第1回_消費者保護強化の潮流:GPSDからGPSRへ

一般製品安全指令((EC)2001/95 General Product Safety Directive: GPSD)が、2023年5月23日に一般製品安全規則((EU)2023/988 General Product Safety Regulation: :GPSR)(*1)に置き換える告示がされました。世界的に消費者保護の動きが強まる中、EUでは「新しい消費者アジェンダ」を立ち上げ、消費者がグリーン(環境)およびデジタル移行において主導的な役割を果たせるよう支援しています。
EUでは、国境を越えたネット販売の監視の強化、消費者に不利益な選択を強いる不適切なサイト設計(ダークパターン)に対する「Sweeps(一斉点検)」という手法で厳格にチェックをしています。
さらに、消費者の利便性と持続可能性を追求するため、修理する権利として製品の最終出荷から最低7年間は修理用予備部品を提供する義務や「農場から食卓まで戦略」の一環としてCEマーキングの対象拡大し、公共の利益や健康・安全を保護する枠組みが、従来の工業製品から食の周辺領域まで広がっています。GPSRの要点を整理します。

1. 前文に見るGPSRの本質

1.1 一般製品安全規則(GPSR)の改定ポイント

2024年12月13日から一般製品安全指令(GPSD)に代わり「一般製品安全規則(GPSR)」が施行され大きな変化がおきました。

(i) 平準化の推進:加盟国による国内法への置き換え(トランスポジション)の差異を排除し、EU域内全体で均一かつ高度な消費者保護基準を適用するためです。
(ii) 他の法体系との整合性:すでに規則として運用されている「市場監視規則((EU) 2019/1020)」などと足並みを揃え、法的な一貫性を確保する狙いがあります。
(iii) 義務の強化:指令から規則(Regulation)に格上げされることで、加盟国に直接適用される強力な法的枠組みとなります。
(iv) 企業の対応:対象製品について「内部リスク分析」の実施や、安全性を証明するための「技術資料」の作成・維持が新たに義務付けられ、企業の責任がより明確化されました。

1.2 GPSRの狙い

GPSRの前文(第19文節)では、世界保健機関(WHO)の定義を引用しています。ここでは健康を「単に病気ではない状態」に留まらず、「身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態」と広く捉えており、製品安全が消費者のQOL(生活の質)に直結していることを示唆しています。GPSRは、消費者保護の「水平的(横断的)な枠組み」として、多面的な役割を担っています。

(i)基本的権利の保護:子ども、高齢者、障害者などの「脆弱な立場にある人々」を含むすべての市民が、安全な製品を手にする権利を保護します。
(ii)法の空白を埋める(補完的役割):すべての消費者製品を個別の専門法(セクター別法)でカバーすることは不可能です。そのため、GPSRが「個別法が存在しない製品」や「専門法でカバーしきれない安全面」のギャップを埋める広範な安全網(セーフティネット)として機能します。

1.3 法的根拠(TFEU 第114条・第169条)

GPSRは、EUの機能に関する条約(TFEU)に基づき、以下の2点を両立させることを目指しています。

(i)市場の平準化(第114条):加盟国ごとの規制の差をなくし、人や物の自由な移動(域内市場の機能)を確保します。
(ii)消費者保護の推進(第169条):消費者の健康、安全、経済的利益を高い水準で保護し、消費者が情報提供や教育を受ける権利、自らを組織化する権利を支援します。

1.4 一般製品安全規則(GPSR)の適用範囲と例外

1.4.1 他のEU規制との優先関係

RoHS指令、REACH規則、玩具指令などの個別規制(分野別EU調和法)とGPSRの関係は以下の通りです。

(i)補完的役割:GPSRはすべての消費者製品に広く適用されます。特定の製品に特定の安全要求が他のEU法で定められている場合のみ、その個別規定が優先されます。
(ii)一般要求の適用:個別のEU法に規定がない安全要求事項については、GPSRの第5条(一般的な製品安全性要求)が適用されます。

1.4.2 ネット販売・遠隔販売への適用

(i)上市の定義:ネット販売等を通じて提供される製品であっても、その販売がEUの消費者を対象としている場合は「上市(市場に出された)」とみなされ、GPSRの対象となります。
(ii)事業者の義務:遠隔販売における提供者の義務や、事故発生時の対応、リコール、消費者の救済に関する規定が厳格に適用されます。

1.4.3 業務用製品と中古品

(i)業務用から消費者市場への移行: 本来は業務用に設計された製品であっても、消費者が手に入れる可能性があり、合理的に予見可能な条件で使用される場合は、GPSRの対象に含まれます。
(ii)リサイクル製品: 中古製品やリサイクル製品であっても、商業的にサプライチェーンに再参入するものは対象となります。ただし、修理・再生利用が前提であると明示されているものや、骨とう品などは除外されます。

1.5. GPSRの対象とならないもの(除外項目)

以下の製品は、他の規制があることや製品の性質上、GPSRの対象から除外されます。

(i)医薬品、食品、飼料:ただし、食品接触材料(食器など)はGPSRの対象となります。
(ii)生きている植物、動物の副産物、農薬:これらも専用の規制に従います。
(iii)航空機、美術品、骨とう品:歴史的価値のある収集品などは対象外です。
(iv)サービス:サービスそのものは対象外ですが、サービス提供中に消費者が直接ばく露される「製品」は対象となります(例:美容院で使用される器具など)。ただし、公共交通機関のようにサービス提供者が直接操作する装置は除外されます。

