最終回 アセトアルデヒド等
誌面掲載:2021年1月号 情報更新:2024年12月
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1.名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)
1.1 化学物質名/ 別名
アルデヒド(Aldehyde)はカルボニル(C=O)基の炭素に水素が結合したR-CHO という部分構造を示す名称である。R はアルキル基等である。アセトアルデヒド(Acetaldehyde)はR がメチル基(CH3-)の物質で化学式はCH3CHO†1である。CH3CO- の構造を持つ原子団(Group)をアセチル基(Acetyl group)、接頭語ではアセト(Aceto-)というのでアセトアルデヒドという名称になる。IUPAC の系統的命名法ではエタン(Ethane: CH3CH3)のアルデヒドということで、エタンにアルデヒドの… アール( …al)という接尾語をつけたエタナール(Ethanal)である。アルデヒドはアルコール(R-OH)を酸化して得られる。アセトアルデヒドはエチルアルコール(Ethyl alcohol 又はエタノール、Ethanol: CH3CH2OH)の酸化によって得られ、エチルアルデヒド(Ethyl aldehyde)とも呼ばれる。アルデヒドをさらに酸化するとカルボン酸(R-COOH)になる。アセトアルデヒドを酸化すると酢酸(Acetic acid: CH3COOH, CAS No. 64-19-7)になる。アセトアルデヒドは酢酸を還元して得られたものとも考えられ、酢酸アルデヒド(Acetic aldehyde)という名称もある。略称としてAA が使われることもあるが、AA は酢酸、アクリル酸(Acrylic acid: CH2=CHCOOH, CAS No. 79-10-7)、アジピン酸(Adipic acid: HOOCC4H8COOH, CAS No. 124-04-9)等多数の物質の略称としても使われる。アセトアルデヒドにはビニルアルコール(Vinyl alcohol)†2という互いに変換する異性体がある。ケト- エノール互変異性体という。両者は互いに平衡状態になっているが、通常は圧倒的に「ケト」(カルボニル、 C=Oでアルデヒド)の状態になっている。ポリビニルアルコール{Polyvinyl alcohol: -(-CH2-CHOH-)n-, CAS No.9002-89-5}とい水溶性の樹脂がある。原料のビニルアルコールは現実にはほとんど存在しないので、ビニルアルコールを重合して得ることはできない。実際には酢酸ビニル(Vinyl acetate: CAS No. 108-05-4)を重合してポリ酢酸ビニル(Polyvinyl acetate: CAS No. 108-05-4)にしてから加水分解により酢酸を除去して得られる。
アセトアルデヒドには異性体エチレンオキシド又はエチレンオキサイド(Ethylene oxide)†3がある。酸化エチレンとも呼ばれる。エチレン(CH2=CH2)に酸素(O)が付加して酸素を含む3 員環の環状エーテル化合物である。IUPAC ではオキシラン(Oxirane)といい、最も簡単なエポキシ化合物(1,2- エポキシエタン、1,2-Epoxyethane)である。オキサシクロプロパン(Oxacyclopropane)とも呼ばれる。
アセトアルデヒドの形で互いに結合して3 個で環状になったパラアルデヒド(Paraldehyde)又はパラアセトアルデヒド(Paracetaldehyde)や環状4 量体のメタアルデヒド(Metaldehyde)がある。3 量体は2,4,6- トリメチル-1,3,5- トリオキサン{2,4,6-Trimethyl-1,3,5-trioxane: (CH3CHO)3 }†4 で、メチル基の相対的な位置の違う2 種類の立体異性体の混合物として存在する。4 量体は2,4,6,8- テトラメチル-1,3,5,7- テトラオキサシクロオクタン{2,4,6,8-Tetramethyl-1,3,5,7-tetraoxacyclooctane, (CH3CHO)4 }†5 である。4 種の立体異性体の混合物である。メタアルデヒドにはもう少し多くのアセトアルデヒドが結合した物質を含む場合{(CH3CHO)n ; n=4 ~ 6}もある。
1.2 CAS No.、化審法(安衛法)官報公示整理番号、その他の番号
アセトアルデヒドのCAS No. は75-07-0 で、化審法官報公示整理番号は2-485 である。安衛法も既存化学物質として化審法番号で公表されている。EUのEC番号は200-836-8 である。REACH 登録番号には01-2119451152-51-xxxx の他に01-2119918285-36-0000, 01-2120935874-43-0000(xxxx, 0000は登録者番号)がある。互変異性体のビニルアルコールには別のCAS No. 557-75-5 があるが、この物質を製造することはないので、化審法や安衛法の官報公示整理番号はない。同様にEC 番号209-183-3 はあるが、REACH登録番号はない。
エチレンオキシドはCAS NO. 75-21-8 で化審法番号は2-218 である。エチレンオキシドは酸素を含む環状の化合物ともいえるが、化審法の類別番号は2 でアセトアルデヒド等と同じ「有機鎖状低分子化合物」とされている。
