第6回 特定フタル酸エステル

誌面掲載:2018年1月号 情報更新:2023年2月

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名称(その物質を特定するための名称や番号)(図表1)

1.1 化学物質名/ 別名

フタル酸エステルは一連の物質の総称名である。「フタル酸」というのは基本骨格ベンゼン(C6H6)の6 個の水素のうち2 個がカルボン酸(-COOH)に置き換わったもので、ベンゼンジカルボン酸である。 「エステル」というのは酸(カルボン酸の場合R1-COOH)とアルコール(R2-OH)結合して生成する結合(R1-COO-R2)を指している。フタル酸には、キシレンがオルソ(1,2-, ortho, o-)、メタ(1,3-, meta, m-)、パラ(1,4-,para, p-)の3 種類あるのと同様、二つのカルボン酸の位置の違いで3 種類ある。ただ、一般的にパラ(1,4-)位のフタル酸はテレフタル酸(ベンゼン-1,4- ジカルボン酸)、メタ(1,3-)位のフタル酸はイソフタル酸(ベンゼン-1,3- ジカルボン酸)と呼ばれている。オルソ(1,2-)位のフタル酸はオルソフタル酸(ベンゼン-1,2-ジカルボン酸)と呼ばれるか、単にフタル酸というときはこのオルソフタル酸を指している。テレフタル酸は繊維のポリエステルやペットボトルの原料として使われている。イソフタル酸は主にはプラスチックや塗料などの原料として使われている。今回の特定フタル酸エステルはオルソフタル酸のエステルで、特定のアルコールによる一連のフタル酸エステルを指している。主にプラスチックの可塑剤として使われ、一般の消費者が接触してその有害性が懸念されている物質群である。代表的な物質は炭素数8 個のアルコール(オクタノール:octanol)によるフタル酸ジオクチル(ジオクチルフタレート:Di Octyl Phthalate: DOP)である。フタル酸にはカルボン酸が二つあるので、ジエステルである。炭素数8 個のアルコールにも多くの物質がありうるが、最も多いのは枝分かれのある2- エチルヘキシル(2-ethylhexyl)アルコールによるもので、フタル酸ジ(2- エチルヘキシル)[Di 2-ethylhexyl phthalate:DEHP]である。フタル酸ビス(2- エチルヘキシル) Bis2-ethylhexyl phthalate と呼ぶ場合もある。ジ(di)とビス(bis)はどちらも二つという意味で、2 個ある部分が単純な場合はジ(di)を使うが、その部分が複雑な場合には区別するためにビス(bis)を使う。直鎖型のフタル酸ジn- オクチル(Di-n-octyl phthalate: DNOP)もある。特定フタル酸エステルとしてアルコール炭素数4 個のフタル酸ジブチル(Dibutyl phthalate: DBP)及びフタル酸ジイソブチル(Diisobutyl phthalate: DIBP)、9 個のフタル酸ジイソノニル(Diisononyl phthalate:DINP)、10 個のフタル酸ジイソデシル(Diisodecylphthalate: DIDP)がある。また、脂肪族のアルコール以外に芳香環を持つベンジルアルコール(Benzylalcohol:C6H5CH2OH)を用いたフタル酸ブチルベンジル(Benzyl butyl phthalate: BBP)もある。エステルをフタル酸エステルの場合…フタレート又は…フタラートと書く場合もある(英語の発音に近いのは前者であるが、後者は「字訳」といって化審法などで採用されている)。

 

図表1 主なフタル酸エステルの特定

名称

(IUPAC)

