第97回_化審法でデクロランプラスの規制が公布後、既に輸入済みのデクロランプラス含有部品を含む製品を、日本国内で流通使用できる?

デクロランプラスは、化審法施行令の改正(2024年12月18日公布)1) により第一種特定化学物質として指定され、国内での製造・使用に厳しい規制がかけられることになりました。また、これを含有する製品の輸入にも規制がかかり、既に市場に流通している製品については回収命令が出される可能性がある規定もあります。法令改正の時点で既に輸入済みの製品(部品)の流通使用に関して規制する直接的な規定はありませんが、デクロランプラスを含有していることが判明している部品を含む製品を市場で流通使用することは、貴社や製品のユーザ、取引先(部品メーカ等)にとってリスクがあるため、非含有の代替品に取り換える等の措置を講じることを推奨します。以下の補足説明もご勘案のうえ、自社でご判断お願いします。

化審法は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)による環境汚染や健康被害が契機となり制定されました。このPCBと類似した、難分解性、高蓄積性、長期毒性を有する化学物質を化審法施行令(政令)で「第一種特定化学物質」として指定し(第二条第2項)、その製造・輸入について許可制を導入する(第十七条、第二十二条)とともに、政令で定める特定用途以外の使用を禁止する(第二十五条)など厳しい規制を課しています。これにより、環境汚染を防止して人への健康被害を防ぐことを目的としています。また、第一種特定化学物質が使用されている製品の輸入にも規制をかける(第二十四条)ことで、輸入製品の消費から廃棄に至る過程で環境汚染を防止しています。さらに、第一種特定化学物質に指定された際に既に市場に流通している製品についても、必要に応じて市場からの回収命令など主務大臣による措置が講じられること(第三十四条)が規定されています。2) このように化審法での第一種特定化学物質規制の目的である環境汚染防止と人への健康被害防止の観点から、政令で第一種特定化学物質に指定される前に輸入した製品(部品)であっても、その含有が明らかになっている場合は、政令で定められた特定用途以外の含有製品の流通使用は控えることが望ましいと思われます。

製品輸入の規制として第二十四条にて、政令で定める製品で第一種特定化学物質が使用されているものの輸入を禁止しています。輸入者がすべての輸入製品についてどの様な化学物質が使用されているかを確認することは困難なため、過去10年以内の含有製品の輸入実績や海外での生産実績が認められるものの中から、第一種特定化学物質ごとに「政令で定める製品」を規定して、この輸入を禁止しています。これにより輸入者が意図せず(含有されていることを知らずに)当該化学物質を含有する製品を輸入してしまうリスクを減らし、その製品の消費から廃棄を通じて環境が汚染されることを防止しています。つまり、政令で定める製品に限定して輸入を禁止しているわけではなく、輸入者が第一種特定化学物質含有を判ったうえで輸入し、国内に流通させることはない前提で取り決めされていると言えます。
また、第三十四条で「化学物質が第一種特定化学物質として指定された場合、当該化学物質又は当該化学物質が使用されている製品の製造又は輸入事業者に対して」、主務大臣は「当該化学物質による環境の汚染の進行を防止するために特に必要があると認めるときは、必要な限度において、当該化学物質又は当該化学物質が使用されている製品の回収を図ること、その他当該化学物質による環境の汚染の進行を防止するために必要な措置をとることを命ずることができる」とされています。デクロランプラスは、政令改正前の審議 3) 4) で「現時点では、リスク懸念箇所は確認できなかった」ため、「現時点において、製品の回収等の措置を命じる必要はないと考えられる。なお、高次捕食動物については現時点で有害性評価値等を導出するためのデータが存在していないことから、引き続き情報収集に努めることとする。」とされており、現時点で直ぐに回収命令が出されることはないですが、今後、新しい科学的知見により回収等の措置が命じられる可能性があります。
さらに、残留性有機汚染物質を含有する製品を廃棄する際にも適切な処置が必要になります。こちらは化審法には定めはありませんが、国際的な指針5) や、廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)等で必要な措置が規定されていますので、これらの遵守も必要となります。

化審法は、第一種特定化学物質を含有する製品が市場に出回ることを厳しく制限し、人体や環境への影響を排除することを目的としています。新たに第一種特定化学物質に指定される前に輸入された製品の流通使用を制限する直接的な規定はありませんが、特定用途以外の使用や製品の流通使用を禁止する前提で各種取り決めがなされていると言えます。また、製品の廃棄時にも各種の規定がありますので(これらは新たな知見や情報により更新される場合もあります)、ユーザ等への対応(含有の表示・通知、取扱方法開示など)も必要となります。以上のように、規制前に輸入したデクロランプラス含有部品を含む製品を流通使用することは、貴社やユーザ、取引先(部品メーカ等)にとってリスクを伴うため、当該化学物質を含有しない代替品に交換するなどの措置を講じ、リスクを回避することを推奨します。

【参考資料】

1)経済産業省ホームページ 化審法施行令一部改正
https://www.meti.go.jp/press/2024/12/20241213002/20241213002.html
2)化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 逐次解説
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/files/about/laws/laws_exposition.pdf
3)厚労省 経産省 環境省 令和5年度化学物質審議会第2回安全対策部会 資料1-1「第一種特定化学物質に指定することが適当とされたメトキシロクロル、デクロランブラス及びUV-328が使用されている製品で輸入を禁止するものの指定等について(案)」P5~P8
https://www.meti.go.jp/shingikai/kagakubusshitsu/anzen_taisaku/pdf/2023_02_01_01.pdf
4)厚労省 令和6年化学物質審議会第一回安全対策部会 資料1「第一種特定化学物質に指定することが適当とされたデクロランプラスの個別の適用除外の取扱いについて(案)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001281466.pdf
5)POPs 廃棄物の環境上適正な管理に関する技術ガイドライン
https://www.basel.int/Implementation/TechnicalMatters/DevelopmentofTechnicalGuidelines/TechnicalGuidelines/tabid/8025/Default.aspx

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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