第11回_気になるアメリカの州法 その3:ニューヨーク州法

1.NY州の環境規制の特徴

ニューヨーク州(NY州)の環境規制は、カリフォルニア州と並んで全米で最も進歩的かつ厳格な「全米のリーダー」的な性格を強めています。特徴的な環境規制法は以下のように多面にわたっています。

(1)気候変動・排出量開示

(i)気候リーダーシップ・コミュニティ保護法 (CLCPA)
CLCPA (*1)は、NY州の脱炭素戦略の根幹となる法律です。2050年までのネットゼロ達成に向けたロードマップ「Scoping Plan」の全文や、進捗状況が公開されています。法典(ECL Article 75)(*2)に排出削減目標や「環境正義(投資の40%をDAC(環境汚染の被害を歴史的に受けてきた、経済的に脆弱な地域)に向ける)に関する法的根拠が記されています。

(ii)気候企業データ責任法案 (Climate Corporate Data Accountability Act / S897)
S897(*3)は、前年度の総収入が10億ドルを超える企業を対象とした排出量開示要求法案です。規制内容は、スコープ1・2(2026年度分〜)およびスコープ3(2027年度分〜)のGHG排出量開示、および第三者認証の義務化について規定しています。
基準書は「世界資源研究所(WRI)」と「持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)」により開発された「温室効果ガスプロトコル」(Greenhouse Gas Protocol)です。

コーポレート基準(Scope 1 & 2)(*4-1): 企業の排出量算定の基本となる基準です。
Scope2 ガイダンス(*4-2): 購入電力などの算定に関する詳細ルールです。
Scope3 基準(バリューチェーン基準)(*4-3): サプライチェーン全体の算定に関する基準です。
Scope3 算定技術ガイダンス(*4-4): 15のカテゴリごとの具体的な計算手法を解説した文書です。

(2) 経済的手法(キャップ・アンド・インベスト)

NY Cap-and-Invest (NYCI)(*5)は、排出枠の価格付けにより削減を促す制度です。

(3)化学物質・PFAS規制

PFASの「網羅的」な制限をしており、NY州環境保護局(DEC)が製品カテゴリ別に禁止措置を拡大しています。

(i)衣類(Apparel): DEC – PFAS in Apparel Law(*6)
2025年1月から一般衣類、2028年から極寒・荒天用衣類へのPFASの意図的添加を禁止。

(ii)食品包装(Food Packaging): DEC – Food Packaging Law (ECL 37-0203) (*7)
紙、板紙などの植物繊維をベースとした食品包装へのPFAS添加禁止。

(iii)カーペット・敷物: DEC – Carpet Collection Program & PFAS Ban(*8)
2026年7月1日からカーペット生産者にニューヨーク州消費者が無料利用できる便利なカーペット回収プログラムへの資金提供の義務化。

(4) サーキュラーエコノミー・表示規制

(i)修理する権利 (Digital Fair Repair Act NY State Senate Bill S1320 )
S1320(*9)で2023年7月以降にNY州で製造・販売されたデジタル電子機器を対象に、メーカーが診断ツールや修理部品を「公正かつ合理的な条件」で提供することを義務付けています。

(ii)リサイクル表示の適正化(Chasing Arrows規制)
NY State Senate Bill S1400A (Packaging Reduction)(*10)により、 「メビウスループ」の使用を、実際に州内でリサイクル可能な製品に限定する「Truth in Labeling(表示の真実性)」に関する法案です。NY州の環境規制は、EUに近い考え方であり、DECのコミッショナー政策59 / 環境監査インセンティブ政策(Commissioner Policy 59 / Environmental Audit Incentive Policy)で、EMS(Environmental Management Systems)(*11)を要望しています。この EMSは、EUではCAS(Compliance Assurance System:順法システム)と言われているものです。仕組み(Systems)で、順法保証する考え方です。NY州の規制は、NY州環境保護局 (NYSDEC) の「Regulations」ページ(*12)で、法制化前のパブリックコメント募集段階から追跡することが可能です。

2.パッキングピーナッツ規制の動向

日本企業が対応すべき、製品規制法で気になる州法がパッキングピーナッツ規制です。正式には、NY州統合法第43章-B(環境保全)第27条(固形廃棄物の削減、収集、再利用、リサイクル、処理および処分)タイトル27(プラスチック袋の削減、再利用、リサイクル)タイトル30(発泡スチレン容器および発泡スチレン製緩衝材の禁止)のセクション27-3001~3009(*13)の規定です。パッキングピーナッツとは、規制上の名称はポリスチレン・ルーズフィル(Polystyrene Loose Fill)で、「段ボールの中で製品が動かないように詰め込まれる発泡スチロール製のバラ状の緩衝材」のことです。

