第120回_EU持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)売れ残り消費者製品廃棄例外規定に関する委任規則案
欧州委員会(European Committee:EC)(以後「委員会」)は、2025年6月30日に持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)の売れ残り消費者製品廃棄例外規定に関する委任規則案(以後「規則案」)を公表し、8月11日までの意見募集を開始しました。委員会は寄せられた意見をフィードバックして2025年第3四半期に採決を予定しています1) 。
1.規則案の内容
1.1.背景と目的
ESPR規則2) では第23条で「売れ残り消費者製品破棄防止の一般原則」、第24条で「売れ残り消費者製品の情報開示」、さらに第25条で「売れ残り消費者製品破棄禁止」を定めています。ただし、すべての製品に対して一律に破棄を禁止することは、企業活動に過度な負担を与える可能性があるため、ESPR規則第25条第5項に基づき、今回例外規定(デリゲート規則)案を提案し意見募集を始めました。この例外規定は。前回コラム「EU/ESPR規則売れ残り消費者製品廃棄情報開示に関する委任規則案」(2025年7月28日付本コラム3) 参照)で紹介したパブリックコメントの中にあった「例外規定の明確化」要求に応える形にもなっています。
1.2.規則案の内容
1)廃棄の前提条件
ESPR規則附属書VIIに掲載されている売れ残り消費者製品(現在はアパレル及び服飾アクセサリと履物)は、次の11の理由に該当することを証明する書類を提示し、その書類を廃棄後10年間保管して当局の要請により提供することを条件に廃棄が可能となります。
2)廃棄の理由と必要書類
廃棄が認められる理由とそれを証明する必要書類を以下に示します(第2条、第3条)。
(a) 健康・衛生・安全上の理由:一般製品安全規則(EU)2023/988(General Product Safety Regulation: GPSR)4)の定義に基づく危険な製品に該当し、廃棄が適切かつ合理的な是正措置の場合
必要書類:以下のいずれかひとつ以上:
(i) GPSR第5条で言及される一般的安全要求事項への適合を損なう健康上又は安全上の懸念を記述した書類(同規則の第6条、第7条及び第8条に従った製品の安全性の評価を含む)
(ii) 製品(当該バッチの一部)に非適合化学物質が含まれていることを示す試験報告書であって、適用されるEU法又は国内法を記載したもの
(b) 遵法:製品が、EU法又は国内法に適合していないため、使用目的に適さないものであり、かつ、(a) に記載された理由以外の理由により、法律により廃棄が義務付けられているか、又は適切かつ妥当な是正措置として廃棄が求められる場合
必要書類:不遵守の種類と重大性、及び適用される EU法又は国内法を示す自己評価書
(c) 知的財産権の侵害:製品が知的財産権を侵害していることが、最終的な司法判断、権利者からの通知、権限を有する当局又は権利者を代理して行動する権限を有する者からの通知、又は経済事業者が実施した内部調査により判明し、かつ当該経済事業者が侵害を適切に立証し、破壊が適切な措置であることを証明できる場合
必要書類:最終的な司法判断もしくは通知、又は侵害を立証する内部調査の文書
(d) 知的財産権の有効期限切れ:当該製品が、有効かつ強制可能なライセンス又は同様の契約上の義務に準拠しており、当該ライセンス又は契約に基づき、指定された期間経過後に当該製品の販売、配布又はその他の形態の譲渡を行うことは、知的財産権の侵害となり、かつ、当該指定された期間が経過している場合
必要書類:権利者との間で締結され、かつ特定期間後の製品の頒布又はその他の形態の移転の制限を明示的に規定するライセンス、契約又は合意書
(e) 知的財産権の除去不能:当該製品が、知的財産権の遵守を確保するために必要不可欠なラベル、ロゴ、又は識別可能な製品デザインの特徴を、技術的に除去又は永久にアクセス不能にすることが不可能なため、再利用又は再製造の準備に適していない場合。又は、一般的に認められた社会的規範や価値観に照らして不適切又は矛盾すると判断されるラベル、ロゴ、又は識別可能な製品デザインの特徴を、技術的に除去又は永久にアクセス不能にするのが不可能なため、再利用又は再製造の準備に適していない場合
必要書類:再利用又は再製造のために製品を整備する技術的な選択肢が評価され、実行不可能であることが判明したことを証明する検査報告書又は裏付け文書。これには、知的財産権の遵守のために必要な、又は一般的に認識されている社会規範及び感性に照らして不適切であると考えられるラベル、ロゴ又は認識可能な特徴を除去し又は恒久的にアクセス不能にすることが技術的に実行不可能であることを立証する視覚的証拠、技術的分析又は専門家の意見が適宜含まれること。
(f) 損傷や汚染による再利用不可:製品が、消費者による使用に合理的に不適格とみなされる場合であり、その原因が消費者に起因するもの、又は経済事業者ないしはサプライチェーン、輸送、小売、保管、修理などに関与する他の関係者による製品の取り扱い中に意図せず発生した損傷、劣化、又は汚染を含む場合であり、その修理が技術的に不可能又は経済的に合理的な費用で実施できない場合
必要書類:以下のいずれかの書類