パラアルデヒドはCAS No. 123-63-7、化審法番号2-483、EC No. 204-639-8 である。アセトアルデヒド4 量体のメタアルデヒドはCAS No.108-62-3、化審法番号2-484、EC No. 203-600-2 である。安衛法は既存化学物質として化審法番号で公表されている。パラアルデヒド、メタアルデヒドとも環状化合物なのに化審法番号の類別番号は2(有機鎖状低分子化合物)である。また、アセトアルデヒド重合体(Acetaldehyde homopolymer)としてCAS No. は9002-91-9 があり、安衛法でもメタアルデヒド{(CH3CHO)3~6}として2-(8)-378 がある。
図表1 アセトアルデヒド等の特定
名称 | アセトアルデヒド
Acetaldehyde |
ビニルアルコール
Vinyl alcohol |
酸化エチレン
エチレンオキシド Ethylene oxide |
IUPAC名 | エタナール
Ethanal |
エテノール
Ethenol |
オキシラン
Oxirane |
別名 | エチルアルデヒド
Ethyl aldehyde 酢酸アルデヒド Acetic aldehyde |
ヒドロキシエテンHydroxyethene
ヒドロキシエチレンHydroxyethylene |
1,2-エポキシエタン
1,2-Epoxyethane オキサシクロプロパン Oxacyclopropane |
略称 | AA | VA | EO |
化学式 | C2H4O, CH3CHO | C2H4O, CH2=CHOH | C2H4O |
CAS No. | 75-07-0 | 557-75-5 | 75-21-8 |
化学物質審査規制法(化審法)/
労働安全衛生法(安衛法) |
2-485 | – | 2-218 |
EC No. | 200-836-8 | 209-183-3 | 200-849-9 |
REACH*1 | 01-2119451152-51-xxxx
01-2119918285-36-0000 01-2120935874-43-0000 |
– | 01-2119432402-53-xxxx |
国連番号 | 1089 | – | 1040*2 |
名称 | パラアルデヒド
Paraldehyde |
メタアルデヒド
Metaldehyde |
IUPAC名 | 2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリオキサン
2,4,6-Trimethyl-1,3,5-trioxane |
2,4,6,8-テトラメチル-1,3,5,7-テトラオキソカン
2,4,6,8-tetramethyl-1,3,5-7-tetroxocane |
別名 | パラアセトアルデヒド
Paracetaldehyde p-アセトアルデヒド p-Acetaldehyde |
2,4,6,8-テトラメチル-1,3,5,7-テトラオキサシクロオクタン
2,4,6,8-Tetramethyl-1,3,5,7-tetraoxacyclooctane メタアセトアルデヒド Metacetaldehyde |
化学式 | C6H12O3, (CH3CHO)3 | C8H16O4, (CH3CHO)4 |
CAS No. | 123-63-7, | 108-62-3, 9002-91-9*3 |
化学物質審査規制法(化審法)/ | 2-483 | 2-484 |
労働安全衛生法(安衛法) | (2-483)*4 | (2-484)*4, 2-(8)-378*5 |
EC No. | 204-639-8 | 203-600-2 |
REACH*1 | 01-2120062010-79-xxxx | 01-2120769329-40-xxxx |
国連番号 | 1264 | 1332 |
*1 xxxxは登録者番号
*2: 品名は「酸化エチレン又は酸化エチレンと窒素の混合物、50℃における全圧が1MPa(10 bar)以下のもの」(ETHYLENE OXIDE, or ETHYLENE OXIDE WITH NITROGEN up to a total pressure of 1 MPa (10 bar) at 50℃)
他に二酸化炭素(CO2)との混合物で濃度により3300, 1041, 1952があり、酸化プロピレン(Propylene oxide)との混合物で2983、フロン類との混合物で3070, 3297, 3298, 3299がある。(図表5)
*3: Acetaldehyde homopolymer, (CH3CHO)n
*4: 既存化学物質として化審法番号で公表されている。
*5: (CH3CHO)3~6
2.特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)
2.1 物理化学的性質(図表2, 3)
アセトアルデヒドは沸点が約20 ℃なので低温では無色透明な液体、20 ℃以上では気体で、刺激臭がある。極めて揮発性が高く、引火点は–38 ℃と低温でも引火する。蒸気は空気より重く、地面/ 床に沿って移動し遠距離で発火するおそれがある。蒸気/ 空気の混合気体は爆発性で爆発範囲が広い。空気と接触すると爆発性過酸化物を生じる。酸やアルカリの存在下で重合することがある。酸化剤、還元剤、強酸、ハロゲン、アミンと激しく反応して火災・爆発の危険性がある。GHSでは低圧液化ガスに分類され、危険有害性情報は「熱すると爆発のおそれがある」となっている。水とはどんな割合でも均一な溶液になる(混和する)。n- オクタノール/ 水分配係数(log Pow)は0.63 と小さく生物濃縮性はないと考えられる。
