第41回_EU域内へ輸入される成形品及びその複合製品は、販売目的であるか否かを問わずSCIPデータベースへの情報登録が義務付けられると聞きました。EUの現地工事に用い、使い終わったら日本国内に持ち帰るような治具や計測器だった場合、どのような扱いになるのでしょうか?

EUの廃棄物枠組み指令(Waste Framework Directive 2008/98/EC 以下WFD)第9条1項(i)により、CLSを0.1wt%超えて含有するEU域内へ輸入される成形品及びその複合製品はSCIPデータベースへの情報登録が義務付けられていますが1)2)3)、ご質問のEU域内への機器類の一時的な持ち込みで条件を満たす場合には、SCIPデータベースへの登録の対象外となります。

SCIPデータベースへの登録に関して、ECHAが公開しているRequirements for SCIP notifications(SCIP情報伝達の要求事項)に解説があります4)。
Requirements for SCIP notificationsの1.2項に、登録義務の対象者は、REACH規則第3条33項に従い、EU域内の成形品のサプライヤ(製造者や加工者、輸入者、流通者等の成形品を上市する者)としています。輸入は、REACH規則第3条10項に、対象物がEUの関税域内に物理的に入ることとしています。
上市は、第3条12項に、有償無償に関わらず第三者に提供、あるいは利用可能とすることであり、EU域外からの輸入は上市にあたるとしています。製品規則の実施に関するブルーガイド2022年版(The Blue Guide on the implementation of the product rules 2022)の2.5項にEU外からの輸入品に関する説明があります5)。税関での必要な手続きを完了後に輸入者に引き渡された時点で利用可能としています。これらの定めから、SCIP登録の対象品は、REACH規則での扱いに則り、税関から第三者へ引き渡された時点が上市となります。

さて、次の条件を満たす一時的な輸入(EUへ一時的に輸入して再度輸出する)の場合には、REACH規則第2条1項(b)により、REACH規則の適用除外となります。

(1) 税関の監視下にあること
(2) 対象物への加工や処理を行わないこと
(3) 一時的な保管、再輸出目的で保税倉庫もしくは保税区域に保管、または輸送中であること

ECHAが公開しているGuidance on registration(登録に関する手引書)2.2.2.2項に解説があります6)。加工や処理を行わず、そのまま再輸出する場合には、REACH規則の対象外となります。疑念が生じた場合には管轄する関税当局に確認することを推奨しています。

この具体的な一つの方法として、物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約)に基づき発行されるATAカルネを利用した手続きがあります7),8),9)。ATAカルネで通関した物品はすべて一時輸入の物品として扱われるため、再輸出する必要があります。盗難や破損などの理由で再輸出ができない場合、輸入税等の賦課と各国法令による処罰を受ける可能性があります。対象は、職業用具、展示用品、商品見本で、締約国によって対象が異なっていますが、日本およびEUは3種類とも対象です。
従って、EUへATAカルネを使用して一時輸出をした物品は、税関の監視下にあり一時的な取扱いになっています。さらに、自ら使用しかつ物品に対する加工や処理を行なわずに再輸出する場合、REACH規則第2条1項(b)に該当してREACH規則の対象外と扱うことが可能となります。

以上のことから、お問い合わせの貴社の治具や測定器をATAカルネで輸出して、現地にてそれらの機器類に加工や処理を行わず日本へ再輸出する場合には、一時的な輸入に相当し、REACH規則の対象外の成形品となり、SCIP登録の必要は無くなります。

1) 廃棄物枠組み指令(Waste Framework Directive 2008/98/EC )
http://data.europa.eu/eli/dir/2008/98/2018-07-05

2) REACH規則
http://data.europa.eu/eli/reg/2006/1907/2023-08-06

3) Q669.販売目的ではない製品のSCIP登録における情報伝達について
https://www.tkk-lab.jp/post/reach-q669

4) SCIP情報伝達の要求事項(Requirements for SCIP Notifications)
https://echa.europa.eu/documents/10162/6205986/information_requirements_for_scip_notifications_en.pdf/db2cf898-5ee7-48fb-e5c8-4e6ce49ee9d2?t=1615368638768

5)製品規則の実施に関するブルーガイド2022年版(The Blue Guide on the implementation of the product rules 2022)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=OJ:C:2022:247:FULL

6) REACH規則における登録に関する手引書(Guidance on registration)
https://echa.europa.eu/documents/10162/2324906/registration_en.pdf/de54853d-e19e-4528-9b34-8680944372f2?t=1629205524601

7)ATA条約
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S48-0257_1.pdf

8)物品の一時輸入のための通関手帳(ATAカルネ)
https://www.customs.go.jp/kaigairyoko/atacarnet.htm

9)一時的な輸入(Temporary admission)
https://taxation-customs.ec.europa.eu/customs-4/customs-procedures-import-and-export-0/what-importation/specific-use_en

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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