(i)、特定の種類の損傷に対する標準化された修復計画、技術的又は費用対効果の観点から修理、再生又は再製造が不可能な特定のケースの説明を含む品質評価手順の説明書
(ii) 危険な品目又はそのバッチについて特定された損傷の種類及び程度、並びに技術的又は費用効果的な考慮による是正措置の実行不可能性を文書化した、技術的試験、該当する実際的評価の結果、又はその他の専門家の判断の形式による検査記録
(g) 目的に適合しない製品:製品が、設計又は製造上の欠陥により、その目的には適さない状態であり、修理、再生、又は再製造を含む是正措置が技術的に実施不可能であり、その目的には使用できない場合
必要書類:前項(f)と同じ書類
(h) 化学安全等に関する自主基準の不適合:製品が、化学物質の安全性に係る自主的な既定の企業方針又は第三者基準に準拠しておらず、廃棄が適切な是正措置であり、その措置は妥当かつ適切なものと判断される場合
必要書類:製品が、経済事業者が公的に遵守している、確立され適用可能な企業方針、手順、又は第三者基準への非準拠を示す書類
(i) 寄付の受け入れ拒否:製品が、少なくとも2つの適切な社会的経済団体に直接、又は経済事業者のウェブサイトのアクセスしやすいページで少なくとも8週間にわたって寄付先を募集し、どの社会的経済団体もそれを受け入れなかった場合
必要書類:寄付先を募集したことを証明する書類
(j) 寄付品の受領者不在:社会的経済団体が製品を寄付として受け取ったが、販売、寄付、その他の 形態での譲渡により、その製品の引取先が見つからなかった場合
必要書類:当該製品が寄付として受領されたものであり、当該製品の受領者が見つからなかったことを証明する書類
(k) 再利用後の販売不可:廃棄物処理業者によって再利用のために整備された後、市場で入手できるようになったが、販売、寄付、その他の形態による譲渡先が見つからなかった場合
必要書類:製品が廃棄物処理事業者から受領されたこと、及び当該製品の引取先が見つからなかったことを証明する書類
3)説明文書の交付(第4条)
経済事業者が、上記理由で売れ残り消費者製品を廃棄物処理業者に引き渡す場合には、適用除外に関する説明文書を提供する必要があります。
4)発効と適用日(第5条)
この委任規則は、官報に掲載された翌日から20日目に発効し、2026年7月19日より適用されます。
2.規則案に対するパブリックコメント
2025年8月11日に締め切られたコメントを纏めると次のようになります。
1)賛成意見(業界団体・アパレルを中心とする企業、一部加盟国当局)(全体の約60%)
・賛成意見は概ね規則案の提示している「廃棄が認められる理由」が妥当であるとの意見であるが、規定の柔軟性を求めている。
・一部には、高品質リサイクル(廃棄衣料を原料として新しい衣料用繊維に再生)のための廃棄を「廃棄が認められる理由」に追加することを提案している。
・過度な規制は在庫管理コストを増大するおそれがあるので、特に中小企業への配慮を求めている。
2)懸念・反対意見(NGO・市民団体・環境団体・大学)(全体の40%)
・企業が「ビジネス慣行の維持」を抜け穴として使うことへの懸念がある。
・適用除外使用時の報告義務、第三者監査、公開データベースの整備を求める声が強くある。
・廃棄は最終手段とし、修理・リサイクル・寄付を義務化すべき。
・例外が広がれば、ESPRの循環経済目標が損なわれる懸念がある。
3)共通の論点
・「技術的に不可能」や「社会的に不適切」の基準が明確ではない。
・報告・監視コストと中小企業の負担増とのバランスを考える必要がある。
3.まとめ
現時点で適用製品はアパレル及び服飾アクセサリと履物ですが、規則案は今後追加される製品群全てを見据えて作られています。広い製品群をカバーするために、例外規定の条件はかなり広範囲に設定されています。したがって、パブリックコメントでも指摘されていますが、一部に基準が明確ではない表現も含まれており、今後の検討課題として残されています。委員会では、今回のパブリックコメントを解析して規則案の見直しを行い、2025年第3四半期に委員会採択を目指しています。
(一社)東京環境経営研究所 杉浦 順 氏
参考文献:
1)意見募集“持続可能な製品 – 売れ残った衣類および靴の廃棄禁止措置の例外措置”
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/14591-Sustainable-products-exemptions-to-prohibiting-the-destruction-of-unsold-apparel-and-footwear_en
2)ESPR規則
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32024R1781&qid=1719580391746
3)TKKコラム「EU/ESPR規則売れ残り消費者製品廃棄情報開示に関する委任規則案」
https://johokiko.co.jp/chemmaga/tkk0114/tkk/
4)GPSR規則
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/988/oj/eng
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。