第53回_ECHA執行情報交換フォーラムによる「消費者製品中の有害化学物質」に関する執行調査結果

欧州化学品庁(ECHA)の「執行情報交換フォーラム(フォーラム)」では、毎年1つのテーマを選定し、多くの加盟国が参加して1年間大規模な市場調査等を実施する「REACH規則執行プロジェクト(REACH EN FORCE:REF)」が行われ、翌年末にその結果を取りまとめた報告書が公表されます。2023月12月には、「消費者製品中の有害化学物質」をテーマに2022年に実施された第10次REACH規則執行プロジェクト(REF-10)の報告書1)が公表されましたので、その概要をご紹介します。

1.REF-10の調査概要

REF-10は26加盟国が参加し、2022年の1年間をかけて、「消費者製品の有害化学物質」をテーマとして、423種の混合物と1,984種の成形品の合計2,407種の消費者製品を対象に、次の複数の製品含有化学物質規制について横断的に調査が行われました。

1)REACH規則(制限)
2)POPs規則
3)RoHS指令
4)玩具指令
5)REACH規則(CL物質の情報伝達義務)

1)~4)までの制限関連に関しては2,393製品が調査され、そのうち434製品(18%)で違反が確認されました。また、5) REACH規則(CL物質の情報伝達義務)に関しては589製品が調査され、このうちCL物質が0.1wt%超含有していた49製品あったものの、
サプライチェーンでの情報伝達義務が果たされていないことが確認されたのは3製品でした。なお、CL物質に関連して廃棄物枠組み指令(WFD)に基づくSCIP登録についても7製品について調査されましたが、調査製品が少なかったため、意味のある結論が導き出すことができなかったことが示されています。

2.制限に関する調査結果の詳細

<法規制別>
法規制別に見ると、次のような調査結果が示されました。中でも突出して違反率が高くなっているのがRoHS指令であり、中でも鉛含有による違反事例が多く確認されています。

 

<製品種別>
主な製品種別に見ると、次のような調査結果が示されました。RoHS指令の違反率が高かったことからわかるように、電気電子製品の違反率が最も高く半数以上の製品で違反が確認されており、次いで玩具、スポーツ用品が続く結果となっています。

<材料別>
調査した製品中材料別に見ると、次のような調査結果が示されました。宝飾品や電気電子製品中のはんだ等の「金属」が最も高い違反率となり、次いで軟質プラスチック、硬質プラスチックが続く結果となっています。

<原産地>
調査製品の原産国別に見ると、欧州経済領域(EEA)域内で製造された製品の違反率よりも、EEA域外で製造された、または原産国が不明な製品の違反率が明らかに高い結果が示されています。報告書では違反率の高さから、原産国が不明な製品の大半はEU域外で製造された製品と考えるのが妥当であると述べています。

なお、EEA域外製品の大半は中国製であることが示されています。

3.違反に対する措置

これらの違反については、口頭や書面による助言や行政命令、公表等の措置が講じられ、その措置を受けた企業の多くは違反製品の自主的または強制的な販売中止を行い、一部製品では消費者からの製品回収が実施されています。また、違反製品の47%には罰金や刑事告訴の検討、警察への情報提供等の制裁措置が講じられたことが示されています。

4.最後に

REF-10ではREACH規則の制限だけでなく、POPs規則やRoHS指令、玩具指令など複数の法規制による含有制限が横断的に調査されました。またこれまでのREF報告書では、製品種別の違反率等は示されていましたが、さらに材料別の違反率や検出された物質等の情報が示される等、企業の取組みに参考になる情報が示されていると思います。このような違反事例は、他人事ではなく「他山の石」として、自社の取組に活かすことが有効であると考えます。
なお、フォーラムでは、今後も次のようなテーマをREFで取り上げることが決定し、既に実施・準備が進められています。このうちREF-12やREF-13ではREF-10と同様に、法規制を横断した調査が予定されています。

REF-11(2023年実施):SDSの提供や更新
REF-12(2024年実施):輸入製品(物質・混合物・成形品)
REF-13(2025年実施):インターネット販売製品(物質・混合物・成形品)

(一社)東京環境経営研究所 井上 晋一 氏

1)REF-10報告書
https://echa.europa.eu/documents/10162/17086/ref-10_project_report_en.pdf/

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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