第9回_US TSCAのPFAS報告義務の開始日延期を告示

2026年4月8日にEPA(アメリカ環境保護庁)は、PFAS報告期間の開始を延期する最終規則(Final Rule)決定しました(官報掲載および発効は4月13日付)(*1)。報告期間の開始日は、以下のいずれか早い方となります。

(i)2027年1月31日
(ii)今後予定されている「実質的要件に関する最終規則」の発効日から60日後

「いずれか早い方」であるため、実質的要件の改正ルールが2027年1月より前に確定すれば、その60日後が開始日となります。今回の延期は、2025年11月に提案された「PFAS報告規則の改正案」に対する膨大なパブリックコメントを慎重に検討・精査するための時間を確保することが主な理由です。

PFAS報告の開始日が度々変わり、当初の目的が忘れがちになっていますので、前回コラムカリフォルニア州法の続編を掲載する前に、改めて経緯を整理します。

1. Biden TSCAによる報告義務の目的

1.1 PFAS戦略ロードマップ:EPAの行動へのコミットメント(2021年~2024年)

2021年10月にEPAがBiden政権のPFAS対策の「基本設計図」となる「PFAS戦略ロードマップ(PFAS Strategic Roadmap: EPA’s Commitments to Action 2021-2024)」(*2)発表しました。このロードマップは、EPAのPFAS対策を以下の3つの戦略的柱に分類して定義しています。

(i) Research(研究): PFASの毒性や環境中での挙動を解明する。
(ii) Restrict(制限): PFASが環境中にこれ以上放出されないよう、先制的に規制する。
(iii) Remediate(浄化): すでに汚染された場所を特定し、浄化を進める。

この「(ii)Restrict(制限)」の目標を達成するための最初のステップとして、EPAは「何が、どこで、どれくらい製造・輸入されているかを知らなければ、効果的な制限はできない」と判断しました。そのために、TSCA(有毒物質規制法)という強力な法的ツールを用いて、PFASの全容を可視化するデータ収集ルール(Section 8(a)(7))を策定したのです。
ロードマップにより、EPAは「TSCAに基づくデータ収集の強化」を最優先事項として掲げ、2023年10月に報告規則を正式に公布しました。ロードマップという「国家戦略」があることで、EPAは産業界からの反発が予想されるような厳格な報告ルールであっても、「これは科学的根拠に基づいた国家戦略の一部である」という強い大義名分を持って推進することを狙ったものです。

Sec.8(a)(7)(US CODE§2607) 情報の報告および保持(注)
(a) 報告 (7) PFASデータ
— 管理官は、2023年1月1日までに、本項に従い、2011年1月1日以降の各年においてパーフルオロアルキル化合物またはポリフルオロアルキル化合物である化学物質を製造した各者に対し、2011年1月1日以降の各年について、第(2)項のサブパラグラフ(A)から(G)までに規定される情報を含む報告書を管理官に提出することを義務付ける規則を制定しなければならない。
第(2)項のサブパラグラフ(A)から(G)(要約記述):EPA長官は、報告を行う者が知り得た範囲、または合理的に確認可能な範囲において、第(1)項に基づき、以下の事項に関する記録の保持および報告を義務付けることができる

(A) 物質の特定:化学物質のアイデンティティ。
(B) 用途区分:使用目的の分類。
(C) 製造・加工量:物質のボリューム(実数値と予測値)。
(D) 副生成物:意図しない生成物の情報。
(E) 影響データ:環境・健康への有害性。
(F) 労働者ばく露:職場における人への影響。
(G) 廃棄方法:出口管理。

日本の政省令に相当する規則は、連邦規則集(Code of Federal Regulations CFR)(ネットCFRはe-CFRと呼称)に収載されています。TSCAの規則は、“Title 40 /Protection of Environment/Part / Section/Chapter I/Environmental Protection Agency/1 – 1099/Subchapter RToxic Substances Control Act”(*3)で確認できます。PFAS報告に関する規則は、Part705(§705)に収載されています。この規則の改定案が度々提案されています。

PFAS報告義務の最終規則(2023年10月公布)のBiden EPAの意図は、「PFASの「何が、どこで、どのように使われているか」という全貌を、国家レベルで解明し、健康被害を防ぐための規制基盤を完成させること」にありました。以下の3つの戦略的な意図に基づいて設計されています。

