第6回_インドの環境規制動向について

1.インドの環境政策

インドは人口が14億人を超えており、その巨大な人口を背景とした国内消費の拡大と経済成長が、サプライチェーンの多様化を求める世界的な動きの中で投資先として注目されています。政治面でも、グローバル・サウスのリーダーを目指す姿勢を示し、G20議長国を務めるなど、その国際的な影響力が増大しています。モディ首相は2014年に首相に就任し、2024年に3期目の就任を果たし2029年まで長期政権が見込まれています。
2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(UNFCCC COP26)で、モディ首相は、個人の行動を世界の気候変動対策の最前線に位置付けるための「ミッションLiFE (Lifestyle For Environment(環境のためのライフスタイル))」(*1)を発表しました。

LiFEは、気候変動対策が大規模な政策や産業に偏りがちな中、個人の責任と行動の重要性に焦点を当てた、ユニークなアプローチです。LiFEは、従来の「大量消費・大量廃棄」から「mindful and deliberate utilisation, instead of mindless and destructive consumption(環境破壊を伴う無秩序な消費を克服し、戦略的かつ慎重な利活用を確立する)」へと意識を転換し、持続可能な社会を目指す取り組みです。

(1)目指す姿と行動
地球に優しいライフスタイルを実践する人々(Pro-Planet People)を増やし、日常生活の中で以下のような具体的な行動をとることを推奨しています。

(i)エネルギー・水: 節電(LED利用や設定温度の調整)や節水(漏水の修理やバケツでの水やり)。
(ii)廃棄物・交通: 使い捨てプラスチックの削減、ゴミの分別、公共交通機関や自転車の積極的な利用。

(2)変革のプロセス(3つの柱)
以下の3段階を経て、社会全体の仕組みを変えていくことを目標としています。

(i)需要の変化: 個人の行動変容により、環境に優しい製品への需要を高める。
(ii)供給の変化: 市場のニーズに応え、企業が持続可能な製品を提供する。
(iii)政策の変化:社会全体の意識が高まり持続可能な政策や規制の基盤を築く。

LiFEの下で推進される具体的な行動は多岐にわたります。

(i)エネルギー:LED電球の使用、電化製品の不使用時のコンセントからの切断、エアコンの温度設定を24度に保つなど。
(ii)水:漏水箇所を直す、食器を洗う前に水に浸しておく、植物の水やりにはホースではなくバケツを使うなど。
(iii)廃棄物:買い物にマイバッグ(布製バッグ)を持参する、食品廃棄物を減らす、乾物と生ごみを分別する、古い衣類や本を寄付するなど。
(iv)交通:短距離の移動には自転車や公共交通機関を利用する、信号待ちで車のエンジンを切るなど。

日本でも企業や家庭で取り組める身近な内容に思えます。

2.環境法規制の体系

インドの環境規制法は、多層的かつ包括的な法体系を持っており、「環境保護法(Environment (Protection) Act, 1986)」(*2)を最上位法として、その下に様々な個別法や規則が定められています。この法律に基づき、具体的な汚染物質の排出基準、危険物の取り扱い、各種廃棄物管理などに関する詳細な規則が制定されています。

(1)大気汚染の防止、管理及び削減法 (Air (Prevention and Control of Pollution) Act, 1981)(*3)
大気汚染の防止、管理、削減を目的とし、中央汚染管理委員会(CPCB)(*4)および州汚染管理委員会(SPCB)(*5)の権限を規定しています。
具体的な排出基準や大気質基準は、この法律に基づく規則(Rule)(*6)で定められています。

(2)水質汚濁防止及び管理法 (Water (Prevention and Control of Pollution) Act, 1974) (*7)
水質汚染の防止、制御、水質の向上を目的とし、下水や産業排水の処理などについて規定しています。CPCBおよびSPCBが水質基準や排水基準(*8)を定めます。
現地工場の運営管理で留意すべき法規制です。

3. 化学物質規制法

3.1 化学品管理および安全規則案(インド版REACH)

インドでは包括的な新規則「Draft Chemicals (Management and Safety) Rules, 20xx CMSR」の導入が計画されていますが、施行日は未定です。インド化学物質規制ヘルプデスクを担う「規制担当者および管理者協会(Regulatory Representatives and Managers Association)(RRMA)が日本語と英語のCMSR(*9)を公開しています。

(i)目的と範囲:人の健康と環境保護を目的とし、年間1トン以上の化学物質(製造・輸入・上市)を対象とします。外国企業は現地代理人(AR)の指名が必要です。

(ii)主な義務:

・通知:年間1トン以上の全物質が対象。既存物質の初期通知や、年次報告が求められます。
・登録:特定の「優先物質(約750物質)」が対象。安全性報告書(CSR)の提出など、EUのREACHに近い厳格な義務があります。

(iii) 現状: 正式施行までは旧規則(MSIHCR 1989)が継続されますが、並行して品質管理命令(QCO)によるBIS認証の義務化が一部物質で先行して進んでいます。

