第10回_気になるアメリカの州法 その2:カリフォルニア州法(続き)
その1のSCP及びProp65に続いて、SB1215及びSB54についてご説明します。
§3. 責任ある電池リサイクル法(SB 1215 Responsible Battery Recycling Act of 2022)
SB 1215(*1)の制定背景には、以下の理由があります。
(i)深刻化するリサイクル施設での火災事故
最大の要因は、リチウムイオン電池による火災の急増です。
(ii)既存の電子廃棄物リサイクル制度(EWRA)の限界
2003年に制定されたEWRA(カリフォルニア RoHS)は、主にブラウン管(CRT)や液晶ディスプレイなどの「画面付き製品」を対象としていました。
(iii)対象外製品の増加
近年、ワイヤレスイヤホン、電動歯ブラシ、スマートウォッチなど、バッテリーが内蔵(Embedded)され、容易に取り外せない小型機器が爆発的に普及しましたが、これらは旧来の法制度の枠外にありました。
(iv)「拡大生産者責任(EPR)」と循環型経済の推進
カリフォルニア州は、製品の寿命が終わった後の責任を消費や行政だけでなく、製造業者(生産者)にも分担させる「拡張生産者責任(EPR)」の考えを強めています。
-リサイクルコストの公平な分担: 廃棄物処理業者が負担していた火災対策や処理費用を、リサイクル料という形で製品の購入時に徴収し、適切な処理費用に充てます。
-資源の回収:バッテリーに含まれる希少金属(リチウム、コバルト、ニッケルなど)を回収し、新たな製品の原材料として再利用する「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」への転換を加速させる狙いがあります。
SB1215は、カリフォルニア州の「公共資源法(Public Resources Code: PRC)」の第30部 廃棄物管理(DIVISION 30. WASTE MANAGEMENT)(*2)の第8.5章 電子廃棄物リサイクル法に組み込まれています。日本の輸出者が特に留意すべき条項とその要旨を整理します。
3.1 留意すべき主要条項とその要旨
(1)PRC §42463(f) : 対象製品(Covered Products)の定義
(i)従来の「電子廃棄物リサイクル法(2003年)」を改正「バッテリー内蔵製品(Battery-Embedded Products)」を新たにリサイクルプログラム対象に加えるものです。
(ii)対象となる製品の定義:「一般的な家庭用工具で、ユーザーが簡単にバッテリーを取り外せない構造の電子機器」が対象です。
ワイヤレスイヤホン、電動歯ブラシ、スマートウォッチ、スマートフォン、ゲームコントローラーなどです。貴社の製品が「ユーザーが容易に電池を取り外せるか」という設計上の判断が、規制対象になるかどうかの分かれ目となります。
(2)PRC §42466.2 : 小売店・州当局(CalRecycle)への通知義務
製造業者は自社製品がリサイクル料の徴収対象であるか、あるいは免除対象であるかを特定し毎年7月1日までに小売店およびCalRecycleへ通知しなければなりません。
(3) PRC §42465.2 : 製品のラベル表示義務:2026年1月1日以降に販売される対象製品には、以下の表示が必要です。
(i)ブランド名または製造者名: 容易に視認できる位置に表示。
(ii)バッテリーの化学成分情報: 製品本体に表示するか、または製造業者のウェブサイトで公開すること。
物理的なスペースが限られる製品(例:イヤホン)の場合、ウェブサイトでの情報公開が現実的な対応となります。
(4)PRC §42466.2 : 年次報告および記録保持
製造業者は、販売データやバッテリーの成分情報、リサイクル材の含有量などを含む「Manufacturer Report」をCalRecycleに毎年提出する義務があります。
最初の報告期限は 2027年7月1日 です。また、関連する記録は最低 3年間 保持し、要請があれば当局に提示しなければなりません。
3.2 輸入者(小売店)へ通知すべき具体的プロセス
日本の輸出者が現地の輸入者や小売店に対して行うべき通知の構成要素は以下の通りです。
(i)製品の特定 (Identification):ブランド名、モデル番号、UPCコード(バーコード)を明記し、どの製品が「対象」で、どの製品が「免除」かを明確にする。
(ii)リサイクル料の適用告知:対象製品が リサイクル料の対象であることを告知する(正確な金額の通知は不要)。
(iii)証明(Certification):その製品がカリフォルニア州の定める有害物質制限(RoHS等)やリサイクル基準を遵守していることの宣言。
(iv)問い合わせ先:法令遵守に関する責任者の連絡先情報。
輸出を行う日本企業として、以下の対応を確認する必要があります。
(i)ラベル表示 (PRC §42465.2): 2026年1月1日以降、製品に「製造者名」または「ブランド名」が容易に見える形で表示されている必要があります。
(ii)年次報告 (PRC §42466.2): 2027年7月1日より、前年度の販売データや使用されているバッテリーの化学成分、リサイクル材料の含有量などを含む「年次報告書」を CalRecycle へ提出する必要があります。
(iii)記録保持: すべての通知および報告に関連する記録は、少なくとも3年間保管しなければなりません。