(i)データの「空白」を強制的に埋める(網羅的把握)
PFASは「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」と呼ばれ、非常に多岐にわたる製品に使われていますが、その全体像(供給量、用途、廃棄方法など)を政府として把握できていませんでした。Biden EPAの論理は、「どの企業が何を作っているか不明なままでは、適切な排水規制や土壌汚染対策は打てない」として、 企業に対し、2011年まで遡っての報告を義務付けることで、これまでのPFASの使用履歴と現状を強制的に可視化しようとしました。

最大の焦点は「アーティクル(成形品・製品)」への報告義務付けです。これまでの化学物質規制は、通常、原材料メーカーが主体でしたが、本規則はサプライチェーンの「ブラックボックス」となっている「製品を輸入・販売する最終製品メーカー」までを対象に入れました。Biden EPAは「完成品に含まれるPFASが、使用・廃棄段階でどのように環境中に放出されているかを知るには、サプライチェーンの最終段階まで透明性を確保する必要があると考えました。 これにより、原材料メーカーだけでなく、自動車、電子機器、衣料品などのサプライヤーに対し、自社製品に含まれるPFASの特定を強く求めました。このデータ収集は、単なる統計作成ではありません。

Biden EPAは、「特定のPFAS物質を制限(禁止)する際、その代替手段があるのか、経済的影響はどれくらいかという「インパクト分析」が必要になるとし、網羅的なデータがあれば、将来、特定のPFASを規制しようとした際に、産業界に対する影響を科学的エビデンスに基づいて予測・管理できると考えました。

注:TSCAはEPAが所管庁で、法案段階から関与し、EPA TSCAとしてSec.1~30で構成されています。Sec.1 “SHORT TITLE; TABLE OF CONTENTS.” は、“(a) SHORT TITLE.—This Act may be cited as the ‘‘Frank R. Lautenberg Chemical Safety for the 21st Century Act’’. (b) TABLE OF CONTENTS.—The table of contents of this Act is as follows:”で、改定法案の略称と条項目次で、採択後に削除されました。
連邦法典(US CODE)のTitle 15 – COMMERCE AND TRADE CHAPTER 53 – TOXIC SUBSTANCES CONTROLに収載するときに、EPA TSCAの、Sec.2を§2601としています。

1.2 PFAS報告規則

PFAS報告規則は§705(特定のパーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質に関する報告および記録保持要件)(*4)に規定されています。報告時期は、§ 705.20(報告時期)で以下としていました。

(i)情報を提出するすべての報告者:2024年11月12日から2025年5月8日まで
(ii)成形品の輸入業者及び小規模製造業者(年間売上高が1億2,000万ドル未満など): 2024年11月12日から2025年11月10日まで

報告対象のPFASの定義は、§705.3で次を特定しています。
(i)R-(CF 2 )-CF(R′)R″、ここでCF 2とCF部分は両方とも飽和炭素である。
(ii)R-CF 2 OCF 2 -R′、ここでRおよびR′はF、O、または飽和炭素のいずれかである。
(iii)CF 3 C(CF 3 )R′R″、ここでR′とR″はFまたは飽和炭素のいずれかである。

化学物質に対する知見が少ない成形品製造者や輸入者に該非の判断を助けるために、例示リストやFAQが度々公開されました。報告の背景は、TSCA第5条(製造及び加工の届出)で製造前に届出が要求されますが、事前にEPAの承認による少量免除(10トン以下)、R&D(研究開発)免除や副生成物・不純物免除などがあり、TSCAインベントリに収載されていない化学物質が存在していることによります。例示リストは、少量免除やEPAの専門家が調査したPFAS物質をリストしました。

2.トランプTSCAによる報告義務の緩和

2.1 基本な考え方

2025年11月にEPAが提案した「PFAS報告規則の改正案」は、それまでの「網羅的把握」を目指した厳しい要件を大幅に緩和し、産業界の負担軽減とデータ収集の効率化を目指すものでした。輸入成形品(Article)の除外や報告要件の緩和が議論されることには、単なる「規制緩和」以上の「実務的な合理化」と「戦略的なデータ収集への転換」という明確な意図があります。Biden政権下の「網羅的な全貌解明」から、Trump政権下の「実効性重視」へのシフトが、この「輸入成形品除外」という文脈に色濃く表れています。