エチレンオキシドは無色透明のエーテル臭のある気体である。11 ℃以下では液体で、室温でも高圧で液化して流通していることが多い。極めて引火性が高い。非常に反応性が高く、水酸基(-OH)やアミノ基(-NH2)等と反応する。空気中の爆発範囲が3 ~ 100 %で、空気がなくても火花などによって爆発するおそれがある。加熱、酸、塩基、金属塩化物、金属酸化物等があると重合することがある。水によく溶ける。酸などの存在で加水分解してエチレングリコール(Ethylene glycol: HOCH2CH2OH, CAS No. 107-21-1)を生成する。
パラアルデヒドは特徴的な臭いのある無色の液体である。物理化学的性質はアセトアルデヒドに似ているが、危険性は少し低い。酸の存在下でアセトアルデヒドに分解する。加熱や空気との接触で分解、茶色く変色し、アセトアルデヒド等を生じる。
メタアルデヒドは白色の固体粉末(無色の針状結晶)でメタノール様の臭いがある。危険性はアセトアルデヒドより低い。融点は246 ℃であるが、昇温すると80 ℃くらいでアセトアルデヒドに分解しはじめ、110 ℃くらいで昇華する。常温でも一部分解しパラアルデヒド、アセトアルデヒドの混合物になりやすい。水にはほとんど溶けない。
図表2 アセトアルデヒド等の主な物理化学的性質(ICSC、職場のあんぜんサイトモデルSDSによる)
物理化学的性質 | アセトアルデヒド | エチレンオキシド | パラアルデヒド | メタアルデヒド*1 |
融点(℃) | -123 | -111 | 12.6 | 246.2 |
沸点(℃) | 20.2 | 11 | 124.5 | 110~115(昇華点) |
引火点(℃) | -38 (c.c.) | 引火性気体
(-20℃)*2 |
24(c.c.) | 36(c.c) |
発火点(℃) | 185 | 429 | 235 | – |
爆発限界(vol %) | 4 ~ 60 | 3 ~ 100 | 1.3 ~ 17.0 | – |
蒸気密度(空気=1) | 1.5 | 1.5 | 4.5 | 6.06 |
比重(水=1.0) | 0.78 | 0.9 | 0.99 | 1.27 |
水への溶解度(g/100ml) | 混和する | 混和する | 12 | (0.02)*1 |
n-オクタノール/水分配係数(log Pow) | 0.63 | -0.3 | 0.67 | 0.12 |
*1:メタアルデヒドは職場のあんぜんサイトモデルSDSによる。水への溶解度は20℃で222mg/Lと記載されている。
*2: 職場のあんぜんサイトモデルSDSによる。
2.2 有害性(図表3, 4)
アセトアルデヒドは蒸気の吸入や経口により体内に取り込まれる。果実等に含まれ、天然にも存在するが、ヒトの体内濃度が高くなるのは主に飲酒によるものである。飲酒によって摂取されたエタノールは体内で代謝される途中アセトアルデヒドに変化する。その後酢酸を経て二酸化炭素と水に分解されて排泄される。人によりアセトアルデヒド脱水素酵素の働きに違いがあり代謝、排泄される速度が異なる。吸入や皮膚からの吸収で中枢神経系の抑制、呼吸器への影響があり、気管支炎、肺水腫、昏睡、運動麻痺、痙攣から死亡に至る。皮膚や眼、気道に対し軽度の刺激性がある。皮膚に対して感作性がある。長期的な曝露で皮膚や気道に影響する。シックハウス症候群の原因物質の一つと考えられている。シックハウス症候群とは、室内空気汚染による居住者の皮膚や粘膜の刺激症状や不定愁訴等である。1990 年代に問題化し、厚生労働省の室内濃度指針値等の対策が取られた。遺伝子への影響について、陰性データもあるが、体細胞遺伝子毒性等では陽性データがある。労働安全衛生法の既存化学物質有害性調査で、哺乳類(チャイニーズハムスター)の培養細胞(CHL/IU)を用いた染色体異常試験での陽性結果から「強い変異原性」があるとしている。発がん性について、IARC はエタノールの代謝物のアセトアルデヒドに対しGroup 1 (ヒトで発がんあり)としているが、アセトアルデヒド単独ではGroup 2B(ヒトに対して発がん性を示す可能性があるが、証拠不十分)としている。日本産業衛生学会は2B(ヒトに対しておそらく発がん性があると判断できるが動物試験の証拠不十分)に分類している。その他は図表4 参照。アセトアルデヒドは動物試験で催奇形性が認められている。
図表3 アセトアルデヒド等のGHS分類(NITE による)
GHS分類 | アセトアルデヒド | エチレンオキシド | パラアルデヒド | メタアルデヒド |
物理化学的危険性 | ||||
可燃性ガス | 対象外 | 1 | 対象外 | 対象外 |
酸化性ガス | 対象外 | 区分外 | 対象外 | 対象外 |
高圧ガス | 対象外 | 低圧液化ガス | 対象外 | 対象外 |
引火性液体 | 1 | 対象外 | 3 | 対象外 |
可燃性固体 | 対象外 | 対象外 | 対象外 | 2 |
金属腐食性 | – | – | – | – |
健康有害性 | ||||
急性毒性(経口) | 4 | 3 | – | 3 |
急性毒性(経皮) | 3 | – | – | 区分外 |
急性毒性(吸入:ガス/蒸気) | 4(蒸気) | 3(ガス) | – | – |
皮膚腐食/刺激性 | 3 | 2 | 2 | 区分外 |
眼損傷/刺激性 | 2A | 2A | 2A | 2B |
呼吸器感作性 | – | – | – | – |
皮膚感作性 | 1 | 1 | – | 区分外 |
生殖細胞変異原性 | 2 | 1B | – | – |