フタル酸ジ(2-エチルヘキシル) フタル酸ブチルベンジル フタル酸ジ-n-ブチル フタル酸ジイソブチル フタル酸ジイソノニル フタル酸ジイソデシル フタル酸ジ-n-オクチル
Di(2-ethylhexyl) phthalate Benzyl butyl phthalate Di-n-butyl phthalate Diisobutyl phthalate Diisononyl phthalate Diisodecyl phthalate Di-n-octyl phthalate
ベンゼン-1,2-ジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル) ベンゼン-1,2-ジカルボン酸ブチルフェニルメチル ベンゼン-1,2-ジカルボン酸ジブチル ベンゼン-1,2-ジカルボン酸ビス(2-メチルプロピル) ベンゼン-1,2-ジカルボン酸ビス(7-メチルオクチル) ベンゼン-1,2-ジカルボン酸ビス(8-メチルノニル) ベンゼン-1,2-ジカルボン酸ジ-n-オクチル
別名 ビス(2-エチルヘキサン-1-イル)=フタラート ベンジル=ブタン-1-イル=フタラート ジブタン-1-イル=フタラート ジイソブチル=フタラート ジイソノニル=フタラート ビス(8-メチルノニル)フタラート ビス(n-オクチル)フタラート
略号 DEHP (DOP) BBP DBP DIBP DINP DIDP DNOP
(DOP)
化学式 C6H4(COOC8H17)2  C4H9 OCOC6H4 COOCH2C6H5 C6H4(COOC4H9)2 C6H4(COOC4H9)2 C6H4(COOC9H19)2 C6H4(COOC10H21)2 C6H4(COOC8H17)2
CAS No. 117-81-7 85-68-7 84-74-2 84-69-5 28553-12-0

68515-48-0

26761-40-0

68515-49-1

117-84-0
化審法(安衛法) 3-1307

フタル酸ジアルキル(C=6~20)

3-1312

フタル酸アルキル(C4~9)ベンジル

3-1303

フタル酸ジブチル

3-1303

フタル酸ジブチル

3-1307

フタル酸ジアルキル(C=6~20)

3-1307

フタル酸ジアルキル(C=6~20)

3-1307

フタル酸ジアルキル(C=6~20)

EC No. 204-211-0 201-622-7 201-557-4 201-553-2 249-079-5

271-090-9

247-977-1

271-091-4

204-214-7
REACH* 01-2119484611-38-xxxx 01-2119489376-23-xxxx 01-2119493042-44-xxxx 01-2119489795-15-xxxx

01-2119480106-43-xxxx

01-2119430798-28-xxxx

01-2119432682-41-xxxx

01-2119422347-43-xxxx

*最後の4xxxxは登録者番号

 

1.2 CAS No.、化審法(安衛法)官報公示整理番号、その他の番号

フタル酸エステルはエステルのアルキル鎖の種類によって多数の物質がある。炭素数が多い場合は異性体の種類もあるが、キシレンのように混合物のままで使われている場合もある。CAS No. も必ずしも単一の物質に個別の番号があるというわけではない。DINP CAS No. 28553-12-0 は、(4 級炭素を含まない炭素数9 個の)ノニルエステルで、68515-48-0 は炭素数9個のものが主成分であるが8 10 個の分岐のあるアルキルエステルである。DIDP も同様。化審法番号は、法律施行時の既存物質に対し多くの物質をまとめて一つの番号を付与した。DEHP, DNOP, DINP, DIDP はいずれも3-3107 で、「フタル酸ジアルキル(C=6 20)」でまとめられている。3-1303 はジブチルエステルでブチル基の構造の違うものの区別はしていない。

 

1.3 国連番号(UN No.)

国連危険物輸送勧告の危険物には該当しないので国連番号はない。


2.特徴的な物理化学的性質/ 人や環境への影響(有害性)

2.1 物理化学的性質(図表2)

無色から淡色の粘稠な液体である。可燃性で、高温(DEHP で約200 ℃)では引火点がある。親油性で油には溶けるが水にはほとんど溶けない。n- オクタノール/ 水分配係数(log Pow)は4 9 である。この値が高いと生体内の脂肪分に蓄積されやすく、他にデータがない場合はlog Pow4GHSでは生物濃縮性の可能性があるとみなされる(化審法では≧3.5)。

 

図表2 主なフタル酸エステルの主な物理化学的性質(ICSC による)

物理化学的性質 DEHP BBP DBP DIBP DINP DIDP DNOP*1
融点(℃) -50 -35 -35 -37 -43 -50 -25, -50
沸点(℃) 385 370 340 320 244-252

(0.7kPa)

250-257

(0.5kPa)

220-248

(4mmHg)