(1)サプライチェーンの「実現可能性」への配慮
最も大きな理由は、「中小企業や複雑なサプライチェーンを持つ企業には、現実的に不可能な要件であった」という点です。

(i)サプライヤーの限界: 完成品メーカーが、自社製品に含まれるすべてのPFASを遡って(Tier-Nまで)特定することは、現在の産業構造では極めて困難です。川上の化学原料供給元まで完全に透明化できる企業は極めて限定的です。

(ii)「回答不能」の氾濫: 規則が厳しすぎると、多くの企業は「不明(Unknown)」と回答せざるを得ません。結果として、EPAに届くデータは質の低い「不明」という回答の山になり、本当に規制すべきPFASの特定という本来の目的に役立ちません。輸入成形品を除外することは、この「無意味な報告」を削減し、システムを機能させるための措置です。

(2)EPAの「リソース配分」の最適化
EPAは、収集した膨大なデータを分析・精査するリソース(人員と時間)に限りがあります。

(i)重要領域への集中: 成形品まで含めると、報告対象は数万社、数百万品目に及びます。これら全てを追跡することは、EPAにとっても過大な事務負担です。

(ii)リスクベースの管理: ゼルディン長官の方針は、「環境リスクの高い産業プロセス(排水、排出、製造拠点)」にリソースを集中させることです。輸入成形品という「環境中への直接的な排出リスクが(製造工程に比べて)低い領域」を報告対象から外すことで、EPAの監視機能を、汚染源の特定や浄化という「本来の優先事項」に振り向ける狙いがあります。

(3)「規制」から「競争力強化」への政策転換
経済政策的な側面もあります。

(i)貿易障壁の撤廃: 輸入成形品への厳格な報告義務は、事実上の貿易障壁(非関税障壁)として機能していました。海外製品の輸入コストを押し上げ、米国内の製造業や流通業に競争力の低下を招くという批判が根強くありました。

(ii)「コモンセンス」の導入: 政権交代後のEPAは、規制を「産業界を苦しめる鎖」から「公衆衛生を守るための効率的なツール」へと再定義しようとしています。輸入成形品の除外は、グローバルなサプライチェーンを維持しつつ、環境規制を機能させるための「現実的な着地点」を模索するプロセスと言えます。

Biden EPAの報告は、企業に対し「自社が知っていること、および合理的な調査(Reasonable Inquiry)によって判明し得るすべての情報を報告せよ」と求めました。しかし、ここには実務上の決定的な「壁」がありました。「Reasonable Inquiry」の定義が不明確: 企業は「どこまで調査すれば免責されるのか(法的リスクを回避できるのか)」という線引きに苦悩しました。結局、「回答不能(Unknown)」を連発するしかなく、EPAに届いたデータは「情報がない」という回答で埋め尽くされる懸念がありました。

「Due Diligence(相当の注意)」の要件がありましたが、製品に含まれる化学物質の情報は、川下の完成品メーカー(自動車や電子機器メーカーなど)が最も把握しにくい構造にあります。川上のサプライヤーが成分を開示しない、あるいはそもそも彼ら自身が自社の原料に含まれるPFASを把握していないケースが多発しました。数千のサプライヤーを持つ企業にとって、すべてにPFASの有無を確認するプロセスは、単なる「事務作業」ではなく、膨大なリソースと時間を奪う「経営資源の浪費」となりました。Trump EPAは、「厳格すぎるDue Diligence」が、データの量(回答の数)は増やすものの、政策決定に役立つ質の高い情報を生み出していないという判断があると考えられます。現在進められている方向性は、以下のような転換です。

(i)「網羅的調査」から「リスクベース調査」へ: 「すべてのサプライヤーに聞く」という非効率なDue Diligenceから、「高リスクな用途や物質に絞った調査」へリソースを集中させる方向へ舵を切っています。

(ii)責任範囲の明確化: 企業が過剰な法的リスクを負わずに報告できるよう、免除規定(De minimisなど)を設けることで、「何が報告すべき対象か」を明確にし、企業が迷わず(かつ誠実に)報告できる環境を整えようとしています。

Biden政権下の要件は、規制の「理想」を追求しすぎた結果、実務の「現実」を破壊してしまいました。現在の調整は、その反動として「規制当局、企業双方にとって、無理なく運用できる仕組み」へと再設計しているプロセスです。

Trump EPAの提案が持つ意味をまとめると以下となります。

(i)「報告の質」の向上: 膨大な「不明(Unknown)」や「データなし」という回答の山を減らし、EPAが本当に監視すべき「環境汚染リスクの高い製造工程」にリソースを集中させる意図があります。
(ii)CDRとの整合性: 今回の免除規定は、既存のTSCA化学物質データ報告(CDR)規則が採用している免除枠組みと共通しており、これにより既存のコンプライアンス体制を活用しやすくなります。