発がん性 | 1B | 1A | – | – |
生殖毒性 | 1B | 1B | – | 区分外 |
特定標的臓器(単回) | 1(中枢神経系、呼吸器)
3(麻酔作用) |
1(中枢神経系)、3(気道刺激性) | 1(中枢神経系) | 1(神経系) |
特定標的臓器(反復) | 1(呼吸器) | 1(神経系)、
2(血液、腎臓、気道) |
1(中枢神経系、肝臓、腎臓) | 2(神経系、肝臓、精巣) |
誤えん有害性 | – | 対象外 | – | – |
環境有害性 | ||||
水生環境有害性(短期/急性) | 3 | 3 | – | 区分外 |
水生環境有害性(長期/慢性) | 区分外 | 区分外 | – | 区分外 |
エチレンオキシドはアセトアルデヒドより反応性が高く毒性も強い。体内に取り込まれた後多くは加水分解されたり、さらに代謝されたりして尿中に排出される。蛋白や核酸と反応して構造を変化させる。皮膚、眼、気道を刺激する。アレルギー性皮膚反応を起こすおそれがある。反復又は長期の吸入により喘息を引き起こすことがある。液体が付着した場合、急速に気化することにより凍傷を引き起こすことがある。神経系に影響する。遺伝子への影響、発がん、生殖能及び胎児へ悪影響を及ぼすおそれがある。
パラアルデヒドの急性毒性はアセトアルデヒドより低い。皮膚や眼、気道を刺激する。中枢神経系に影響を及ぼすことがある。長期的にも中枢神経系に影響し、精神錯乱、幻覚を生じるおそれがあり、習慣性を生じることもある。また腎臓、肝臓に影響を及ぼす。メタアルデヒドは固体で、経口摂取により有害である。長期的な曝露で神経系、肝臓のほか精巣に影響を及ぼす。
2.3 環境有害性(図表3)
アセトアルデヒドは水生生物に対して有害性がある。生分解性があり、生物濃縮性はないので、長期的な影響は小さいと考えられる。エチレンオキシドも同様である。パラアルデヒドやメタアルデヒドはアセトアルデヒドより環境への影響は小さいと考えられる。
3. 主な用途
アセトアルデヒドは多くが塗料等の溶剤の酢酸エチル(Ethyl acetate, CAS No. 141-78-6)の原料として使われる。その他多くの有機化合物の合成原料や、防カビ材、防虫剤、写真現像用薬品、燃料配合剤、還元剤、医療用薬品、香料等に使われる。
エチレンオキシドはエチレングリコール、ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol, CAS No.25322-68-3)等の原料として使われる。エチレングリコールはポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate, PET, CAS No. 25038-59-9)の主原料の一つで、不凍液や溶剤の原料等に使われる。ポリエチレングリコールは、ノニオン系界面活性剤等の原料である。その他燻蒸消毒、滅菌剤としても使われる。
パラアルデヒドはアセトアルデヒドより引火性、反応性が低く、酸により分解してアセトアルデヒドになるので、アセトアルデヒドの貯蔵、輸送用に使われる。香水、香料、染料、プラスチック、合成ゴム、酢酸他種々の有機化合物の合成原料として使われる。メタアルデヒドはナメクジ、カタツムリ等の駆除剤のほかキャンプ用固形燃料として使用される。
図表4 アセトアルデヒド及びエチレンオキシドの発がん性評価
アセトアルデヒド | エチレンオキシド | |
IARC | Group 2B (1)* | Group 1 |
日本産業衛生学会 | 第2群B | 第1群 |
ACGIH | A2 | A2 |
NTP | RAHC | Known |
EU CLP | 1B | 1B |
EPA | B2 | CaH |
*: アルコール飲料の摂取に関連したアセトアルデヒドについてはGroup 1
IARC: Group 1: Carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性を示す)
Group 2B: Possibly carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性を示す可能性がある)
日本産業衛生学会: 第1群: ヒトに対して発がん性があると判断できる
第2群B: 証拠十分とは言えないが、ヒトに対しておそらく発がん性があると判断できる
ACGIH: A2: Suspected Human Carcinogen (ヒトに対して発がん性が疑われる)
NTP: Known: Known to be Human Carcinogens (ヒト発がん性があることが知られている物質)
RAHC: Reasonably Anticipated to be Human Carcinogens(ヒト発がん性物質であると合理的に予測される)
EU CLP( = GHS):Carc.1B: Presumed to have carcinogenic potential for humans, largely based on animal evidence.(ヒトに対しておそらく発がん性がある:主として動物での証拠による)
EPA: CaH: Carcinogenic to humans (ヒト発がん性物質)
B2: Probable human carcinogen – based on sufficient evidence of carcinogenicity in animals(動物での十分な証拠に基づいて、おそらくヒト発がん性物質)
4. 事故等の例