3.2 残留性有機汚染物質(G.S.R. 207 (E)規則

G.S.R. 207 (E) (*10) は、POPs条約に基づき、特定の有害化学物質を規制する2018年公布された規則です。

(i)規制内容: クロルデコンやヘキサブロモビフェニルなど、7種類の物質について製造・取引・輸出入を全面的に禁止しています。
(ii)留意点: インドは条約の改正ごとに個別の受諾が必要な立場をとっています。そのため、PFOAやUV328などは、執筆時点ではインド国内で包括的な禁止対象にはなっていません。

3.3 バーゼル法(有害廃棄物規則 2016 Hazardous and other Wastes (Management & Transboundary Movement) Rules, 2016)(*11)

有害廃棄物の管理と越境移動(輸出入)を規制するバーゼル条約の国内実施法です。POPs条約で禁止された物質を含む廃棄物も、この規則の下で厳格に規制されます。

(i)管理体制:有害物質を含む廃棄物の生成から処分までを厳格に管理します。
(ii)附属書による分類:

Schedule I: 有害廃棄物を生む産業プロセスのリスト。
Schedule II: 有害性の判定基準(濃度限界など)。
Schedule III: 輸出入の許可または制限が必要な廃棄物。

4. サーキュラーエコノミー法

4.1 プラスチック廃棄物管理規則(PWM)

インドのPWM規則は、EUのPPWR((EU) 2025/40)と同様、プラスチック廃棄物の削減とリサイクルを目的としています。2016年の制定以降、毎年のように改正が行われており、特に拡大生産者責任(EPR)とトレーサビリティ(ラベリング)の強化が急速に進んでいます。企業対応を支援するため、中央汚染管理委員会(CPCB)により「一元化EPRポータル “Centralized Extended Producers Responsibility Portal for Plastic Packaging” 」(*12)が運用されています。

インドのPWM規則は、EUのPPWR((EU) 2025/40 Packaging and Packaging Waste Regulation)と同様にプラスチック削減とリサイクルを目的としており、拡大生産者責任(EPR)とトレーサビリティ(ラベリング)の強化が急速に進んでいます。

(1)拡大生産者責任(EPR)の義務化

(i)対象:製造者、輸入者、ブランドオーナー(PIBO)。
(ii)内容:自社製品のプラスチック包装廃棄物の回収・処理・リサイクルが義務。
(iii)プラットフォーム: 中央汚染管理委員会(CPCB)のEPRポータルで、登録やガイドライン確認を一元管理。

(2)主な規制内容と禁止事項

(i)厚さ規制: 強度確保と再利用促進のため、キャリーバッグ等は50ミクロン以上が必要。
(ii)食品利用: 再生プラスチックの食品容器への直接使用は原則禁止。
(iii)分別の義務: 排出者(個人・事業所)は発生源での分別と料金支払いが義務。

(3)ラベリングと表示義務

2025年7月1日から表示方法が柔軟化される一方で、CPCBへの通知が厳格化されます。

(i)表示対象: キャリーバッグに加え、一般的なプラスチック包装にも拡大(※輸入品の多層包装は除外)。
(ii)表示内容: 会社名、EPR登録番号、厚さ(区分II)、生分解性証明番号(区分IV)など。
(iii)表示: 従来の直接印字に加え、以下の4つのオプションから選択可能になります。

①バーコード
②QRコード
③製品情報パンフレット(製品に付属する文書)
④他法令に基づく固有番号

(4) CPCBへの届出事項
事業者は選択した表示方法(オプション1〜4)の詳細をCPCBに通知する必要があります。

区分I:硬質プラスチック包装
区分II:軟質プラスチック(単層・多層)、キャリーバッグ、パウチ等
区分III:多層プラスチック包装(プラスチック以外の層を含むもの)
区分IV:生分解性プラスチック等

4.2 電気電子廃棄物管理規則(E-Waste Rules)

E-Waste Rules は、EUのRoHS指令(有害物質制限)とWEEE指令(廃棄管理)を組み合わせたような規則です。拡大生産者責任ポータルで法規制改定情報などが公開されています。

(1)広範な対象: IT機器、家電、医療機器、玩具、太陽光パネルなど、非常に幅広い電気・電子機器が対象となります。
(i)情報通信機器:メインフレームやミニコンなど
(ii)民生用電気電子機器および太陽光発電パネル: テレビ、洗濯機や空調機など
(iii)大型及び小型の電子電気機器: 冷凍庫、調理などの加工に使用する大型家電製品や電気暖房器具など
(iv)電子電気工具:ドリル、のこぎりやミシンなど
(v)玩具・レジャー・スポーツ用品: 電車・カーレースのセットや電子電機部品を使用したスポーツ用品など
(vi)医療機器: 放射線治療装置・付属品、循環器関連機器・付属品や透析装置・付属品など
(vii)研究用機器:ガス分析器や電気電子部品を有する機器

(2)EPRのオンライン化: 「許可制」から「登録制」へ移行し、オンラインポータルで一元管理されます。

(3)リサイクル目標: 生産者には重量ベースでの目標が課されます(2027年度以降は80%)。目標未達時は、他社から「EPR証明書」を購入して補填することも可能です。