引火点(℃) 215(o.c.) 198 157(c.c.) 185(o.c.) 221(c.c.) 229(c.c.) 215(o.c.)*4
発火点(℃) 350 425 402 423 380 402 390*4
爆発限界(vol %) 0.5-2.5 0.4 0.4-2.9 0.3~ 0.3~*4
比重(水=1.0) 0.986 1.1 1.05 1.04 0.98 0.96 0.98
水への溶解度(mg/L) 不溶 0.71 10(25℃) 20(20℃) <100

(20℃)

不溶

0.28*4

0.02-3

(25℃)

n-オクタノール/水分配係数(log Pow) 5.03 4.77 4.72 4.11 8.8 4.9 5.22, 8.1
BCF

 

840*2

1~29.7*3

663*1 3.1~176*1

1.8*2

800(推定)*1 <14(推定)*2 <14.4*2 1019

*1: 環境省化学物質の環境リスク初期評価による。

*2: OECD SIDSによる。

*3: 化審法既存化学物質安全性点検データ集

*4: 厚労省GHS対応モデルSDS

 

2.2 有害性

製品評価技術基盤機構(NITE)によるGHS 分類例を図表3 に示す。物理化学的危険性はGHS で分類される危険性はない。人の健康に関しても急性毒性や皮膚や眼に対する刺激性も少ない。皮膚感作性はDBPにはあるがDEHPにはない。他の物質については十分な情報がない。発がん性についてDEHP ではIARC が以前はグループ3(ヒト発がん性有とは分類できない)としていたが、肝臓や精巣の腫瘍発生について検討し、グループ2B(ヒト発がん性の可能性あり)に分類している。日本産業衛生学会アメリカのACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienist:産業衛生専門家会議), NTP(National Toxicology Program: 国家毒性計画), EPA(Environmental Protection Agency:環境保護庁)も動物試験からおそらく発がん性あるとしている。他のフタル酸エステルでは十分な情報がない。フタル酸エステルの法規制の根拠となっている有害性の一つは生殖毒性である。生殖能力や胎児の成長に影響がある。DEHP では授乳を通しての仔動物への影響も見られる。日本産業衛生学会は生殖毒性に関して第1 群に分類しており、これはGHSも区分1A に相当する。急性影響はそれほど高くはないが長期的には肝臓や精巣に影響するようである。1998 年頃から注目された内分泌撹乱作用のおそれがあるとされた物質(環境省のSpeed 98)の中にフタル酸エステル類が含まれていた。その後環境省などで調査したが、明確な内分泌撹乱作用は確認できなかった。しかし、EU で生殖毒性や内分泌撹乱作用の懸念から禁止またはその候補物質としてフタル酸エステルが挙げられている。水生環境有害性のGHS区分が1 又は2 のものと区分外のものがある。これは水に対する溶解性が低いため水生生物への影響の評価が難しいということもある。生物濃縮性や生分解性の測定も難しい。logPow 4 で生物濃縮性が高いことが予想されるが、魚での濃縮倍率(Bio-concentration factor: BCF)は≦ 4000 で特に高濃縮性とは言えない。活性汚泥による生分解性試験では易分解性とされるが、分解速度が遅いこともある。

図表3 フタル酸エステルのGHS分類(NITE による)

GHS分類 DEHP

(2014)

BBP

(2016)

DBP

(2013)

DIBP

(2018)

DINP

(2016)

DIDP

(2016)

DNOP

(2016)

物理化学的危険性              
引火性液体 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外
自然発火性液体 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外
金属腐食性
健康有害性              
急性毒性(経口) 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外
急性毒性(経皮) 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外
急性毒性(吸入:ミスト) 区分外 区分外 区分外
皮膚腐食/刺激性 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外
眼損傷/刺激性 2B 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外 区分外
皮膚感作性 区分外 1
生殖細胞変異原性
発がん性 2
生殖毒性 1B(授乳) 1B 1B 1B 2 2 区分2
特定標的臓器毒性(単回) 3(気道刺激性) 3(気道刺激性)-
 特定標的臓器毒性(反復) 2(肝臓、精巣) 2(生殖器(男性)) 1(呼吸器)
誤えん有害性
環境有害性              
 水生環境有害性(短期・急性) 1 1 1 1 区分外 区分外 区分外
水生環境有害性(長期・慢性) 2 2 2 3 区分外 区分外 区分外

