第1回_欧州の統合規制戦略に関する最近の動向
欧州化学品庁(ECHA)は、2015 年に統合規制戦略を発表し、2027 年末までに登録されているすべての登録物質にリスク管理または新たなデータ生成の優先順位を付けることを目標として掲げている。2019 年以降は物質の構造的な類似性に着目して評価を効率化するグループ化アプローチを導入し、評価物質数が飛躍的に増加するという成果を上げている。
◆統合規制戦略に基づく報告書の公表
欧州化学品庁(ECHA)は、2022 年6 月に統合規制戦略に基づく第4 次報告書として、「Faster action on groups ofharmful chemicals」1)を公表した。この報告書は2021 年に実施した化学物質の有害性について評価し、企業など利害関係者にとって潜在的な規制措置に関する情報源となる規制ニーズについて結果をまとめたものである。報告書に記載されている評価結果の概要は以下の通りである。
評価物質数: 約1,900 物質
追加の規制措置不要: 約800 物質
追加の措置が必要: 約300 物質
判断のために追加データ必要: 約800 物質
追加の措置が必要とされる約300 物質はリスク管理措置を直ちに開始することができるとしており、今後、法規制などの措置がとられていくものと考えられる。また、判断のためにコンプライアンスチェック、物質評価などの追加データが必要とされる約800 物質のうち、約350 物質は将来的に規制ニーズ評価などを経てリスク管理措置に移行すると予想されている2)。リスク管理措置が特定できない理由としては、認可などのREACH規則または他のEU法の下で規制措置の前提条件となるハザードを特定するデータが不足していることがあげられている。ハザードの特定が進まない背景には、2020 年と比較して2021 年に3 倍に増加している調和分類と表示(CLH)を必要とする物質の急激な増加がある。CLHの必要とする物質の数はさらに増えると予想されるため、CLH提案の効率化は、今後、統合規制戦略を進めるうえで課題の一つとなっている。ECHAはCLH提案の効率化にあたり、提供される情報が規制ニーズの評価の基礎となるため、企業に対して登録書類データの積極的な確認および更新を推奨事項としている。
なお、統合規制戦略の実施の進捗状況は、化学物質の世界のWeb ページ3)と、定期的に公開されている物質のグループ評価の結果4)を通じて追跡が可能である。また、すべての評価は、公共活動調整ツール(PACT)におけるECHAのWeb サイト5)で公開していくとされており、化学物質を取り扱う企業においては、こうした情報から規制ニーズの動向について確認しておく必要があると考えられる。
◆統合規制戦略に基づく報告書の公表
欧州委員会(EC)は今回紹介した統合規制戦略に基づく第4 次報告書に先駆けて2022 年4 月に「制限ロードマップ」6)を公表している。この「制限ロードマップ」は、今後、優先的にREACH規則における制限について評価していく化学物質(グループ)を検討段階に応じて類しリストとしてまとめたものである。グループ化アプローチによって評価されたオルトフタル酸エステル、ビスフェノール、皮膚感作物質、難燃剤など適切なリスク管理措置が制限として特定された多くの物質が「制限ロードマップ」に記載されており、統合規制戦略により得られた規制ニーズが反映された形となっている。
統合規制戦略に基づいて評価された規制ニーズは、今後EUが法規制を整備するうえで基礎となるものと考えられるため、企業においてはその動向について注視しておく必要がある。
【参考資料】
- https://www.echa.europa.eu/documents/10162/5641810/irs_annual_report_2021_en.pdf/b38d8eec-d375-beb2-98b2-1fb0feb3612a?t=1655382672222
- https://www.echa.europa.eu/-/immediate-risk-management-suggested-for-300-harmful-chemicals
- https://echa.europa.eu/universe-of-registered-substances
- https://echa.europa.eu/-/first-assessments-of-regulatory-needs-for-groups-of-chemicals-published
- https://echa.europa.eu/pact
- https://www.echa.europa.eu/-/european-commission-advances-work-on-restrictions-of-harmful-chemicals
◆ トピックス
・厚生労働省が労働安全衛生規則等の一部を改正(2022 年5 月31 日)
厚生労働省は、化学物質による労働災害を防止するため、労働安全衛生規則等の一部を改正した。内容はラベル表示・SDS 等による通知の義務対象物質の追加、化学物質管理者の選任の義務化、SDS 等による通知事項の追加と含有量表示の適正化などである。公布日は2022 年5 月31 日であるが、大部分の項目は2023 年4 月1 日または2024 年4 月1 日から施行される。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25984.html
・ECHAはCLSに1 物質を追加(2022 年6 月10 日)
ECHAはCLS としてN-(ヒドロキシメチル)アクリルアミドを追加した。追加理由は発がん性および変異原性を引き起こす可能性としている。使用用途は化学薬品、織物、皮革または塗料などがあげられている。この物質の追加によりCLS のエントリー数は224 となった。
https://www.echa.europa.eu/-/one-hazardous-chemical-added-to-the-candidate-list