2.2 Trump EPAの提案内容

主な改正案の要点は、「6つの免除規定の追加」と「報告スケジュールの変更」の2点に集約されます。

(1) 6つの主な免除規定(Exemptions)の導入

これまで「ほぼすべてのPFAS含有」が報告対象となっていたものを、現実的な範囲に絞り込むための免除項目が提案されました。

(i)輸入成形品(Imported Articles): 完成品に含まれるPFASの報告義務を除外。これにより、製品輸入を行う多くの企業が対象外となります。
(ii)De Minimis(微量含有): PFASが混合物や成形品に含まれる濃度が「0.1%未満」である場合、報告を免除。
(iii)副生成物(Certain Byproducts): 商用目的ではない副生成物としてのPFAS製造。
(iv)不純物(Impurities): 意図的に添加されていない不純物としてのPFAS。
(v)研究開発用(R&D): 研究開発目的で製造・輸入される少量のPFAS。
(vi)非分離中間体(Non-isolated Intermediates): 製造工程内で分離されず、そのまま別の物質に変換されるPFAS。

(2)報告期間(スケジュール)の合理化

報告プロセス自体を、よりコントロールしやすい形に変更することが提案されました。
(i)期間の短縮: 当初予定されていた「6ヶ月」という長い報告期間を、「3ヶ月」に短縮すること。
(ii)開始日の柔軟化: 固定された日付ではなく、「最終規則が公布されてから60日後」を開始日とする連動方式への変更。

(3)例示リスト

EPAのSubstance Registry Services (SRS) で、現在の構造的定義に該当する物質のリスト(*5)が公開されています。
リストは定期的に更新されていますが、あくまで「このリストに載っていれば報告義務があり、載っていなければ対象外」というものではありません。EPAのPFAS定義は「構造」によるもので、このリストは非網羅的(Non-comprehensive)としています。現在、この報告義務については制度の修正・延期プロセスが進行中ですので、EPAの最新情報を定期的に確認しつつ、まずは自社製品がこの「構造的定義」に該当するかどうかを整理しておくことが、最も確実なコンプライアンス対策となります。

2.3 改定の遅れの理由

今回の延期は、PFAS規制そのものを否定するものではなく、Trump政権の方針に基づく「規制の適正化」のための調整プロセスです。公式の理由は、寄せられた大量のパブリックコメントを精査し、規制の実効性を高め、報告の質を担保するために物理的な時間が必要であるためとしています。政権の本音(コモンセンス・レギュレーション): 「企業の経済活動を過度に阻害しない」ことを重視し、以前の「包括的把握」から、「リスクの高い分野にリソースを集中させる(PFAS OUTイニシアチブ)」という効率重視の方向へシフトしています。

コモンセンス・レギュレーション(Common Sense Regulation)の概念は、規制の「量」よりも「質」や「費用対効果」に焦点を当てる考え方です。EPAなどの連邦機関は、規則制定時に必ず「規制影響分析(Regulatory Impact Analysis)」を行うことが義務付けられています。この背後にあるのが、大統領府直下の機関であるOIRA(情報・規制局:Office of Information and Regulatory Affairs)による規制案が「常識的(Common Sense)」であるかどうか、つまり経済活動に与える影響が過大でないか、不必要なコストを強いていないかをチェックします。
「コモンセンス・レギュレーション」は、「規制を減らして産業競争力を高める」という、デレギュレーション(規制撤廃・緩和)へのTrump政権の意思表示と捉えることができます。コモンセンス・レギュレーションは、主に以下の要素で構成されます。

(i)費用対効果の最適化 (Cost-Benefit Analysis): 規制を導入することで得られる社会的利益と、企業や産業界が負担するコストを厳密に比較し、バランスが取れていない規制は避けるべき、という考え方です。

(ii)「レッドテープ」の排除 (Reducing Red Tape): 行政上の手続きが過度に煩雑で、イノベーションや経済活動を不当に阻害している場合、それを簡素化・合理化することを意味します。

(iii)成果主義への転換 (Outcome-based Regulation): 「どのプロセスを踏むか」を細かく規定する(Prescriptive)のではなく、「どのような結果を達成すべきか」というパフォーマンス基準を示すことで、技術的な柔軟性を認めるアプローチです。