 


3. 主な用途

水に溶けにくく、合成樹脂に混ぜると樹脂が柔らかくなるという性質から「可塑剤」として使われている。特に塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル:Polyvinylchloride: PVC)に使われている。ポリ塩化ビニルは安価で、代表的なプラスチックの一つである。一般に「ビニール」「塩ビ」などとも呼ばれる。ポリ塩化ビニル樹脂は硬くて脆いが、可塑剤を加えて柔らかくすることができ、その添加量によって柔軟性を調整できる。ポリ塩化ビニルは高温で成型できる熱可塑性樹脂で、切削、溶接、曲げ加工などもでき、耐候性に優れ、難燃性、電気絶縁性などもある。可塑剤の入っていない硬質塩ビ樹脂は水道管などのパイプや看板などのプレートなどに使われているが、可塑剤で柔らかくした軟質塩ビ樹脂は電線被覆材、農業用のフィルム・シート、ホース・チューブ、衣類、合成皮革、玩具、医療機器など非常に広い範囲で使われている。そのほかアクリル樹脂や酢酸セルロース、ゴムなどの可塑剤として使われている。塗料、顔料、接着剤、香水などの溶剤としても使われる。

 


4. 事故等の例

洗面所の壁に取り付けられていた棚や洗面化粧台が落下したり倒れたりして使用者が負傷した。原因は壁紙に可塑剤として使われていたフタル酸エステルが棚の取り付け部分に移行して強度低下を起こしていた。メーカーは当該製品をリコール・修理を行うとともに後継機種では耐薬品性の強い材料に変え、固定箇所の増加などの対策を行った(NITE の製品事故情報による)。

 


5. 主な法規制(図表4)

フタル酸エステルの物理化学的な危険性としては可燃性で、消防法危険物第4 類引火性液体の第三石油類又は第四石油類に該当するが、GHS で分類されるほどではなく、取扱いで特に危険な物質ではない。しかし、環境中でも検出されるほど使われており、人や動植物への影響がないとは言えないので、化学物質審査規制法(化審法)で、DEHPは優先評価化学物質に指定されている。リスク評価のため、年間1t以上製造・輸入した場合はその実績量、用途の届出義務がある。有害性試験データの提出等も要請されることがある。化学物質管理促進(PRTR)法第1 種指定化学物質にDEHP,BBP, DBP, DIBP, DNOP[他にフタル酸ジエチル、フタル酸ジアリル及び第2 種(SDS 提供)にフタル酸ジシクロヘキシル]が指定されている。労働安全衛生法では名称等の表示/ 通知対象物にDEHP, BBP, DBP, DIBP (他にフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル)が指定されている。DEHP DBP では日本産業衛生学会等で作業環境許容濃度が5 mg/m3に設定されている。DEHP は水質汚濁防止法指定物質で水質汚濁に係る要監視項目として公共用水域や地下水で指針値0.06 mg/L 以下に設定されている。水道法でも水質管理目標設定項目で目標値0.08 mg/L 以下(水道法では要検討項目にBBP が目標値0.5 mg/L, DBP 0.01 mg/L)に設定されている。そのほか海洋汚染防止法有害液体類に該当する。フタル酸アルキル(DEHP 等の例外を除いてアルキル基の炭素数が7 13)のもの及びBBP, DBP X 類に該当し、国連分類クラス9 の環境有害物質で、国連番号は3082、品名は「環境有害物質、液体、他に品名が明示されていないもの」ということで、輸送時には環境有害性のラベルが必要である。DEHP 等はY類に該当する。

