第124回_EU電池規則は基本的な安全性を満たしていない電池が接続される危険性や安全面の懸念は考慮されている?

EU電池規則((EU)/2023/1542)1) は、環境面での規制を主目的に作られています。このため基本的な安全性については、電池の種類によって当規則で具体的に規定されているものと、具体的規定が無く他の法令や規格で規定されているものがあります。例えば、定置型蓄電池システム(Stationary battery energy storage systems)は、電池の火災や爆発などのリスクから安全を担保するための試験・評価について直接、条文や附属書で規定されています(第12条、附属書Ⅴで規定)。充電式産業用電池(容量2kWh超)、LMT用電池、電気自動車用電池については、バッテリーパスポートで電池の安全対策や事故などの情報を提供する義務が規定されています(第77条、第78条、附属書ⅩⅢで規定)。その他の電池の安全性については当規則で具体的規定は無く、他の法令(2014/35/EU:低電圧指令2) 、2014/30/EU:電磁両立性指令(EMC指令)3) など)に準拠することや、CEマーキング取得のための技術文書や適合性評価手順の中で関連規格(EN 62133:ポータブル電池の安全性規格 など)を参照することなどにより安全性を確保する仕組みとなっています。したがって、全体としては基本的な安全性を満たしていない電池が使用される危険性を最小化し、安全面の懸念を考慮しています。これらの概要について、以下に解説します。

定置型蓄電池システムの安全性は電池規則の第12条で規定しており、市場に投入される定置型蓄電池システムは通常の運用や使用において安全でなければならないとされています。また、他の法令で安全規定が無かったため、当規則で具体的な規定が追加されています。適合評価の技術文書には、附属書Ⅴに示された安全関連のパラメータの検証結果や、その他の危険性に対する評価を示して、安全性を立証する必要があります。附属書Ⅴのパラメータには、熱衝撃、外部/内部短絡保護、過充電/過放電保護、熱伝播保護、外力による機械的損傷、火災爆発、ガス放出などがあります。
また、容量2kWh超の充電式産業用電池、LMT用電池、電気自動車用電池については、電池固有の情報をバッテリーパスポートとして電子的に記録して開示する義務があります。第77条でバッテリーパスポートの内容についての要件を、第78条では技術設計と運用に関する要件を規定しています。バッテリーパスポートに記録しなければならない情報は、アクセス可能な対象者毎にグループに分けて附属書XIIIに規定されています。この中に、安全対策に関する情報や事故などの負の事象に関する情報も含まれています。この規定は、安全性・信頼性が懸念されるリユース品についても同様に適用されます。
第10章(第79条から第84条)では、EUの市場監視とセーフガード手続きについて規定されています。電池が人の健康や安全、財産、環境にリスクをもたらす十分な理由がある場合、市場監視当局は当該電池に関する評価を実施し、必要に応じ事業者に対して当該電池を回収するための適切な是正処置を講じるよう要求しなければならない、と定められています。
上記以外でも、電池規則の中で「安全性」の確保義務は複数の条文で謳われていますが、「安全性」確保の具体的な記載が無いものも多く、他の法令や規格などを参照する必要があります。

【参考資料】

1) EU電池規則 (EU)/2023/1542
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/1542/oj/eng
2) EU低電圧指令 2014/35/EU
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2014/35/oj
3) EU EMC指令 2014/30/EU
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2014/30/oj/eng

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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