第12回_デジタル製品パスポート対象と対応方法とは?
当社は川中の鉄、真鍮などの金属部品加工企業です。顧客からEUのデジタル製品パスポートについて、話がありますが、顧客にも教えたくないことが多々あります。デジタル製品パスポートの対応方法を教えてください。そもそも、金属の中間部品もデジタル製品パスポート対象になるでしょうか。
結論から申し上げますと、貴社が扱う「鉄、真鍮(銅合金)などの金属の中間部品」も、将来的にDPPの対象(データ提供を求められる対象)になります。
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1. デジタル製品パスポート(DPP)の対象
エコデザイン規則(Ecodesign for Sustainable Products Regulation:ESPR)(*1)第18条で、優先対象製品が規定されています。規定では、最終製品に組み込まれる素材(原材料)についても、サプライチェーン全体のCO2排出量(CFP)を把握するために優先指定されています。鉄やアルミニウムの中間部品もDPP対象となります。
(i)鉄鋼(iron and steel):製造時の排出量が極めて多いため、すべての製品の中で最も早く(委任法令の採択目標:2026年)規制化が進められています。
(ii)アルミニウム(Aluminium):自動車や建築、家電に広く使われる重要素材として指定。
2.DPP対応
EU委員会から2026年5月20日付FAQ(Digital Product Passport:Frequently Asked Questions )(*2)が発行されました。FAQによれば、川中企業にとっては、DPPに載る材料・部品・環境情報を期限内に正しく出せるか」です。DPPの作成・登録・正確性の一次責任はEUに上市する経済事業者にありますが、その事業者は上流・川中からのデータ提供なしでは対応できません。したがって、日本企業がEU向け取引を維持・拡大するには、品番体系、成分情報、トレーサビリティ、IT連携を整える必要があります。
3.DPP対応のポイント
(i)DPPの対象
DPPは製品群ごとの委任法令で要求された場合に義務化されますが、EU向け全部が即対象」ではなく、自社(顧客)品目が対象に入ると急に要求が具体化されます。2025年から2030年までの作業計画において優先的に取り組むべき製品は、エコデザイン規則(ESPR)第18条で鉄やアルミニウムを含めて次の11カテゴリが規定されています。
(a)鉄鋼:(iron and steel)
(b)アルミニウム:(aluminium)
(c)繊維製品(特に衣類およびフットウェア):(textiles, in particular garments and footwear)
(d)家具(マットレスを含む):(furniture, including mattresses)
(e)タイヤ:(tyres)
(f)洗剤:(detergents)
(g)塗料:(paints)
(h)潤滑油:(lubricants)
(i)化学物質 または 化学品:(chemicals)
(j)エコデザイン要件が初めて設定されるエネルギー関連製品、または本規則に基づき指令2009/125/ECに従って採択された既存の措置が見直される予定のエネルギー関連製品:(energy related products for which ecodesign requirements are to be set for the first time or for which existing measures adopted pursuant to Directive 2009/125/EC are to be reviewed under this Regulation)
(k)情報通信技術製品およびその他の電子機器:(information and communication technology products and other electronics)
鉄鋼とアルミニウムは、中間部品も対象となりますので、素材の情報を得る必要があります。
(ii)順法責任
EUに上市する経済事業者(製造者、輸入者、認定代理人、流通、fulfilment等)が主責任を負いますが、川中企業が名義人でなくても、データ供給責任は実質的に重いものがあります。
(iii)対象データ
循環性、構成、再生材、修理・再利用関連などですが、詳細は製品別ルールで決まります。仕様書や営業資料レベルでは足りず、機械可読で再利用可能な品質データが必要となります。
(iv)データ保管
EUレジストリは索引で、詳細データは事業者側・委託先で分散保管となります。自社または取引先のデータをインターネット上に保管・公開し、常にアクセスできる状態に保つデータホスティングや接続設計が必要となります。
(v) 識別・表示
製品は一意IDとデータキャリア(QR/NFC等、詳細は今後)で紐付されますので、品番、ロット、シリアル管理の粒度見直しが必要となります。