・ 水銀中毒で知られる水俣病は、アセトアルデヒド製造工場からの廃液による。アセチレン(Acetylene, CAS No. 74-86-2)と水からアセトアルデヒドを製造する際、触媒として水銀(Hg)が用いられた。副反応によって生成したメチル水銀(Methylmercury; CH3HgX, X = Cl, OH 等)が、製品のアセトアルデヒドの精留塔に混入し、廃液とともに排出された。排出されたメチル水銀は海(八代海等)に入って食物連鎖を通じて魚介類に蓄積された。汚染された魚介類を食べて中毒を起こした。
(http://nimd.env.go.jp/archives/minamata_disease_in_depth/)
熊本県のHP( https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/47/1707.html )
・ 人の健康に直接影響があったわけではないが、以下の事件があった。食品の香料を製造する際、欧米では使用されていたアセトアルデヒドを使用していた。日本では2002 年当時食品衛生法で食品添加物として認められていなかった。県は営業停止及び当該添加物製剤の回収等を命じた。違反品を含む香料は非常に広く使われていて、多数の食品メーカーが製品回収を行った。その結果香料メーカーは破産した。
(https://www.mhlw.go.jp/topics/2002/06/tp0603-1.html)
(https://www.isc.meiji.ac.jp/~w_zemi/pdf/10shoku.pdf)
その後、アセトアルデヒドは食品添加物として認められた。
(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syokuten/dl/060516-1.pdf)
「国際的に汎用されている香料の安全性評価の方法」に基づく評価の結果、発がん性等の有害性はあるが、生体内で代謝され、長年欧米での香料としての使用実績があり、これによる健康被害報告がないというものだった。
( https://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-hyouka-170721-acetaldhyde.pdf )
・ エチレンオキシドによる滅菌、燻蒸中の事故がある。医療器具滅菌中滅菌器からエチレンオキシドが漏れて作業者が中毒した。
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101551 等、
ほかにno=101496,100185, 000883)
・ 滅菌用エチレンオキシドガスを容器に充填作業で、充填作業を中断した際エチレンオキシド供給弁を閉じ忘れ、建物内にガスが充満して爆発した。
(http://www.shippai.org/fkd/cf/CA0000432.html)
・ エチレンオキシド製造装置のアルデヒド分離除去設備で爆発が起きた。アルデヒド分離塔の配管溶接時の小さな亀裂からエチレンオキシドが漏洩し、配管周囲の保温材の中でポリエチレングリコール(PEG)が生成した。長期にわたってPEG が蓄積した。配管補修のため保温材の金属カバーが取り除かれた結果、PEG が空気と接触し自動酸化が進んで発火したと考えられる。配管が昇温し、配管内のエチレンオキシドが熱分解温度に達し、アルデヒド塔の爆発に至った。
(https://www.jisha.or.jp/seizogyo-kyogikai/pdf/meetingNo6_1-1-2.pdf)
5. 主な法規制(図表5)
アセトアルデヒドは化学物質審査規制(化審)法で優先評価化学物質なので年間1 t 以上製造/ 輸入した場合、翌年度経済産業大臣にその数量等の届出が必要である。化学物質管理促進法で第1 種指定化学物質なので、年間取扱量1 t 以上でPRTR の報告(環境中への排出量等)及び1 % 以上含まれる製品を提供する場合はSDS を提供する。労働安全衛生法でがん原性物質(GHS 区分1B)とされており、労働者の曝露状況や健康診断の記録は30年間の保存しなければならない。皮膚障害化学物質ということで、取扱う際には適切な保護具の着用が義務付けられている。作業環境評価基準は定められていないが、屋内作業では濃度基準値10ppmが設定されている。日本産業衛生学会の作業環境許容濃度も1 日8 時間の平均値で10 ppm(18mg/m3)である。ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists, Inc.: 米国産業衛生専門家会議)のTLV(Threshold Limit Value: 許容濃度)はCeiling(天井値: 短時間でも超えてはならない)で25 ppm としている。表示/ 通知対象物で、1 %(2025年4月1日以後は0.1%) 以上含有する製品には容器にGHSに基づくラベルを貼付し、0.1 % 以上でSDS の発行の義務がある。
消防法の危険物第4 類引火性液体特殊引火物である。特殊引火物というのは発火点が100 ℃以下又は引火点が–20 ℃以下で沸点が40 ℃以下のものである。指定数量は50 L である。高圧ガス保安法で「可燃性ガス」に挙げられている。国連分類クラス3「引火性液体」(引火点≦ 60 ℃)で、国連番号は1089 である。品名は「アセトアルデヒド」で、容器等級はⅠである。労働安全衛生法の危険物・引火性の物でもある。