(iv)透明性と説明責任: なぜその規制が必要なのか、科学的根拠を明確にし、パブリックコメント等を通じてステークホルダーと対話することを重視します。産業界にとっては「実質的な猶予」ですが、環境NGOからは「規制の骨抜き」と批判される状況です。

2.4パブリックコメント結果

パブリックコメントの内容(*6)は、米国の連邦規制の意見公募サイトの「Regulations.gov」でDocket ID: EPA-HQ-OPPT-2020-0549 の一部として公開されています。2025年11月にEPAが提案したPFAS報告規則の改正案に対し、パブリックコメントには多くの意見が寄せられました。これらの意見は大きく「産業界からの支持・歓迎」と「環境NGO等からの懸念・反対」という2つの陣営に分かれていました。日本の企業団体などは、米国EPAのTSCA報告規則(Section 8(a)(7))に対し、以下の4点を一貫して要求しています。

(i)輸入成形品(Articles)の完全除外: 複雑なサプライチェーンにおいて、すべての部品からPFAS情報を収集することは物理的に不可能であり、データ精度の観点からも非現実的であるため。
(ii)De Minimis(微量含有)」の明確化: REACHやRoHSと整合性のある「0.1%」という閾値を設定し、微量物質の網羅的調査による過剰負担を回避すること。
(iii)「相当の注意(Due Diligence)」の明確化: 企業が誠実に調査(ベストエフォート)を行った場合に法的責任を問われない「セーフハーバー(防波堤)」規定の設置。
(iv)国際的な規制整合性: 米国独自の厳しい要件による、グローバルな製品供給網の分断・経営資源の浪費を回避すること。

EPAがこれらの意見を精査・検討するために時間を要していることが、今回の報告期限の延期につながっています。

日本企業のスタンスは、「環境保護の目的は理解するが、サプライチェーンの物理的限界を超えた要件は、結局『意味のないデータ』しか生み出さない。実効性のある規制にするためには、成形品の除外と閾値の導入が不可欠である」という点に集約されます。今回EPAが期限を延期し、見直しをかけているのは、こうした業界団体のロビー活動と論理的なデータ提供が、トランプ政権の政策転換方針と合致したためと言えます。パブリックコメントをみると、企業の関心は高いことが伺えますが、消費者はPFAS報告に対する関心は低いようです。
アメリカの消費者は、飲用水の汚染、食品包装、調理器具(テフロン加工など)、衣類へのPFAS含有に関するメディア報道が頻繁に行われており、PFASという用語を正確に理解していなくても、「有害な化学物質が含まれているのではないか」という不安を抱えています。「PFASフリー」や「非毒性」を謳う製品への需要が確実に高まっているようです。

消費者はPFAS規制に関心が高いので、TSCAでの規制は継承されると思われます。EPAは、今回の延期措置について以下のように説明しています。

(i)「免除規定をどの範囲で採用するか(または採用しないか)を、パブリックコメントを踏まえて慎重に精査する必要がある」
(ii)「中途半端な状態でルールを開始すると、データの質や企業の対応に混乱を招く」

すなわち、「報告期限の延期」だけを先に切り離して決定し、中身の議論(免除規定などの緩和策)は現在も詰めの作業を行っているという状態です。このように、EPAは2026年中に、11月の提案をベースとした「実質的な改正最終規則(Final Rule on Substantive Requirements)」を公布する予定です。新たな最終規則が発効してから「60日後」が報告開始日となりますので、情報確認が重要となります。

化学物質法規制研究会 松浦技術士事務所 松浦 徹也 氏

引用先
*1:PFAS報告期間の開始を延期する最終規則
https://www.epa.gov/chemicals-under-tsca/update-reporting-deadline-tsca-pfas-reporting-rule
*2:PFAS戦略ロードマップ
https://www.epa.gov/pfas/pfas-strategic-roadmap-epas-commitments-action-2021-2024
*3:TSCA規則
https://www.ecfr.gov/current/title-40/chapter-I/subchapter-R
*4:§705
https://www.ecfr.gov/current/title-40/chapter-I/subchapter-R/part-705
*5:PFAS物質リスト
https://cdxapps.epa.gov/oms-substance-registry-services/substance-list-details/490
*6:パブリックコメント
https://www.regulations.gov/document/EPA-HQ-OPPT-2020-0549-0311

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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