第19回_SNURについて、電気電子機器製造企業においては、特にリスクのある恐れがある化学物質を使わない限り、通知することはないと考えてよいか?
SNUR(重要新規利用規則: Significant New Use Rule)適用の判断基準は「リスクの懸念」の有無ですが、リスクの評価は(事業者ではなく)行政当局であるEPA(米国環境保護庁:U.S.Environmental Protection Agency)が行います。従い、SNURの対象となるか否か(リスクの有無)は、事業者側で判断せず、事前確認が必要です。
EPAは米国内で商業目的のために製造、輸入、加工される化学物質のリストであるTSCAインベントリー 1) の最新版を公表しています。貴社製品に使用する化学物質が、SNUR対象となっていないか(規制フラッグが無いか)等をTSCAインベントリーで確認し、規制対象の場合は当局へのSNUN(重要新規利用届: Significant New Use Notice)2) 提出等の必要な措置を講じる必要があります。化学物質毎のSNURにおける用途制限等の規制措置は、e-CFRのTitle40 ChapterⅠSubchapterR Part721のSubpart E 3)を参照してください。
TSCAインベントリーには、事業者側の希望で非公開となっている情報もあります(物質名を総称名で記載している等)。非公開情報は、善意の意図での問い合わせの場合、EPAが情報を提示してくれますので、問い合わせのうえ確認してください。なお、TSCAインベントリーに未登録の新規化学物質は、PMN(製造前届出:Pre-Manufacture Notice)の届出が必要となります。
前述のとおりSNUR適用の判断基準は「リスクの懸念」の有無ですが、有害性が不明であり、物質の構造から見てリスクの懸念が拭えない場合は、EPAの判断により「リスク懸念あり」として扱われることがあります。SNURを適用する要件として、TSCA第5条(§2604)4) subsection(a)のparagraph (2)で、以下の4つの全てを考慮するとされています。
(A)化学物質の製造、加工の計画量
(B)使用が人や環境へのばく露の状況、状態をどの程度変化させるか
(C)使用が人や環境へのばく露の規模や期間をどの程度増加させるか
(D)化学物質の製造、加工、商業的流通、廃棄で合理的に予想される方法
またparagraph (5)では、paragraph (2)に基づく規定で、化学物質への合理的なばく露の可能性を正当化できる場合、EPAは成形品の一部としての化学物質の加工、輸入について届出を要求することができる、としています。詳細の手順は連邦州規則集(CFR:Code of Federal Regulations)のTitle40/ChapterⅠ/Subchapter R/Part721 5) に記載されていますので、参照ください。
なお、米国での成形品に適用される規制としてSNURの他に、PCB、水銀、PBT(難分解性、高蓄積性、毒性)などの加工、流通を、TSCA第6条(§2605)6) で禁止、制約しています。この規則では指定された化学物質だけでなく、それらの物質を含有する成形品も規制の対象となりますので、これらの確認も必要となります。
【参考資料】
1) TSCAインベントリー:https://www.epa.gov/tsca-inventory/how-access-tsca-inventory
2)SNUNの提出について(EPAのHP):
https://www.epa.gov/reviewing-new-chemicals-under-toxic-substances-control-act-tsca/filing-significant-new-use-notice
3) Part721 Subpart E:https://www.ecfr.gov/current/title-40/chapter-I/subchapter-R/part-721/subpart-E
4) §2604:https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title15-section2604&num=0&edition=prelim
5) Part721:https://www.ecfr.gov/current/title-40/chapter-I/subchapter-R/part-721?toc=1
6) §2605:https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title15-section2605&num=0&edition=prelim
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。