第108回_TSCAの6条(a)や6条(h)は何が異なる?異なる場合、成形品メーカとしてどのような対応が必要?

TSCA第6条(U.S.C. Title15/Chapter53/§2605 Prioritization, risk evaluation, and regulation of chemical substances and mixtures:化学物質及び混合物の優先順位付け・リスク評価)1) は、(a)から( j )までの10個のSubsection(以降「項」と記載します)で構成されています。このうち(a)項では、化学物質や混合物が人や環境に不合理なリスクをもたらすと判断された場合に適用される規制の範囲を定めています。また(b)項では、リスク評価の優先順序やリスク評価に必要な要件などを規定しています。
一方、(h)項はPBT物質に対する規制について定めたもので、これらへの規制を優先的に取り決めるとされています。
いずれも成形品に対する規制に関係するため、以下にその概要を記載します。

【TSCA第6条での規制】

TSCA第6条(a)項では、規制の適用範囲(Scope of regulation)が規定されています。EPAが(b)項に基づいてリスク評価をおこない、当該化学物質が人または環境に不合理なリスクをもたらすと判断された場合、最も負担の少ない方法で規制がかけられます。具体的には以下の7つの措置が講じられる可能性があります。

(1)当該物質または混合物の製造・加工・商業流通の禁止または制限
(2)特定の用途や濃度上限を超える使用の禁止または制限
(3)当該物質・混合物、またはこれらを含む成形品の使用・流通・廃棄に関する最低限の警告や指示の表示義務
(4)製造業者や加工業者に記録保持または試験実施の義務
(5)商業的なあらゆる使用方法の禁止または規制
(6)当該物質・混合物、またはこれらを含む成形品のあらゆる廃棄方法の禁止または規制
(7)製造業者・加工業者による不合理なリスクの通知と、必要に応じた製品の交換または買い戻し

2019年にMethylene Chloride(ジクロロメタン:CASRNⓇ75-09-2)は、塗料およびコーティングの除去でのリスクに対処するため、第6条に基づき製造・加工・商業流通・使用・廃棄に制限がかけられました。この規則は、CFRのTitle40 / ChapterⅠ/ Subchapter R / Part751 / Subpart B 2) で規定されています。

また、2024年にはTCE(トリクロロエチレン:CASRNⓇ79-01-6)、Chrysotile Asbestos(アスベストクリソタイル:CASRNⓇ 132207-32-0)、PCE(テトラクロロエチレン:CASRNⓇ127-18-4)、Carbon Tetrachloride(四塩化炭素:CASRNⓇ56-23-5)に規制がかけられ、この規則がPart751 のSubpart D、F、G、Hで規定されています。(c)項の「(2) Requirements for rule(規則に関する要件)」の(E)では、当該化学物質または混合物を含有する成形品も規制の対象となるとされています。

【PBT物質の規制】

2016年の改正で第6条(h)項が追加となり、リスク評価を経ずに、PBT物質に対し(a)項の規制を迅速に適用することが取り決められました。2021年には以下の5つの物質への規制が導入され、これらを含有する成形品の製造・輸入・加工が禁止されました(物質により含有濃度の閾値があります)。

・DecaBDE(デカブロモジフェニルエーテル:CASRNⓇ1163-19-5)
・HCBD(ヘキサクロロブタジエン:CASRNⓇ87-68-3)
・PCTP(ペンタクロロベンゼンチオール:CASRNⓇ133-49-3)
・PIP(3:1)(リン酸トリアリールイソプロピル化物:CASRNⓇ68937-41-7)
・2,4,6-TTBP(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール:CASRNⓇ732-26-3)

なお、PIP(3:1)とDecaBDEは2021年の規制から改正され(2024年11月に最終規則が公布 3))規制除外用途の追加変更などが取り決められました。これらPBT物質の規則は、CFRのTitle40 / ChapterⅠ/ Subchapter R / Part751 / Subpart Eで規定されています。

これらの規制対象物質に加えて、2016年の改正以前に制限された化学物質も存在します。TSCAインベントリにおいて、フラグ「R」が付されている物質は、TSCA第6条に基づく管理対象物質として識別できます。

以上のように、米国内の製造業者や輸入業者はTSCAに基づく成形品への規制を受けます。日本国内の成形品メーカには直接かかるものではないですが、先方の輸入業者はこれら規制への対応のため、その輸入品に関する情報を必要とする場合もあります。このため日本の成形品メーカは輸出者として必要に応じてそれらの提供等の対応を図る必要があります。

【参考資料】

1)USC Title15/Chapter53
https://uscode.house.gov/view.xhtml?path=/prelim%40title15/chapter53&edition=prelim
2)CFR Title40 / ChapterⅠ/ Subchapter R / Part751
https://www.ecfr.gov/current/title-40/chapter-I/subchapter-R/part-751
3)Part751の改正 連邦官報89FR91486
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2024-11-19/pdf/2024-25758.pdf

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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