大気に関する環境基準は定められていないが、指針値0.12 mg/m3 が示されている。大気汚染防止法の揮発性有機化合物(VOC)に該当し、有害大気汚染物質として優先取組物質に挙げられ、事業者等の自主的な排出抑制が求められている。悪臭防止法の特定悪臭物質である。区域の環境により異なるが、敷地境界での規制基準が地方条例によって0.05 ppm ~ 0.5 ppmに定められている。シックハウス症候群の懸念から厚生労働省から室内濃度指針値 48 μg/m3(0.03 ppm)が示されている。作業環境許容濃度よりはるかに低い濃度に設定されているのは、作業環境許容濃度は、成人労働者が1 日8 時間の職業曝露を想定しているのに対し、人が1 日24 時間、一生曝露しても影響が出ないであろうという値のためである。水質に関しては要調査項目で人の健康にかかる項目に挙げられている。水道法では要検討項目に挙げられているが、目標値は示されていない。
食品衛生法の食品添加物で、香料として着香の目的でのみ使用が認められている。
ポリビニルアルコール及び共重合成分としてビニルアルコールを含むポリマーは食品用器具・容器包装に使用されることがあるので、食品衛生法の食品用器具・容器包装ポジティブリストの基ポリマーの原料モノマーとしてビニルアルコールの記載がある。
エチレンオキシドはアセトアルデヒドより危険・有害性が高く、法規制も厳しい。化審法優先評価物質である。化管法では特定第1 種指定化学物質なので、0.5 t/年以上の取扱いでPRTR の報告、0.1 % 以上の含有製品にSDS 発行義務がある。労働安全衛生法では名称等表示・通知対象物である。特定化学物質、特定第2 類物質で、作業環境評価基準で管理濃度1 ppm に設定されている。日本産業衛生学会やACGIH の作業環境許容濃度も1 ppm である。ACGIHのBEI(Biological exposure indices)はTLVの1ppmと同程度の曝露に相当するとしている。特定化学物質であることから皮膚障害化学物質にも挙げられている。労働基準法の疾病化学物質に指定されている。毒物劇物取締法の劇物(製剤を含む)である。消防法の危険物には該当しないが、消防活動阻害物質として200kg以上の貯蔵等の届出が必要である。高圧ガス保安法で可燃性、毒性のガスで、液化ガスで流通している。国連危険物輸送勧告で、「酸化エチレン又は酸化エチレンと窒素の混合物、50 ℃における全圧が1 MPa(10 bar)以下のもの」(ETHYLENE OXIDE,or ETHYLENE OXIDE WITH NITROGEN up to a total pressure of 1 MPa (10 bar) at 50 ℃)という品名で国連番号1040 がある。国連分類は2.3(毒性ガス)で副次危険性に2.1(引火性ガス)がついている。他に二酸化炭素(CO2)との混合物でエチレンオキシド> 87 wt%で3300、国連分類は2.3 副次危険性2.1 でエチレンオキシド単独と同じ。9 wt% ~ 87 wt% で1041、国連分類は2.1、 9 wt% 以下で1952、国連分類は2.2(非引火性・非毒性ガス)がある。プロピレンオキシドとの混合物で2983、国連分類は3(引火性液体)、副次危険性6.1(毒物)、フロン類との混合物でフロン類の種類により3070, 3297, 3298, 3299 がある。フロン類の種類により異なるがエチレンオキシドの含有量の少ないもので、国連分類は2.2(非引火性・非毒性ガス)である。
大気汚染防止法のVOCに該当し、優先取組物質に挙げられている。液化ガスとして液体で輸送されるが、常温(常圧)では液体ではないので海洋汚染防止法の有害液体物質には該当しない。
エチレンオキシドはポリエーテルやポリエステル(ポリエチレンテレフタレート; PETなど)の原料モノマーとしてエチレングリコールの替わりに使われることがある。ポリエーテルはポリウレタン等の原料である。これらのポリマーは食品に接触する器具、容器等に使用されることがあるため、食品衛生法の規制がある。
ロッテルダム(PIC: Prior Informed Consent)条約でPesticide(駆除剤)に挙げられており、この物質に関して法規制が整っていない国への輸出の際には事前に法規制情報を提供し同意を得る必要がある。
パラアルデヒド、メタアルデヒドはアセトアルデヒドに比べ法規制は少ない。ただこれらの物質の取扱いでもアセトアルデヒドが生成するおそれがあるのでアセトアルデヒドに関する法規制にも注意が必要である。作業環境許容濃度もアセトアルデヒドの許容濃度を超えないように管理する必要がある。パラアルデヒドは引火点が24 ℃ということで、消防法の危険物第4 類引火性液体、第二石油類(21 ℃≦引火点< 70 ℃)の非水溶性液体及び労働安全衛生法の危険物・引火性の物(0 ℃≦引火点< 30 ℃)に該当する。品名パラアルデヒドで国連番号1264 がある。国連分類は3(引火性液体)、容器等級はⅢである。また海洋汚染防止法の有害液体物質でZ 類物質に挙げられている。大気中に気体状態で排出される場合は大気汚染防止法の揮発性有機化合物(VOC)に該当する。
メタアルデヒドは毒物劇物取締法で劇物に指定されている。10 % 以下を除く製剤を含む。品名メタアルデヒドで国連番号1332 がある。国連分類は4.1(可燃性固体)、容器等級はⅢである。消防法の危険物には該当しない。農薬取締法で殺虫剤(ナメクジ等の軟体動物駆除剤)として登録されている。食品衛生法で食品中の残留農薬基準が設定されている。
図表5 アセトアルデヒド等に関係する法規制
法律名 | 法区分 | アセトアルデヒド | エチレンオキシド | パラアルデヒド | メタアルデヒド | |
