第13回_Global Automotive Declarable Substance List (GADSL)の更新について
多種多様な部品・材料から構成されている自動車産業は裾野が広く、長大で複雑なサプライチェーンが形成されています。一方で、化学物質に対する法規制も年々強化されており、自動車における製品含有化学物質管理の対象も拡大・複雑化していく状況にあります。このような背景の中、自動車業界は、管理対象とする化学物質のリストとして、Global Automotive Declarable Substance List(GADSL)を作成し、統一した管理による効率化を目指しています。本コラムでは、2023年2月に公表されたGADSLの更新について取り上げていきます。
◆GADSLについて
GADSLは、自動車、自動車部品サプライヤー、化学/プラスチック業界で組織されたGlobal Automotive Stakeholders Group (GASG)が制定した自動車業界共通の管理化学物質リストです。GASGの目的とするところは、サプライチェーン全体で自動車製品に含まれる特定の物質の使用に関するコミュニケーションと情報交換を促進するところにあります。このような目的のもと制定されたGADSLは、販売時点で車両に残っている材料または部品に存在すると予想される物質のみを対象としています。GADSLのホームページ(1)には、GADSLガイダンスとGADSLの2つのファイルが用意されています。GADSLガイダンスは、個々の宣言可能な物質、物質グループをリスト化し、GADSLの使用方法を説明する文書です。GADSLは、必要に応じて、GADSLに収載される化学グループまたはグループの個々の物質(鉛とその化合物など)のCAS番号などを提供しています。
GADSLに収載される基準はGADSLガイダンスによると以下の内容となります。
・規制対象物質
・当局などにより規制される見込みの物質
・OECD(経済協力開発機構)の化学物質試験に基づくなど科学的に人の健康や環境に対する重大なリスクを生じさせる可能性が実証されている物質
GADSLに収載された報告対象物質は、その内容により「P」または「D」で分類されます。「P」、「D」の内容はそれぞれ以下の通りです。
P:Prohibited(使用禁止)
D:Declarable(申告)
D/P:用途により使用禁止と申告
D/P については、同じ物質であっても最終用途により「P」に分類されるものと「D」に分類されるものがあることを示します。どの用途にどちらが適用されるかは、GADSLの用途欄に具体例として記載されます。なお、D/Pの定義については、異なる鎖長を含んでいる物質のエントリなどにも適用されるなど2023年版としてガイダンスが更新されました。
また、どのような理由で収載されたかについても「reason code」が付けられており、以下の3つの理由に分類しています。
LR:Legally Regulated(法的に規制される物質)
FA:For Assessment(今後規制が見込まれる物質)
FI:For Information(GASG運営委員会が追跡することを決定した物質)
申告が必要な閾値は自動車部品の具体的な用途により規定されています。申告対象物質であっても閾値以下であれば申告する必要はないということになります。特に記載がない場合、閾値は均質材料中の0.1wt%以上です。ここでいう均質材料は、単純な機械的手段で別々にすることができない構造のもので、GADSLガイダンスでは具体例としてブレーキパッド中の摩擦材をあげています。GADSLに記載されている閾値はあくまで申告の有無を判断するものであり、規制値ではない点には注意が必要です。なお、別途自動車メーカーなどと閾値に関する取り決めがある場合、そちらの内容が優先となります。
◆GADSLの更新
GADSL は毎年2月に定期更新されています。ただし、REACH規則、ELV、TSCAなどの規制動向によっては中間更新するケースもあるとしています。近年では、2022年8月に1,737物質の追加等の更新がありました。本年は定期更新として2023年2月1日に新たに以下の10物質が追加されています。
CAS RN 26040-51-7
Bis(2-ethylhexyl) tetrabromophthalate; Tetrabromophthalic acid bis(2-ethylhexyl)ester (BEH-TEBP)
使用例:ケーブル、サンバイザー、ヘッドライナーなどPVC 素材の部品
CAS RN 96-13-9
2,3-Dibromo-1-propanol (2,3-DBPA)
使用例:ポリ塩化ビフェニル(PCB)使用時の樹脂
CAS RN 105-55-5
1,3-diethyl-2-thiourea
使用例:EPDM や NBR などのゴム材料、および接着剤
CAS RNなし
PEI+PTFE
使用例:記載なし
CAS RN 2501-01-1
Perfluoro-5,6-dimethyl-4,7-dioxadecane
使用例:記載なし
CAS RN 3486-08-6
Perfluoroisoheptyl Iodide
使用例:記載なし
CAS RN 5081-02-7
Ammonium 2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11-icosafluoroundecanoate
使用例:記載なし
CAS RN 7098-02-4
1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-Tetradecafluoroheptan-1-ol
使用例:記載なし
CAS RN 80-09-1
4,4′-sulphonyldiphenol
使用例:燃料ホース、皮革製品および織物
CAS RN 62-56-6
Thiourea; thiocarbamide
使用例:接着剤、コーティング、はんだペースト材料
今回、新規に追加された10物質はいずれも「D」と分類される申告物質です。また、設定された物質は、自動車用途への使用が想定されるもので分解副生成物を含む意図的添加の場合も含むとしています。法的根拠の記載を確認するとCL物質への収載や制限が推奨される ECHA規制ニーズ評価に含まれるなどが主にあげられており、REACH規則に関する動向が影響を与えていることが伺えます。10物質の「reason code」の内訳は、SVHCに指定済みで「LR」とされる1物質と規制ニーズ評価開始などで今後、規制が見込まれるため、「FA」と判断された9物質となっています。
その他、すでに収載されている物質のうち127物質について情報更新がされています。また、内容の重複や物質評価の進展などの理由により、54物質はGADSLから削除されました。これらは、エクセルファイルで提供されているGADSLの「Reference List」や「Deletions」を操作することにより確認することができます。
◆最後に
自動車業界はその長大なサプライチェーンの特徴から、化学物質管理について業界全体で取り組んでいく姿勢です。GADSLは自動車業界全体で共有する物質リストであり、その動向は注目しておく必要があるといえます。また、自動車業界の化学物質管理に関する最近の動きとしては、2022年12月に日本自動車工業会(JAMA)と日本自動車部品工業会(JAPIA)が作成した「JAMA・JAPIA製品含有化学物質管理ガイドライン」の公開があります(2)。このガイドラインは、自動車産業として重要な実施事項をまとめたガイドラインの必要性が高まってきたことを背景に、自動車サプライチェーンでの化学物質管理レベルの標準化と管理レベルの向上を目指すために策定されています。自動車業界のサプライチェーンに関係する利害関係者においては、こうした内容を活用しつつ、自社の化学物質管理の精度向上と効率化を図っていく必要があると考えられます。
(1)GADSLホームページ
https://www.gadsl.org/
(2)JAMA・JAPIA製品含有化学物質管理ガイドライン
https://www.jama.or.jp/operation/ecology/hazardous_substances/guideline.html
(一社)東京環境経営研究所 長野 知広 氏
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。
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