(1)規制の概要

規制は品目によって開始時期が異なります。

(i)2022年1月1日より禁止済み
-使い捨て食品容器:飲食店等で使用される使い捨てのカップ、ボウル、プレート、持ち帰り用容器等。
-パッキングピーナッツ: 梱包に使用されるバラ詰めの発泡スチレン製品。

(ii)2026年1月1日より開始
-冷蔵保管用容器:クーラーボックスやアイスボックスなど、冷蔵用に設計された容器。ただし、耐久性の高い容器に完全に封入・包装されているものは除きます。

(iii)規制の背景と目的
発泡スチレンの使用を禁止する主な理由は、環境および社会への深刻な影響にあります。
-環境汚染の防止: 軽量で壊れやすく、自然界で分解されにくいため、マイクロプラスチック汚染の大きな原因となります。
-リサイクルの困難さ: 市場価値が低く、リサイクルプログラムでの受け入れが難しいため、多くが廃棄物となります。
-持続可能な代替案への移行: 再利用可能、あるいは堆肥化可能な代替製品の普及を促進します。
-リサイクル可能ながら誰もやりたがらない素材:「民間リサイクル市場が成立しない素材(=価値が低い素材)を使い続けることは、州の廃棄物処理コスト(税金)を増大させるだけである」と判断しました。その結果、「リサイクルを促進する」のではなく「使用自体を禁止する」という強硬な手段を選んだのです。

(iv)対象となる組織・事業者
以下の主体による対象製品の販売、販売の申し出、および配布が禁止されます。
-食品サービス提供者(飲食店など)
-小売店および卸売店
-製造業者

(V)規制の適用外(免除規定)
以下の項目については、本州法の禁止対象から除外されます。
-食品関連:店外での調理を目的とした生の肉、魚介類、鶏肉などの容器、および店舗に届く前に密封済みの包装済み食品。
-素材特性:発泡させていない硬質ポリスチレン樹脂。
-地域規定:ニューヨーク市のように独自の禁止令を持つ人口100万人以上の都市、および州法と同等以上の規制を設けている郡。
-医療・科学用途(2026年以降): 医薬品、医療機器、生物学的製剤、微生物培養などの輸送に使用される特定の容器。

(2)論点

パッキングピーナッツ規制は、食品用途だけでなく、電気電子機器用途も対象です。この論点を整理します。

(i)法規制の定義の確認
-第27-3001条 定義
「製造業者」とは、州内で販売、販売のための提供、または配布(sold, offered for sale, or distributed in the state.)が行われるポリスチレン製緩衝材(ルーズフィル包装)、または、より耐久性の高い容器内に完全にカプセル化もしくは封入されていない保冷用として設計もしくは意図された発泡ポリスチレン製容器を製造または輸入するすべての個人、会社、または法人をいう。

-第27-3003条 発泡ポリスチレン製食品容器およびポリスチレン製緩衝材の禁止
1. (a) 2022年1月1日以降、州内において、対象となる飲食サービス提供者または店舗は、発泡ポリスチレンを含む使い捨て飲食サービス容器を販売し、販売のために提供し、または配布してはならない。
(b) 2022年1月1日以降、州内において、製造業者または店舗は、ポリスチレン製緩衝材(ルーズフィル包装)を販売し、販売のために提供し、または配布してはならない。
(c) 2026年1月1日以降、州内において、対象となる飲食サービス提供者、製造業者または店舗は、より耐久性の高い容器内に完全にカプセル化または封入されていない発泡ポリスチレン製容器であって、保冷用として設計または意図されたもの(クーラーボックスおよびアイスチェストを含むが、これらに限定されない)を販売し、販売のために提供し、または配布してはならない。

(ii)論点
パッキングピーナッツ規制法の第27-3003条からは、「飲食サービス提供者または店舗」の食品容器などの規制法のように見受けられます。例えば、日本企業が電気電子機器製品にパッキングピーナッツを緩衝材として段ボールに入れて、NY州の輸入者に送る場合に、第27-3003条が適用されるかという点を確認してみます。結論は、第27-3003への違反となる可能性が極めて高いと思われます。

(a)適用範囲:第27-3003条の1(a)と1(b)の義務者は次のようになっています。
(a) 2022年1月1日以降、州内において、対象となる飲食サービス提供者または店舗は、・・(以下略)
(b) 2022年1月1日以降、州内において、製造業者または店舗は、・・(以下略)

