第38回_フランス鉱物油規制についてインキの範囲はどのようになっているでしょうか。たとえば、ニスはインキに含まれるのでしょうか?また、インキ以外の材料にMOAHとMOSHが含有していた場合、規制の対象になるのでしょうか?

フランス鉱物油規制は、インキの規制ではなく包装材及び一般向け印刷物への鉱物油の使用を禁止する規制です。したがいまして、インキの範囲に関する定義はなく, インキの場合にはMOAHやMOSHといった鉱物油を一定濃度以上含有している場合、健康有害性や廃棄物のリサイクル制限を引き起こすため、規制の対象となります。規制の主旨から、ニスなどインキ以外の材料であってもMOAHやMOSHが一定濃度以上含有されている場合には、包装材及び一般向け印刷物への使用は禁止となります。

フランス鉱物油規制は、循環経済法(l’économie circulaire)L.2020-105 (*1)第112条(*2)によって追加修正された規制です。この修正によって包装および一般向け印刷物への鉱物油使用規制が強化されることになりました。循環経済法L.2020-105第112条では以下のように規定されています。

L.2020-105第112条(機械訳)

Ⅰ.-2022年1月1日より、包装材への鉱物油の使用を禁止する。
Ⅱ.-2025年1月1日より、一般向けの印刷物への鉱物油の使用を禁止する。商業宣伝を目的とした未承諾の広告チラシおよびカタログについては、2023年1月1日からこの禁止が適用される。
Ⅲ.-本条項の適用条件は政令で定める。

上記のように、条文の中にインキを規制する文言はありません。
第Ⅲ項の適用条件は「一般向けの包装・印刷物への使用が禁止される鉱物油に含まれる物質を特定する政令(Arrêté du 13 avril 2022)(*4)」で確認できます。包装材(D.543-45-1)及び一般向けの印刷物(D.543-213)において、廃棄物のリサイクルを阻害し、または人の健康リスクのためにリサイクル材料の使用を制限する鉱物油に適用されます(*5)(*6)。
「鉱物油」は「インキの製造に使用されている、石油炭化水素由来の原料から製造される油を意味する」と定義されています。
発行日の2023年1月1日から1~7個の芳香環からなる鉱物油芳香族炭化水素(MOAH)が対象となり、2025年1月1日から炭素原子16~35個を含む鉱物油飽和炭化水素(MOSH)が追加されます。

使用が禁止されるインキの範囲は、鉱物油がインキ中濃度0.1重量%を超える場合です。ただし、MOAHは2024年12月31日まではインキ中濃度1重量%という経過措置が設けられています。2025年1月1日以降、3~7個の芳香環からなるMOAHは1ppmへ規制が強化されます。
フランス鉱物油規制は、包装材及び一般向けの印刷物への鉱物油の使用を禁止する目的で制定されていますから、ニスなどインキ以外の材料であってもMOAHやMOSHを対象物に使用している場合は、規制対象になると考えられます。

(*1)循環経済法(l’économie circulaire)
https://www.legifrance.gouv.fr/loda/id/JORFTEXT000041553759
(*2)循環経済法 L.2020-105第112条
https://www.legifrance.gouv.fr/loda/article_lc/LEGIARTI000041554620
(*3)フランス環境法典(Code de l’environnement)
https://www.legifrance.gouv.fr/codes/texte_lc/LEGITEXT000006074220/2023-09-17/
(*4)Arrêté du 13 avril 2022 précisant les substances contenues dans les huiles minérales dont l’utilisation est interdite sur les emballages et pour les impressions à destination du public
https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000045733481
(*5)フランス環境法典 D.543-45-1
https://www.legifrance.gouv.fr/codes/article_lc/LEGIARTI000047276078
(*6)フランス環境法典 D.543-213
https://www.legifrance.gouv.fr/codes/article_lc/LEGIARTI000042950394/2023-09-17

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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