第87回_代替品を含む化学物質や材料を選択する際に考慮する事項について

規制される化学物質の数は増加しており、その数は今後も増加していくことが予想されます。このような状況が続く場合、企業にとって重要なテーマの一つとして、代替品を含む化学物質や材料の検討があげられます。従来の代替品検討は性能面が重視されがちで、類似構造をもつ化学物質を代替品に選定した結果、代替品も有害性が特定され従来品と同様に規制されるいわゆる「残念な代替品」となり、労力をかけて評価した代替品が数年後に再検討となる事例も少なからずあるものと推察します。
最近の例としては、PFOAやPFOSから始まった規制がその代替品となったPFHxSなどへ拡大したことがあげられます。これら有機フッ素化合物はさらに広範囲な規制が検討されていることもあり、取り扱いのある事業者は悩ましい状況にあると思われます。このように事業者にとって重要なテーマである代替品をはじめとする化学物質や材料の選定は、近年、「より安全な」に加えて、「持続可能性」についても考慮することが求められています。
本コラムでは、代替品の選定や化学物質や材料の持続可能性に関する経済協力開発機構(OECD)の2つの文書について取り上げてみます。

◆安全な化学物質の代替品の特定と選択に関する重要な考慮事項に関するガイダンス(*1)

OECDは2021年に代替品に関するガイダンスを公表しました。このガイダンスの中で、OECDは代替について「危険な物質をより安全な代替物に置き換えること」とし、「より安全な代替物」とは、人体および環境への危険性とばく露の可能性の両方の観点から、既存の選択肢よりも好ましい化学物質、製品、または技術を指すものとしています。また、代替プロセスを支援するためのより安全な代替品の最低基準と評価方法として、以下のフレームワークを提案しています。

A)対象範囲の設定と問題設定
B)利用可能な代替案の特定
C)有害性評価やばく露評価の確認し、安全な代替案を特定する
D)より広範な持続可能性要因を考慮する
E)機能、技術的実現可能性、経済的実現可能性を評価する

評価の範囲を決定し代替案を作成する際に利害関係者の意見を取り入れ、目標、原則、決定ルールを文書化し、明確にすることが重要とされています。また、対象物質と代替品の有害性やばく露評価を比較し、その結果を総合的に判断することが推奨されています。判断結果に関して利害関係者の関与のもと優先代替案について、意思決定することは、付加価値の高いプロセスとして提示されています。

◆化学品および材料の選択時に企業が考慮する持続可能性属性の状況について(*2)

OECDは前述の内容を受けて、2024年8月に持続可能性属性の状況に関する報告書を公表しました。この報告書は「D)のより広範な持続可能性要因を考慮する」について、企業がどのように対応しているかを調査したものとなります。公表された報告書によると調査結果として以下の事項をあげています。

・現状の化学物質規制が主にリスク主導型(人体/環境への危険および関連するばく露の懸念)であるため、化学物質の代替において持続可能性の属性があまり考慮されていない。
・最も考慮されている持続可能性属性は、廃棄物の発生と社会的影響についてである。
・企業は持続可能性評価として幅広い基準(業界基準、認証、エコラベルなど)を使用している。

また、回答が多かった測定アプローチとして「ライフサイクルアセスメント(LCA)」とサステナビリティの評価や、企業がESGを管理・改善するためのプラットフォームである「エコバティス(EcoVadis)」があげられています。このような結果を受けて報告書では、特定された主な課題として以下をあげています。

・化学物質規制として持続可能性属性を考慮するための規制上の推進要因がなく、代替関連の決定における持続可能性属性の使用が限定的となっている。
・持続可能性報告手段が多数あり、その調和と整合が複雑化している。
・化学物質や材料の選択に考慮される持続可能性の属性は、化学物質、製品、プロセス、施設の各レベルで測定されている。
・持続可能性属性の入力データを推定するための特定の方法とツールの価値について、意見が分かれている。

また、今後の注目される動向として以下をあげています。

・企業のリソースが限られるため多数の持続可能性属性の中から、自社にとって影響の大きい領域を絞り込み、化学物質や材料の選択目的において優先順位づけの基準とする。
・データ共有プラットフォームと認証の利用と利用可能性を充実させ、サプライチェーン全体のコミュニケーションを強化する。
・これから持続可能性を検討する企業は、過去10年間に開発されたアプローチを活用することで、効率的な取り組みが可能となる。

化学物質や材料の選択に関する持続可能性の取り組みは、数々の方法が提案されている段階で、これから法規制などを通じて整備されていく印象です。

◆最後に

化学物質および材料に関して、「より安全な選択」については、代替品におけるフレームワークが提案されており、入手できる有害性評価やばく露評価を比較することにより、最低限の判断は可能とされてます。また、現状の化学物質規制はこれらを考慮したリスク主導型が中心であるため、規制対策を進めることにより対応が可能になると考えられます。
一方で、「持続可能性」については、現状においては多数の評価指標が存在し、サプライチェーン内の企業の立ち位置によっても重視する内容が異なり、明確な方向性は定まっていない状況と思われます。また、課題として現状の化学物質規制は、持続可能性の要因をあまり考慮していないことがあげられています。
近年においてはEU電池規則におけるカーボンフットプリント要件や使用材料のリサイクル率の設定、最近では持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)の施行など、持続可能性要因に関連する法規制も整備していく方向が示されています。企業の関係者におかれましては、今後は化学物質や材料の選定に関して安全性に加えて持続可能性要因についても考慮していく方向性にあることに留意しておく必要があるように思います。

(一社)東京環境経営研究所 長野 知広 氏

(*1) 安全な化学物質の代替品の特定と選択に関する重要な考慮事項に関するガイダンス
https://www.oecd.org/en/publications/guidance-on-key-considerations-for-the-identification-and-selection-of-safer-chemical-alternatives_a1309425-en.html
(*2) 化学品および材料の選択時に企業が考慮する持続可能性属性の状況
https://www.oecd.org/en/publications/a-landscape-of-sustainability-attributes-considered-by-companies-during-chemical-and-material-selection_9475d147-en.html

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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