1.6. GPSRにおける製造者の義務と安全性評価

1.6.1 設計段階からの安全性確保
経済事業者は「安全な製品のみを市場に出す義務」があり、安全性は主に設計段階で達成されるべきであるとされています。

(i)本質的安全設計:製品の意図された使用条件や「予見可能な使用」を考慮し、設計と特徴によって高い安全性を確保しなければなりません。
(ii)警告表示の扱い:警告や指示は、設計で取り除けなかった「残存リスク」を軽減するための補助的な手段です。安易に警告表示に頼ることは許されず、まずは設計での対策が優先されます。

1.6.2 多面的なリスク評価

製品の安全性評価においては、物理的・化学的特性だけでなく、以下の要素を考慮する必要があります。

(i)脆弱な消費者への配慮:子供、高齢者、障害者など、特定のカテゴリーの人々が受けるリスクやニーズを考慮します。
(ii)デジタル・メンタルリスク:デジタル接続製品がもたらすリスクや、子供のメンタルヘルスへの影響、サイバーセキュリティに関連する健康リスクも評価対象です。
(iii)環境リスク:消費者の健康や安全に間接的に影響を及ぼす環境因子も考慮に含まれます。

1.6.3 製品のライフサイクルと相互接続性

(i)全寿命期間の保証:製品がその「全寿命」にわたって安全であり続ける必要性を考慮して評価します。
(ii)他製品との接続:他の製品やデバイスに接続して使用される場合、その相互接続によって生じうるリスクも十分に考慮しなければなりません。

1.6.4 技術文書の作成と証明義務

製造者には、製品が安全であることを証明するための具体的な対応が求められます。

(i)内部リスク分析と技術文書: 自らリスク分析を行い、それに基づく「技術文書」を作成・保持する必要があります。情報の詳しさは、製品の複雑さやリスクの大きさに比例したものとします。
(ii)情報のデジタル化: 事業者情報や安全情報は、QRコード等のデジタル形式で提供することも認められています。

1.6.5 「製造者」とみなされるケース(みなし製造者)

自ら製品を直接製造していなくても、以下の場合には「製造者」としての法的義務を負うことになります。

(i)自社ブランドでの上市: 自分の名前や商標を付けて製品を市場に出す場合。
(ii)実質的な変更・改造: 製品の性質や特性に影響を及ぼすような大幅な改造を行った場合。この場合、改造者は「製造者」とみなされ、その製品は「新製品」として扱われます。

2. GPSR主要条項の要点

2.1 基本的な定義(第1条~第3条)

GPSRは、EU域内における消費者保護と市場機能の向上を目的としています。

(i)製品の定義:意図された消費者向け製品だけでなく、通常の使用で「消費者が使用する可能性が高いもの」も含まれます。
(ii)安全な製品:通常の使用に加え、「合理的に予見可能な条件(間違った使い方も含む)」においてリスクが最小限であり、許容できる製品を指します。
(iii)リスク:危害の発生確率と重大性を組み合わせた概念であり、当局の迅速な介入が必要なものは「重大なリスク」と定義されます。

2.2 一般安全要件と評価の側面(第5条~第8条)

(i)経済事業者の義務:経済事業者は「安全な製品のみ」を市場に提供しなければなりません。
(ii)評価の視点:物理的な特性だけでなく、**「他製品との相互接続(インターフェース)」**による影響も評価対象となります。
(iii)適合の推定:欧州規格(EN規格)に適合している場合は安全と推定されますが、たとえ適合していても、製品が危険であるという証拠があれば当局は措置を講じることが可能です。

2.3 製造者の具体的な義務(第9条)

製造者には、上市前に以下の対応が明確に義務付けられています。

(i)内部リスク分析と技術文書の作成:安全性評価の根拠となる技術資料を整備し、製品の上市から10年間保管しなければなりません。
(ii)トレーサビリティの確保:製品にバッチ番号、シリアル番号、製造者情報(連絡先)を表示し、消費者が容易に理解できる言語で取扱説明・安全情報を添付します。
(iii)是正措置と通知:上市後に製品の危険性が判明した場合、直ちに是正措置(回収・リコール等)を講じ、当局のシステム(Safety Business Gateway)を通じて報告し、消費者に通知する義務があります。

2.4 実務への落とし込み(順法システム:CAS)

これら膨大な法的要求に対応するためには、単発の評価ではなく、組織的な仕組み(マネジメントシステム)への組み込みが推奨されます。

(i)順法システム(CAS):ISO 9001等の品質管理システムの中に、リスク分析や技術文書管理の手順を統合します。
(ii)技術文書(TD)の考え方:自社内部に保持する膨大なノウハウを含む資料群をベースに、当局への説明用として「順法説明書(Compliance Assurance System)」を整理しておくとスムーズです。
(iii)DoC(適合宣言書)の活用:CEマーキングと同様に、自らリスク評価を完了し、安全性を満たしていることを「適合宣言書(DoC)」として発行・明確化することも、信頼性を高める有効な手段となります。

化学物質法規制研究会 松浦 徹也 氏

*1:GPSR
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/988/oj/eng

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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