第85回_ECHAの会議体にあるRACとSEACの違いは何でしょうか?
ご質問のリスク評価委員会(Committee for Risc Assessment:RAC)と社会経済分析委員会(Committee for Socio-Economic Analysis:SEAC)は、ともに検討されている法規制に対し、ECHAが設置している委員会です。両委員会は、欧州委員会が最終決定を行うための意見書を作成、提出しますが、その観点に違いがあります。RACの観点はREACH規則およびCLP規則の検討プロセスにおける物質の人間の健康および環境へのリスクに関する内容であるのに対し、SEACの観点は立法措置の社会経済的影響に関連する内容となります。以下にそれぞれの役割について記載します。
◆リスク評価委員会(RAC)(*1)と社会経済分析委員会(SEAC)(*2)
リスク評価委員会(RAC)と社会経済分析委員会(SEAC)の概要はECHAのホームページで確認ができます。RACとSEACで検討する内容としては、以下のものがあげられています。
RACで検討される事項
・CLP規則に関して調和のとれた分類とラベリングに関する事項
・REACH規則の制限や認可に関する事項
・職業暴露限界(Occupational Exposure Limits:OELs)
・飲料水
SEACで検討される事項
・REACH規則の制限や認可に関する事項
RACは物質の人間の健康および環境へのリスクに関する内容を評価する委員会であるため、その範囲はREACH規則以外で関連するCLP規則や職業暴露限界(OELs)に関する事項が含まれます。また、飲料水指令(DIRECTIVE (EU) 2020/2184)の運用として2026年からは飲料水に関する事項が追加されることが記載されています。
一方でSEACは、規制の実施による社会と経済に与える影響を評価する委員会であるとされており、現状の範囲はREACH規則の制限や認可に関する事項とされています。
共通の範囲であるREACH規則で制限についてそれぞれの委員会に関する条文を確認すると以下のようになります。
RAC(REACH規則第70条:抜粋)
提案書に記載されている発行日から9か月以内に、RACは、提案された制限が人の健康および環境へのリスクを低減するのに適切であるかどうかについて意見を表明するものとする。
SEAC(REACH規則第71条:抜粋)
制限に関する提案書の発効日から12か月以内に、SEACは、書類の関連部分および社会経済的影響について意見を表明する。
上記の条文の内容から、RACは人の健康および環境へのリスクの観点から対象化学物質の危険有害性を評価し、閾値などの規制処置が適切かどうかを検討するのに対し、SEACは社会経済的影響の観点から代替品の有無や適用除外の設定など規制処置が利害関係者に与える影響について検討する違いがあることがわかります。
REACH規則においてRACとSEACは提案に対し、それぞれの観点で意見書を作成しますので、両者の意見が大幅に異なる場合は意見の調整期間が設けられる場合もあります。RACとSEACの議事についてはECHAのホームページで確認することができます(*3)(*4)。これらの議事内容をRACとSEACの違いを踏まえて確認することにより、利害関係者は規制動向の現在地に関する情報を収集することができるものと考えられます。
(*1)リスク評価委員会
https://echa.europa.eu/about-us/who-we-are/committee-for-risk-assessment
(*2)社会経済分析委員会
https://echa.europa.eu/about-us/who-we-are/committee-for-socio-economic-analysis
(*3) リスク評価委員会会議(2024年)
https://echa.europa.eu/meetings-of-the-rac/2024
(*4) 社会経済分析委員会会議(2024年)
https://echa.europa.eu/about-us/who-we-are/committee-for-socio-economic-analysis/meetings-of-the-seac/2024
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。