(a)は「飲食サービス業」に特定されていますが、(b)は「製造業者または店舗」で業種は特定されていません。また、定義により「製造業者」には、輸入者が含まれます。

(b)「配布(Distribute)」の定義:第27-3003条では、パッキングピーナッツの「販売」だけでなく、「配布(Distribute)」も禁止しています。従って、製品(電気機器)の保護を目的として箱に詰め、それを顧客や取引先に届ける行為は、法律上の「配布」にあたります。また、緩衝材自体に値段がついていなくても、荷物の中に入れてニューヨーク州内の受取人に届けること自体が、州内への「流通(Distribution)」とみなされます。

(c)電気電子機器メーカーへの適用:DECのWebページ(*14)では、以下のように明記されています。

What is Prohibited?
“No person shall sell, offer for sale, or distribute polystyrene loose fill packaging (commonly referred to as packing peanuts) in the state.”
(州内において、何人もポリスチレン・ルーズフィル・パッケージング(一般にパッキングピーナッツと呼ばれる)を販売、販売の申し出、または配布してはならない)

ここには「食品用」という限定がありません。したがって、パソコン、カメラ、産業用センサーなどの電気機器を日本から送る際に、隙間埋め材として発泡ポリスチレン製のピーナッツを使用することは明確に禁止事項となります。

(d) 輸入者への影響:もし日本からパッキングピーナッツ入りの段ボールが届いた場合、現地の輸入者はNY州内ではEPS(発泡ポリスチレン)の処理・リサイクルが厳しく制限されており、受け取った側がその処分に困ることになります。

(iii)対策

NY州向けの出荷に関しては、パッキングピーナッツを以下の代替品に切り替えることになります。
-紙製緩衝材: クラフト紙を丸めたもの(最も一般的で安価)。
-生分解性ピーナッツ: トウモロコシやデンプンから作られたもの(水に溶けるタイプ)。これらは「ポリスチレン製」ではないため、規制対象外です。
-エアピロー: ビニール製の空気緩衝材(ポリスチレンではないため、現在のところは規制対象外)。
-成形緩衝材: 段ボールの型や、パルプモールド、または(ピーナッツ状ではない)成形された発泡スチレンブロック。

3.ERP制度 包装材削減・リサイクルインフラ法案(Packaging Reduction and Recycling Infrastructure Act / S1464・A1749)の動向

NY州で審議されているS1464(上院法案)(*15)・A1749(下院法案)(*16)は、カリフォルニア州のSB54と並んで野心的なEPR(拡大生産者責任)法案の一つと言われています。

(1)S1464/A1749の要旨

この法案の最大の特徴は、単なる「リサイクルの促進」に留まらず、「包装材の絶対量の削減」に重きを置いている点です。

(i)対象者:NY州内で包装材を使用した製品を販売する「生産者」(通常はブランドオーナー)。ただし、小規模事業者(年商500万ドル未満など)には免除規定があります。
(ii)生産者責任組織(PRO)への加入:生産者はPROに加入し、包装材の管理・処理費用のための「拠出金」を支払う義務があります。
(iii)削減義務(Reduction Targets):施行から一定期間(例:12年以内)で、包装材の重量を50%削減することを義務付けています(これは全米でも極めて厳しい基準です)。
SB54は「2032年までにプラスチック包装の25%削減」ですので、より厳しい目標です。また、SB 54は主に「プラスチック」に焦点を当てていますが、S1464/A1749は「あらゆる素材(紙、ガラス、金属含む)の包装材」の総重量を減らすことを求めています。
(iv)リサイクル可能性の定義: 「単に技術的に可能」ではなく、実際に州内のインフラで回収・処理され、一定の市場価値があるもののみを「リサイクル可能」とみなします。
(v)毒性物質の禁止: PFAS(永遠の化学物質)、鉛、水銀、カドミウム、特定のフタル酸エステルなどの包装材への使用を禁止します。

