第114回_EU持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)売れ残り消費者製品廃棄情報開示に関する委任規則案

欧州委員会(European Committee:EC)(以後「委員会」)は、2025年6月12日に持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)の売れ残り消費者製品廃棄情報開示に関する委任規則案(以後「本規則案」)を公表し、7月10日までの意見募集を開始しました。委員会は寄せられた意見をフィードバックして2025年第3四半期に採決を予定しています1)。

1.規則案の内容

1.1 背景と目的

ESPR規則2) では第23条で「売れ残り消費者製品破棄防止の一般原則」、第24条で「売れ残り消費者製品の情報開示」、さらに第25条で「売れ残り消費者製品破棄禁止」を定めています。一方で、「EU持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)及びエネルギーラベル規則(ELFR規則)作業計画 2025-2030年」3) の中で、「委員会は(売れ残り消費者製品の)廃棄に関する情報開示の義務化の実施から得られる知見(将来の作業計画における禁止措置の根拠となるもの)がまだ得られていないことを理由に、今回の作業計画では禁止措置は検討しない」としていました(2025年月30日付本コラム4) 参照)。
このような背景から、今回はまず第24条の情報開示の詳細と形式を委任規則案として制定し、将来の破棄防止措置(第23条)と破棄禁止(第25条)の根拠となる情報収集を先行させることを目的としています。

1.2.規則案の内容

1)開示義務の対象者と適用時期

ESPR規則第24条1項により、対象企業は大企業が即時、中規模企業は2030年7月19日以降に対象となります。中小零細企業には適用されません(企業規模は委員会勧告2003/361/EC 5)の定義を適用)。開示対象は売れ残り消費者製品の廃棄であり、毎年前会計年度に廃棄された消費者製品の数および重量、廃棄の理由、廃棄物処理業務を受けるために引き渡された廃棄製品の割合、製品の破壊を防ぐために取られた措置に関する情報を開示する必要があります。但し、初年度に関しては本規則案の適用日後の最初の会計年度以降に廃棄される製品に適用されます。

2)開示内容

内容としては、

・Section 1:「組織名」と「開示の期間」を記入します。
・Section 2:「製品情報(CNコードを含む)」「製品を廃棄する理由」「適用される廃棄物処理業務に関する情報」記入します。「適用される廃棄物処理業務に関する情報」には、「リユーズ」「リサイクル」「その他(エネルギー回収等)」「廃棄」「不明」などの割合を記入します。
・Section 3:直前の会計年度に実施されたものを含む実施済の廃棄予防措置と計画中の予防措置を記入します。
予防措置は具体的に、またその措置がどのように目的を達成できるのかまで記入する必要があります。

3)製品カテゴリーの明確化

廃棄された売れ残り消費者製品の情報開示にあたっては、CNコードを付して製品カテゴリーを示す必要があります(EU理事会規則(EEC)第2658/87号附属書I)。多くの場合、本規則案の目的においては、CNコードの最初の2桁を開示するだけで、該当する消費者向け製品カテゴリーを特定するのに十分です。
しかし、附属書Ⅱに記載されている製品では、製品カテゴリーを正確に特定するために、より詳細な報告が必要になりますので、CNコードを4桁レベルで開示する必要があります。
附属書Ⅱに記載されている製品カテゴリーは以下の製品です。参考に、「作業計画2025-2030年」で示された今後の取扱予定を右欄に追記しました。注目すべきは、「作業計画2025-2030年」で影響が少なく優先順位が低いので対象外とされている「洗剤」に関しても情報開示の対象としている点です。これは、3年後の「作業計画2025-2030年」見直しに向けた調査の位置づけと考えられます。また、「作業計画2025-2030年」では優先対象製品には含まれていない製品もあり、今後の対象候補としての事前調査の位置づけと思われます。

主な製品カテゴリー

4)開示の様式

開示及び内容は、附属書Ⅰに定める様式に従って提出しなければなりません。
但し、会計指令(2013/34/EU)6)の対象である大企業と自主的に経営報告書または類似の報告書を公表する企業が、その持続可能性報告の中にこの様式で廃棄された売れ残り消費者製品に関する情報を含める場合には、提出ではなく、その報告書へのリンクを自社のウェブサイトに掲載することでもできます。そのリンクには、廃棄された売れ残り消費者製品に関する情報を含むことを明確に記載する必要があります。
但し、その場合には廃棄された売れ残り消費者製品に関する開示情報がESPR規則及び本規則案に定める要件を満たすかどうかについて、1人以上の法定監査人、監査法人または独立保証サービス提供者の意見を求めなければならず、その意見書を報告書に添付する必要があります。

2.規則案に対するパブリックコメント

2025年7月10日に締め切られたコメントを纏めると次のようになります。
1)賛成意見(環境・消費者団体、一般市民)
・廃棄禁止の強化を支持:特に衣類・履物以外にも対象を広げるべきという声が多い。
・透明性の向上を歓迎:企業が廃棄する製品の数量や理由を開示することは、持続可能性の向上に貢献すると評価している。
・デジタル製品パスポート(DPP)との連携を期待:製品のライフサイクル情報を一元管理する仕組みとして有効との評価がある。
2)懸念・反対意見(業界団体・企業)
・事務負担の増加を懸念:中小企業にとって情報開示義務は過度な負担になる可能性がある。
・競争上の不利益:廃棄理由の開示が企業戦略や在庫管理の機密情報に触れる可能性がある。
・例外規定の明確化を要求:衛生用品や医療関連製品など、廃棄が不可避な製品群への配慮を求める声がある。
3)製品カテゴリーに関する意見
生理用品など衛生製品の扱いに関する議論も一部で見られ、以下のような意見がありました。
・衛生上の理由で再利用や寄付が難しい製品は、廃棄禁止の対象外とすべきである。
・環境負荷の高い使い捨て製品こそ、情報開示の対象にすべきである。

3.まとめ

冒頭の1.1.背景と目的で説明のとおり、本規則案はESPR規則第24条「売れ残り消費者製品の情報開示」に関する委任規則案であり、これにより今後の第25条「売れ残り消費者製品破棄禁止」のための委任規則を作成する根拠情報を収集することが目的です。一方で、本規則案の対象製品は広範囲にわたり、作業計画では一旦対象外とされていた洗剤等や、新規に玩具や生理用品などの衛生用品なども対象となっています。
対象製品に関しては、パブリックコメントにあるように対象を広げることに賛成の意見がある中で、範囲があまりにも広いために事務負担の増加への懸念、衛生用品や医療関連製品など廃棄が不可避な製品群への配慮などを求める声なども寄せられています。委員会では、今回のパブリックコメントを解析して規則案の見直しを行い、2025年第3四半期に委員会採択を目指しています。

(一社)東京環境経営研究所 杉浦  順 氏

参考文献:
1) 意見募集“ESPR規則 – 売れ残り消費者製品に関する情報の開示委任規則案”
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/14590-Sustainable-products-disclosure-of-information-on-unsold-consumer-products_en
2) ESPR規則
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32024R1781&qid=1719580391746
3) ESPR及びELFR作業計画2025-2030
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/13682-New-product-priorities-for-Ecodesign-for-Sustainable-Products_en
4) TKKコラム「ESPR及びELFR作業計画2025-2030」
https://johokiko.co.jp/chemmaga/tkk0110/tkk/
5) 委員会勧告2003/361/EC
https://eur-lex.europa.eu/eli/reco/2003/361/oj/eng
6) 会計指令(2013/34/EU)
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2013/34/2024-05-28/eng

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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