また、生殖毒性等の懸念からEUEC 指令2005/84/EC)で玩具・育児用品への含有が禁止(規格値0.1 % 以下)されてその動きが広がっている(図表5)。日本では食品衛生法[厚生労働省告示第336 号(2010)]の中で玩具(6 歳未満)にEU と同様6 種のフタル酸エステルを使用禁止としている。食品容器包装でもDEHPを含有するポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂が使用禁止になっている(食品容器包装用樹脂への添加については欧米にもそれぞれ制限がある)。米国でもCPSIAConsumer Product Safety Improvement Act: 消費者製品安全性改善法:2008)で玩具や育児用品に対し同様の規制(規格値0.1 %)になっている。EU の電気電子製品のリサイクルに関連して重金属等の使用を制限するRoHSRestriction of Hazardous Substances)規制は、2015 年の改正で4 種のフタル酸エステルが追加され、製品全体ではなく部品や均一とみなせる部分の中で0.1 % 以下に制限された。成形品で0.1 % 以下というのは不純物として非意図的に含まれてしまうものと、意図的に添加したものとを区別するためである。EU の化学物質の総合的な登録、制限、認可の規制REACHRegistration, Evaluation, Authorization andRestriction of Chemicals)で附属書XVII の制限物質でフタル酸の分岐したC8-10, C9-11エステルを含め9物質の玩具への使用が制限され、さらに附属書XIV の認可対象物(認可された用途以外での使用が禁止)に14 物質が挙げられている。DEHP, BBP, DBP は食品や医薬品の包装用等他の法規制の制限範囲では適用が除外されている。DEHP, BBP, DBP, DIBPは内分泌撹乱作用も懸念される有害性に挙げられている。これらのEU 規制は製品への含有の規制なので、日本から直接輸出する際だけでなく、日本国内での販売であっても、それを使用した製品が最終的にEU に持ち込まれるときには規制の対象となるので注意が必要である。それで日本国内でも同様の規制ができたり、事業者間で規制物質の含有情報を伝達する仕組みが作られたりしている。

 

図表4 フタル酸エステルに関係する主な法規制

法律名 法区分 条件 DEHP BBP DBP DIBP DINP DIDP DNOP
化学物質審査規制法 優先評価化学物質 (66)
化学物質管理促進法 第1種指定化学物質

第2種指定化学物質

≧1% (355) (356) (354)  

(799)

(710)
労働安全衛生法 名称等表示物 ≧0.3% (481) (480の2) (479) (477の2)

名称等通知物 ≧0.1%
消防法 第4類引火性液体 四石 四石 三石 三石 四石 四石 四石
国連分類(国連番号) 9.環境有害物質(液体) 3082 3082 3082 3082
海洋汚染防止法 有害液体物質 Y(365) X(70) X(69) X(69) Y(368) X(68) Y(365)
大気汚染防止法 有害大気汚染物質 排気 (188) (190) (189)
作業環境許容濃度 日本産業衛生学会 (OEL) mg/m3 5 5
ACGIH TLV (TWA) mg/m3 0.1

Skin

5
水質汚濁防止法

水質環境基準

指定物質 (40)
要監視項目(公共用水域, 地下水) mg/L ≦0.06
水道法 水質管理目標項目 mg/L ≦0.08
要検討項目 目標値 mg/L 0.5 0.01
食品衛生法 食品用器具・容器包装ポジティブリスト(合成樹脂) (1320) (1322) (1316) (1311) (1309) (1310) (1313)

( )内の数値は政令番号 (化管法は2022年度分まで、2023年度から管理番号) 食品衛生法はポジティブリストの別表第12(添加剤)の通し番号

*: 四石:第四石油類、三石:第三石油類

 

図表5 主なフタル酸エステル類の製品への含有禁止(≦ 0.1%

法規制 DEHP BBP DBP DIBP DINP DIDP DNOP
EU

 

玩具指令(2005)*1 (○)*2
REACH ANNEX XVII(制限)*3
REACH ANNEX XIV(認可)*4
RoHS2(2015)*5
CPSIA(2008)*6 (○)
食品衛生法 玩具(2010) ○*7 ○*7 *7
食品衛生法 包装容器*10 *8 ○*9  