(2)新たなリサイクル方式

プラスチックのリサイクル方式で、新たな方式が出てきました。

(a)ケミカルリサイクル(化学的再生):プラスチックを化学反応で分子レベルまで分解し、原料(油やガス)に戻してから新しいプラスチックを作る方法です。
(b)高度なリサイクル(アドバンスド・リサイクル):最近使われる言葉で、「ケミカルリサイクル」とほぼ同じ意味ですが、従来の手法では難しかった「ゴミを資源(原料)に完全にリセットする」高度な技術を指します。
(c)マスバランス方式(物質収支方式):再生原料と石油由来の原料を混ぜて製品を作る際、「再生原料を投入した分だけ、特定の製品を「100%再生品」として割り当てる」計算上のルールです。
これは、工場(再生プラント)では、再生原料だけを完全に分けて製造するのが難しいため、全体量で管理することで、実質的にリサイクルを促進させる狙いがあります。工場で「石油由来の原料」と「廃プラ由来の油(リサイクル原料)」を混ぜて製品を作っても「投入したリサイクル原料の分だけ、特定の製品を「リサイクル品」として販売して良い」というルールです。

(3)マスバランス方式の論点

アメリカでは、「高度なリサイクル」を「製造業」として定義し、廃棄物焼却規制の対象外とする動きがあります。高度なリサイクル(熱分解・ガス化など)を行う施設を、固体廃棄物管理法上の「処理施設(Disposal/Processing Facility)」の定義から完全に除外し、廃棄物焼却炉(Incinerator)としての厳しい排出基準ではなく、通常の「化学製造プラント(Chemical Manufacturing)」としての環境基準が適用されるようになります。これにより、全米で高度リサイクル投資が一気に加速します。

「高度なリサイクル」で作った再生原料は、工場のタンクの中で石油由来の原料と混ざってしまいます。これらを物理的に分けるのは不可能なため、「投入した量に応じて、製品にリサイクル分を割り当てる」という管理ルールの「マスバランス方式」が求められました。「マスバランス方式」は、たとえば、10リットルの「リサイクル油」と90リットルの「新しい石油」を混ぜて、合計100個の製品を作ったとします。このとき、投入したリサイクル油の量に合わせて、「この10個は100%リサイクル品です」と認めて販売できるのが、この仕組みのルールです。この計算方法があることで、メーカーは膨大なコストをかけて専用のラインを新しく作らなくても、既存の設備を動かしながら効率よくリサイクル素材を広めていくことができます。一方、環境団体も「マスバランス方式」への不信感から書類上のトリック(Paper trick)と批判しています。

(i)「リサイクルの嘘」物理的な実態がない
(ii)実際にはほとんどリサイクルされていないのに、イメージだけを利用している」というものです。
(iii)燃焼の隠蔽:「ケミカルリサイクル」と呼びつつ、実態はプラスチックをガスや油に変えて「燃料」として燃やしているだけ(サーマルリカバリー)であって、「循環」ではなく「焼却」の言い換えに過ぎないという主張です。
(iv)低すぎる歩留まり:投入した廃プラのうち、実際に新しいプラスチックに戻る割合(収率)が極めて低い(数%程度)場合、それを「リサイクル成功」と宣伝するのは誇大広告であると批判されます。
(v)物理的な不在:「このボトルは再生材50%」と書いてあっても、そのボトルの中に再生分子が1つも入っていない可能性がある点について、「消費者を欺いている」と主張されます。
(vi)「生産拡大の正当化」(根本原因からの目をそらし):本質的な批判で、リサイクル技術を強調することで、「プラスチックを減らす(リデュース)」という最も重要な議論を封じ込めているという主張です。

NY州は、マスバランス方式に対して非常に厳しい姿勢をとっています。
(i)「リサイクル」の定義からの除外: NY州の法案では、熱分解(Pyrolysis)やガス化などのケミカルリサイクルを、リサイクルではなく「廃棄物処理(燃焼)」の一種とみなす傾向があります。
(ii)マスバランスへの不信感: 物理的に再生プラスチックがその製品に含まれていることを証明できない「帳簿上の割り当て(マスバランス)」は、消費者への誤導(グリーンウォッシュ)であると主張しています。
(iii)素材の純粋性重視: NY州は、素材を物理的に分離・回収する「マテリアルリサイクル」を最優先しており、ケミカルリサイクル由来の素材をEPRの削減目標達成にカウントすることを認めていません。

4. マスバランス方式を巡るグローバルな潮流

連邦レベルのEPR(拡張者責任)制度は存在しませんが、幾つか提案はされています。次の2法案は、超党派で提案されていますので、議会で採択され、大統領の署名まで行く可能性のあり、注目されています。プラスチック資源循環の鍵を握る技術として「ケミカルリサイクル(高度リサイクル)」と、その含有率を証明する「マスバランス方式(が世界的に注目されています。米国やEUでは、これまでの「廃棄物処理」という概念を「素材製造」へと転換させる画期的な法案や規則の整備が加速しています。

