 2)を制定・施行しています。2023年8月8日、POPs規則 附属書Iを改正する委員会委任規則 (EU) 2023/1608 3)を官報公示し、8月28日に発効となりました。以下の閾値を超えてPFHxSとその塩及びPFHxS関連物質を含む物質、混合物、成形品の製造、上市、使用が原則禁止となります。

・PFHxSとその塩:25ppb(0.025mg/kg)
・PFHxS関連物質の合計:1,000ppb(1mg/kg)

また、濃縮泡消火剤混合物に使用される、あるいは他の泡消火剤混合物の製造に使用されるPFHxSとその塩及びPFHxS関連物質が100ppb(0.1mg/kg)以下の濃度で存在する場合には、適用除外として認められます。この適用除外は、遅くとも2026年8月28日までに見直されます。

2.アメリカにおけるPFHxSとその塩及びPFHxS関連物質

アメリカは、POPs条約に署名はしているものの批准はしていないため、POPs条約の義務を履行するための国内法は整備されていません。しかし、PFHxSとその塩及びPFHxS関連物質は、連邦法である有害物質規制法(Toxic Substances Control Act:TSCA)の重要新規利用規則(Significant New Use Rules:SNUR)の§721.9582 4)で規制しています。
PFHxSとその塩及びPFHxS関連物質の重要新規利用の対象範囲は、一部の例外を除き、あらゆる用途での製造(輸入を含む)又は加工、及びカーペットの一部としての輸入です。重要新規利用で指定された利用を開始する場合は、利用を開始する90日前までに米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)へ届け出る必要があります。重要新規利用で指定された利用以外の利用を開始する場合は、利用を開始する90日前までに重要新規利用届出(Significant New Use Notice:SNUN)をEPAへ届け出る必要があります。

3.日本におけるPFHxSとその塩及びPFHxS関連物質

日本は、POPs条約の義務を履行するため、POPs条約の対象物質を化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の第一種特定化学物質に指定して規制しています5)。現時点で、日本ではPFHxSとその塩及びPFHxS関連物質の規制はありません。
2023年8月7日、PFHxSとその塩について、第一種特定化学物質の指定、輸入規制措置等を講じることが適当であると中央環境審議会から公表されました6)。
2023年9月15日、厚生労働省、経済産業省、環境省は、PFHxSとその塩を化審法の第一種特定化学物質に指定する化審法施行令の一部改正案について、10月14日までの意見募集を開始しました7)。
PFHxS関連物質については、化審法における指定対象範囲について検討中のため、今回の改正内容には含まれていません。なお、WTO/TBT通報でも掲載されています8)。PFHxSとその塩の第一種特定化学物質の指定は2024年1月中旬に施行が予定されています9)。

4.まとめ

PFHxSとその塩及びPFHxS関連物質に関して、EU、アメリカ、日本の動向をまとめましたが、これ以外の国においても国内法の準備が進められています。これらの動向に注視するだけでなく、使用している原材料や管理方法の確認や見直しなど、コンタミや非意図的副生成物を未然に防ぎ、順法管理の仕組みを導入することが望まれます。
また、「世界のRoHS/REACHコラム・Q&A」連動企画として、PFHxSとその塩及びPFHxS関連物質を含むPFAS規制連続セミナーを株式会社情報機構様にて開催します。PFASの基礎と規制に至る背景や日米欧・中国・カナダ・東南アジア各国の最新動向について講演しますのでご興味のある方はぜひご受講ください。
https://johokiko.co.jp/seminar_chemical/AK231090.php

[出典]

1)https://www.pops.int/Portals/0/download.aspx?d=UNEP-POPS-COP.10-SC-10-13.English.pdf
2)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32019R1021
3)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex%3A32023R1608
4)https://www.ecfr.gov/current/title-40/chapter-I/subchapter-R/part-721/subpart-E/section-721.9582
5)https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/files/specified/class1specified_chemicals_list_20211022.pdf
6)https://www.env.go.jp/press/press_01973.html
7)https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595123070&Mode=0
8)https://eping.wto.org/en/Search/Index?countryIds=C392&viewData=G%2FTBT%2FN%2FJPN%2F781
9)https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001146347.pdf

(一社)東京環境経営研究所 萩原 利哉 氏

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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