*1: DIRECTIVE 2005/84/EC
*2: DIRECTIVE 2009/48/EC
で「CLP規則:Regulation (EC) No 1272/2008で、発がん性、生殖細胞変異原生、生殖毒性(CMR)Category 1A, 1B, 2の物質は、玩具や玩具の構成部品に使用できない」としており、DIBPは生殖毒性 Category 1Bに分類されている。

*3: No. 51: DEHP, BBP, DBP, DIBPNo.52: DINP, DIDP, DNOP, フタル酸の分岐したC8-10, C9-11エステル。

No. 30は生殖毒性Category 1A, 1B, 2の物質が対象。Category 1BDEHP, BBP, DBP, DIBPの他、フタル酸のBis(2-methoxyethyl), Di-alkyl(C5, C6)エステル等が挙げられている。

*4: 認可対象にはこのほかフタル酸のBis(2-methoxyethyl), Di-alkyl(C5, C6, C6-8, C7-11, C6-10)エステルがある。

*5: DIRECTIVE 2011/65/EU Annex IIの改正指令。COMMISSION DELEGATED DIRECTIVE (EU) 2015/863

*6:Consumer Product Safety Improvement Act (消費者製品安全性改善法) Section 108  (16 CFR§1199.1 Children’s toys and child care articles: Phthalate-containing inaccessible component parts.) 諮問機関Chronic Hazard Advisory Panel (CHAP)DIBPのほかDi-n-pentyl phthalate, Di-n-hexyl phthalate, Di-cyclohexyl phthalateの子供用玩具及び育児用品に使用禁止を推奨している。

*7: 乳幼児の口に接触する可塑化樹脂

*8: 油脂及び脂肪性食品に接触する部分に使用してはならない。

*9: 生の肉に接触する部分に使用してはならない。

*10: 食品包装容器への使用可能な樹脂の中に、添加可能量が定められている場合がある。

 


6. 曝露などの可能性と対策

6.1 曝露可能性

フタル酸エステル類は液体であるが沸点が高く室温では引火や蒸気を吸入するおそれは低い。また急性的な影響は小さいので取扱い時の危険性はそれほど高くないと考えられる。フタル酸エステルで顕著な有害性は生殖毒性や長期的な曝露による肝臓や生殖器などへの影響である。急性影響が小さいと、曝露防止がおろそかになりやすいので注意が必要である。一般に懸念されているのは、従来それほど危険有害性が知られてなかったために日常生活に使用する製品の中に多く添加されていることである。つまり日常、化学物質を取扱っていない人が接している。可塑剤として使われていても樹脂との親和性が強く容易に溶けだすようなものではないが、樹脂物質と化学的に結合しているわけではないので全く溶けださないとは言い切れない。特に乳幼児が口にするおしゃぶりなどの育児用品や玩具では上記のような規制があり、日本玩具協会では検査合格品にST マークを付けている。

 

6.2 曝露防止

製品からの人の体内への移行を防止するためには、直接口の中に入れるとか長時間の接触は避ける。フタル酸エステルは水への溶解性は低いが油やアルコールなどには溶解するので、油やアルコール類を含む飲食品との接触を避ける。製品を製造する場合は代替物質への移行が考えられる。最近ではフタル酸エステルでない可塑剤も増加してきているが、代替品も類似の有害性を持っている可能性があるので、移行には注意が必要である。可塑剤不要の柔軟性のある樹脂もある。

 

6.3 廃棄処理

フタル酸エステルを含有する樹脂は焼却する。可燃性溶剤に溶解して少しずつ焼却するのもよい。そしてアフターバーナーで完全燃焼させる。フタル酸エステル自体は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)のみからなっているので完全燃焼すると二酸化炭素(CO2)になるが、フタル酸エステルを含む樹脂がポリ塩化ビニルのように塩素(Cl)を含む場合は燃焼ガスに有害な塩化水素(HCl)などが含まれるので、スクラバーで燃焼ガスから塩化水素等を回収し中和などの処理が必要である。製品に窒素(N)や硫黄(S)、リン(P)、臭素(Br)などの元素を含む場合も同様に燃焼ガスの清浄化が必要である。

 

免責事項:掲載の内容は著者の見解、執筆・更新時期の認識に基づいたものであり、読者の責任においてご利用ください。