第8回_籠や置物などの生活雑貨品はEUREACH規則の「General Public」or「Consumer」?
EUの輸入者から籠や置物などの生活雑貨品の引合いがあり、要求仕様の順法リストにREACH規則が示されています。REACH規則を制限物質を確認したところ“General Public”と“Consumer”の規制があります。弊社製品は“General Public”と“Consumer”のどちらの規制対象になるのでしょうか。
EUの法規制では、「一般大衆(General Public)」と「消費者(Consumers)」は、それぞれ異なる文脈や法的保護の範囲で使用されます。基本的には、「一般大衆」は社会全体の人々を指す広義の概念であり、「消費者」は特定の取引関係において保護されるべき個人を指す狭義(法的)な概念です。REACH規則では、“General Public”と“Consumers”について、用語の定義をしていません。しかし、他の法令で定義があります。ご質問に関連する事項を整理します。
1.消費者 (Consumers) の定義
EUのGPSR(General Product Safety Regulation 一般製品安全規則)(REGULATION (EU) 2023/988)(*1)や消費者権利指令 (2011/83/EU)(*2)などの多くの法令で、消費者は非常に厳密に定義されています。
(1)GPSRの定義:‘consumer’means any natural person who acts for purposes which are outside that person’s trade, business, craft or profession.
「消費者」とは、自らの商売、事業、手職、または職業の範囲外の目的で行動するあらゆる自然人をいう。
(2)消費者権利指令の定義:Consumer Rights Directive(DIRECTIVE 2011/83/EU)
‘consumer’ means any natural person who, in contracts covered by this Directive, is acting for purposes which are outside his trade, business, craft or profession;
「消費者」とは、本指令の対象となる契約において、自らの商売、事業、手職、または職業の範囲外の目的で行動するあらゆる自然人をいう。
2.一般大衆 (General Public) の定義
「一般大衆」という用語は、特定の法律で一律の定義があるわけではなく、主に健康、安全、環境保護、またはデジタル規制の文脈で使用されます。特定の取引に関係なく、その規制の影響を受ける可能性のあるすべての個人(居住者、通行人、ユーザーなど)で、対象が広く、買い物をしていない人も含みます。REACH規則では、「一般大衆(General Public)」と「消費者(Consumers)」は、主に「誰がその物質にさらされるか(ばく露)」、「誰が情報を要求できるか」という文脈で使い分けられます。REACH規則のリスク評価は、ばく露シナリオを作成し、そのシナリオがカバーする範囲を記述子のカテゴリで明確にします。手順は、リスク評価ガイド R.12(情報要件および化学物質安全性評価に関するガイダンス 第R.12章:記述子システムの使用)(*3)で示されています。記述子のカテゴリは次です。
-SU (Sector of Use): 「どの業界か」(例:化学工業、建設業、一般消費者)
-PC (Product Category): 「何の製品か」(例:洗浄剤、接着剤、塗料)
-PROC (Process Category): 「どんな作業か」(例:閉鎖系での反応、スプレー塗装、手作業での混合)
-ERC (Environmental Release Category): 「環境への出し方」(例:工業サイトでの使用、広域分散使用)
-AC (Article Category): 「何の成形品か」(例:タイヤ、プラスチック容器)
ERCでは、以下のようなカテゴリになっています。
-ERC 11A:低放出を伴う長寿命成形品および材料の広範な屋内使用(Wide dispersive indoor use of long-life articles and materials with low release)
屋内使用における、使用期間中の成形品および材料の内側または表面に含まれる物質の低放出。
例:床材、家具、玩具、建設資材、カーテン、履物(フットウェア)、皮革製品、紙および段ボール製品(雑誌、書籍、新聞、包装紙)、電子機器(筐体)。
-ERC 11B:高放出または意図的放出を伴う長寿命成形品および材料の広範な屋内使用(Wide dispersive indoor use of long-life articles and materials with high or intended release)
屋内使用における、使用期間中の成形品および材料の内側または表面に含まれる物質の高放出または意図的放出。
例:洗濯中における布地・繊維製品(衣類、ラグマットなど)からの放出。
SUでは以下のようなカテゴリになっています。
SU 8,9:Manufacture of chemicals Manufacture of bulk, large scale substances (including petroleum products);manufacture of fine chemicals
化学品の製造:バルク品・大量製造物質(石油製品を含む)の製造、および精密化学品(ファインケミカル)の製造
SU 3:Industrial uses End uses of substances as such or preparations at industrial sites
工業的用途:工業現場における、物質そのものまたは混合物(調剤)の最終用途
SU10: Formulation [mixing] of preparations and/or re-packaging
調剤(現在:混合物)の配合[混合]および/または再包装
SU 21:Consumer uses Private households (= general public = consumers)
消費者用途:一般家庭(=一般大衆=消費者)による使用
SU 22:Professional uses Public domain (administration, education, entertainment, services, craftsmen)
業務用途:公共部門(行政、教育、娯楽、サービス業、職人等)による使用
SU21の説明のように、籠や置物などの生活雑貨品は、「General Public(一般大衆)」向け製品であり、かつ購入・使用する主体が「Consumer(消費者)」となります。そのため、両方の文脈の規制を同時に満たす必要があります。「一般大衆向けに販売される消費者製品(Consumer products for the general public)」として、最も厳しい制限値を遵守するのが実務上の対応となります。
3. 附属書XVII(制限)の「General Public」
REACH規則附属書XVII(制限リスト)です。 多くの有害物質(PAHs、フタル酸エステル、重金属など)は、「Supply to the general public(一般大衆への供給)」という言葉で規制されています。「貴社製品が一般のショップやECサイトで販売される場合、自動的に「一般大衆向け供給」とみなされます。特に14歳未満の子供が触れる可能性がある生活ではの場合、より厳しい制限値(例:PAHsの0.5mg/kg規制など)が適用される点に留意が必要です。
(1)「成形品(Article)」としての義務
籠や置物は「成形品」に該当するため、一般大衆へのリスク最小化に加えて、消費者からのSVHC含有に関する問い合わせ対応(第33条)が具体的な法的義務となります。
(2)「Professional Use」との対比
「もしその籠が「ホテルの備品専用」や「プロの装飾家専用」として販売される(Professional Use)のであれば、一般大衆向けの制限の一部が免除されるケースもあります。しかし、通常の生活雑貨として流通させる以上、一般大衆向けの基準遵守は必須です。
4.まとめ
一般大衆 (General Public)の対象は、貴社製品の使用者だけでなく、周囲にいる不特定多数の人が含まれます。規制の趣旨は、有害物質が社会に流通すること自体を阻止することで、対応としては「一般大衆向け販売禁止」の物質が含まれていないかを確認する必要があります。なお、消費者 (Consumer)は、製品を購入、または私的に使用する個人で、生産者・輸入者は、知る権利を保障し、安全な選択を支援するための情報伝達(REACH規則第33条)の義務があります。
引用
*1:GPSR
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/988/oj/eng
*2:消費者権利指令
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2011/83/oj/eng
*3:リスク評価ガイド R.12
https://echa.europa.eu/documents/10162/2324909/inforeq_csr_r12_en.pdf/fd0c17f5-e677-4faf-9464-f318fae48a9d
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。
<化学物質情報局> 化学物質管理の関連セミナー・書籍一覧 随時更新!
<関連セミナー>6月19日 REACH規則~そのポイントと最新動向~
<関連セミナー>7月29日 最新版REACH規則の基礎と実務対応のポイント
