第107回_カナダにおけるPFAS評価の現状について(その1)
残留性有機汚染物質(POPs)は、環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、その長距離移動性により排出源から世界各地に拡散することが懸念されており、モニタリング調査では、北極圏など極地に集まる傾向があるとされています。こうした性質から国別の対応では対策が難しく、ストックホルム条約(POPs条約)で国際的に規制が進められています。PFASはペルフルオロアルキル化合物またはポリフルオロアルキル化合物の総称で、すでにペルフルオロオクタン酸(PFOA)などいくつかの物質は残留性有機汚染物質としてPOPs条約における廃絶物質として規制されています。これらの特定された物質が残留性有機汚染物質の性質を示すのは、炭素―フッ素結合をもつことが要因の一つと考えられており、同様の構造をもつ、PFAS全体についても残留性有機汚染物質の性質を示すことが懸念されています。例えば、EUにおいては、包括的なPFASを対象とするPFAS制限案がREACH規則のもと検討されています(*1)。
カナダは国土に北極圏を持ち、そこで暮らす先住民の体内PFOA濃度が高いなどのデータがあることから残留性有機汚染物質の規制に積極的な国の一つで、POPs条約ではPFASの一種であるLC-PFCAについて廃絶物質への追加提案などを行っています。
本コラムでは、2025年3月に公表された「State of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) report」(*2)の内容に基づき、PFAS規制におけるカナダの現状をご紹介します。
◆State of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) report
カナダは2025年3月に「State of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) report」を公表しました。この報告書は草案である2023年5月の「State of PFAS report」、2024年7月の「Updated Draft of PFAS report」の公表を受けて集められたパブリックコメントの内容を考慮して作成されたものとなります。
この報告書におけるPFASの定義は、OECDが提示した「少なくとも1つの完全にフッ素化されたメチル原子またはメチレン炭素原子(H / Cl / Br / I原子が結合していない)を含むフッ素化物質」としています。ただし、高分子のPFASはPFASの定義に当てはまるものの、高分子のため水への不溶性が高くなり長距離移動性を満たさない可能性や人体への吸収可能性が低いなど別の性質を示すことを考慮して切り分けています。この報告書では高分子PFASを側鎖がフッ素化した側鎖フッ素化ポリマー(SCFP)、主鎖がフッ素化された炭素とエーテル結合をもつパーフルオロポリエーテル(PFPE)、および主鎖がフッ素化された炭素で構成されるフルオロポリマー3つに分類しています。3つの分類のうちSCFPとPFPEは分解による低分子化や水溶性の発現が予見されるため、他のPFASと同様の扱いをするとしています。残るフルオロポリマーについては、他のPFASと異なる性質が予想されるため、追加の作業が必要として別途検討することとし、本報告書の範囲からは除外されています。
◆カナダにおけるPFASの規制状況と対応
カナダにおいて特定の3種類(PFOS、PFOA、LC-PFCAs、およびそれらの塩および前駆体)のPFASは、カナダの「化学物質管理計画(CMP)」(*3)に基づいて評価され、環境へのリスクに基づいて1999年のカナダ環境保護法(CEPA)のスケジュール1に追加されています。CEPAのスケジュール1はCEPA第64条に基づく有毒物質のリストであり、カナダ政府が強制力のあるリスク管理措置を講じることができる物質となります。この3種類のPFASはスケジュール1に追加されていることもあり、「特定有害物質禁止規則2012(PCTSR)(*4)」において製造、使用、販売、販売の申し出、輸入が禁止されています(一部の適用除外用途あり)。該当する物質でDomestic Substances List (DSL)(*5)に収載されているのは、現時点で94物質ですが、これらの物質は構造で定義されているため、カナダの商業で使用されていることが知られていないものも含めてリスク管理措置が適用されることになります。なお、「特定有害物質禁止規則2012(PCTSR)」は改正案として「特定有害物質禁止規則2022」(*6)が提案されており、施行された場合、内容が変更になる部分があることに注意しておく必要があります。この規則案の詳細については本コラムをご参照ください(*7)。
また、前述の3種類以外のPFASで新物質届出規則(化学物質およびポリマー)(NSNR)に基づいて通知された一部のPFASは、DSLに収載されCEPAに基づく禁止、使用条件の設定、および重要な新しい活動規定の対象となります。例えば、特定の3種類のPFASの範囲外となる炭素鎖長8未満の短鎖PFASは、代替品として使用されていることが確認できるとされており、使用する際は規定されたリスク管理措置に従うことになります。特定の3種類以外でDSLにも収載がない新規物質のPFASに関しては、NSNRに基づき登録する必要があります。登録はグループ化せず個別の物質ごとに行うとされ、この対応により、人間の健康と環境に対する潜在的なリスクを評価し、必要に応じてカナダに輸入またはカナダで製造する前に管理措置が講じられることになります。その他にカナダの放出、処分、および移送に関する公開インベントリ(NPRI)があり、通知に記載されている定義としきい値を満たす事業体は、報告の義務が発生します。2024年9月に131種類のPFASをNPRIに追加する提案に関する協議文書が発表されており、最終的な要件に関する決定は、2025年に行われるとされています。
◆最後に
カナダにおけるPFAS評価は、OECDの定義を採用しており、OECDの定義を基本としながら一部の構造を除外しているEUのPFAS制限案や隣接する米国が提示した定義とも異なることになります。また、高分子PFASについて3つの分類のもとSCFPとPFPEは他のPFASと同様の扱いをし、主鎖がフッ素化されたフルオロポリマーは別途検討するという点が特徴の一つと考えられます。
規制については、該当物質をCEPAのスケジュール1に追加することによるPCTSRの規制と登録された物質ごとの評価によりリスク管理処置を設定する方法があります。物質が登録されていない場合は、新規物質として登録する必要があります。
なお、CEPAのスケジュール1への収載については、PFASではありませんが、2025年3月に残留性有機汚染物質との評価によりデクロランプラス(DP)とデカブロモジフェニルエタン(DBDPE)の追加が公表されています。この中でもDBDPEへの規制は他国に先行する内容であり、地理的に残留性有機汚染物質への関心が高いカナダの特徴を示すものと思われます。
今回ご紹介した報告書を受けてPFASに関するリスクマネジメントアプローチ(フッ素樹脂を除く)も公開されていますので、次回はこちらを取り上げたいと思います。
(*1)ECHA PFAS類の制限提案
https://echa.europa.eu/restrictions-under-consideration/-/substance-rev/72301/term
(*2)State of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) report
https://www.canada.ca/en/environment-climate-change/services/evaluating-existing-substances/state-per-polyfluoroalkyl-substances-report.html#toc3
(*3)化学物質管理計画(CMP)
https://www.canada.ca/en/health-canada/services/chemical-substances/chemicals-management-plan.html
(*4)特定有害物質禁止規則2012
https://laws-lois.justice.gc.ca/eng/regulations/SOR-2012-285/page-1.html
(*5)カナダ Domestic Substances List(DSL)
https://www.canada.ca/en/environment-climate-change/services/canadian-environmental-protection-act-registry/substances-list/domestic.html
(*6)特定有害物質禁止規則2022
https://gazette.gc.ca/rp-pr/p1/2022/2022-05-14/html/reg2-eng.html
(*7)カナダ 特定有害物質禁止規則2022の提案
https://www.tkk-lab.jp/post/reach20220624
(一社)東京環境経営研究所 長野 知広 氏
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。
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