第85回_フランスPFAS規制法案の動向
EUはパーフルオロカルボン酸(C9-14 PFCAs)とその塩および前駆物質は、ドイツおよびスウェーデンの提案に基づくEU委員会の決定により、REACH規則で2023年2月以降は制限されています。さらに、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スウェーデンでは、PFASの幅広い用途を対象とするREACH規則の制限案(*1)検討が進んでいます。
フランスはEUのなかで環境・化学物質規制の先行的な法規制を施行していますが、PFAS制限提案国になっていません。しかし、国内法としてPFAS規制法を議会で審議しています。PFAS規制法は、正式には「パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質に関連するリスクから国民を保護することを目的とした法」(*2)です。
7月の議会選挙で首相が交代し、9月に新首相の指名が行われましたので、法案審議も加速されると思われます。
法案は議会の第1読会は終わっていますので、修正採択を含めて規制内容をご説明します。
法案(*2)は、憲法第38条による議会からの授権法(ordonnance)として、2024年2月20日に「PFASに関連するリスクから国民を保護する法」として、“Assemblée nationale”(国民議会)に提出されました。
1. 提案背景
ECHAでREACH規則の制限案の検討が進んでいる中での国内法の提案の意図を「説明覚書」で説明しています。
EUでは、PFASを幅広く規制する方向で取り組みが進んでいる。例えば、EHCAが2023年に発表し、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、デンマークが2021年から準備しているPFASsの制限案は、化合物グループ全体を対象としている限りにおいて、PFASsに関連するリスクに取組みの満足のいく方法と思われる。フランスはこの規制案の提案者ではなかったが、最近になって支援を提供しています。
しかし、このイニシアチブは、EUの長い意思決定プロセスを条件としており、最も好ましいシナリオでも、2027年から2028年までに実施される可能性になります。
環境中の物質の不可逆的な蓄積は PFAS 汚染の重要な特徴で、何もしない月が 1 か月でも長ければ長いほど、その影響は大きくなります。
汚染を抑制するのに役立つ、簡単に実行できる対策が存在する。例えばデンマークは、今後予想されるEUの規制を見越して、2020年7月にPFASを含む食品と接触する紙や段ボール製品の使用禁止を導入しました。
2023年1月のPFASに関する閣僚行動計画(*3)および2024年1月にシリル・アイザック=シビル議員月によって提出された報告書(*4)に従い、フランスは、これらの汚染物質との闘いを強化するための措置を直ちに講じることができるようにしなければなりません。
これらの要因に照らして、この法律案の目的は、公衆衛生と環境保護に関わる利害に見合った一連の優先的措置の展開を可能にすることによって、PFASに関連するリスクから国民を保護することです。
PFASに関する 2023年から2027年の閣僚行動計画は発生源でのリスクを軽減し、環境監視を継続し、科学的知識の生産を加速し、国民の情報へのアクセスを促進することを目的としている。閣僚行動計画は次の6つの戦略的優先事項に基づいています。
行動指針 1: 公共の行動を導くための排出物と環境に関する基準を設ける。
行動指針 2: PFAS の使用またはマーケティングに関連するリスクを排除するために、欧州レベルで広範な禁止を導入する
行動指針 3: 環境、特に水生環境の排出と浸透に関する知識を向上させ、住民のばく露を減らす
行動指針 4: 産業排出者からの排出量を大幅に削減する
行動指針 5: 入手可能な情報の透明性
行動指針 6: 微量汚染物質計画への中期的な統合
国内法の制定背景を端的にまとめますと、次になります。
・REACH規則の制限案は期待できるが、制定まで時間を要する
・PFAS規制はひと月でも早く着手すべきである
・フランスは、閣僚行動計画により、できるところから規制を開始する
2. 審議状況
PFAS規制法は、授権法(ordonnance)により政府が法案を作成し“Assemblée nationale”(国民議会 以下下院)及び“Sénat”(元老院 以下上院)で審議される委託立法手順によります。両院は法案の修正案が一致するまで3回まで審議(読会:EU法の手続きと同じ)します。PFAS規制法の経緯は次のように審議中です。
政府法案-2024年2月20日