(1) Recycling Technology Innovation Act (リサイクル技術革新法案:H.R. 6566)

2025年末に米国連邦下院へ提出された「リサイクル技術革新法案(H.R. 6566)」(*17)は、ケミカルリサイクルの法的地位を大きく変える可能性があります。H.R. 6566の最大のポイントは、ケミカルリサイクルを従来の「廃棄物焼却(処分)」の枠組みから切り離し、「素材製造(生産)」プロセスとして再定義することにあります。具体的には、大気浄化法(CAA)などを改正し、以下の変更を目指しています。

(i)焼却施設定義からの除外:熱分解やガス化、溶媒抽出などの技術を用いる施設を、厳しい規制がかかる「固体廃棄物焼却設備」の定義から正式に除外します。
(ii)製造プロセスへの移行:廃プラスチックを分子レベルの原料(フィードストック)に変換する工程を、化学品や素材を生産する「製造」と位置づけます。
(iii)「製品」の認定基準(50%ルール):出力物のうち、質量ベースで50%以上が工業原料や消費者向け素材などの「製品」として販売・利用される場合、その施設を製造施設として認定します。ただし、発電や熱供給、残渣(スラグ)などはカウントに含まれません。これにより、固体廃棄物焼却施設に適用される排出基準が一般的な製造工場向けのものへと合理化され、許認可の迅速化と運営コストの大幅な削減が期待されています。

(2)リサイクル材料属性法(Recycled Materials Attribution Act (RMAA) (H.R. 7502))

2026年2月12日には、超党派によって「リサイクル材料属性法(RMAA)」(*18)が提出されました。この法案は、全米でバラバラに運用されている「リサイクル素材使用」の表示基準を連邦レベルで統一することを目的としています。業界団体Recycling Leadership Council(RLC)などの解説(*19)によると、RMAAの主なポイントは以下の通りです。

(i)連邦統一基準の確立:カリフォルニア州やニューヨーク州など、州ごとに異なる独自の基準を連邦政府による統一定義に置き換えます。これにより、企業は全米共通のパッケージデザインを展開できるようになります。
(ii)マスバランス方式の公認:ケミカルリサイクルにおいて、投入した廃プラ量と製品量を計算で割り振る「マスバランス方式」を連邦法として正式に承認します。
(iii)第三者認証の導入:グリーンウォッシングを排除するため、政府認可の第三者機関による認証システムを構築し、消費者からの信頼を高めます。
(iv)DAC「グリーンガイド」の更新義務化: 環境広告の指針であるグリーンガイドを更新させ、ケミカルリサイクルやマスバランス方式を「適切な広告」として国が正式に認めるルール作りを推進します。

(3) FTCグリーンガイド更新と実効性の担保

環境広告の適正化を担う連邦取引委員会(FTC)の「グリーンガイド」においても、実態に即した厳格な運用が検討されています。
(i)「リサイクル可能」の定義厳格化:単に技術的に可能であるだけでなく、実際に60%以上のコミュニティで回収・処理できる設備があるかといった「アクセスの実証」が求められるようになります。
(ii)マスバランス方式の承認と透明性:マスバランスを広告表示の根拠として認める一方で、消費者が「物理的にリサイクル材が全量入っている」と誤解しないよう、適切な注釈や第三者認証の活用を推奨します。
(iii)PCRとPIRの区分:消費者使用済み再生材(PCR)と、製造工程の端材などを再利用した産業用再生材(PIR)を明確に区別し、サプライチェーンでの二重計上を防止する体制が重視されます。

(4)法解釈の変化とテキサス州法の先行事例

これらの連邦法案が成立すれば、ケミカルリサイクルは「ゴミ処分」から、石油に代わる「持続可能な原料」を作る戦略的産業へと格上げされます。連邦法案のモデルとなったのが、先行して施行されているテキサス州法の「熱分解またはガス化を通じたプラスチックおよびその他の回収可能材料の転換に関する法」((Relating to the conversion of plastics and other recoverable materials through pyrolysis or gasification. (HB1953))(*20)で、テキサス州におけるケミカルリサイクルの法的地位を決定づけた「革命的」な規制緩和策です。同法は熱分解やガス化だけでなく溶媒分解(ソルボリシス)なども「高度リサイクル」に含め、マスバランス方式とISCC PLUSなどの第三者認証を州法で正式に認めました。連邦法案の運用においてもこのテキサス州の「革命的」な規制緩和策が大きく影響すると見られています。

