第102回_待ちに待ったRoHS指令附属書IIIに関する3つの改正案
RoHS指令附属書IIIに収載された合金中の鉛やガラス・セラミック中の鉛等は、電気電子製品に幅広く利用されています。これらの適用除外用途は2021年7月21日が有効期限となっていますが、産業界からの更新申請を受けて、正式な改正までは現状の適用除外用途が有効のままとなっています。これらの適用除外用途の見直しに関しては、2022年1月に適用除外用途の見直し調査(Pack22)の報告書が、その後2024年6月にはPack27が公表されていましたが、2025年1月に、やっと次の段階である改正案が公表されましたので、今回はその概要について紹介いたします。
1.公表された改正案
今回公表されたのは次の3つの改正案であり、Pack22で対象となっていた9種の適用除外用途に関する内容となっています。
・鉄鋼、アルミニウム、銅の合金成分としての鉛(6(a)、 6(a)-I、 6(b)、 6(b)-I、 6(b)-II、6(c))
・高融点はんだ中の鉛(7(a))
・電気電子部品のガラスまたはセラミックに含まれる鉛(7(c)-Iおよび7(c)-II)
全体的には、Pack22で提案されていたとおり、用途の細分化が図られており、また有効期限はPack22等の調査から時間が経過していることから、RoHS指令が定める5年間の最大有効期限よりも短い有効期限として短期間(2026年12月31日)または少し長い期間(2027年12月31日)が設定されています。
2.鉄鋼、アルミニウム、銅の合金成分としての鉛(6(a)、 6(a)-I、 6(b)、 6(b)-I、 6(b)-II、6(c))
【6(a)関連:鋼材中の鉛】
・6(a):機械加工用途の鋼材中および亜鉛めっき鋼中に合金元素として含まれる0.35wt%までの鉛
現状の用途表現のまま、現在認められている製品カテゴリー8、9、11について施行12カ月後に廃止されます。
・6(a)-I:機械加工用途の鋼材中の合金元素として含まれる0.35wt%までの鉛
・6(a)-II:ホットディップ溶融亜鉛めっき鋼中に合金成分として含まれる0.2wt%までの鉛
現状の6(a)-Iから、6(a)-I(機械加工用途の鋼材)と6(a)-II(ホットディップ溶融亜鉛めっき鋼材)に用途が分割されていますが、範囲としては従来の6(a)を踏襲しています。すべての製品カテゴリーで有効期限は2026年12月31日に設定されています。
【6(b)関連:アルミニウム合金中の鉛】
・6(b):アルミニウムの合金成分として含まれる0.4wt%までの鉛
現状の用途表現のまま、現在認められている製品カテゴリー8、9、11について施行12カ月後に廃止されます。
・6(b)-I:鉛含有アルミニウムスクラップのリサイクルに由来するアルミニウムに合金元素として含まれる0.4wt%までの鉛
・6(b)-II:機械加工用途のアルミニウムに合金元素として含まれる0.4wt%までの鉛
一部製品カテゴリー(カテゴリー9の産業用監視および制御機器、カテゴリー11)を除き施行12カ月後に廃止され、以降は新設の6(b)-IIIに移行されることになります。
・6(b)-III:鉛含有アルミニウムスクラップのリサイクルに由来するアルミニウム鋳造合金に合金元素として含まれる0.3wt%までの鉛
6(b)-Iおよび6(b)-IIが6(b)-IIIに移行され、鉛含有アルミニウムスクラップのリサイクルに由来するアルミニウム鋳造合金のみに用途が限定されるとともに、最大許容濃度は0.4wt%から0.3wt%に厳格化されています。
【6(c):銅合金中の鉛】
・6(c):銅合金中の4wt%までの鉛
6(c)については、用途の細分化が困難であることから、用途表現は現状のままで、有効期限は2026年12月31日に設定されています。
また、「鉄鋼、アルミニウム、銅の合金成分としての鉛」に共通して、新たに注記が追加されました。新たな注記はREACH規則附属書XVIIエントリー63を踏まえたものであり、通常または予見可能な使用条件で子供が口に入れる可能性がある一般消費者向け電気電子製品ではこれらの適用除外用途は鉛放出量等の所定の条件を満たさなければ使用できないことになります。
3.高融点はんだ中の鉛(7(a))
・7(a):高融点はんだ中の鉛(鉛系合金に含まれる85wt%以上の鉛)
・7(a)-I~7(a)-VIIを新設
7(a)は、用途表現は現状のまま、有効期限は2026年12月31日に設定され、2027年以降は、高融点はんだの用途を7(a)I~7(a)-VIIの7種の用途に分割する内容となっています。なお、今回の用途の分割は、次回以降の見直しに当たって分割された用途ごとに評価が実施できるようするための措置であり、従来の用途範囲を狭めるものではなく、従来と同一の範囲であることが意図されています。
4.電気電子部品のガラスまたはセラミックに含まれる鉛(7(c)-Iおよび7(c)-II)