下院 第一読会 –2024年2月20日
上院 第一読会 – 2024年4月4日
下院 第二読会 – 2024年7月23日
3. 法案と議会の修正案
(1)環境コードの改正
環境コード第5巻:公害、危険、迷惑行為の防止/タイトルII:化学物質、殺生物剤、ナノ粒子状物質 /第III章:ナノ粒子状物質へのばく露による健康および環境へのリスク防止/L.523-1~L.523-8(*5)を修正してPFASを規制対象とします。タイトルIIは、「特定の物質」とし、第IV章として「ペルフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)よるリスクの防止」が追加されます。
(2)制限事項「PFASへのばく露から生じるリスクの防止」
(i)政府法案「PFASへのばく露から生じるリスクの防止」
I.-L 523-6-1を新設:L. 523-6-1-I. 2025 年 7 月 1 日以降、製造、輸入、輸出、および上市は、無償または有償を問わず、以下を対象とする。
A:PFASを含む食品と接触することを意図した製品
B:PFASを含む化粧品
C:PFASを含むワックス製品
D:PFASを含有する繊維製品(ただし、警備および市民保護専門家用の防護服を除く)
L. 523-6-1-II 2027年7月1日以降、PFASを含む製品の製造、輸入、輸出、上市は、無償か有償かを問わず禁止する。用途の本質的性質を厳密に反映した禁止の適用除外のリストは、国務院の政令で定める。
II.-公衆衛生法典第1編第3巻第2章第1節に、以下のL.1321-5-11を追加する。
L. 1321-5-11. – 飲料水の水質に関する衛生検査には、人間が消費することを意図した水中のPFASの存在に関する検査が含まれる。保健大臣が連署した政令は、国立衛生・環境・労働機関の意見を得た後、サンプリング条件を決定する。
III. – この法律の公布から12カ月以内に、政府は、人間が消費することを目的とする水中のPFASに関する最新の健康基準を提案する報告書を国会に提出しなければならない。
(ii)第2読会 下院の第2読会で審議している法案(*6)では次となっています。
L. 524‑1(L. 523-6-1に代える)
I. – 2026年1月1日から製造・輸入・輸出入・上市(有償・無償):
A:(削除)
B:PFASを含有する任意の化粧品;
C:PFASを含有するワックス製品;
D:PFASを含有する消費者を対象とする繊維製品、履物及び繊維製品のための防水剤並びに履物
ただし、人の保護及び安全のために設計された繊維製品及び履物、特に国の防衛又は民間の安全保障の任務の遂行のために設計されたものを除く。そのリストは、政令で定める。
II.– 2030年1月1日からPFASを含有する繊維製品の製造、輸入、輸出及び上市は、有償であるか無償であるかを問わず、必須用途に必要な繊維製品、国家主権の行使に寄与する繊維製品及び工業用途のための代替的解決策及び技術的解決策がない繊維製品を除き、禁止されるものとする。そのリストは、政令で定める。
III (新規)
– I及びIIに規定する禁止事項は、政令で定める残留値以下の濃度で存在するPFASを含有する製品には適用しない。
L. 524-2 (新規)
– L. 521-12からL. 521-20までの規定は、本章の規定の違反の調査及び制定に適用される。これらの犯罪を調査し立証する任務のために、L521-12にいう職員及び代理人は、同法第L521-11-1に定める条件に基づいて、L521-11-1に定める業務を遂行することができる。
II. 公衆衛生法L. 1321-9、L. 1321-9-1を挿入
L. 1321‑9‑1(L.1321-5-11に代える)
– 飲料水の水質の健康管理には、人が摂取することを意図した水中における、法令で定義されているPFASの存在の管理が含まれる。
また、本パラグラフに記載されていないPFASの管理も含まれるが、ただし、これらの物質は定量可能であり、その管理は地域の状況に照らして正当化される。
「リスク予防担当大臣は、PFASを環境中に排出し又は排出している可能性のあるすべての場所について、衛生担当大臣と共同で、少なくとも毎年電子的に公衆の利用に供し、かつ、改訂した地図を作成しなければならない。このマップには、利用可能な場合には、これらの物質の環境への排出量の定量的測定値が含まれる。すべての排出サイトにおけるPFASの汚染除去措置及び排出の最大閾値は、政令により定める。
III. – (変更なし)
第1条-2A (削除)
第1a条 環境法L. 523-6、L. 523-6-1が挿入された後、以下の文言が挿入する:
L. 523‑6‑1.
– フランスは、PFASに関連するリスクから人々を保護することを目的とする法律の公布から5年以内にこれらの排出の終わりに向かって移動するために、工業施設からのPFASの水への排出の漸減に関する国内計画を採用している。この計画の物質のリスト及び本条の実施方法は、政令により特定される。
第1条-3項(新規)
政府は、この法律の公布の日から1年以内に、飲料水及び公衆衛生に責任を有する地方公共団体が管理する飲料水の浄化を目的とする水について、その管理が自社のものであるか委託されたものであるかを問わず、その浄化に資金を提供するための省庁間行動計画を採択しなければならない。この計画は、コミュニティが汚染除去政策に利用できる様々な資源、水機関の役割と任務、これらの公共政策を支援する国の役割、および暫定的なスケジュールを示している。
4.参考情報
フランス法は馴染みがないので、フランス法の仕組みを解説します。フランス法は、大陸法系で法体系は成文法が中心になっています。環境法は、環境法典(*7)としてまとめられています。
環境法典は、立法パート、規制パートと附属書構成になっています。立法パートは、議会で採択された条項です。規制パートは、立法パートを受けて、政府国務院が定めた具体的条項です。
(1)法体系
法律(Loi )例外なくすべての人に適用され、誰も知らないとは言えません。議会(下院と上院)によって同一の条件で審議、起草、修正、可決されます。大統領によって公布(署名)され、官報(JORF)に掲載されます。
政令(Décret)大統領または首相が署名し、1人または複数の大臣が連署することもあります。政府(行政)から発せられる決定です。
命令(Arrêté )大臣などの行政当局が発令します。
法律(Loi)の公布後に、政令(デクレ(Décret))や大臣命令(アレテ(Arrêté))で詳細手順や基準などが決められます。
法律等は番号で示されますが、改定状況は法律などの番号に次の文字も入れて識別すことがあります。
V 有効効力:現在の日付に適用される条文の場合
VT 期限付き効力:現在の日付において効力を有する条文であるが、その効力の終了が既に予定されており、特定の日付に新たな状態(修正または廃止)に移行する場合
VD 延期効力:後の日付に効力を発する条文の場合
Ab 廃止:官報に掲載された文章によって明示的に廃止された後、有効でなくなった場合
M 修正:条項(Art)の内容の修正、句読点、置換または削除の対象となり、「修正」バージョンが作成される場合
例
Code de l’environnement – art. L516-2 (VD)
Code de l’environnement – art. R543-165 (V)
Décret n°2003-727 du 1 août 2003 – art. 11 (Ab)
(2)制定手順
立法権は、議会にありますが、緊急事態時または議会の委託を請けて政府が法案を作成することができます。法案は議会の承認を要します。
各議会では、法案を受理した場合は、委員会に付託し審議し修正を行い、本会議で採択します。PFAS規制法は、第1読会は下院が先議議会で、政府法案を審議し、修正案を採択し、上院に送付します。上院は、下院の修正案を審議し、修正案を採択し下院に送戻します。下院と上院の修正案が一致している条項は確定となります。これを第3読会まで3回行います。
法案は、同一の文書の採択を目指して、議会の両院で相次いで審査されます。この原則から、文書の最終採択は、議論中の文書が両院間で行き来する、いわゆる「シャトル」の末に、下院と上院が同一の条件での投票をします。この合意は、自発的に、または合同委員会(CMP)の介入後に達成されます。しかし、二院は完全に平等ではなく、ほとんどの事項で、下院の優越を認めています。
このため、両院間で意見の不一致がある場合、政府は最終手段として下院に裁定させる可能性があります。
両院間の自発的な合意(シャトル)は、 各院が順番に、他院が採択した文書を審査し、必要に応じて修正または拒否することが求められます。
この確立された「シャトル」は、一方の院が他方の院が以前に採択した文書を修正なしで採択した時点で終了します。
シャトルの範囲は、上院と下院の間の意見の不一致がある条項に限定されます。したがって、両院によって同一の条件で採択された、いわゆる「適合」条項は、送信の文書になく、重要な相違点が注記されます。
最後の院の最終投票まで、プロジェクトと提案のタイトル、および内部の区分(タイトル、章、節など)はよく修正されます。
シャトルの範囲は、新しい規定にも開かれており、特に、両院によって適合として採択された条項は、他の文書の規定や、議会で現在審査中の他の文書との調整、憲法の遵守、および資料の誤りの訂正の理由のみで修正されることがあります。
二つの院の間の意見の不一致が続く場合、それぞれの院による第2読会後、または政府が加速手続きを開始することを決定した場合には第1回読会後に首相は合同委員会(CMP)で調停手続きを開始することがあります。
※文中の日本語訳は、機械翻訳による部分的な意訳です。解釈にあたっては原文をご確認ください
(一社)東京環境経営研究所 松浦 徹也 氏
引用
*1:REACH規則のPFAS制限案
https://echa.europa.eu/hot-topics/perfluoroalkyl-chemicals-pfas
*2:法案
https://www.assemblee-nationale.fr/dyn/16/textes/l16b2229_proposition-loi.pdf
*3:2023年1月のPFASに関する閣僚行動計画
https://www.ecologie.gouv.fr/sites/default/files/documents/22261_Plan-PFAS.pdf
*4:2024年1月にシリル・アイザック=シビルによって提出された報告書
https://www.actu-environnement.com/media/pdf/news-43441-rapport-cyrille-isaac-sibille-pfas-mission.pdf
*5:L.523-1~L.523.8
https://www.legifrance.gouv.fr/codes/section_lc/LEGITEXT000006074220/LEGISCTA000006129026/#LEGISCTA000006129026
*6:下院の第2読会で審議している法案
https://www.assemblee-nationale.fr/dyn/17/textes/l17b0161_proposition-loi.pdf
*7:環境法典
https://www.legifrance.gouv.fr/codes/texte_lc/LEGITEXT000006074220/2021-04-05/#LEGITEXT000006074220
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。