(5) 国連プラスチック条約交渉への波及

米国における「製造業への再定義」と「マスバランス方式の法制化」は、国連プラスチック条約(INC)の交渉にも大きな一石を投じています。

(i)「生産制限」対「技術による循環」: プラスチックの生産量そのものを制限しようとする動きに対し、米国はリサイクル技術による「素材の循環(Circular Manufacturing)」で解決できるという主張を強めています。
(ii)国際標準の主導権争い: 米国はバイオマスやリサイクル由来の原料(サーキュラー原料)を用いた製品が、サプライチェーン全体で持続可能であると証明する国際認証制度の「ISCC PLUS認証」などの民間認証に基づくマスバランス方式を国際標準とすることを主張しています。これは、EUが進めるデジタル製品パスポート(DPP)などの算定基準との間で、定義や透明性のあり方を巡る議論を加速させています。

(6)EUにおけるマスバランス方式の厳格な導入

EUにおいてもマスバランス方式の導入に向けた具体的な動きがあります。2026年2月、使い捨てプラスチック(SUP)指令(*21)に関連し、再生プラスチック含有量の算定・検証に関する「実施規則案」(*22)が公開されました。この規則案では、ケミカルリサイクルにおける再割当てルールを法制化していますが、その内容は米国よりも厳格です。

(i)燃料用途や副産物をリサイクル率から除外する。
(ii)施設間でのクレジット移転を禁止する。
(iii)最大3ヶ月単位での計算と、宣言書の5年間保管を義務付ける。

H.R. 6566より厳格なルールですが、EUもマスバランス方式を導入するもので注目されます。

化学物質法規制研究会 松浦技術士事務所 松浦 徹也 氏

引用
*1:CLCPA
https://climate.ny.gov/
*2:ECL Article 75
https://www.nysenate.gov/legislation/laws/ENV/A75
*3:S897
https://www.nysenate.gov/legislation/bills/2023/S897
*4-1:コーポレート基準(Scope 1 & 2)
https://ghgprotocol.org/corporate-standard
*4-2:Scope 2 ガイダンス
https://ghgprotocol.org/scope-2-guidance
*4-3:Scope 3 基準
https://ghgprotocol.org/standards/scope-3-standard
*4-4 :Scope 3 算定技術ガイダンス
https://ghgprotocol.org/scope-3-calculation-guidance-2
*5:NYCI
https://capandinvest.ny.gov/Pre-Proposal-Regulations
*6:DEC – PFAS in Apparel Law
https://dec.ny.gov/environmental-protection/help-for-businesses/pfas-in-apparel-law
*7:ECL 37-0203
https://dec.ny.gov/environmental-protection/recycling-composting/businesses/pfas-in-food-packaging
*8:Carpet Collection Program & PFAS Ban
https://dec.ny.gov/environmental-protection/recycling-composting/carpet
*9:S1320
https://www.nysenate.gov/legislation/bills/2023/S1320
*10-1:S1400A
https://www.nysenate.gov/legislation/bills/2023/S1400
*10-2:参考(DEC): Recycling & Labeling Guidance
https://dec.ny.gov/environmental-protection/waste-management/recycle
*11:Commissioner Policy 59
https://dec.ny.gov/regulatory/guidance-and-policy-documents/environmental-permits/commissioner-policy-59
*12:NY州の規制
https://dec.ny.gov/regulatory/regulations
*13:パッキングピーナッツ規制
https://www.nysenate.gov/legislation/laws/ENV/A27T30
*14:DECのWebページ
https://dec.ny.gov/environmental-protection/recycling-composting/go-foam-free
*15:S1464
https://www.nysenate.gov/legislation/bills/2025/S1464
*16:A1749
https://assembly.state.ny.us/leg/?default_fld=%0D%0A&leg_video=&bn=A1749&term=2025&Summary=Y&Memo=Y
*17:H.R. 6566
https://www.congress.gov/bill/119th-congress/house-bill/6566/text
*18:RMAA
https://www.congress.gov/bill/119th-congress/house-bill/7502
*19:Recycling Leadership Council (RLC)
https://www.recyclingleadershipcouncil.org/news/introduction-of-the-recycled-materials-attribution-act
*20:HB1953 Bill Text Enrolled
https://capitol.texas.gov/BillLookup/History.aspx?LegSess=86R&Bill=HB1953
*21:SUP指令
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2019/904/oj
*22:SUP実施規則案
https://ec.europa.eu/transparency/comitology-register/screen/documents/113092/1

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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