§4プラスチック汚染防止および包装材生産者責任法(SB54 Plastic Pollution Prevention and Packaging Producer Responsibility Act)(*3)
4.1 SB54の概要
SB54は、単なるリサイクル法ではなく、プラスチック汚染という深刻な環境問題に対し、「原因(生産段階)」から断つための全米で最も野心的な法律と言われています。背景には、既存の廃棄物処理システムが限界に達しているという危機感があります。
(i)プラスチック汚染の深刻化: カリフォルニア州の埋立地(ゴミ捨て場)に捨てられるゴミの25%〜50%は包装材が占めています。また、これらが海や川に流出することで、海洋生態系や公衆衛生に深刻な影響を与えていました。
(ii)処理コストの転嫁: これまで、ゴミの回収・処理・清掃にかかる多額の費用(年間4億ドル以上と推定)は、納税者や地方自治体が負担してきました。SB 54はこのコストを「原因を作った側(生産者)」に負担させることを目指しています。
(iii)気候変動への対応: プラスチックの多くは化石燃料から作られます。生産量の削減と循環型経済の構築は州の脱炭素目標を達成するために不可欠なステップでした。
SB54は、2032年までに使い捨て包装材を以下の状態にすることを義務付けています。
(i)100% リサイクルまたは堆肥化可能: カリフォルニアで販売されるすべての使い捨て包装材と使い捨てプラスチック食品容器が対象。
(ii)プラスチックの25%削減: 重量およびユニット数ベースで、2023年比で削減。
(iii)65% のリサイクル率: すべての使い捨てプラスチック包装材が達成すべき目標。
4.2 SB 54 の拡張生産者責任(EPR)
SB 54は、「拡張生産者責任(Extended Producer Responsibility: EPR)」制度を採用しています。
(i)コスト負担の移動: ゴミの処理費用だけでなく、プラスチック汚染による環境被害を緩和するための基金(環境緩和費用:年間5億ドル、10年間で計50億ドル)を、生産者が支払うことになります。
(ii)設計へのインセンティブ: リサイクルが難しい、または環境負荷が高い素材を使い続けると、生産者がPRO(生産者責任組織:現在はCircular Action Alliance(CAA)が指定))に支払う会費が高くなる仕組みです。これにより、企業が自発的に「再設計」を行うことを促します。
(iii)社会的公平性の重視: 徴収された資金の多くは、プラスチックゴミの影響を最も受けやすい「社会的に弱い立場(低所得者層やマイノリティなど)のコミュニティ」の支援に充てられます。
この法律は、単に「ラベルを貼る」だけの対応では不十分であることを示しています。2032年の「100%リサイクル可能化」に向けて、素材そのものの転換(プラスチックから紙やリサイクル可能な単一素材へ)が求められています。
4.3 日本の輸出者が留意すべき主要条項
カリフォルニア州の SB 54 は、日本企業がカリフォルニア州へ製品を輸出・販売する際、非常に広範かつ強力な影響を及ぼす法律です。この法律は主にカリフォルニア州 公共資源法(Public Resources Code: PRC)第30部第30部 廃棄物管理第3章 プラスチック汚染防止および包装生産者責任法(*4) に組み込まれています。輸出者が確認すべき主要な条項とその要旨を整理しました。
(1) PRC §42041 : 生産者(Producer)の定義と責任
規制の第一責任者である「生産者」を定義しています。
(i)まず、製品を製造し、そのブランドや商標を所有・ライセンス供与している者。
(ii)カリフォルニア州内に対象者がいない場合、そのブランドの所有者または独占的ライセンシー。
(iii)それもいない場合、その製品をカリフォルニア州に輸入する者。
(2)日本企業への影響: 州内に拠点がなくても、ブランドオーナーであれば実質的な「生産者」とみなされます。輸入業者(ディストリビューター)とどちらが責任を負うか、契約上の明確化が必要です。
(3) PRC §42051 : CAAへの加入義務
(i)要旨: 2024年1月1日以降、すべての「生産者」は、認可された CAA に加入することが義務付けられています。
(ii)日本企業への影響: 加入していない「生産者」の製品は、カリフォルニア州内での販売、販売の申し出、輸入、流通が禁止されます。
(4)PRC §42050:包括的な3つの目標(2032年までに達成)
以下の3つの目標達成を「生産者」に求めています。
(i)100%リサイクルまたは堆肥化可能: カリフォルニアで販売されるすべての使い捨て包装材が対象。
(ii)プラスチックの25%削減: 重量およびユニット数ベースで、2023年比で削減。
(iii)65%のリサイクル率: すべての使い捨てプラスチック包装材が対象。
(5)PRC §42053 : 環境緩和費用(年間5億ドル)の負担
2027年から10年間、プラスチック産業全体で年間5億ドルを州に支払う義務があります。これはCAAが会員企業から徴収する会費に含まれる形で負担します。
(6) 輸入者(輸入業者・小売店)へ通知・確認すべき事項
現地のパートナー(輸入者)と協力して進めるべき実務的な確認事項です。
(i)包装材データの提出:2023年以降の販売実績に基づき、使用した包装材の重量・材質(樹脂の種類)・ユニット数のデータをCAAに報告する必要があります。
(ii)CAA加入状況の共有:自社(日本側)がCAAに加入しているのか、あるいは現地の輸入者が「生産者」として加入するのかを合意し、その登録番号(参加証)を共有します。
