第97回_POPs条約の化審法への反映とその最近の動向

はじめに

ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDT等の有機物質は、難分解性、生物蓄積性、毒性、長距離移動性といった性質を有し、残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants:POPs)と呼ばれています。
こうしたPOPsの特性から、それらによる汚染は国境を越えて広範に拡大が進む恐れがあるため、その国際的規制の仕組みとして運営されているのが、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants、以下POPs条約)です1)。
本条約第3条により各締約国はその取り決めを実行するために、国内の法的および行政的手段の整備が求められますが、日本では化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号、以下化審法)によっています2)。
規制対象となるPOPsは継続的に締約国会議(Conference of Parties:COP)によって審議、追加指定がなされてきており、最近でもそれを受けた内容を化審法に反映させる動きがありました。本稿ではそれらの概要について解説します。

1.POPs条約と化審法

1.1 POPs条約

POPs条約は2001年5月にストックホルムで開催された外交会議において採択された条約で、その後2004年2月に締約国が50ヵ国に達したことを機に、同年5月に条約として発効し、日本は2002年8月に批准、2004年5月に発効しています。
採択以来何度も改訂を経てきており、現時点での最新版は2023年5月開催のCOP11までの決定内容を反映したもので、全30条および7附属書で構成されています。
規制対象物質は以下の3つの附属書にて指定しています:

(1)附属書A(廃絶):製造・使用および輸出入を原則禁止するもので、31物質または物質群を指定。
(2)附属書B(制限):特定用途に限り製造・使用および輸出入を認めるもので、2物質または物質群を指定。
(3)附属書C(非意図的物質):非意図的に生成あるいは放出される有害物質を対象とし、7物質または物質群(このうち5つは附属書Aでの指定物質と重複)を指定し、これらの防止・削減について規定。

ここで附属書AおよびBの対象物質については過渡的措置として一定期間内での製造や使用の個別の適用除外(specific exemption)を認めており、締約国がこれを利用したい場合には事務局へ登録することができます(本条約第4条)。
附属書Cの対象物質については、本条約第5条において、各締約国は最低限でもこれら化学物質の人為的発生源からの放出総量削減のための措置を講じ、それらの継続的な最小化と、実行可能な場合には最終的な廃絶を目標とすること、そしてこれらの行動計画の策定と実施を要求しています。
ここで特徴的なことは、その進め方においてBAT(Best Available Technique、利用可能な最良の技術)の使用の促進を要求していることです。ここでBATとは、活動およびその運営方法の最も効果的かつ進歩した段階にあるものであって、特に附属書Cの指定物質の環境への放出およびその影響の防止、またそれが実行可能でない場合には一般的に削減することを目的とした、放出を制限する主要な基礎を提供することが現実的な適切性を示すもの、としています。

1.2 化審法の仕組みとPOPs条約内容の反映

化審法は、全8章、63条および附則(2025年1月現在)より構成されています。その目的は、人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境の汚染の防止であり、新規の化学物質の製造又は輸入に際し、それらに対する事前審査制度を設け、その性状等に応じた製造、輸入、使用等についての必要な規制を課しています(本法第1条)。

本法の制定は、1968年に起きたPCBによるカネミ油症事件を契機に、安定、難分解性で長期にわたって人体に残留し健康に影響を及ぼす有害物質に対する法的規制の必要性が認識されたことに端を発します。特に当時としては世界に先駆けて、新規化学物質の国内への導入に対する事前審査制度を設けたことは注目されます。
以来、前記POPs条約を含め、国際的な規制強化の動きと連携しつつ、化学物質を既存化学物質と新規化学物質に分けて捉え、前者をその性状によって第1種特定化学物質、第2種特定化学物質、監視化学物質、優先評価化学物質および一般化学物質に分類して管理していく現在の仕組みが整備され、1999年の中央省庁再編を機に厚労省、経産省および環境省の3省の共同所管となっています。

このうち第1種特定化学物質とは、自然的作用の下では難分解性で、かつ生物の体内への高蓄積性があり、かつ継続的に摂取される場合に人の健康を損なうおそれ又は高次捕食動物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質として、政令(具体的には化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令(昭和49年政令第202号、以下化審法施行令)3) )で定めるものと定義されています(本法第2条第2項)。
これは前記POPsの概念に一致しますので、COPで新たに規制対象と決定された物質は、順次化審法の第1種特定化学物質として指定され、管理されています。
第1種特定化学物質はその製造、輸入には経産大臣の許可が必要(本法第17条および第22条)とされ、それらを使用した製品で化審法施行令が指定したものは輸入が禁止(本法第24条)されます。

また第1種特定化学物質の使用は原則禁止ですが、経過措置として一部の用途について期限付きで許容される場合があります。この用途とは、エッセンシャルユースと呼ばれるものですが、他のものによる代替が困難であり、その使用によって環境汚染が生じて人の健康に係る被害又は生活環境動植物の生息若しくは生育に係る被害を生ずるおそれがないと認められたもので、化審法施行令において指定されます(本法第25条)。