(vi)域外企業
EU域外製品でも、EU市場に入る製品がDPP対象製品ならDPP必要となり、日本企業も実質的にEUルール対応が必要となります。懸念される製品情報やものつくり情報は、EU当局に登録するのではなく、情報やデータは生産者が保有しています。
4.営業秘密の保護
(1) 営業秘密の保護規定
ESPR前文第74文節(Recital 74)で、「Trade Secrets」の保護について明確な意図が記載されています。「DPPの設計においては、営業秘密(Trade Secrets)や知的財産権の機密性を保護しつつ、データへのアクセスを可能にしなければならない(要約)」これを受けて、第10条(g)で、「 DPPに含まれるデータへのアクセスは、本条および第11条に規定される必須要件、ならびに第4条に従って採択された該当する委任法に規定される製品グループレベルでの特定のアクセス権に従って規制されるものとする。」と規定しています。DPPはアクセス者を識別し、特定のアクセス権によりDPPの情報が開示されることになります。
(2)技術的対応:スキャンから情報提供までの4つのステップ
(i) QRコードのスキャン(GS1 Digital Linkの読み取り)
ユーザー(消費者、税関、リサイクラーなど)が製品のQRコードをスマホや専用端末でスキャンします。このQRコードの中身は、「GS1 Digital Link」(*3)という世界共通のルールに則ったURL(Webリンク)になっています。URLに「製品の識別コード(GTINやシリアル番号)」が埋め込まれています。URLは、「A社の、この型番の、シリアル番号12345の商品」となっています。注:GTIN(Global Trade Item Number:国際取引商品番号)で、バーコードでお馴染みのJANコードなどです。
(ii)リゾルバ(案内所)(*4)へのルーティング
スキャンされたURLは、まず「リゾルバ(中継サーバー/案内所)」に送られます。
-リゾルバの役割は、交通整理です。
-リゾルバは、送られてきた「製品識別コード」を読み取り、「この製品のデータは、どの生産者の、どのサーバーに保管されているか」という正しい接続先(リンク先)を瞬時に判別します。
(iii)生産者(データスペース)へのアクセス
リゾルバによって正しい行き先へと案内され、生産者のデータ管理サーバー(またはデータスペース)にリクエストが届きます。
-ここで、システムは「誰がアクセスしてきたか(一般消費者か、税関か、リサイクラーか)」を認証技術で判別します。
-冒頭で解説したように、アクセスしてきた人の権限(立場)に応じて、生産者のサーバー側で表示するデータをフィルタリングします。
(iv)要求情報の提供(DPP画面の表示)
アクセス制限をクリアしたデータだけが、ユーザーの画面に引き渡されます。
-消費者の場合: 「リサイクル率」「製造国」などの一般向け公開ページが表示されます。
-税関の場合: 「法規制の適合証明書」などの行政向け機密ページが表示されます。
もし、QRコードに「特定のサーバーの住所」を直接書き込んでしまうと、将来的に生産者がシステムを引っ越したときに、世界中の製品のQRコードがすべてリンク切れ(404エラー)になってしまいます。間に「リゾルバ」という案内所を挟むことで、生産者は裏側のシステムやURLを自由に変更・アップデートできるようになります。これが、GS1 Digital Linkとリゾルバを組み合わせたDPPインフラの核となる仕組みです。一般消費者が税関になりすまして、不正アクセスすることへの対応も検討されています。税関や当局は、デジタル証明書やログイン権限が必要で、一般消費者はこの鍵を持たないため、公開されているロビー(消費者用データ)にしか入れない、という堅牢な設計になっています。
*1:ESPR
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1781/oj/eng
*2:FAQ
https://single-market-economy.ec.europa.eu/document/download/8748f8dc-3d48-4862-8153-e1165fb6be99_en?filename=Digital%20Product%20Passport%20-%20Frequently%20Asked%20Questions%20%28FAQ%29.pdf
*3:GS1 Digital Link
https://www.gs1jp.org/standard/gs1digital/gs1digitallink.html
https://www.gs1.org/standards/gs1-digital-link
*4:リゾルバ
https://www.gs1jp.org/standard/gs1digital/gs1digitallink_manga.pdf