(iii)Covered Material(対象外製品)の確認:医療機器、処方薬、特定の乳児用粉ミルク、農薬などの包装材は免除される場合があります(§42040)。自社製品が対象するか精査してください。
(iv)再設計(Redesign)計画:2032年の目標達成に向け、プラスチックを紙などの代替素材に変更するか、リサイクル可能な単一素材(モノマテリアル)に変更するかの計画を共有します。
4.4 国連プラスチック条約との関係
国連プラスチック条約(正式名称:プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書)とカリフォルニア州の「プラスチック汚染削減・再資源化法(SB 54)」は、互いに「国際基準」と「先進的ローカルモデル」という補完的な関係にあります。特に、停滞していたINC-5の状況を打破するために、実質的な交渉継続の場としてINC-5.3が開催されました。特に、停滞状況であった国連プラスチック条約の政府間交渉委員会が、この状況を打破するための実質的な交渉継続の場であるINC-5.3(2026年2月7日)が開催されました。SB 54は全米で最も厳格なプラスチック規制の一つであり、国連プラスチック条約の交渉において「成功例のモデル」として参照されています。
(i)拡大生産者責任(EPR)の具体化: SB 54で定められた、製造業者がリサイクル費用の負担や目標達成に責任を持つ「EPR制度」は、国連条約の主要議題(第13条付近のEPRに関する規定)の議論に強い影響を与えています。
(ii)数値目標の基準: 「2032年までに使い捨てプラスチックの25%削減(重量・個数ベース)」というSB 54の具体的な数値目標は、条約で議論されているグローバルな削減目標の現実的なベンチマークとして機能しています。
カリフォルニア州規制の潮流は「PFASの段階的禁止」「マイクロプラスチックへの包囲網」「気候・プラスチック関連の透明性義務」の3軸で急速に厳格化しています。
(1)PFAS(永遠の化学物質)の「全面禁止」への加速
これまで一部の製品に限られていたPFAS規制が、日常生活のほぼ全域に拡大しています。
(i)アパレル・繊維製品の禁止(AB 1817): 2025年1月1日より、衣類、バッグ、カーテンなどの繊維製品における意図的なPFAS使用が禁止されました。
(ii)化粧品・パーソナルケア(AB 2771): 同じく2025年1月1日より、意図的に添加されたPFASを含む化粧品の販売が禁止されました。
(iii)さらなる拡大(SB 682): 2027年以降、調理器具、デンタルフロス、清掃用品などへの禁止拡大が審議されています。
(2)マイクロプラスチック規制の本格始動
DTSCが、マイクロプラスチックを「懸念化学物質(Candidate Chemicals)」のリストに加える手続きを進めています。
(i)2026年の最終決定: 2025年に開始された規則制定プロセスにより、2026年中にリスト入りする見通しです。
(ii)優先製品の特定: リスト入り後、人工芝、玩具、洗剤、タイヤなどの製品が「優先製品」として規制(代替案分析の義務化など)の対象となる準備が進んでいます。
(3)サプライチェーンの透明性と「拡張生産者責任(EPR)」
単なる「有害物質の含有」だけでなく、製品のライフサイクル全体と企業活動の透明性が法的に要求されるようになっています。
(i)プラスチック包装規制(SB 54): 2025年中に、生産者はCAAへのデータ提出が義務付けられました。2027年からは本格的な課金($500 million/year)が始まります。
(ii)気候開示義務(SB 253): 売上10億ドル以上の企業に対し、スコープ1・2の排出量報告が2026年から開始されます(2025年度データが対象)。
次の機会で、強化されたニューヨーク州の「パッキングピーナッツ」規制をテーマに解説します。
化学物質法規制研究会 松浦技術士事務所 松浦 徹也 氏
引用
*1-1:SB 1215(Responsible Battery Recycling Act of 2022)解説
https://calrecycle.ca.gov/electronics/embeddedbatteries/
*1-2:SB1215
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=202120220SB1215
*2:PRC
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/codesTOCSelected.xhtml?tocCode=PRC&tocTitle=+Public+Resources+Code+-+PRC
*3:SB54
https://calrecycle.ca.gov/laws/rulemaking/sb54regulations/
*4:PRC プラスチック汚染防止および包装生産者責任法
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/codes_displayexpandedbranch.xhtml?tocCode=PRC&division=30.&title=&part=3.&chapter=3.&article=
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。