2024年12月現在で第1種特定化学物質は計35の物質または物質群が指定されていますが、その殆どは前記POPs条約の規制対象物質で、附属書AおよびB収載のものは全て第1種特定化学物質として指定されています。

一方、非意図的物質として附属書C収載のものについては、附属書Aの指定物質と重複していない2物質(ポリ塩化ジベンゾ―パラ―ジオキシン及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDD/PCDF))は第1種特定化学物質には指定されていません。
このように第1種特定化学物質は化審法施行令の定めによるそれらの使用製品の輸入や指定用途以外の使用はできませんが、これらが含まれている場合の閾値等の定量的基準はありません。ただし化審法では非意図的物質に対し、前記BATの原則に則り、第1種特定化学物質は「工業技術的・経済的に可能なレベル」にまで低減すべきとの考えから、それらが環境汚染を通じた人の健康を損なうおそれ等がなく、その含有割合が工業技術的・経済的に可能なレベルまで低減していると認められるときは、その副生成物は第一種特定化学物質としての扱いはしないとする旨の通達が出されています4)。

そしてこれらに第1種特定化学物質の含有が確認された場合には、上記内容(人の健康や環境への悪影響の恐れが無く、含有量の低減レベルが工業技術的・経済的に可能な水準であること)と共に、その第1種特定化学物質の低減策等を内容とする報告を厚労省、経産省および環境省の3省に提出することが求められています。

2.最近の第1種特定化学物質の状況

ここ数カ月の化審法関連の動きとして、以下の様なPOPs条約の規制対象物質の追加指定を反映して、第1種特定化学物質に関する化審法施行令の改正が公表されています。これらを併せますと、第1種特定化学物質は計39物質または物質群となります:

(1)PFOA関連物質の具体化(2024年11月15日官報 5))

「ペルフルオロオクタン酸( PFOA )とその塩及びPFOA 関連物質」はCOP9(2019年4~5月)において附属書Aへの追加が決定されました。それを受けて化審法では、このうち「PFOA とその塩」に対して2021年10月施行で第1種特定化学物質に指定しましたが、一方、「PFOA 関連物質」については、その法的取扱いについての具体化が遅れていました。
2024年に入り、上記「PFOA とその塩」とした指定を同年9月施行で「PFOA若しくはその異性体又はこれらの塩」に変更し、更に2025年1月施行で「PFOA関連物質」を第1種特定化学物質に追加することになりました。
その具体的物質としてイ、ロおよびハとして3物質を指定しましたが、このうちハ「炭素原子と直接に結合するペンタデカフルオロアルキル基(炭素数が7のものに限る。)を有する化合物であつて、自然的作用による化学的変化によりPFOA又はペルフルオロアルカン酸を生成する化学物質として厚生労働省令、経済産業省令、環境省令で定めるもの」について、厚生労働省令・経済産業省令・環境省令第4号によって具体的な138物質を指定しました。
これによりCOP9におけるPFOA関連への対応が完了したことになります。

(2)3物質の第1種特定化学物質への指定(2024年12月18日官報 6))
COP11(2023年5月)で附属書Aへの追加が決定されたデクロランプラス(主用途:難燃剤)、UV-328(同紫外線吸収剤)およびメトキシクロル(同殺虫剤)が2025年2月施行で第1種特定化学物質に指定されました。なおデクロランプラスには1件のエッセンシャルユースが設定されています。

おわりに

以上、POPs条約の概要とその内容を化審法により国内の規制に反映させる仕組みを最近の動向と共に解説しました。
本年2025年4~5月にはCOP12がジュネーブで開催される予定ですが、それに先立つ2024年9月のPOPs検討委員会(Persistent Organic Pollutants Review Committee:POPRC)第20回会合において、下記3物質の附属書Aへの追加をCOPに勧告することが決定されました:

・長鎖PFCA、その塩及び関連物質
・塩素化パラフィン(炭素数14~17で塩素化率45重量%以上のもの)
・クロルピリホス

したがってこれらがCOP12において廃絶対象物質として決定される可能性があります。そうなれば日本国内でもそれらを化審法に反映するための動きが開始されますので、今後共注意していきたいと思います。

(一社)東京環境経営研究所 福井 徹 氏

参考URL

1)https://www.pops.int/
2)https://laws.e-gov.go.jp/law/348AC0000000117
3)https://laws.e-gov.go.jp/law/349CO0000000202
4)https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/files/about/laws/laws_h30120351_0.pdf
5)https://kanpou.npb.go.jp/20241115/20241115g00267/20241115g002670001f.html
6)https://kanpou.npb.go.jp/20241218/20241218g00293/20241218g002930004f.html

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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