・7(c)-I:コンデンサ中の誘電セラミック以外のガラスまたはセラミック中に鉛を含む電気電子部品(圧電素子等)およびガラスまたはセラミック複合材料中に鉛を含む電気電子部品
用途表現は現状のまま有効期限は2026年12月31日に設定されています。以降は新設の7(c)-Vおよび7(c)-VIに移行します。
・7(c)-II:7(c)-Iまたは7(c)-IVの対象を除き、定格電圧AC 125VまたはDC 250V以上用のコンデンサ中の誘電セラミック中の鉛
用途表現に「7(c)-Iおよび7(c)-IVを除く」旨を追加し、有効期限は2027年12月31日に設定されています。7(c)-IIについては、他の適用除外用途を除く旨の用途表現の変更はあるものの、従来と同一の範囲と言えます。
・7(c)-V:指定された機能を果たすガラスまたはガラス複合材料に鉛を含む電気電子部品
・7(c)-VI:指定された機能を果たすセラミックに鉛を含む電気電子部品(附属書III No.7(c)-II、7(c)-III、7(c)-IVおよび附属書IVの14の対象は除く)
これまでガラスとセラミックがまとめられていた7(c)-Iが、7(c)-V(ガラス)と7(c)-VI(セラミック)に分割されます。なお、今回の用途の分割は、次回以降の見直しに当たって分割された用途ごとに評価が実施できるようするための措置であり、従来の用途範囲を狭めるものではなく、従来と同一の範囲であることが意図されています。
5.最後に
このように多くの企業が注目しているRoHS指令附属書IIIの改正案がついに公表されました。EU域内の意見募集が2月10日まで、WTO通知に対する意見募集が3月7日まで実施され、WTO通知によれば、その後2025年3月に採択し、約3カ月後に官報公示する予定であることが示されています。用途の細分化等の変更は、Pack22等の調査報告書で提案されていた内容を概ね踏襲され、多くの適用除外用途が少なくとも2026年12月31日までは有効であることが示されました。
ただし、この短期間の有効期限(2026年12月31日)が気になるところです。RoHS指令では産業界から適用除外用途の更新申請を行う場合は、有効期限の18カ月前までに提出しなければならず、現状の予定どおりであれば、官報公示予定と更新申請の期限がほぼ同時期になることになります。この点も含め、意見募集によって意見が寄せられることになるものと想定されますので、今後の動きも引き続き注視する必要があります。
(一社)東京環境経営研究所 井上 晋一 氏
1)EC意見募集(鉄鋼、アルミニウム、銅の合金成分としての鉛)
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/14172-Hazardous-substances-exemption-for-lead-as-an-alloying-element-in-steel-aluminium-and-copper_en
2)EC意見募集(高融点はんだ中の鉛の適用除外用途)
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/14170-Hazardous-substances-exemption-for-lead-in-high-melting-temperature-type-solders_en
3)EC意見募集(電気電子部品のガラスまたはセラミックに含まれる鉛)
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/14171-Hazardous-substances-exemption-for-lead-in-glass-or-in-ceramic-of-electrical-and-electronic-components_en
4)WTO通知(鉄鋼、アルミニウム、銅の合金成分としての鉛)
https://eping.wto.org/en/Search/Index?documentSymbol=G%2FTBT%2FN%2FEU%2F1104&viewData=G%2FTBT%2FN%2FEU%2F1104
5)WTO通知(高融点はんだ中の鉛の適用除外用途)
https://eping.wto.org/en/Search/Index?documentSymbol=G%2FTBT%2FN%2FEU%2F1102&viewData=G%2FTBT%2FN%2FEU%2F1102
6)WTO通知(電気電子部品のガラスまたはセラミックに含まれる鉛)
https://eping.wto.org/en/Search/Index?documentSymbol=G%2FTBT%2FN%2FEU%2F1103&viewData=G%2FTBT%2FN%2FEU%2F1103
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。