化学物質審査規制法 | 優先評価化学物質 | (26) | (19) | – | – | |
化学物質管理促進法 | 第1種指定化学物質 | (12) ≧1% | 特定第1種(56)≧0.1% | – | – | |
労働安全衛生法 | 名称等表示/通知対象物 | 表示≧1%(0.1%*1) | 表示≧0.1% | 表示≧1%*1 | 表示≧1%*1 | |
通知 ≧0.1% | 通知≧0.1% | 通知≧1%*1 | 通知≧1%*1 | |||
危険物・引火性の物 | (4の1) | (4の2) | (4の3) | – | ||
変異原性 | (7) >1% | – | – | – | ||
がん原性 | ≧0.1% | – | – | – | ||
濃度基準値設定物質 | 10ppm | – | – | – | ||
皮膚等障害化学物質 | 1%
(皮膚刺激性) |
1%
(特化則等) |
– | – | ||
特定化学物質
第2類物質 |
特定第2類物質
特別管理物質 |
– | (5)>1% | – | – | |
作業環境評価基準 | 管理濃度 | – | 1ppm | – | – | |
作業環境許容濃度 | ACGIH | Ceiling 25ppm | TWA 1ppm | – | – | |
日本産業衛生学会 | 10ppm*2(18mg/m3)*2 | 1ppm(1.8mg/m3) | – | – | ||
生物学的許容値 | ACGIH BEI | *3 | ||||
労働基準法 | 疾病化学物質 | – | *4 | – | – | |
毒物劇物取締法 | 劇物 | – | 含製剤(14の7) | – | 含製剤(>10%) | |
消防法 | 危険物第4類引火性液体 | 特殊引火物 | – | 第二石油類、非水溶性液体 | – | |
消防活動阻害物質 | – | (11)含製剤 | – | – | ||
指定可燃物 | – | – | – | 可燃性固体 | ||
高圧ガス保安法 | 可燃性ガス | 高圧ガス(液化ガス)
可燃性ガス、毒性ガス |
– | – | ||
国連危険物輸送勧告 | 国連分類 | 3(引火性液体) | 2.3 (毒性ガス)
副次: 2.1(引火性ガス) |
3(引火性液体) | 4.1(可燃性固体) | |
国連番号 | 1089 | 1040 | 1264 | 1332 | ||
品名 | アセトアルデヒド(ACETALDEHYDE) | *5 | パラアルデヒド(PARALDEHYDE) | メタアルデヒド(METALDEHYDE) | ||
容器等級 | Ⅰ | – | Ⅲ | Ⅲ | ||
環境基本法 | ||||||
大気 | (指針値) | ≦0.12mg/m3 | – | – | – | |
水質 | 要調査項目(人の健康) | 該当 | – | – | – | |
大気汚染防止法 | 有害大気汚染物質、優先取組物質 | (2) | (8) | – | – | |
揮発性有機化合物(VOC) | 該当 | 該当 | 該当 | – | ||
自主管理指針 | (2) | – | – | – | ||
悪臭防止法 | 特定悪臭物質 | 敷地境界規制基準
0.05~0.5ppm*6 |
– | – | – | |
(シックハウス対策) | 室内濃度指針 | 48µg/m3(0.03ppm) | – | – | – | |
水道法 | 要検討項目 | 目標値は未定 | – | – | – | |
海洋汚染防止法 | 有害液体物質 | – | – | Z類 | – | |
農薬取締法 | 殺虫剤 | – | – | 登録 | ||
食品衛生法 | ||||||
食品添加物規格基準 | 指定添加物 | 香料(着香のみ) | – | – | – | |
残留農薬 | 残留基準 | – | – | – | 設定*7 | |
食品用器具・容器包装ポジティブリスト | 2025年5月31日まで | 添加剤:0.01%*8 | 基ポリマー*10 | – | – | |
2025年 6月1日以後 | 基材*9 | 基材*11 | – | – | ||
ロッテルダム(PIC)条約 | – | Pesticide | – | – |
( )内の数値は政令番号(化学物質管理促進法は管理番号で、政令番号はアセトアルデヒド:1-017、エチレンオキシド: 1-075)
*1: 2025年4月1日以後
*2: 最大許容濃度、常時この濃度以下に保つ。
*3: N-(2-ヒドロキシエチル)バリン{N-(2-hydroxyethyl)valine (HEV)}ヘモグロビン付加物: 5000pmol-HEB/g-グロビン(血中、採取時期非特定でNs: Non specific (他の物質によっても生じる可能性がある)
*4: 頭痛、めまい、嘔吐等の自覚症状、皮膚障害、中枢神経系抑制、前眼部障害、気道・肺障害、造血器障害または末梢神経障害
*5: 酸化エチレン又は酸化エチレンと窒素の混合物、50℃における全圧が1MPa(10 bar)以下のもの
(ETHYLENE OXIDE, or ETHLENE OXIDE WITH NITROGEN up to a total pressure of 1MPa(10 bar) at 50℃) 他にエチレンオキシド(EO)混合物で以下の国連番号がある。
3300: EOと炭酸ガス(CO2)混合物, EO含有率> 87 wt%, 国連分類: 2.3, 副次危険性: 2.1
1041: EO + CO2, 9 wt%<EO含有率≦87 wt%, 国連分類: 2.1
