第111回_Safety Gateの2024年通知概要

EUでは市場から危険な製品を排除することを目的に、欧州委員会を通じて加盟27カ国およびアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーの30カ国間(以下、EU/EEA)での迅速な情報交換を行うために「Safety Gate」1)が運用されており、加盟国の市場調査などの結果から適宜危険な製品の情報が通知され、共有・公表されています。
「Safety Gate」の通知状況は適宜公表されていますが、年次報告書としても取りまとめられており、4月に2024年版が公表2)されましたので、その概要についてご紹介します。

1.全体

4月に公表された2024年の年次報告書3)によると、2024年の通知件数は4,137件であり、2023年の3,412件から大きく増加するとともに、2022年に比べると倍増しており、この20年間で最も多い通知件数となっています。この点について年次報告書では、通知件数の増加は市場に危険な製品が増加しているわけではなく、加盟国当局による市場調査等の活動が強化されているためであると述べています。この通知の内訳を違反製品の「製品カテゴリー」、違反原因となった「リスク」、違反製品の「原産国」別に上位5位までを見てみます。

2.製品カテゴリー

製品カテゴリー別に見ると、2023年に続き「化粧品」が全体の1/3以上を占め最も多い結果となっています。これはREACH規則附属書XVIIの改正により、消費者向け化学品中の含有が制限される発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)物質が追加等されたことを受けて、2023年から加盟国当局による化粧品の監視が強化されたことに起因しています。なお、化粧品に次いで「玩具」、「電気電子製品」、「自動車」の順となっています。これら3つの製品カテゴリーの合計割合は2023年の35%から2024年は34%に若干減少しているものの、通知件数自体は例年と同程度で推移しています。

第1位:化粧品(36%)    ※2023年:第1位(32%)
第2位:玩具(15%)     ※2023年:第2位(13%)
第3位:電気電子製品(10%) ※2023年:第4位(10%)
第4位:自動車(9%)     ※2023年:第3位(12%)
第5位:化学品(6%)     ※2023年:-(その他に含まれていた)

3.リスク

次に違反原因となったリスク別に見ると、2023年に続き「化学物質」が全体の1/2を占め最も多く、次いで「けが」、「環境」の順となっています。化学物質の割合が多い要因としては、2023年からの「化粧品」の監視強化が挙げられ、その大半は含有が禁止されているリリアール(2-(4-tert-butylbenzyl)propionaldehyde、CAS番号80-54-6)の含有によるものです。化粧品以外にも宝飾品中のカドミウムやニッケル等も挙げられています。
また、2023年には第4位となっていた「環境」が第3位となりました。「環境」は2023年と2024年ともに全体の8%ですが、通知件数全体が2023年に比べ21%増加していますので、件数では増加傾向にあることが伺えます。
この中には電気電子機器中のはんだに含まれる鉛やケーブルに含まれる短鎖塩素化パラフィン(SCCP)類等、RoHS指令やPOPs規則の違反が含まれています。

第1位:化学物質(49%)※2023年:第1位(51%)
第2位:けが(14%)  ※2023年:第2位(21%)
第3位:環境(8%)   ※2023年:第4位(8%)
第4位:窒息(7%)   ※2023年:第3位(8%)
第5位:感電(7%)   ※2023年:第5位(6%)

4.原産国

原産国別に見ると、中国が1/3超を占め最も多く、ついでイタリア以外のEU/EEA、イタリアの順となっています。2023年と同様にイタリアの化粧品に関する通知が多く寄せられたことから、イタリアとその他EU/EEAが区別されていますが、イタリアを含めたEU/EEAの合計で見れば中国と同程度の割合となっています。なお、これも化粧品の監視強化に伴う結果であり、化粧品を除くと、中国が61%、EU/EEA全体が19%となり、中国製製品に対する通知が多く寄せられていることが示されています。

第1位:中国(40%)
第2位:イタリア以外のEU/EEA(24%)
第3位:イタリア(16%)
第4位:不明(8%)
第5位:その他の国(12%)

5.最後に

2024年は2023年に比べ、通知件数は大きく増加したものの、製品カテゴリーやリスク、原産国の構成については2023年と概ね同様の傾向が示されました。化粧品の影響はあるものの、REACH規則の制限等による化学物質リスク、RoHS指令やPOPs規則等による環境リスクも多く挙げられていることは、引き続き化学物質に関する当局の関心が高いことが伺えます。
このような調査結果を受けて、EUでは一般製品安全規則(GPSR)4)に基づき、特にオンライン販売される製品のチェックを強化していく意向が示されています。また、通知が多く寄せられている中国製品への対応として、中国当局との連携やオンライン販売製品に対する是正措置の共有、EUの製品安全要件に対する研修やeラーニングツールの提供等を継続して実施していく予定となっています。

(一社)東京環境経営研究所 井上  晋一 氏

1)EC Safety Gateトップページ
https://ec.europa.eu/safety-gate/#/screen/home
2)EC プレスリリース
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_1064
3)EC Safety Gate年次報告書2024年版
https://webgate.ec.europa.eu/safety/consumers/consumers_safety_gate/statisticsAndAnualReports/2024/Safety_Gate_2024_report_EN.pdf
4)一般製品安全規則
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/988/oj

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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