(4)特定有害物質: 鉛、水銀、カドミウムなどの有害物質について、最大許容濃度を超える含有が禁止されています。

4.3 バッテリー廃棄物管理規則(BWM)

当初の鉛蓄電池限定の規則から、2022年以降はEV用やポータブル電池を含む全種類に対象が拡大されました。拡大生産者責任ポータルで法規制改定情報などが公開されています。

(i)トレーサビリティの強化(2025年改正):バッテリー本体やパッケージに、EPR登録番号を含むQRコードやバーコードの表示が義務付けられました。
(ii)最終処分の禁止:使用済み電池の埋め立てや焼却は完全に禁止され、100%のリサイクルや再資源化を目指しています。
(iii)戦略的背景:急成長するEV市場を見据え、リチウムやコバルトなどの重要資源を国内で循環させ、輸入依存度を下げる狙いがあります。

5. BIS製品認証制度の概要

BISは、インド規格の開発および発行、適合性評価制度の実施、適合性評価のための試験所の運営および認定(*13)を行っています。また、ホールマーキング(貴金属の純度証明)の実施、消費者への権限付与(エンパワーメント)、品質保証に関する能力構築プログラムの開催、そしてISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)において国を代表する役割を担っています。

インド市場で特定の製品を製造・輸入・販売する際、政府が「品質管理命令(QCO)」を発令している品目については、BIS認証の取得と標準マーク(Standard Mark)の表示が法的に義務付けられます。

(1) QCO(品質管理命令)の基本原則
(i)強制遵守: QCO対象製品は、対応するインド規格に適合し、BISからライセンスまたは適合証明書(CoC)を取得しなければなりません。
(ii)全流通過程での規制: ライセンスがない製品は、製造や輸入だけでなく、販売、保管、展示すら禁止されます。
(iii)内外無差別: 国内製品に適用される規則は輸入品にも同様に適用されるため、海外メーカーも例外ではありません。

(2)認証スキームの分類
手続きは製品やサービスに応じて Scheme I から VII までに区分されています。主なものは以下の通りです。

SchemeI:一般的な製品認証(工場検査やサンプル試験を伴う)。
SchemeII:自己宣言に基づく登録制度(主に電子情報技術製品が対象)。
SchemeIV〜VII:バッチ(ロット)認証、サービス認証、型式承認など。

(3)海外製造業者への適用(FMCS)
インド国外の製造業者が認証を取得する場合、「外国製造業者認証制度(FMCS)」に基づき、BISから直接ライセンスを取得する必要があります。

(4)電子情報技術製品等の強制登録(Scheme II)
特定のIT機器や太陽光関連製品などは、Scheme II(自己宣言)による登録が義務付けられています。

(i)対象範囲:電子情報技術省(MeitY)が定める64品目(2025年2月時点)のほか、ソーラーパネルや一部の化学物質なども含まれます。
(ii)動向:強制登録の対象品目は随時追加・改定されており、最新の通達を常に確認する必要があります。

実際に認証の申請を行ったり、認証取得済み企業を検索したりするためのオンラインプラットフォームe-BIS / Manakonline(実務・申請ポータル)(*14)もあります。
インドは日本企業にとって魅力的な市場ですが、EPR要求や法規制は厳しいものがあり、インド進出にあたっては、慎重な順法確認が必要と思います。

化学物質法規制研究会 松浦 徹也 氏

引用
*1:LiFE
https://www.mygov.in/life/
*2:環境保護法 (Environment (Protection) Act, 1986)
https://cpcb.nic.in/displaypdf.php?id=aG9tZS9lcGEvZXByb3RlY3RfYWN0XzE5ODYucGRm
*3:大気汚染の防止、管理及び削減法 (Air (Prevention and Control of Pollution) Act, 1981)
https://cpcb.nic.in/displaypdf.php?id=aG9tZS9haXItcG9sbHV0aW9uL05vLTE0LTE5ODEucGRm
*4:CPCB
https://cpcb.nic.in/
*5:SPCB List
https://cpcb.nic.in/spcbs-pccs/
*6:規則
https://caqm.nic.in/Index1.aspx?lsid=2&lev=1&lid=2&langid=1
*7:水質汚濁防止及び管理法 (Water (Prevention and Control of Pollution) Act, 1974)
https://cpcb.nic.in/upload/home/water-pollution/Amendment_Water_Act-1974.pdf
*8:水質規則
https://cpcb.nic.in/water-pollution/
*9:RRMA
https://indianchemicalregulation.com/ja/regulation/indian-cmsr/
*10:G.S.R. 207 (E)
https://www.indiacode.nic.in/ViewFileUploaded?path=AC_CEN_16_18_00011_198629_1517807327582/regulationindividualfile/&file=regulation_of_persistent_organic_pollutants_rules%2C_2018.pdf
*11:Hazardous and other Wastes (Management & Transboundary Movement) Rules, 2016
https://cpcb.nic.in/rules/
*12:拡大生産者責任ポータル
https://eprplastic.cpcb.gov.in/#/plastic/home
*13:BIS
https://www.bis.gov.in/?lang=hi
*14:e-BIS / Manakonline
https://www.manakonline.in/MANAK/login

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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