第117回_EU・BPRにおける活性物質、殺生物性製品および処理された成形品
EUでは殺虫剤、殺菌剤、殺鼠剤等、有害な生物を駆除することを目的とした製品(殺生物性製品)のEU域内への上市に対する法規制として、殺生物性製品規則(Regulation (EU) No.528/2012、Biocidal Products Regulation, 以下BPR)1) が制定、施行されています。
これは2012年5月に公布され、全17章97条7附属書より構成されています。その趣旨は、殺生物性製品は人や動物の健康や天然あるいは製造された物質に有害な影響を与える生物の防除には必要なものであるが、その固有な特性とそれに関連した使用方法によっては人、動物、環境にリスクをもたらす可能性があり、それ故にそれらの上市には一定の規制を必要とする(BPR前文)ということです。
BPRに先立ち1998年5月に発効した殺生物性製品指令(Directive 98/8/EC)2) がありましたが、BPRではその対象範囲を大きく拡大し、一定の移行措置を設けて殺生物性製品指令は2013年8月末を以って廃止され、翌9月よりBPRがこれに置き替わる形で施行されました。
BPRの適用範囲は、第2条第1項に記されている様に、殺生物性製品および「処理された成形品」です。
この「処理された成形品」はBPRの特徴の1つで、殺生物性製品指令では無かったものであり、BPRにおいて法的に位置づけられ、それに使用できる活性物質等、様々な規定がなされている他、欧州委員会によるFAQ(CA-Sept13-Doc.5.1e)が公表されています3)。
こうした活性物質、殺生物性製品、および処理された成形品はBPRにおいて最も基本的な概念であり、相互に深い関係がありますが、複雑で判り難いところもあります。またこれらは欧州化学品庁(European Chemicals Agency、以下ECHA)により各々リスト化され、適宜更新されてきており、最近その最新版が公表されました。そこで本稿ではこれらに焦点を当て、以下、ポイントとなる事項を説明します。
1.活性物質
まず活性物質(active substance)とは、有害な生物に対して作用、あるいは防除する物質または微生物であると定義されています(第3条第1項)。活性物質は殺生物性製品の原材料ともなりますが、BPRでは殺生物性製品の上市あるいは使用には認可(authrization)が必要であるとしています。(第17条第1項)そして認可を得るためには使用する活性物質に対し、それが附属書Ⅰ収載のもの、または承認(approval)されたものであることを要求しています(第19条第1項(a))。
ここで附属書Ⅰとは、殺生物性製品の認可の1つのパターンである簡易認可(後記)において認められる活性物質のリストであり、現時点では9カテゴリー計31物質が指定されています。
これ以外の活性物質を使用するには申請を経て承認を取得することが必要ですが、その際には使用しようとする殺生物性製品の製品タイプ(後記)を前提とした承認となることが特徴です。
具体的な活性物質が承認されるための基準や手続きについては、第4~16条に規定されています。また第95条では、承認された活性物質はECHAによりリスト化し、定期的に更新することが要求されています。これは「95条リスト」と呼ばれ、活性物質名、CAS RN、使用する殺生物製品の製品タイプ、活性物質および使用する殺生物製品タイプのサプライヤ、リスト収載年月日等が示されており、現時点では2025年7月17日更新で計5,347件の活性物質が収載されています4)。
2.殺生物性製品
殺生物性製品(bioccidal product)とは、以下のいずれかに該当するものとしています(第3条第1項):
(i)1つ以上の活性物質から構成、含有、または発生させるもので、使用者に提供される際の性状が物質あるいは混合物であって、単なる物理的あるいは機械的な作用以外の何らかの手段によって、有害な生物を破壊、抑止、無害化、活動の阻害、またはその他の制御効果を与えることを意図したもの
(ii)それ自体は(i)に当てはまらない物質や混合物から生成される物質あるいは混合物であって、単なる物理的あるいは機械的な作用以外の何らかの手段によって、有害な生物を破壊、抑止、無害化、活動の阻害、またはその他の制御効果を与えることを意図したもの
(iii)主たる機能として殺生物性を有する処理された成形品
ここで注意すべき事項は、以下の通りです:
(i)における「…または発生させるもの」の意味するところは、製品の使用時に殺生物効果を有する活性物質を発生させることのできるもの、例えばその前駆体等は、活性物質そのものでなくても殺生物製品に該当することになります。
(ii)における、「(i)に当てはまらない物質や混合物から生成される物質あるいは混合物」とは、それ自身は(i)のような活性物質の前駆体等で供給される様なものではなくとも、殺生物効果を有する物質や混合物ということで、例えばオゾン発生器から生成されたオゾンがこれに該当します。
(iii)における「主たる機能として殺生物性を有する」とは、BPR中にはこれ以上の詳細な定義はなされていませんが、その処理された成形品の備える他の機能と比較して、最も高位、重要、あるいは高価値の機能が殺生物性であること、と説明されています3)。
また第2条第1項においてBPRで扱う殺生物性製品を規定していますが、これらは4つの主要グループに分類される計22の製品タイプとして附属書Ⅴに示されています。
前記の様に殺生物性製品は上市に際し認可が必要ですが、それには以下の3つのパターンがあります。それらの詳細な手続きは第17~57条の規定に拠ります:
加盟国認可…EU加盟国毎に申請し、認可を得るものだが、取得された認可は相互認定手続きにより、他加盟国管轄当局に申請することにより、その国の認可にも拡張が可能。
EU一括認可…EU全域内での認可を得るもので、BPRにて初めて導入された認可方式。新規の活性物質を含む殺生物性製品は全てこの対象とできるが、その他製品タイプにより対象外となるものがある。
簡易認可…人や動物への健康や環境に対する影響が比較的少ない殺生物性製品に適用可能なもので、含まれる活性物質は全て附属書Ⅰ収載のものであること等の条件を満たすもの。認可は申請する加盟国の管轄当局に申請し、取得した認可は相互認定を必要とせずに全加盟国で上市することが可能。
認可された殺生物製品はリスト化されて公表されており、殺生物製品名称、製品タイプ、使用されている活性物質名、認可された加盟国、認可のパターン等が掲載されており、2025年8月6日現在で9,176製品が収載されています5)。
3.処理された成形品
処理された成形品(treated article)とは、1つ以上の殺生物性製品で処理された、または意図的に組み込まれた物質、混合物、または成形品であると定義されています(第3条第1項)。
したがってBPRにおける「処理された成形品」とは、REACH規則第3条の3で定義される「成形品」であるとは限らないことに注意が必要です6)。
ここで「処理された」とは物質、混合物、または成形品、あるいは該当する場合はそれらの構成部品に殺生物性製品が塗布されていることを、「意図的に組み込まれた」とは殺生物性製品が混合物または成形品中に残留し、したがってそれらの一部となるような方法(通常は処理対象物品の製造中)で使用されていることを各々意味するとしています3)。
また前節で述べた様に、処理された成形品には殺生物性製品に該当する場合があります。殺生物性製品か、処理された成形品かについてはケースバイケースで判断せねばならないこともあり、前記FAQには具体的な決定手順についてのデシジョンツリーが掲載されています3)。処理された成形品の上市については、それが殺生物性製品に該当する場合には前節に述べた規定に従うことになりますが、そうでない処理された成形品については、第58条の規定に従います。
これによれば処理された成形品を上市するには、それに含まれる全ての活性物質は前節で述べた95条リストあるいは附属書Ⅰ収載のものであり、かつそこに記載された条件や制限に従ったものでなければなりません。そして処理された成形品にはそれが処理された成形品であることや、含まれる活性物質の名称等、所定の情報を記載したラベル表示が求められ、消費者からの要求があった場合には、45日以内に処理された成形品に施された殺生物性処理に関する情報を無償で提供せねばなりません。また第94条では、それまでの殺生物性製品指令では処理された成形品の上市については特に規定が無かったので、BPRの施行に際して必要な移行措置を定めています。
ECHAではその移行措置を進める中での成形品の処理に使用される各活性物質の承認に関する状況をリスト化して公表しています。これは94条リストと呼ばれ、活性物質名、CAS RN、製品タイプ、承認の進行状況等が示されています。
これは必要に応じて更新されていますが、最新のものは2025年6月6日付更新版が公表されています。7), 8)
おわりに
以上、BPRの基礎的概念である活性物質、殺生物性製品および処理された成形品について説明しました。
なお前記した様に、殺生物性製品をEUに上市するには、活性物質と殺生物性製品タイプとを組み合わせた認可が必要で、95条リストに収載された者が認可取得者となります。ここで認可取得者については、第3条第1項にEU域内に設立された者、とされており、したがって日本等のEU域外の国の事業者の場合は、EU域内の代理人によって認可申請することとなります。
(一社)東京環境経営研究所 福井 徹 氏
参考URL
1)consolidated version
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02012R0528-20240611&qid=1754469777284
2)https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/1998/8/oj
3)https://ust.is/library/Skrar/Atvinnulif/Efni/Saefiefni/CA-Sept13-Doc%205.1.e%20(Rev1)%20-%20treated%20articles%20guidance.pdf
4)https://echa.europa.eu/information-on-chemicals/active-substance-suppliers
5)https://echa.europa.eu/information-on-chemicals/biocidal-products
6)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02006R1907-20250623&qid=1754727875813
7)https://echa.europa.eu/view-article/-/journal_content/title/echa-weekly-11-june-2025
8)https://echa.europa.eu/documents/10162/5604808/treated_art94_data_en.pdf/c0427245-f912-84aa-978a-817ff6bc95db
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