1952: EO + CO2, EO含有率≦ 9 wt%, 国連分類: 2.2 (非引火性‣・非毒性ガス)
2983: EO + 酸化プロピレン, EO含有率≦30 wt%, 国連分類: 3, 副次危険性: 6.1, 容器等級:Ⅰ
3070: EO + ジクロロジフルオロメタン(CFC-12), EO含有率≦12.5 wt%, 国連分類: 2.2
3297: EO + クロロテトラフルオロエタン(HCFC-124), EO含有率≦8.8 wt%, 国連分類: 2.2
3298: EO + ペンタフルオロタン(R-125), EO含有率≦7.9 wt%, 国連分類: 2.2
3299: EO + テトラフルオロエタン(HFC-134a等), EO含有率≦5.6 wt%, 国連分類: 2.2
国連分類: 2.2の(非引火性・非毒性ガス)とは窒息性のガス、酸化性のガス等
*6: 地方条例により、区域別に指定。
*7: 米(玄米): 1ppm, 小麦: 0.2ppm, 白菜: 0.4ppm, キャベツ: 3ppm, 小松菜: 0.8ppm, レタス: 3ppm, みかん(外果皮を含む): 0.3ppm,レモン: 0.7ppm, 鶏及びその他の家禽の筋肉, 脂肪, 肝臓その他の食用部分や魚介類: 0.02ppm, 卵: 0.03ppm等、リストにない食品に対して一律基準0.01ppm
*8: 合成樹脂区分1,2,3のみ
*9: 「酢酸ビニルを主なモノマーとする重合体の加水分解物」の任意の原料物質として
*10: ポリウレタンのポリエーテル(ジオール、ポリオール)の原料モノマー
*11: 多くのポリマーの原料モノマーである「エチレングリコール」に「オキシランを含む」とある。エチレングリコールの代わりにエチレンオキシドを用いても生成したポリマーの化学構造は同じになる。
6. 曝露等の可能性と対策
6.1 曝露可能性
アセトアルデヒドは揮発性が高いので、容器を開放すると極めて急速に有害濃度に達する。引火の危険もある。通常は閉鎖系で取扱われるので、作業者への曝露や環境中への排出のおそれは低い。充填、サンプリング、排出、メンテナンス、設備のトラブル等で曝露するおそれがある。消費者製品に含まれることがあっても極微量で人の健康に影響することはないと考えられる。香料として添加された食品を摂取しても、ヒトの健康に影響するとは考えられない。しかし、エタノールの代謝の過程で生成し、飲酒による急性中毒や慢性中毒の原因物質と考えられている。
エチレンオキシドは常温常圧では気体で、液化ガスとして取扱われることが多い。容器を開放すると極めて急速に有害濃度に達する。有害濃度に達しても臭気として感じないおそれがある。閉鎖系で取扱われ、サンプリングや設備トラブル等以外では作業者曝露のおそれは低い。燻蒸や装置等の殺菌に用いた場合、漏洩や、処理後の脱気・置換が不充分な場合に曝露事故のおそれがある。消費者用途はない。通常の取扱いでは環境中に排出されて、環境に影響を及ぼすおそれは低いと考えられる。
パラアルデヒド、メタアルデヒドはアセトアルデヒドに比べ揮発性は低く、直接の危険・有害性は低い。加熱や酸性でアセトアルデヒドを生成する。
6.2 曝露防止
アセトアルデヒド、エチレンオキシドとも閉鎖系で取扱う。サンプリング等で曝露のおそれがあるので、全体換気及び局所排気装置を設置する。取扱場所近くに洗身シャワー、洗眼設備、手洗いを設ける。ガス検知器を設置する。防爆型の機器及び火花等を発生しない器具を用いる。機器・設備には静電気対策を行う。火気厳禁。取扱時に圧縮空気を使用してはならない。高温のものや酸化剤、強酸、強塩基、アミン等と接触させない。曝露のおそれがある場合は保護具(送気マスク、保護手袋、保護眼鏡(保護面)、保護衣等)を着用する。あらゆる接触を避ける。取扱い後は手や顔等をよく洗う。
パラアルデヒドの場合もできれば閉鎖系で取扱う。全体換気、局所排気を行い、取扱時は保護具を着用する。引火性があるので火気厳禁、静電気対策を行う。高温や酸性下での取扱いはアセトアルデヒドの取扱いに準じる。メタアルデヒドは粉塵を発生させない。全体換気、局所排気を行う。保護具を着用して取扱う。高温や酸性環境を避けるが、必要な場合はアセトアルデヒドの取扱いに準じる。使用後は容器を密栓する。
6.3 廃棄処理
都道府県知事等の許可を受けた産業廃棄物処理業者に処理を委託する。委託する際は、処理業者に産業廃棄物管理票(マニフェスト)を交付し、廃棄物の危険・有害性情報を告知する。
アセトアルデヒドは爆発等の危険があるので焼却処理はできるだけ避ける。少量の場合は可燃性溶剤に溶解し、アフターバーナー、スクラバーを備えた焼却炉の火室に噴霧して焼却する。さらに少量なら珪藻土、バーミキュライト等に吸収させて開放型の焼却炉で焼却することもできる。生分解性があるので、希薄な水溶液の場合は活性汚泥による処理も可能である。不要のエチレンオキシドが容器に残っている場合は放出せず、圧力を残したまま容器弁を閉じ、容器ごと製造業者又は販売業者に返却する。容器は容器所有者が処理する。使用者が勝手に行ってはならない。使用した排ガスは希薄な水溶液(5 % 以下)とし、加水分解(希硫酸水溶液に少量ずつ添加する等)してエチレングリコール等に変換してから、活性汚泥等により処理する。滅菌等に用いた場合の希薄な排ガスは燃焼又は触媒酸化により処理することができる。パラアルデヒド、メタアルデヒドは、アフターバーナー、スクラバーを備えた焼却炉で焼却する。
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